ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
昨日の夜
ラギ視点
「ライムには少し危険な作戦になるが、引き受けてくれるか?」
「夜中に何してんのかと思ったら、そういうことね……他のみんなには?」
あることを終えてギルドハウスに帰るとライムが一人で紅茶を入れて座っていた。
テーブルにはもう一人分のティーカップが置かれており紅茶も今入れた様子。
ものすごい呆れた顔で見られたため事情を説明、そして俺が立てた計画を話す。
「ハヅキにはどうせ気づかれるだろうから、ちゃんと説明はしとくよ」
「バレないの?その作戦とやら」
「俺の顔をしっかり覚えているかっていうのがわからないからなんとも言えないけど、予想が正しければ作戦は刺さるはずだ」
不安は残りつつ、俺はライムととある計画を立てた。
そして現在。
「お前……どういうことだ……!?」
「ここまでバレないもんだとは思わなかったよ、管理者──下田!」
この一件の犯人である男、アーガス社員の下田を睨む。
先程自分が吹き飛ばしたと思った相手が、剣が全く別の方向から現れたこと、そしてなにより対峙していたのが《偽物》であったことに全く気づかないこのバカはまだ状況が読めていないようで、俺とライムを交互に見る。
女性プレイヤーだけが行方不明になったこと、そして
もちろん俺がそのまま入ってこいつを抑えることも出来たが、
その条件というのは、この空間を隠していた扉、正確には壁の開閉に《性別:女性》が触れるという設定がされていて、開けることは不可能。
そんな条件を付けているやつが侵入者への対策を全くしてないというわけもないはず、そう考えてさらに少しでも油断を誘うためにあいつが調子に乗るようあえて一人で潜入する作戦に出た。
そこで考えたのがライムと入れ替わるという策、黒幕がこいつであるという確信があったのと下田がアーガスの男性の顔を覚えている可能性がほぼ無いであろうというミコトの読みで唯一男っぽく振る舞えて俺と一緒にいた期間も長いライムに俺を演じてもらった。
もちろん顔を知られていなくても《管理者の男》がいるという情報とそれが《赤い装備を着ている》、《カエデと共にいる》という認識を持たれていた場合の事を考慮して副装備だけは交換した。
「
「それ以上に、ここに入れるって時点で気づかないんだな、ゲス野郎」
ライムが初見で女性プレイヤーだと気づかないことに関してはノーコメントだが、この空間の設定を作った本人がそれに気づいていないことに驚きだ。
「──っ、黙れ黙れ黙れぇ!!!」
下田──ヘイへというらしい──は声を荒らげるとウィンドウを開き何かを操作しようとする。
が、それにいち早く気づいた俺の短剣をライムが拾い投擲することで一瞬の怯みを与え動きを阻止。
「く──そ、そもそもお前どうやって現れやがった!」
「簡単な話だよ、お前はこれすら覚えてないだろうけどな」
ライムが投擲した短剣がブーメランのように俺の手元へ飛んできたのを掴み下田に見せる。
双剣スキル──正確には《歪空剣:真/偽》の二本一対となるこの剣にはとある性質があり、それを利用した。
ジャックが利用していた引き寄せられる性質、それに加えてこの剣は
そんなんチートだと誰もがいいそうだがその辺は他のユニーク武器も大概な性能してるからノーコメント。
とにかく、俺はその性質を利用して片割れを渡したライムの元へと飛んだ、ただそれだけの事。
前日にハヅキに持たせていたのはあくまでここを見つけるまでに何かあった用のお守りとして持たせただけでこの作戦を実行するにあたり所有者を変えた。
「お前がジャックにこれを渡した、そのせいであいつは──」
「そんな
下田は近くの檻を蹴る。
中にいる女性プレイヤーが小さな声で「助けて」と震えた声を出す。
「そんなこと、か──よかったよ、お前がとことんクズで」
元々生かすつもりは無かったが、殺す理由がちゃんと見つかった。
管理者ではないソラが《あれ》──《破壊不能オブジェクト》を纏っていたことを考えればそれを付与したであろうプレイヤー、つまりはこいつもそれを利用していることは考えていた。
それを下田は突破出来ないと調子乗っているのだろう。
「いました、あっち」
と、そんなゆるい声が入口の通路方面から聞こえる。
声の主は通路からひょっこり顔を出すと後ろに手招きを送ってそれに続くように足音が三人分。
「連れてきた」
「直接来なくても……まぁいいか」
ギルドハウスにて待機させていたメンバーを呼びに行ってくれとだけ頼んでおいた
破壊不能オブジェクトを使用している以上数で叩くのは無意味だ、だが
「ラギ、その子は?」
「後でな、とりあえず──」
「覚悟してもらおうか、下田」
結局付いてきたらしいハヅキとそれを挟むようにたつ先輩2人はそれぞれ武器を構えて戦闘態勢。
急に現れた援軍に動揺したまま立ち尽くしているヘイへは我に返るとすぐウィンドウを開くがライムに阻止されそのまま壁まで蹴り飛ばされる。
「ハヅキとヤヨイさんはこの子と一緒に檻の中の子を頼む」
「了、承りました──『解錠』、さ行きましょ」
「え、わかった……?」
何かあった時のため、檻を解放する役割を二人と一人に任せて壁際で気を失ってるフリをしている下田に剣を向ける。
「な、なんなんだよお前……!」
「あいつはアーガスが産んだ《不出来》、まぁお前には分からないと思うけどな」
「ふ、ふざけるな──だ、だがそんなことしたところでお前らに僕はどうにもできないだろ!」
先述した通り、下田には破壊不能オブジェクトが付いている、だから『即死レベルの攻撃を無効化』と『HP半分以下にならない設定』が発動しているんだろう。
もちろんゲーム内のオブジェクトには別の設定がしっかりされているが、それに関してはプレイヤーに付与できないから正確には
だから投擲程度の攻撃や掠る程度の攻撃は無効化されなかった、と言ったところか。
真相は設定したこいつにしかわからない事だが、
結局は、
「たしかに、HPを減らすのは無理だろうね、だから後輩君は」
「
聞きたいことはあるが、こいつが口を割ることは無いだろうし、答えも大体こうだろうというのが読める。
なら、これ以上生かす必要もない。
「ラギ!檻開けたらその後はー!」
「《赤銀》の近くに集めといてくれ」
「誰、ってこの子──むぅ」
なんかハヅキからの視線が痛い気がするが、気の所為と言い聞かせて下田と距離を詰める。
「殺す前に一応聞く、なんのためにジャック立ちを利用し、
「はぁ?そんなのお前らに関係n__いったぁぁぁぁ!?」
下田が何も言わないとわかった途端、ミコトが右腕を切り飛ばした。
反応から見るにこの部屋もギルドイベントと同じくペインアブソーバーが低く設定されている、ということ。
「ま、まずお前らから教えろよ!!なんでここがわかった!?」
「まだ気づかないか、つくづくバカだな」
簡単な話だ、今ハヅキ達と一緒に動いてる赤銀と俺が呼んだ少女、あいつの《力》を利用してここを特定した、ただそれだけの事。
「ライム、お前はいざと言う時のためにそこに待機」
「……死にそうになったら殺すから」
「へいへい、気をつけますよ」
右腕がなぜ吹き飛んだのかすら聞こうとしないのを見るに、こいつは破壊不能オブジェクトを過信している。
HPが全損するレベルの一撃、HPが半分以下にならないように連撃を防ぐ、その二点は別々に機能する。
そして、右腕を吹き飛ばす程度なら当たる場所次第でHPの損傷は2割に抑えられる。
ミコトの絶妙な加減によって下田は生かされたということにすら気づかない、本当に何も理解していないのだろう。
「先輩、行きますよ」
「りょーかい、じゃあ───吹き飛べ!」
ミコトが下田を持ち上げて部屋の奥へ蹴り飛ばす。
それに追いつくように短剣を投げ背後に転移し部屋の隅──《吹き抜けの壁》へと投げ飛ばす。
「やっぱり、攻撃は当たらない訳じゃない、か」
黒鉄宮から
故にこの作戦を練ったわけで。
「く、くそ──こんなとこに運んで何を……まさかお前ら……!」
俺たちの作戦に気づいた下田は中に戻ってこようとするがミコトがそれをさせまいとソードスキルのモーションをとり接近する。
が、ソードスキルは発動せずにただの切りおろしが下田を捉えそのまま《破壊不能オブジェクト》によりお互いが反発し吹き飛ぶ。
「はっ!ざまぁみろお前──って、な──!?」
吹き飛んだ反動で通路の柵を飛び越えた下田はそのまま外周から落ちそうになる。
間一髪で柵を掴もうとしたところで、後ろから現れた影が一言。
「オブジェクト削除」
「──は?」
目の前の柵が突如消滅し、下田はそのまま何も掴めず落下していく。
呆気にとられた俺たちの前には、銀髪ショートヘアに赤い瞳の少女──赤銀と呼んだ子が涼しい顔をしていた。
「《*****》の命令、コンプリートです」
それだけ言うと一足先に出口の方へとトコトコ歩いていく。
そんな少女を見送り俺たちも帰ろうとしたところで下から叫び声。
「お前らァァァァ!!!!ふzaけrうなぁぁぁ!!!」
「うっそ!?どうする後輩君」
下田──ヘイへは失っていた右腕にモンスターの腕を生やして壁を無理やり登ってきていた。
どこまでしぶといんだこいつ、と愚痴をこぼしたくなるが、それは対処した後にやることだ。
「賭けだな」
俺はそれだけ呟くと双剣を構えて深呼吸する。
そして
外周通路から飛び出し、ヘイへのいる箇所まで一気に落下。
「──落ちろ、お前はこの世界にいちゃいけないんだ」
双剣スキルが唯一使える空中で発動可能のソードスキル、《無幻双派》によりヘイへは両腕を切り落とされさらに追撃による押し込みではるか下へと吹き飛んでいく。
──ここには、もう一人管理者がいる。
「まさかこんなに使えるとはな───カエデ!」
俺も落下していく最中、そう叫び、俺の視界は光に包まれる。
「ばか!」
目を開けるより早く、そんな声とともに抱きつかれてその場に倒れ込む。
「あれしか無いんだよ、隙だらけとはいえ管理者相手だぞ」
「だからって、あそこまでしなくていいでしょ!ばか」
「あーあー、泣かせちゃってまぁ」
勢いよく抱きつかれた俺は目の前の相手……ハヅキをなんとか慰めるが、ずっと抱きつかれたままになってしまう。
「……私も、怒ります」
「左右から抱きつかないでくれませんかね!?」
「あらあら〜」
「なんですかその目!?」
ムスッとしたカエデにも抱きつかれてしまい身動きが取れない状態に。
それを見た先輩2人がニヤニヤと見てくる中、檻からコハル達を連れて出てきたライムも状況を見て「うわ」と声を出した。
「……あんたに、あっち」
妙に冷たい態度のライムが後ろを指さす。
するとそこにはここに囚われていたであろう女性プレイヤー達が。
「悪い、こんな格好で……全員、大丈夫──では無いかもだけど、これ以上苦しむことはないと思う」
なんて言っても、すぐに受け入れてくれるかなんてわからないことだけど。
少しでも俺の声で落ち着いてくれれば、それでいいと思う。
「俺……は男だしみんな心配だろうから、知り合いがいる人は黒鉄宮を待ち合わせ場所にしたり、友達がいるならここにいる同性の他のみんなが同行する、だからその……遅くなって悪い」
最初は困惑していたり震えていた女性プレイヤー達もその言葉で落ち着いてくれたのか、小さな感謝が聞こえ始める。
「檻開けたの俺じゃ「はいはいそこは別ねー」……それもそう、か?」
しばらく落ち着くのを待ったあと、俺たち──正確には女子チームが──女性プレイヤー達が仲間や友人と再会するまでの間黒鉄宮の広間にて待機してもらうことに。
「それで、あの子は?」
「あいつは──」
何故か別行動についてきたハヅキに先程の《赤銀》について説明をした。
あの子がこの世界を、
プレイヤーの破壊不能オブジェクト化
とあるイケボがHP半分以下にならない伝説を持っていた理由にもなっているこのチート。
破壊不能オブジェクトと出るのがHP半分以下になる時、ということで『全損レベルの攻撃』も弾くんじゃないか、という読みで独自につけた設定