ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
「私、は……」
ハヅキは言葉を詰まらせて俯いてしまう。
それでも何かを言おうと葛藤が続く。
「……言えない」
「そうか、なんでだ?」
「私に、こんなことを言う資格はもうないから」
葛藤の末出たのはそんな回答。
「私はお姉ちゃんを殺した、それだけじゃない、色んな人も殺した……そんな私には、
「……そうか」
双剣を鞘に収めてハヅキの顔を見る。
まだ戦いは終わってないと言いたげな顔をしているがその裏ではやはり複雑な気持ちを抱いているようで。
「俺は人を殺した」
「……」
「自分が大切だと思う人のために、誰も傷つけたくないなんて言いながら罪の有無なんて関係なく、立ち塞がる全てを切り伏せて、殺した」
それを全て正しいなんて言えるものじゃない
「守れるものだったはずの、手を差し伸べられるはずだった奴も、この手で殺した」
「……それが、なんなの」
俺の左右の腰に付けた鞘を見て目を伏せる。
「俺はさ、仲間を……
「だから、なにを……」
正しさなんて考えずに
それでも。
「もう一度言う──聞け、ハヅキ」
「……なに」
「──俺は、お前が好きだ」
「え……?」
「他の仲間たちからの好意を理解していても、それでも俺はお前を好きだと自分の思いを貫いた。
好きな人を、俺を好きになってくれた人達を、守るんだって自分に言い聞かせた」
「そんな、事……言われても困るよ……それに私は……」
ハヅキはふたたび言葉を詰まらせる。
実の姉を手にかけたこと、それ以上に俺やコハル達に対しての思いが彼女には降り掛かっているのだろう。
「言ったはずだ、俺もお前と同じで、人を殺した」
「……でも私は、コハルを─みんなを裏切った」
「それも同じだ、あいつらの好意を無下にした」
似て非なることだとは俺がいちばんわかってる。
それでも今は、彼女に思いを伝えるだけだ。
「何が、言いたいの」
「……俺は、お前を助けに来た。そのために仲間たちに協力してもらって、立ちはだかったジャックを殺して」
「……助けなんて」
ハヅキはまた顔を俯かせる。
だが、先程とは違いその言葉に否定の意思はない。
「俺は、お前と一緒にこの世界を生きたいんだ」
「そんな勝手な──」
「あぁ勝手だ、だから何度でも言う──本心を言え、ハヅキ」
全てを──自分の命すら賭けてでも彼女を間違った道から救おうとここに来た。
仲間だから、仲間の親友だからなんて理由も建前と言われても仕方ないが、彼女を好きだという気持ちは嘘じゃない。
「だから私は──お姉ちゃんを殺して、みんなにも迷惑かけたのに普通に、当たり前に生きるなんてできない!」
「もう一度聞くぞ、お前は──なにを託された」
「……っ!」
ハヅキの姉が──
何かしらの原因で目の前にいた姉に剣を向けたとしても避けることはできたはず。
「生きろ、って……で、でも……」
「ならちゃんと生きろ、それが今お前がやるべき事だ」
「……無理だ、無理なんだよ」
彼女が抱えてるのは罪の意識だろう。
それは当たり前のことだし否定できるものでも無い。
でも。
「──罪は消えない、どれだけ償おうとそれだけは避けられないことだ」
「だとしても、私は償いも出来ない……」
「俺も、お前の罪を背負うよ。
きっと、これから色んな場所でお前を忌避する奴らがいる、そんな奴らにお前傷つけさせないし償うならそれも俺が受ける」
「な、なにをいって──」
上手く言葉に出来ればよかったが、自分の思いを全て吐き出すのが精一杯だ。
だから、本音を。
「──どうしようもなく馬鹿な俺は、お前がそばにいてくれないとダメなんだ」
コハルとともに笑うお前が。
「……だからさ、ハヅキ」
時折見せる照れ顔も。
「俺と──」
守りたいと、
「手を取り合って、生きてくれないか」
彼女の苦悩も。
彼女の寂しさも。
罪も。
全てを背負って、生きていくと決めた。
彼女の答えを聞く直前。
『Grrrrrrr!!!』
頭上から大型の熊のようなモンスターが突然ポップした。
「ら、ラギ…!」
「ハヅキ──俺の手を取れ……俺を、選べ──!」
俺目掛けて振り下ろされた巨大な爪は当たることなく。
ハヅキへと伸ばした右手が掴まれた感触があった。
「……そんなの、ずるいよ」
「そうか?」
《イグナイト・スクエア》によって発生した炎が宙に散る。
「──もう、キャンセルはなしだよ」
「あぁ……当たり前だ」
涙声でそう言ったハヅキは一度手を離し剣をしっかり構える。
顔は見えないが彼女は先程までとは違い少し明るい声色をしていた。
「まずはこいつを」
「倒す──!」
俺も剣を抜き彼女と同時に左右に散り挟む形をとる。
爪による引っ掻きを避けて一切口にせず同時にソードスキル──とスキルレコード──を発動させて攻撃する。
「ハヅキ、スイッチ!」
「うん──っ!」
とめどなく続く攻撃は反撃すら許さずに即座にHPを枯らしハヅキの一撃でトドメとなる。
「……なぁ、ハヅ──」
ポリゴン片が消えるのを見届けてからハヅキに声をかけようとしたが唇に指を当てられ黙らされてしまう。
「……ごめん、ラギ」
その手は、その声は震えていた。
「私の、勝手な行動で……みんなを、ラギを傷つけて……お姉ちゃんの気持ちも、話も何も聞かずに……」
「俺には謝らなくていいよ、勝手なことばっか言ってるのは俺の方だし」
「……それはほんとに、そう」
涙をポロポロと流しながら謝るハヅキの頭を撫でる。
道を誤ったからこそ起きてしまったことが彼女をここまで追い詰めたからこそ俺はそれを救い出そうと手を伸ばしただけだ。
言いたいこと全部ぶつけたからだいぶ彼女も困惑してたが、それについてはムッと頬を膨らませた。
「でも、好きだってのは本当だよ」
「……こんな私だよ?」
「だから、かな」
「……ばか」
ハヅキは止まらない涙を何とか拭きつつ俺の胸に顔を埋める。
「いいんだぞ、もっと泣いても」
「なにそれ、そんなこと……っ…」
これまでの色々がやっと解けたのか、彼女は声を上げて、言葉は発さずに泣いた。
どんな過去があるのか、なにがあったのかを俺はまだ知らないが、それらを全て吐き出すぐらいの涙を彼女は流した。
それから数分後。
やっと落ち着いた彼女は涙を拭き深呼吸をする。
「ラギ」
「……なんだ?」
「私も、好きだよ──最初っからずっと」
「……そうか」
彼女は微笑みながらそう口にする。
やっと、大好きな人の笑顔を見れたことに安堵する。
そして。
そんな俺らが落ち着くのを見計らったかのように迷いの森中がざわめき始める。
「ブラボーブラボー、美しく醜い、そしてとてもくだらない茶番劇をありがとう」
木の影からそんなことを言いながら現れたのはルナにそっくりな女の子──
「はじめまして、かな──ボクはソラ、死にゆく君たちには関係ない名前かもだけどね」
ソラが指を鳴らすと同時に複数のMOBがポップし俺たちを囲んだ。
ハヅキ……!
多分3年ぶりぐらい……?
おかえり!