ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
最悪だ。
目の前にいるシロ
それはつまり、
そして、ドス黒いのは私たちよりもはるかに強いモンスターであるという証拠。
「ミケ……!みんな……っ!」
付与された麻痺により立ち上がれない私は精一杯叫ぶ。
シロ──ファントムビーストのタゲはすぐ近くにいた夜想曲のメンバーへ向けられていた。
麻痺が切れる前に攻撃されてしまえば、彼女達は──
「動……」
麻痺のアイコンは全く快復する気配を見せない。
あっちゃんも同じく動こうとしてるけど麻痺により無駄に終わる。
ファントムビーストはまずすぐ横にいたオカゾーへ近づく。
オカゾーが色々叫ぶけどそれで止まるわけがなく大きな爪がオカゾーへ振り下ろされた。
「あ、あぁ……」
たった一撃、一振でオカゾーが死んだ。
私たちですらドス黒いHPからレベル差は一目瞭然だったからこそわかりきっていた事だった、だからこそ守らなきゃいけなかったのに。
目の前で、
「し、シロ!やめ──」
オカゾーの横にいたモチコが制止する前に攻撃されて同じくポリゴン片へ。
「……しゃーなしだな」
モチコが死んだと同時にファントムビーストの背後からソードスキルの光が発生した。
発動者はミケ、私たちより早く麻痺が解けたらしく彼女は攻撃をした。
だけど、ダメージはおろか怯むことすら無くタゲがミケに向いてしまう。
そして、それと同時に私とあっちゃんの口に甘ったるい液体が流し込まれた。
「ん……んん?」
ちょっと頭が痛くなりそうな甘さを我慢して飲み込むと体の倦怠感が一気に消えていく。
口に突っ込まれたのは麻痺回復のポーション、これで動ける──
「快復したね?」
「……オカゾー達、守れなくてごめん」
「あんた達は何も悪くないさ、それより──」
「たお──「あんた達は逃げな」──は?」
ファントムビーストから距離を置いていたミケの元に駆け寄り申し訳なさと仇を取るためのやる気でぐちゃぐちゃな気持ちを抑えつつどう倒そうか考えようと声をかける。
そして、ミケから出た答えは予想外の一言。
「何言ってるん、ミケだけじゃ」
「3人でも勝てない可能性の方が高いでしょ、なら全滅より2人生存の方がいいでしょ」
「そんなのOKって言うわけ無いやろ!?」
「あんた達は他に目的があるんでしょ、その目的のためにも早く逃げ──っと!」
ミケの提案は呑めない、なんとか説得しようとしているうちにもファントムビーストの攻撃が私たちへと繰り出される。
時間は無い、ミケには悪いけど──
「あっちゃん、戦──」
ふと、体が持ち上げられて浮遊感に襲われる。
この持ち方、割と失礼な感じ──
「あっちゃん何しとるん!?」
「……罵倒なら後で聞く」
私を抱えたあっちゃんはファントムビースト、そしてミケへ背を向けた。
それは、ミケの提案を呑んだということ。
そして、ミケを──夜想曲を見捨てる選択をした、ということ。
「……悪いね、ヤヨイ」
「……ごめんね、ミケ」
「大丈夫、こちらこそごめんな、
「……っ!」
ミケは最後に笑った。
それは、私たちが気負わないためなんだろうけど、そんなことで気負わない選択なんて、出来るわけない。
「行くよ、
あっちゃんは私に聞こえる程度の小声でそうつぶやく。
名前を呼び捨てする時、あっちゃんは本気で、思いを曲げる気は無い。
それを知ってるからこそもう離してなんて言えるわけなくあっちゃんに抱えられ森の奥へと逃げていく。
「……ごめんなさい」
私はぽつりとそう呟く。
その対象は、もういない。
森の奥へ進んでいたつもりだった私とあっちゃんは(多分)入口に辿り着いた。
私とあっちゃんは太い木に寄りかかって休むことにした。
まだ、オカゾーとモチコの悲鳴が耳に残っている。
どうすれば、あの子たちを守れたのか。
そもそも、ヒヨリが無事かもわからない。
私は、何を間違えた?
「……なにが剣鬼だ」
突然現れては初期武器でドンドンと前線に上がり2つ名を付けられた。
きっと、それで調子に乗った。
私には、強さなんてないのに、他のプレイヤーよりちょっと経験があったからって前線に立とうと奮闘して、チヤホヤされて。
馬鹿だ。
私は、弱くて何も守れない。
「……ミコト」
「……ごめん」
「顔上げて」
「無理、今は」
あっちゃん、心配してくれてるよね。
でも、今顔を合わせたら、甘えてしまう。
「琴海」
「……名前で呼んでも今は無理」
「琴海は弱いよ」
「……っ!」
あっちゃんにそう言われ、反射的に顔を上げた。
そして、目の前にいるあっちゃんは──泣いていた。
「私も、琴海も弱いんだよ」
「……」
「誰かを守る、その苦労を、難しさを何も知らなかった」
「……うん」
「もっと、強くなろう?」
涙を拭きながら手を差し伸べてきた。
泣くつもりなんてなかったのに、その姿を見て涙が溢れだしてくる。
「……後輩君は凄いな」
あっちゃんの手を取りながら今も戦ってる彼の凄さに改めて気づく。
きっと、同じように守れなかった命もあったんだろう。
それでも、それだからこそ彼は守ることに本気を出してる。
「今は休もう……」
情けなくも泣き疲れた私はあっちゃんの膝に頭を借りてそのまま意識を手放した。
ラギside(ハヅキ救出班)
奥へ進む途中、シズクたちが向かった方と先輩達の向かった方それぞれから2つのアクションが起こった。
「さっきの叫び……なんだろ?」
「それに別方向から物凄い光も出たけど……ラギさん、わかりますか?」
「片方は味方の、叫びは──」
光の方はシズクが持ってる奥義の発動を行った事で発生した物だろう。
問題はモンスターの叫び声。
ここまで聞こえてくるって事は、相当なレベルのモンスターが出現したということ。
叫び声とほぼ同時に麻痺毒を弾いた反応が出たが、嫌な予感がする。
先輩達が無事ならいいが……
「……!お兄ちゃん!」
「いつもの雑魚……じゃないな」
他の班の心配をしていると進む度に木々裏に隠れてるプレイヤー達によるMOB召喚、とは違う気配が2つ。
「ボス級か」
遠くから一気に接近してきたのはスケルトン型の大型ボスと巨大なゴリラ。
邪魔だ、一気に──
「お兄ちゃん、ここは私とコハルさんに任せて」
「ラギさんは先に」
アキたちが突然そう言ってきた。
と思うと2人とも視線はボス2体の奥に向けられている。
視線の先にいたのは白髪ショートで短剣2本を持った少女。
彼女は俺を見てニヤリと笑うと森の奥へ消えていく。
「……悪い、任せる」
ボス2体の間を走り抜けようとしたところで同時に攻撃が俺に向かう。
が、当たることはなく2人が攻撃を防いでくれた。
「「頑張って(ください)」」
2人にボスを任せ俺は彼女──切り裂きジャックを追っていった。
誰しも、誰かを守れない悔しさを知るものなんだよ。