ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
アインクラッド第一層
はじまりの街:湖畔公園
小規模で行われたギルドイベントから数日が経ったある日。
俺は一人で芝生の上に寝転んでいた。
「……サキ」
あれからずっと、サキが帰ってきたという話は聞いていない。
それどころか、俺は夕立の霧雨やハヅキ達とも会うこともせず一人で行動している。
あの時、何が正しかったのか、どうすれば良かったのか、その答えをずっと探して自問自答し続けても、その答えは見つかることはない。
「ここにいた、今大丈夫?」
そんな声をかけられて顔をあげると俺の顔を覗くようにルナが心配そうな顔をしていた。
「……大丈夫」
「間が空いた、嘘ついてる!……ギルドイベントのこと、聞いたよ」
ルナは隣に座ると俺にピッタリと寄り添い優しく言葉を続ける。
「ジャック……奏はさ、すごく優しくて、私のことずっと見てくれてた。もちろんあの子がどんな考えなのかはわからなかったけど、きっとああいう立場にいるのも何かしら理由はあるんだって、なにかあったから、自ら悪役になろうとしたんだって思うの」
「……でも、あいつは死ぬ必要なんて無かった」
彼女とソラの関係を絶ちその後に訪れる危機も回避できる、そんな方法だってあったはずだ。
それでも、彼女に頼まれたからという理由でその他の道を捨てて彼女を殺す選択をした。
それを、許されていいわけはない、のに。
「ラギは、間違ってなんかないよ」
「あいつが、お前や教会の子達と仲良く暮らすことだって出来たはず、それを俺は……」
「……ラギは背負いすぎなんだよ」
ルナはそういうと俺を抱きしめた。
優しく、暖かい彼女の体は震えている。
「ラギ、前に言ってたよね……『託されたものを繋げていく』って、なら今やることはそれだと思うんだ」
「……怒らないのか?」
「私が怒るのはお姉ちゃん、そっちにだよ。ラギにはむしろ感謝してる」
「でも、俺は「もー、やっぱ怒るよ?」……悪い」
彼女も、親友を失ったという辛さがあるはずなのに、それ以上に俺に対してこうやって気を使ってくれている。
その現状と、彼女の強い意志が、震えている体とは正反対な意志にも見えるが、いつもの明るい彼女とはちがう言葉の重さがこれ以上俺に反論させてくれることはない。
「さ、みんな待ってるよ?」
「ルナを教会に送り届けたら、会いに行くよ」
「やっぱラギはそういう顔じゃないと!あと私はまだボディガード貰ってるから、行って!」
抱きつくのを辞めルナの頭を撫でたあと、立ち上がって深呼吸する。
そんな俺たちの様子を気の影からアルゴが覗いていたのを横目にルナとわかれて第十層へ転移して仲間たちの元へ向かう。
アルゴと合流したルナは彼の背中を静かに見届けた。
「……ラギ」
「ルー坊は大丈夫だヨ、きっとナ」
「なら、いいけど……」
「あいつには色んな子がイル、ずっとクヨクヨしてられないってわかるだろうからサ」
「……うん、そうだね」
そんな会話は、彼には届かない。
第十層街外れ
夕立の霧雨ギルドハウス
「ラギ!」
「みんな悪い、ずっと留守にして」
ギルドハウスに入ると夕立の霧雨に加えてハヅキとコハルも一緒にお茶を飲んでいた。
俺に気づいたシズクが真っ先に文字通り飛びかかってきてライムが呆れた様子を見せカエデとコハルが安堵した顔をして、そして……
「ばか」
ハヅキはポコポコとなりそうな叩き方で俺の腕を交互に叩いてきた。
「……それで、サキさんは」
「まだ、連絡はついてない」
席についてすぐ、ライムにそう聞かれた。
この数日、何度もメッセージを送ってはいるが、返信はない。
もちろん
「黒鉄宮はみてない、というか見たくないからまだ希望は捨てられない」
「……とりあえず、お疲れ様」
「みんな、ありがとな」
ハヅキも、ライムだって大切な人を失った喪失感があるはずなのに、こうやって俺を心配してくれている。
こんな様子を見れば落ち込んだままでいるなんてそれこそ怒られそうだ。
「……しばらくは引きずるだろうけど、それでも前に進まなきゃいけない。だから──改めて
あとから聞いた話だが、ハヅキとコハルも形式上はギルド所属ということになったらしい。
だからギルドハウスにこうやって入ってるわけだが、そこは置いといて
ギルドメンバーとはいえ、俺含めた3人はあくまで個人で動いたりするのをメインとした、本当に肩書きに乗ってる程度の所属となる。
それはそれとして、ギルドメンバーな以上は協力もするわけで。
「ラギがそういう顔してくれるなら、私は別にいいよ」
「私もです!先輩が少しでも元気なら、それで!」
「よろしくはこちらこそだよ、ラギ!ハヅキちゃん、コハルちゃん!」
こうして俺たち3人は正式にギルド、夕立の霧雨に加入したのだった。
その後。
歓迎会と称した催しを終え一旦解散となり俺はハヅキに呼び出され第十層の街中にいた。
「ラギ、あの……」
「謝罪なら受け付けないよ」
「で、でも……っ!」
彼女の言葉を途中で止めて頭を撫でる。
「むしろ、謝るのはこっちだ」
「む……なら、それを私も拒否する」
「……そうか」
お互い、考えは同じだったようで、気まずい空気が流れる。
そんな空気を断つように忘れていたことをハヅキに伝えるため彼女の顔をしっかり見て口を開く。
「ハヅキ」
「な、なに?」
「──おかえり」
そう言って彼女に手を伸ばす。
きっと俺がいない間に沢山言われたであろう言葉は、彼女にとっては今一番欲しいものだったようで、ボロボロと涙を流して
「……っ、ん、……ただいま、ラギ」
彼女は笑顔でそう言った。
「ビックリしたんですからね」
ギルドハウスに戻る途中、カエデが妖猫──確かモミジという名前──を抱きながらムスッとした顔で俺たちを待っていた。
「なんのことかさっぱり」
「とぼけないでください、急に《管理者権限》を渡した、なんて言われたらびっくりしますって」
「ニャー!」
何に怒っているのかと思えばギルドイベント前日にカエデに説明したもの、つまり俺が元々持っていた管理者権限を彼女に渡していたことについてだった。
この世界に歪な穴が空いたあの日、一か八かで頼んだものだったが、先輩たちが無理して用意してくれたらしくちゃんと機能してくれた。
それがあったおかげで俺は落下死を免れたんだが、カエデはそれについて怒っている様子。
「俺が持つより、カエデが持っててくれた方がいいと思ったから渡した、それだけなんだけど」
「身を案じてくれたならそれは嬉しいですけど、あんな危険な目に自分を晒すの、やめてください」
「それは確かに」
空中へ吹き飛ばされるなんてこと普通起こらないと思う、なんて反論する暇もなく何故かハヅキもカエデに賛同して妖猫もなにか言いたそうに頷いている。
「……約束はできない、もちろんあんなことは避けるし殿を務めるようなこともしないよ、でも」
「先輩はどうせ先頭にたって無茶するんですよね、わかってます」
「ラギってそういうとこあるから、ね」
なんか妙な納得をされてる気がするが、気の所為ということにしつつ言葉を続ける。
「今度からは、自分の身も少しは考えるよ……
親友──俺の、初恋の人と。
「……さ、行こうか」
「うん、行こ」
きっと、また道を間違えるかもしれない。
でも、同じような過ちは繰り返さない。
もう、誰も失わない、そのために。
「見ててくれよ、鈴」
その言葉は、誰にも聞こえることはない。
そんな出来事から一週間ほど。
平和が続くと思っていた矢先、事件が起こる。
「……カエデとコハル、それにヨシノが行方不明になった」
残った傷跡は深く、こころに穴をあけていく。
次回、紅炎の英雄編第2節──《英雄誕生編》開幕。
カエデの管理者権限
『Data log』にてラギが仕込んでいたもの。
そもそもカエデのアカウントは一般では?という質問には『あいつがやれと言ったからやったらできた』らしい。
だが譲渡したことにより使えるものはラギ以上に限られている。