ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

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99:一瞬を

ギルドイベント前日──。

夕立の霧雨ギルドハウス

side:シズク

 

「それが合図?」

「あぁ、お前らが俺と離れてもすぐに戦闘態勢に移れるようにするための──つまりは緊急時のアラートみたいなもんだ」

 

星屑の流星、ルナとアルゴを交えた作戦会議を終えたあとにラギから私たち3人へとある言葉を伝えられた。

そんな緊急事態になることが本当にあるのか、とライムが聞いても「念の為」とだけ答えられてしまいラギの真意はわからない。

でも、これまでのことを考えると()()()は最悪の事態を意味する可能性もある、のかな。

 

「それとカエデ、お前に伝えとくことがある」

「あ、私ですか!?」

 

妖猫のモミジをわしゃわしゃしていたカエデにラギが何かを伝えたけど、それを私たちに教えてはくれなかった。

 

 


現在

チームC

 

「夕立の霧雨、スタンバイ!」

 

 

森の奥……上?からラギの声が響く。

それは前にラギと私たちの間で決めた合図、つまり()()()()()()ということ。

 

「あいつ何してんのよ」

「おー、ラギクン空飛んで──え?」

 

声が聞こえた箇所を特定したユミさんとサキさんが空を見上げてそんな会話をしている。

同じ場所に立ち見上げるとラギが遥か上空にいた。

 

「あんな高さ、どうするつもりなんだろ……」

「シズク、そっちも気になるけど周り索敵して」

「わ、わかっ……た…?」

 

索敵に長けたサキさん達に任せていたため切っていた索敵スキルを発動すると私たちのまわり四方に複数の敵反応が発生していた。

それも各方面に1.2体なんてものじゃなく、10以上が私たちを囲むように次々とポップしている。

 

「みんな!戦闘態勢を……もう取ってる!?」

「そりゃラギクンがあの高さでまず君たちに指示したってことは()()()をあの高さで見たってことでしょ」

「私も寝てばかりじゃ先輩に合わせる顔ないから」

「今回いいとこ見せてないからね、少しぐらい暴れさせてもらわないと」

 

サキさん、カエデ、ユミさんがそれぞれ武器を持ちいつでも大丈夫な状態になっていてカエデの足元にいるモミジも警戒モードで牙を見せている。

ライムも新調した装備を整えて私の横に立って肩に手を添えてくれた。

 

「さ、やろう」

「うん、チームC!戦闘開始!」

 

 


同時刻

チームB(コハル、アキ、ヨシノ)

 

 

「ハヅキ……!」

「コハル……え、っと……」

 

上を気にしながらも森の奥から走ってきた私はコハルと再会した。

横には鎌を担いで空を見上げる女の子ともう一人がいるけど、そんなことよりもコハルに何を言えばいいのかと言葉を詰まらせてしまう。

そんな私を見透かしたのかコハルは私を抱きしめて背中をさすってくれた。

 

「いいよ、ハヅキ」

「……ごめん、後で沢山話そう」

「うん、いっぱい話聞かせてね……それでラギさんはなにがあったの?」

「とりあえず色々説明するけど、まずはまわりを倒そう」

 

そういうと私たちのまわりにもMOBが出現した。

ラギの事が心配だしコハルにもちゃんと謝らないといけないって気持ちで落ち着かないけどなんとか息を整えて剣を構える。

 

コハルと同時に駆け出して交互に攻撃を与えていき隙をみて鎌の子──確かラギがヨシノと言っていた──とどことなくラギに似てる気がする子──同じくラギがアキと呼んでいた──にスイッチし距離を取る。

 

「とりゃあ!」

 

ヨシノとアキの薙ぎ払いでMOBが一掃され戦闘が終わり落ち着いたところで何が起きたのかを説明しながら森の中心地点──チームB?とラギが言ってた人達の所へ向かう。

 

「それって大丈夫なの!?」

 

ラギが天高く飛ばされた直後、ソラが森の奥へと姿を消しそれと同時にメッセージが来た。

内容は『何が起きたか』、『何をすればいいか』の二つ。

なにが起きたのか、に関してはラギも飛ばされた原因は理解してないみたいだけど飛ばされた直後に森の至る所にMOBの出現エフェクトが見えたとのこと。

やる事としてまずはコハル達と共にチームBとチームA、私を連れ戻すためにラギが選んだメンバーとの合流、その後出現したMOBの殲滅。

その後何をするかは書いてないけど、『俺がカエデかハヅキの元に行く』と文末に書かれていた。

あれは、どういうこと……?

 

「戦闘音が向こうから聞こえる!」

「あの音はユミ姉だね、行こう!」

 

説明を終えた私たちはちょうどチームC……夕立の霧雨と星屑の流星?の連合チームの戦闘に加勢する形で合流した。

 

「ハヅキ、なまってないだろうね?」

「誰……ってライム?もちろんなまってない……あと、ごめん」

「それは後で聞くよ」

 

途中、背中合わせになった見知らぬ装備のライムとそんな会話を交わしながらまわりのMOBを全員で殲滅していきあっという間にまわりから気配はなくなった。

 

「さて、あとはラギだけど……」

 

みんなが空を見あげた瞬間、ラギが再度空から指示を出した。

 

「カエデ──!《呼べ》──!」

 

一見なにを言ってるか全くわからないその言葉はカエデにだけ伝わったようで彼女は何かを準備すると一言こう言った。

 

「《システムコール》、プレイヤーID《*****》──転移!」

 

その言葉と共にカエデの横に青い光が現れ、強い衝撃とともにラギがそこに立っていた──。

 

 

 


ラギ視点

 

カエデに指示したのは《管理者権限》の発動。

そもそもなぜカエデが使えるのか、という疑問に関しては簡単な話。

()()()()()()()()を俺とカエデのプレイヤーID間で起こしただけのこと。

まぁ正確には《あの時》に外部に頼んで移行してもらった、というのが正解なんだが。

 

「……成功した、か」

 

さすがにあの高さまで飛んだ以上はダメージ無しは無理だったがカエデの目の前へ飛ぶことが出来た。

転移が可能ということは多分、ソラも同じような手を使ったんだろうが、そこは後で考えるとしよう。

まずは、目の前の課題だ。

 

「目的は達成した、みんな話したいことがあるだろうがとりあえず撤退だ」

「待って、チームBは?」

「あの人達は先に帰るってメッセージ来てた」

「勝手だな……まぁ無事ならいいか、行く──」

 

そう言おうとして言葉が詰まる。

目の前には『ギルドイベント終了』の文字がウィンドウで表示されている。

そして、それを引き金にしたかのように索敵スキルが最悪な事態を表していた。

 

 

「な、なにこれ……ラギ、どうしよう!?」

「え、なにどうしたの!?」

「あいつ……ここまでするか……」

 

索敵スキルに引っかかっただけでも俺たちのまわり……正確には森中に大量のMOBが出現し始めている。

その数は数え切れないほど、相手していればこちらがジリ貧になり潰れてしまうであろう数だ。

殲滅する手段を持っていない訳では無いがそれも今の体力状態では扱えば俺は……

 

 

「ソラがMOBをありったけ召喚して逃げた……お前ら、先にいけ」

「何言ってんの!?」

「俺が秘奥義で吹き飛ばす、その隙に逃げてくれって言った」

 

逃げ道にも大量にMOBが呼び出されている以上、広範囲でまとめて消し飛ばすしか逃げる方法はない。

なら、無謀だとわかっていても誰かが殿を務めないと今の状態で逃げ切れることは不可能に近いだろう。

 

「だから、お前らは先にいけ」

「ラギが残るなら私も残る、というかみんな同じだと思うよ」

「気持ちは嬉しいけど、ここは俺だけが残る、お前らにこれ以上負担はかけられない」

 

ジャックを止めてハヅキを奪還する。

その目的を達成した以上はあとは無事帰るだけ。

全員でこの数を相手すれば楽かもしれないがもし召喚がとめどなく行われるようならそれこそ全員死ぬ可能性だって有り得る。

それに既に全員疲れが顔に見えている、そんな状態の中残って戦うという選択は与えられない。

なら、俺が一人で残る、それだけが残された選択肢となる。

 

「大丈夫、すぐ帰るから」

「ラギ……」

 

大丈夫だ、こいつらが帰るまで

最悪の場合があっても、ハヅキならきっとコハルと共に進んでいくだろうし、夕立の霧雨も3人で生きていける。

千秋や鈴には迷惑をかけるだろうけど、結や先輩たちもいるから心配はいらないだろう。

 

「そう言って、死ぬ気なんだよね」

 

いつの間にか木の上にいたサキが俺の真横に降りてきて静かにそう言った。

 

「武器構えてないで、お前も逃げ「断るよ」何言って……」

「ハヅキちゃんを助け出して、ソラを退けたらそれで役目終わり、なんて考え方も、その後こうなった場合は自分を犠牲にしてみんなを生き残らせようとしてるのも全部お見通しだよ」

「俺は、そんなつもりは──」

「嘘つき、わかるんだからね」

 

サキは淡々と、それでいてどこか懐かしい言い方で言葉を続けていく。

 

「ハヅキちゃんも、アキもよしのんも、ライムや他の子達もみんな君がいるから生きていけるんだよ」

「だから、守ろうと─」

「そこに自分を含めないで死のうとしてるっていうのがダメだって言ってるんだよ」

「サキ……でも、俺は──」

「話は終わり、行って」

 

話をぶつ切りにするようにサキが俺をハヅキたちのいる方へ突き飛ばす。

すると目の前からMOBの大群がタゲを向け始めたのが見え、そのままサキの方へ向かっていく。

 

「じゃ、私が殿を務めるから──()()()これを」

「これは……って、そんなことさせるわけ──」

「ライム、ハヅキちゃん──私の初恋の人、ちゃんと帰らせてね」

 

サキは紙切れをひとつ投げてそれだけ言うと弓を構えて大技を放つ。

手を伸ばそうとした俺はライムとハヅキに無理やり持ち上げられそのままサキ一人を置いてこの場を離れることに。

離せと抵抗したが、ライムも涙を流し、街に着くまで離してくれなかった。

 

 


 

よかった、彼の力なら二人を振り切って残るとか言うかと思った。

きっと彼は私も助けて、自分は疎かにするんだろうなぁ……

 

そんなの、かっこいいけど幸せじゃないよ。

だから、彼には生きてもらう。

この数を相手に生きて帰るなんて、そんなの嘘に決まってるし

私は、そりゃ生きていたいけど彼が、如月春揮が約束を守ってくれていたこと、あんな幸せそうな顔をするようになっただけで十分幸せだから。

誰かがやらなきゃいけない使命なら、もう満足した私が引き受けるのがいちばんでしょ?

 

「ありがと、人を好きになってくれて」

 

これは、彼に渡したメモに書いた言葉。

ある日のマイルームで話したあの時に彼の真意に気づいた瞬間に書いて、こういうタイミングが来ると察したから渡したもの。

 

春揮、あとは任せたよ。

じゃあ、私の役目はおしまい。

 

「めでたし、めでたし、ってね」

 

 




ありがとう、好きな人。
さようなら、好きになった人。


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