ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

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102:復讐者

 

「この一件の元凶、犯人を私たちが殺す」

 

淡々と、冷酷に、慈悲すら見せないような冷たさ、そういう『言い表せない感情』がその一言に詰まっている。

普段のおちゃらけた様子のミコトからは有り得ない、中身が入れ替わったのかと思えるほどの発言にも思わず返事を忘れてしまう。

 

 

「詳しいこともちゃんと話すよ、だから──私たちに協力させて」

「それは……構いませんけど、犯人って?」

 

先輩達とあまり絡みがなかったライムが先にそう質問する。それに答える前に何故か二人が俺を部屋の隅に連れてこう聞いてきた。

 

()()()()のか』、と。

 

「君が()()()()ってことだよ」

 

回答に困っているとヤヨイが説明を入れてくれた。

こっち側、というのは俺が管理者──アーガス社員であること、だろう。

静かに頷くと二人は説明を再開した。

 

 

「悪いね、ちょっと借りた」

「……ラギの人たらし」

「「なんで!?」」

 

不機嫌そうなハヅキの急な発言にライムと突っ込んでしまったがミコトの咳払いでそれ以上は追及出来ず。

その代わりに改めて説明をし始めた。

 

「まず、私とヤヨイも後輩君──ラギ?君と同じくアーガスの人間だ」

「……それと今回の件、何が?」

「まぁ焦らないで、というかツッコミなよ」

「まぁ、ラギに対しての呼び方で、何となく」

 

急なカミングアウトにも関わらず冷静に答えるライムと「えっ」と声を漏らすハヅキとシズク。

 

「で、まぁ私たちの出自はともかく、私たちとラギ君、カエデちゃん……も聞いてるのね、おけ──でそれ以外に、管理者がこのゲーム内にいる」

「会ったんですか……!?」

「ちょっと、ね。そこは後で話す──それで、そいつの正体も気づいてるんだけど、アーガスでのそいつの行い的にも、()()()()を作り出すにもほぼ間違いなくそいつが犯人だと私たちは睨んでる」

 

ミコトの言う管理者というのは多分、というか間違いなくジャックたちに干渉し全てを狂わせて双剣、MOB召喚の二種を譲渡した奴と同じと見ていいだろう。

そいつが、あのイベント来ていた、ということ。

 

「居場所まではわからない、そこだけは捜索しないとダメだ。でも、そこに関しても後輩君、男にやってもらうべきだ」

「女性を狙う、って考えればそりゃそうだ、でもラギだけじゃ」

 

ライムの言いたいこともわかる。

現状でも40を超える階層が解放されているこのアインクラッドで女性プレイヤー達が失踪した原因、正確には『集められている』場所なんてそうそう見つけられない。

ただ、今ある情報だけで大体の位置はなんとなくわかる。

なにより、ミコトの言ってる《犯人》の特徴に心当たりがある。

 

「わかりました、俺が引き受けます」

 

キリトたちは攻略に時間を割いている。

他の知り合いに手の空いてそうな男性プレイヤーもいない。

そしてなにより、相手がもし本当に管理者なら、俺らが止めるべき一件だ。

 

「お前らはユミ達と合流して向こうのギルドハウスに、なにか怪しいことがあればすぐ伝えてくれ」

「ラギ……無理しないでね?」

「大丈夫、というかお前が連れ去られるのはもう二度とごめんだから、お前こそ無茶するなよ」

「……うん、わかった」

 

心配そうに見てくるハヅキの頭を撫でてお守りと称して《歪空剣:真》を渡す。

 

「本拠地を見つけたらあとから来てもらう、もしなにか()()()()危険なことがあったらその剣にはめ込まれてる宝石が光る──って言われてる、もし本当に光ったら《手放して》くれ」

「手放す……?」

「それが合図になる」

「わかった、目印に腰につけとく」

 

渡した剣は、ライムは気づいているだろうけどとある能力を持ったものだ。

ハヅキも深くは聞いてこなかったが、多分()()を渡したのかは何となく察しただろう。

 

「作戦会議はとりあえず終わり、かな?……みんな、疑わないんだね」

「ラギという前例のおかげでね」

「好かれてるねぇ〜」

 

俺が捜索、女子たちは安全圏で待機という話で落ち着いたところで当たり前のように流していたことをヤヨイが聞く。

衝突があったりしながらもずっと信頼してくれているライムの一言だけでニヤニヤとこっちを見てくる先輩を無視して手招きする。

 

「じゃあ先輩、こっちへ」

「無視かい……うん、行くよ」

 

俺とミコトは二人で屋根上へ移動し腰をおろす。

 

「それで、なにがあったんですか」

「……惨劇だよ、たった一つの悪意のせいで生まれた、地獄だ」

 

先輩は声を低くしそう言った。

そこに、その声色には恐怖ではなく怒りが籠っている。

 

「話すから、少しだけ……」

 

ミコト──琴海先輩は空を見上げて涙を流す。

何も言わず、俺はただその横で座っていた。

 

 

「……私たちは、君に言われて森を大外回りで進むために動いてた、そこでもうひとつの参加ギルド、《夜想曲》と出会ったんだ」

 

「そのギルドは、気性の荒い男の子二人と落ち着いた女の子と、勇敢な……リーダーの女の子、それとハヅキちゃんのお姉さん、ヒヨリちゃんがいて。

私たちはすぐ仲良くなって、信頼されて。

でも、すぐにその関係は亀裂が入った。

MOBやラフコフの面倒くさい奴の対処をしてる私たちを横目に、変な格好して声まで変えたプレイヤーが、夜想曲の一人に《管理者権限》……だと思うものを使って──モンスターに変えた」

 

「プレイヤーをモンスターに……」

「それで、その子をどうにかしようとしたんやけどね、リーダーの子が全てを背負って、私たちを逃がしてくれたんや」

 

悔しさと怒りと、それらの感情がごちゃまぜになった声が、夜の街に静かに響く。

 

「……私は、あの時、目の前で殺されていく夜想曲の子らを何も出来ずに見てた。

アーガスの社員で、実力もあるのに、そんなもの一切使うこともせずに、ただ()()()()()子らを、私が殺した」

「……それは、違いますよ」

「そう、あの子もそう言ってた、でも……もっと、できることはあったんじゃないかって思ってしまうんよ」

 

ミコトの話を聞いて思い出す。

ギルドイベント中、モンスターの咆哮と麻痺の拒否反応があった、あれは──

 

()()()、君は、強いね」

「そんなことないですよ、俺だって……目の前で好きな人を失った」

「……私は、どうすれば良かったんだろ」

「その答えは、俺も探してます」

 

ジャック、夜想曲というギルドのメンバー。

それらは直接的な繋がりはないが全員元を辿れば余計なことをしたアーガスの社員──同族の過ちだ。

 

「如月君、私は道を踏み外すよ」

「止めても無駄、でしょうね。

俺に、()()()()()()()人間には何も言えないですし、俺だって同じです」

「なら」

「……えぇ」

 

ミコトと顔を見合わせる。

彼女が抱えてるものは、やろうとしてる事は止めるべきことだ。

それでも。

この汚れ役は、誰かが引き受けるしかないものだから。

そう、言い聞かせて。

自分の弱さを、怒りを、悲しみを糧に。

 

「「徹底的に復讐する」」

 

その覚悟は俺たちふたりだけの間で共有されるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドハウスないに戻る直前、ミコトが立ち止まる。

 

「あ、そうそう忘れてた」

「なんです?」

「何も言わず帰ってごめんね」

 

それは、ギルドイベントから先に帰還したことに対する言葉。

そして、続けて。

 

「ある勇敢な子が託してくれた命を、守るためだったからさ」

 

それだけ言い残し、先に中に入っていった。

 

 

 

「……そこにいるなら教えろ」

 

そして俺は、覗き見している()()に向けて独り言を呟く。

 

「聞いてるんだろ、何番かの《MHCP》」




その牙は、獲物を貫く
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