ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
二本の短剣と一本の片手直剣がぶつかり合う。
これまで幾度も戦ってきた相手との、これまでとは違う戦い。
「……ふっ!」
連撃の隙を見て横払いをするが簡単に回避される。
バックステップからの一気に突っ込んできたジャックは目にも止まらぬ速さの連撃を繰り出してきた。
防御に精一杯なだけでなく左右からランダムに攻撃が来るせいで全てを防ぐことが出来ない。
「……っ!」
連撃が止み一度距離を離されたところで喰らったぶんの
ベインアブソーバが限りなく最低値に近くなっている現状でこれ以上のダメージはさすがの俺でも耐えきれない。
だが、それは彼女も同じ。
痛みを覚悟で、否……死を覚悟の上で彼女は俺の提案を受けた。
ならこんな痛み程度で怯んでられない。
「どーしたのお兄ちゃん?……手、抜いてるの?」
「そんなこと出来る相手じゃないってのは理解してるよ、だから──」
全てでは無いだろうが手の内はこれまでの戦いである程度見てきた。
装備、スキル、その他色々に恵まれても尚ジャックには簡単には勝てないのも理解してる。
故に、本気を出す。
「……悪いが、使わせてもらう」
俺はウィンドウを操作し右手の人差し指に黒い指輪を装備した。
そしてそれと同時に武器を持ち替えて準備を終える。
それぞれの名前は《深淵の指輪》と《宝石剣:翠/蒼剣》。
ハヅキとコハルが装備している《深淵の霊衣》の残り一つとコハルと獲得した素材から作った短剣、前者はとあるクエストから手に入れたものでいずれハヅキに渡すつもりだったもの、そして後者はコハルから今回の件を無事に切り抜けるためと渡された武器だ。
お守り程度にしておきたかったがそんな余裕は無い。
「それが本気?」
「あぁ、まだ使い慣れてないけど……なっ!」
片手直剣から短剣に切り替えたことで急激に上がった俊敏性を活かしジャックのゼロ距離まで接近する。
さすがのジャックも一瞬反応が遅れたためその隙を狙いソードスキルを発動し一気にダメージを与えようと短剣を振り下ろす。
スキルレコード:ソニックブレイク
振り下ろしからの横払いをする二連撃は回避からの防御で届かない。
そこまでは想定していた、だからこそ
「──ここだ!」
至近距離まで近づいたことで生じたリーチの減少を利用し間髪入れずに短剣のソードスキルを放つ。
防がれてもいい、俺の目的は──
「そんな攻撃防……」
左手の短剣を使い防ごうとしたのを逃さずソードスキルの数撃を全てあえて短剣にぶつける。
勢いに押し負けてジャックの短剣は手元から吹き飛んでいく。
「これで手数は同じだ」
「そう──なんて言うと思った?」
「……あぁ、それも想定済みだ」
吹き飛ばしたはずの短剣は地面に着地する前にジャック目掛けてブーメランのように返ってくる。
そしてジャックはそれを利用してあえて姿勢を低くすることで俺へ当てようと画策した。
だがそれは前回──第六層での戦闘時に同じ手を喰らっていたおかげで対策出来るし何より《双剣》スキルの仕様は俺がいちばん理解している。
向こうが俺の攻撃を利用したんだ、ならカウンターのひとつぐらいは決めさせてもらう。
「もら……え!?」
返ってきた短剣を足で蹴り返しジャックに飛ばす。
彼女は素っ頓狂な声を出しながら自身の短剣を左肩に受ける。
痛みに顔を歪めながら俺から一度距離を取り直した。
「……っ、……は、ぁ」
ジャックは左肩を抑えながらその場に膝をついた。
こうなるのも無理は無い、それこそ今このフィールドは現実と同じ痛みを受ける。
そしてその痛みは大きくダメージを受ける分激しくなる、となれば左肩にもろに剣を突き刺された彼女は相当の痛みを受けただろう。
「……まだやるか?」
「舐めないで、それに……決着をつけるって言ったのはおにーさんの方だよ」
苦しみながらも立ち上がったジャックは剣を持ち直し大きく息を吐いた。
そんな彼女からはこれまで以上の殺意を感じる。
彼女は次の攻撃を最後にする、そういうつもりなんだろう。
なら、受けるだけだ──。
「──行くよ」
刹那、彼女の姿が蜃気楼のように消えていき──
直後彼女は俺の目の前に──
驚く隙すら与えてくれずジャック達は同時にソードスキルを放つ。
ただでさえ素早い、それも双剣による手数の多いソードスキルが三方向から同時に襲いかかり防御することすら不可能なほどの攻撃の雨が降り注ぐ。
どっかのトゲトゲならチートや!とかキレそうなものだが、実際こんな秘技は普通にチートだ。
だが唯一の弱点は
別々なら全てに対応することは不可能だったが全く同じ動きで同じタイミングの攻撃ならまだ防ぐ手はある。
もちろん、向こうの手数を把握すれば、だが。
ジャックは様子見と言わんばかりに最低限の短剣ソードスキルを片手で放ちその後に左手で少し追撃した。
この程度なら動きを読んで防ぐことが出来る、問題は双剣のソードスキルを使われた時。
双剣ソードスキルの最大連撃数は片手6、両手で倍の12、それが三人から使われるとしたら──
「クソゲーかよ──でも」
36連撃、そんなもの防ぐ手段なんて普通は無い。
だが、俺には自前の装備に加え預かった物もある。
背負ってるものも、託されてるものも。
全てを使って、全てを守って、俺はこいつを──。
「──っ!」
彼女達が同時に地面を蹴る。
一瞬で近づいてきた彼女達の両手の短剣はそれぞれ
これは、別々の──
三人同時に右手を振り下ろしそのまま振り下ろした短剣を切り上げてそこから横払い三発。
上下の切り込みを回避し残り三発を《シャープネイル》で防ぐ。
一切の隙も与えることなくジャックは左手のソードスキルを放ち、こちらは四連撃、クイックチェンジを使い短剣に持ち替えた俺は《ファッドエッジ》で相殺する。
同時攻撃故にこの連撃数で防げたがこれがもっと上位ならこうはいかなかった。
と、油断しているとジャック達の右手が再び光り、一気に距離を詰め連撃を放ってきた。
何連撃かは予測できない、なら出せる最大で……
そう思いクイックチェンジで片手直剣に戻した俺は構えを取りソードスキルを発動する。
片手直剣の最大技、《ノヴァ・アセンション》。
ジャックのソードスキル最初の五連撃を受け流し続く二連撃も防いだ。
そこで、彼女のソードスキルは終わりこちらの残り三連撃が彼女……本体に命中した。
かなりの集中が必要なのか、ダメージを受けるのが条件か分からないが分身二人が消滅し、ジャックがその場に仰向けに倒れた。
「……負け、た」
「あぁ、そうだな」
「……おにーさん、強いね」
「お前も、いや……お前の方が強いよ」
いつぞやに戦った赤服の剣士や他のプレイヤーよりもジャックは遥かに強く、搦手も効かなかった。
それは純粋な強さを意味している。
「そんなこと、無いけど……」
その一言を後に、静寂が流れた。
「……おにーさん」
「ん、なんだ」
「約束、したよね」
ジャックのその言葉に動きが止まる。
全力で、全てを出し尽くして戦っていたから頭のどこかで無ければいいと思っていた、彼女との約束。
──お前に勝って、お前を殺す。
そうだ、俺は──
約束を違えれば、彼女は生き延びる。
でも、それは彼女を、ルナを苦しませることになるのに。
「殺る前に、これを」
彼女は震える手でウィンドウを操作した。
そして、俺の目の前にメッセージが出た。
【《Kanade》よりスキル譲渡の申請】
「私の、双剣スキル。私にこれを渡した人が言うには……、はぁ……
模倣と複製、似て非なることだが要するに
それを言われてから色々と合点がいく。
ジャックの言う《管理者》、そいつが色々なプレイヤーにMOB召喚を渡していてその渡し方が二種類あり、模倣されたプレイヤーは雑魚MOBしか呼べず、複製を受けたプレイヤーはボスすら呼び出せる、そういうスキルを複数種あるように見せかけようとした、ということだ。
もっと詳しく聞き出したかったが、それはもう叶わない。
「……ジャック」
「なぁに?」
「……お前とのもうひとつの約束、必ず守る」
「そっか……うん、お願い」
ジャック──望月奏はその一言と同時にHPが尽き、そのまま消滅した。
「なにが、守るだよ……」
空へと昇っていくポリゴンの欠片をただ見つめながらそう呟く。
ルナもジャックも助ける手段はいくらでもあったはずだ。
それなのに俺は、彼女を殺すことでしか救えなかった。
救う、それすら出来なかったかもしれない。
傷つけて、失って。
……でも。
彼女に託された。
それを無下にするわけにはいかない。
『hyuooooo!!!!』
ポリゴン片が完全に消えたその瞬間、ちょうど頭上にボスタイプの鳥MOBが湧いた。
これも、
「──いいよ、その挑発、粉々に打ち砕いてやる」
槍秘奥義──ゲイ・ボルグ
手に握られた朱槍を構え空へと放つ。
あと一度の耐久値だった槍はボスを倒したと同時に消滅する。
武器が消えたことで空いた枠に二本の短剣を両腰に装備し森の奥へ進む。
そして、俺は。
彼女は。
「──ぁ」
プレイヤーが消滅した音、そして空へ昇るポリゴン片。
その目の前には、何かを呟きながらそのポリゴン片を掴もうと手を伸ばす人の姿。
「ハヅキ」
「──ら、ぎ」
「お前──誰を、殺した」
最悪な再会をすることとなる。
ジャック……安らかに。
継承された双剣スキル、ラギはどう使うのか。
そして、ラギを待つのは──。