ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
ソラの合図により大量のMOBが俺たちの周りにスポーンする。
「大層なおもてなしだな」
「ソラ……」
MOB達はまだ動く気配は見せないが、その目線は全て俺たちに向いている。
それを後方で楽しそうな顔で見てくるソラはハヅキの方を向くとヤレヤレと口にして言葉を続ける。
「これでも不意打ちは避けたんだよ?……あれだけ面白い茶番劇を見せてくれたお礼に、ね」
「茶番、だと……?」
「あぁ茶番だろ?
ただの茶番にすぎない、そうソラは語る。
ハヅキとヒヨリさん、そしてジャックのことを、奴は鼻で笑った。
「あなたに何が……!」
「人情だの生きろだの助けてだの、そんなものはボクには関係ない話だ」
「お前……!」
「あぁ、言っておくけど……ボクに悲しむなんて感情はない、故にジャックに関しても
淡々とそう語るソラはウィンドウを操作する。
阻止しようと剣を投げるが手前にいたMOBがソラを庇う形で立ち塞がり剣は届かない。
「それとも実の姉を手にかけた君をとことん罵倒する方がいいかな?」
「──黙れ」
「なに、君が口出すことじゃないだろう?それとも罪を背負うだなんてくだらないことを引き受けてるから彼女を守るとでも?」
「もういい、喋るな」
今にも飛び出そうなハヅキを静止してソラの言葉を返す。
「戯言だろ?君にとっては
「これ以上ハヅキを、ジャックを馬鹿にするな」
「なにキレてんのさ、赤の他人だろ?」
我慢の限界を迎えた俺はソラの元へと走り出す。
途中にいるMOB達を踏み台にしながら奴に向けてソードスキルを放つ。
「おっと……残念、当たらないよ」
「今のは……」
片手直剣に持ち替えたことで一撃火力をたたき出せるようにしたがソラには俺の攻撃は当たらなかった。
いや、
何が原因かは心当たりはあるが、それを何故こいつが持っているのかまでは現時点では確信を持てないため今は探るしかない。
「偉そうな割に、体力は無いんだな」
「……何?」
俺の推測が正しいなら、ソラは
それ自体は正直想定内ではあるが、こいつはボロを出しすぎている。
「気づかないなら教えてやるよ」
「いちいち訳の分からないことを……っ!」
俺の挑発に簡単に乗ったソラはウィンドウを操作し周りのMOBを全て同時に動かした。
個々は全く強くない、そこら辺の雑魚程度のモンスターだけ。
ソラはジャックの言っていた《複製》の元、つまりオリジナルを持っているか、複製されたスキルを持っているはず。
となれば雑魚しか呼ばないのは──
「逃がすと思うな……ハヅキ、スイッチ!」
「……うん!」
MOBの攻撃をあえて受け止め、弾き飛ばして後ろで準備していたハヅキと交代する。
入れ替わったハヅキのソードスキル発動と同時に地面を蹴り今にも森の中に消えようとしているソラへ剣を投擲する。
「だから、関係のない君が手を出す必要はないって言ってるだろう?」
「あぁ、赤の他人だよ、でもな……」
短期間とはいえルナは第一層、そして夕立から離脱したあとに共に戦った。。
ハヅキも直接パーティーを組んで攻略した相手だ。
「この一年間何度も肩を並べた仲間だ、血の繋がりだとかはそれこそ関係ないんだよ」
ソラの足元に落ちた剣をクイックチェンジで回収しつつ双剣に切り替える。
理由こそ知らないが、ルナを、ルナがいた教会を住処にしている人達を裏切ってこうなったソラに理解できるものではないだろう。
そんな奴に、ハヅキ達のことをバカにされるのは許せるわけがない。
「仲間、ね……ホントくだらない──そんなもの、飾られた言葉なだけだろ?」
そういうとソラは言葉を続けた。
「所詮仲間だの信頼してるだのなんて物は全部その場しのぎに出た言葉なだけ。誰も本心でそんなこと口にしてないんだって気づきなよ、偽善者」
指を鳴らし先程とは少し違う中ボスレベルのMOBを召喚した。
双剣スキルに付属しているパッシブを利用し攻撃を全て避けつつソラに片方を投擲する。
さすがのソラも回避するが、双剣スキルの能力により手元の剣に引き寄せられ返ってきた短剣がソラの頬をかすめる。
「っ!お前……!」
「臆病者にはピッタリのスキルだな」
いや、正確にはギリギリで止まったからそこまで行かなかっただけだろうが、これでよくわかった。
「誰が臆病者だって……!?」
「お前だよ、間違ったこと言ってないだろ?」
手元に返ってきた短剣を構え直す。
今、俺らでこいつを
故にどう足掻いても勝ちにはならないということだが、それは
「お前が身にまとってるそのスキル……いや、《権限》が答えだろ」
ハヅキを奪還し、結果的にジャックの暴走を止めた。
その時点で俺らのメイン目標は達成している、後はこいつが撤退すれば事は終わる。
問題は、《あれ》を使ってるソラがそう簡単に引くかという話だ。
「その言い方、まるで検討がついてるようだけど、そこらの一般プレイヤーが何を知ってると?」
「……そうだな、
「なにが言いたい?」
ソラの……ジャックを含めたこいつらの裏には俺と同じ──つまりはアーガスの人間が糸を引いてるのはほぼ間違いないだろう。
それが誰なのかは今はどうでもいい、とにかく今はソラを撤退に追い込むことに集中すればいい。
「お前らを狂わせた本人と同じものを持つ、そういえばお前でも理解出来るか?」
「……なるほど、
「これ以上は無駄だろ、大人しくお前らの……」
「残念だけどボクは味方は切り捨てても有益な情報までは売らないし君たちが勝てる未来もないんだ」
ソラはニヤリと笑うと再び指を鳴らす。
会話中ハヅキが全部討伐してくれていたMOB達のいた場所に見覚えのある巨影が3つ出現した。
イルファング・ザ・コボルトロード
カガチ・ザ・サムライロード
ザ・ストームグリフィン
「やっとそのスキルの全力ってとこか」
「冷静なんだ、どう見ても絶望だけど?」
段階を踏んでMOBを強化していったのはこっちの様子を伺うためだろう。
中ボスレベルのMOBならハヅキだけでも倒せるから、確実に苦戦するこいつらを呼んだ、というとこか。
本来レイドで倒すほどの強敵が三体だが、こいつらは全て《オリジナル》と同個体、つまりは出てきた時のレベル帯、最高でも20そこらだろう。
ソラはそこまでの仕様を理解していないのか、知っていてこの態度なのかは分からないが、少なくとも
「ハヅキ、任せていいか」
「うん、ラギはソラを」
「ありがとな」
再度剣を構えたハヅキに背中を任せてソラに向かう。
ここで倒せなくても、こいつには聞きたいことが沢山ある。
「あの子、死ぬんじゃない?」
「そうだとしたら俺は今お前の前に立ってない」
「ほんと、馬鹿みたいに他人を信頼するね……なら、これはどうかな?」
ソラはウィンドウを操作し、MOBを召喚……では無く、俺の方へメッセージを投げてきた。
そこには、一言だけ。
『ギルドイベント中に第一層の教会を狙う』
第一層の教会、そこは今ルナが居候している場所だ。
このメッセージが意味するのは、つまり──
「ボクだって何も考えない訳じゃないし、殺すのに
「お前……どこまで腐って……!」
「そもそも君たちが大人数できたのが間違いだってことだよ、今頃第一層の教会にいる子らは──ルナのせいでみんな死んでるだろうさ」
誠に残念だ、なんて言葉を続けながらソラは嘲笑う。
第一層で起きている最悪な事態を想起させるような、そんな声で。