ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
コハル、アキと分かれて数分。
「……やっと止まったか」
「お兄さん、速いね」
彼女──ジャックは無邪気に、そして不気味に笑う。
装備のバフも相まって速度が上がってる俺が追いつくのがやっとの速度で走ってたくせに、よく言うよこいつ……
息も上がってなければ余裕そうにこっちを見てくる、それだけ体力があるか、それとも──
「……さ、始めようか」
「その前に、ひとつ聞かせろ」
剣を取り出す前に呼吸を整えるついでにずっと疑問だったことを質問する。
ジャックも双剣を鞘に収めてお互い無防備な状態になる。
「手短にならいいよ」
「──何故ルナを狙う」
「……聞いたんだ」
たった一言の質問に対しジャックは表情と雰囲気を一気に暗くした。
彼女にとってはこの一言が地雷、ということだろう。
「詳しくはなにも、ただあいつといる時、お前は必ずルナを見ていた、それも圏外に出るかどうかを見ながら、な」
「そこまで知ってて放置したんだ、私を」
「あいつに頼まれたからな」
夕立の霧雨から脱退したあと、俺はルナの手伝いをよく行っていた。
手伝いといっても彼女が住処にしている教会の備蓄を増やすための買い物するために色んなところに行く、という簡単なものだ。
だがルナは第一層以降まともに戦闘を行っていなかったため護衛を誰かに頼む必要があった、そしてそこで選ばれたのが俺、ということ。
最初は特に問題もなく彼女の買い物を終えていたが、
そしてそれがジャックだ。
「知ってるよ、タイミングもあるし」
「黒い月……ソラって奴が事件を起こした後だろ?それで、知ってるって……」
「大丈夫、
「
親友だとしたら何故ルナを狙うのか、それはわからない。
だが、タイミングからしてソラが絡んでるのは間違いないだろうし、何よりこの場にジャックがいることが答え。
「親友、ね……その割に来てくれなかったけど」
「命を狙われてる子を圏外に連れ出すほど馬鹿じゃないんでね」
ジャックだけでなくあいつの姉、ソラも来るとなればさすがに彼女を連れ出すわけにはいかない。
「それで、おにーさんは私をどうするつもり?」
「……殺す、なんてことは言わない、だから聞かせろ──ルナを狙う理由を」
単なる妬みでの行動じゃないことは明確、となれば何かしらの理由がある。
ルナは何かを知っていた様子だったがそれを話そうとはしなかった……いや、
話すこと自体、何かある───
「──私に選択肢はないの」
「選択肢……?」
いつもの無邪気かつ冷徹な喋り方から一変し、ジャックは静かにそう言った。
「私は……ルナを人質に取られてるの」
「は……?」
「そういう反応するよね、あれだけ狙ってたんだから」
ジャックからはまさかの言葉が出てきた。
ルナを人質に取られてる、ということはその相手は──
「ソラに、か?」
「……そう、ご名答」
「人質……ってのはどういうことだ」
「言葉の通り、『ルナを見殺しにするかそれが嫌ならルナを殺せ』、そういう選択を出されてる」
「……いつから」
「このゲームが始まったその時から、そういえばいいかな」
このゲームの始まり、つまり茅場晶彦がデスゲームの開始を宣言したあの時……あの時点からソラはルナを殺そうとしていた、ということ。
どういうことかと考えているとジャックは静かに説明を始めた。
元々、ルナとソラ、そしてジャックはリアルでの知り合いで昔から仲良くしていた関係だった。
SAOも本サービス開始から三人で始めてなんの問題もなく夕方まで遊んでいた。
そして、デスゲームを開始を宣言された直後。
ルナとはぐれたジャックとソラは二人で街の奥へ避難し、そこでジャックの言った選択肢──ルナを見殺しにするか、ルナを殺すか──という二択を急に押し付けられた、と。
「断わ──「それが出来れば、ここまで苦しんでないよ」……そう、だよな」
断る、それをすれば有無を言わさずにルナを殺す選択になる。
もちろん、ジャックもそれは良しとしない、だからソラに従うしか無かった、ということだろう。
「なぜソラはそんな事を?」
「デスゲームが始まった瞬間、ルナとはぐれたところで私たちはある人に声をかけられたの」
「ある人…?」
「私に
「管理者……」
MOB召喚スキルの発生源、『あの人』と呼ばれるプレイヤー、そしてこのギルドイベントに使われてるエリアのペインアブソーバーの設定──色々な要素から管理者権限を持つプレイヤーがどこかにいるとは思っていたが、きっとその全てがジャック達に声をかけたという管理者を名乗るプレイヤーだろう。
そして、そのプレイヤーに感化されたのか……はたまた元から何かを抱いていたのか、ソラはルナを狙おうとジャックを利用した、と。
「もしこのゲームが終わったとしても、あの人はルナを殺すためにどんなでも使おうとする、そして……私も命を握られてる」
「……それで逆らえず、第一層の虐殺に出たのか」
第一層迷宮区攻略の時、三班に分かれた攻略チームのうちひとつがジャックにより壊滅した。
あの時対峙した時点でスキルを持っていたのも
「脅されてやった、なんて許されないのはわかってる、でも……」
「やらなければルナもお前もアイツに殺されてた、か」
「あそこで誰も殺さなければ、ね……だから
「そのためになんの罪もないプレイヤーを殺したのか」
「そう、自分と……親友のために」
ジャックの言ってることを全て肯定は出来ない、が否定もできないことだ。
とはいえ彼女がやったことを許せる訳でもない。
それが、親友を人質に取られているとしても、だ。
「……ねぇおにーさん」
「……なんだ?」
「私を、殺してよ」
「……断る、お前もルナもどっちも──」
ソラを止めてルナを狙うやつを殲滅してジャックの思いも晴らせばいい。
そこに、ジャックを殺す意味は無い。
そう、殺す必要は──
「私はたくさん人を殺した。それがたとえルナを人質に取られてるからって許されるものじゃない、それでソラをどうにかして二人で仲良く、なんて無理だよ」
「そんなこと無いだろ」
「……あるよ、ルナは気にしないだろうけど……私はもう、あの子に顔を合わせることも出来ない」
「……なんで」
「言ったでしょ、あの子のためとはいえ私は関係ない人をたくさん殺した、そんなことして笑顔で過ごすなんて無理だから……だから、おにーさんの手で終わらせて」
ジャックは両手の短剣を差し出してきた。
それで、殺せということだろう。
「……どうしても、話を聞かないっていうなら──」
片手直剣を装備し、彼女に向ける。
「俺はまだ、お前との勝負に勝ってないんだ」
「……なにそれ」
「この勝負受けろ。俺はこの勝負に勝って──お前を殺す」
第一層から続く因縁は俺も無関係じゃない。
一度もちゃんと勝ててない、これだけの実力者に勝って、その結果でジャックの願いを叶える。
「──おにーさん、名前は?」
「……ラギ──いや、如月春揮」
「……私はジャック──望月奏、春揮おにーさん……やろうか」
「あぁ、勝負だ」
名乗った直後、同時に地面を踏み込んだ。
なぜソラはルナと同じ教会に?
そりゃ、近くにいる相手が自分を狙ってるとは考えにくいでしょ?
だからルナを欺くためにもソラは教会を利用していた、ということ。