ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

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多くを得て多くを失ったあの戦いからしばらくの時が経った。
攻略も74層まで進み、SAOもあと少し、そんな認識が多く広まっていたある日の攻略最前線に立つプレイヤー達の、嵐の前の休日、その一部。


アインクラッド編/終章
106:つかの間の休息


 

「ん〜、いい日差し」

「また言ってる……」

 

攻略もひと段落ついて一旦情報整理の為に進行を止めようとなったある日。

俺はハヅキと共に23層にある湖の近くにレジャーシート(のような布)を敷いて寝っ転がっていた。

 

前線に立つようになってからかなりの時が経ち、40半ばで止まっていた攻略は怒涛の勢いで進んでいき、気づけば74層を攻略しようとしている。

その間に色々とトラブルや問題も全くなかったわけではない。

ハヅキの攻略参加も最初は良しとする人の方が少なかった、というのも仕方ないことだったがこれに関しては彼女本人が誠意を見せることである程度信頼は回復した。

もちろん、全員の信頼を得られている訳では無いが、これに関してはベータテスターに対する偏見等が未だに無くならないのと同じで全員の認識がいい方向に進むことは無い。

ハヅキの件以外にも、俺たちが攻略を休んでいた間から活動していた《血盟騎士団》が規模を拡大し攻略の最前線を担っている。

他にも、色々と変化はあるが、今はこれくらいでいいだろう。

 

「命懸けの世界でも、こんなふうに休息できるなら、逃すは損だろ?」

「それは否定しないけど……」

「それに攻略も全体的に止まってる、休むなら今のうちだ」

「むぅ……」

 

ずっと何かを守るために気を張り詰めていた数ヶ月前から意識が変わったのもあるが、こうやって息抜きする時間というのもだいぶ久しぶりだ。

まぁ今も守る人がいるのは変わらない、か。

 

「わかった、私……今からr「あ、キリトからメッセージ」──ばか」

「なんで!?」

 

ハヅキが何か言ってた気がするが、それを遮るようにキリトから届いたメッセージに反応し、何故かハヅキが拗ねてしまった。

そんなハヅキを横目にメッセージを開くと、招待状になっていて

 

 

 

「ほんとにいいのか?」

「アスナからの提案だ、攻略の息抜きにどうだ、って」

「こんなレア物、2人だけっていうのも勿体ないかなって思ったの」

 

メッセージに書かれていた場所に行くと、そこはアスナの家で入るとテーブルの上にはシチューが置かれていた。

どうやらキリトがラグーラビット、SAO内の激レアモンスターをたおしてその肉を手に入れたらしくそれをアスナが料理してシチューにしたらしい。

 

「実在したんだな」

「管理者殿も見た事ないとは」

 

アーガス時代、内部設計班にいたが遭遇したことは無かったし、なんならほぼ全員が見ることも叶わず本サービス開始になってしまったため、一部では幻のモンスターと扱われていた。

そんなレア物を見つけたキリトも凄いが、それをこんな美味そうな料理にするアスナのスキルもすごい。

 

「積もる話は後にして、食べましょ」

 

アスナの言葉で俺とハヅキも席につき、シチューを食べる。

 

「う……」

「ん……」

「「美味……しい……!」」

 

4人で同時に口に入れ、同時に感想を口に出す。

こんなことを言うのは野暮だが、SAO内の味覚再現度は忖度なしに絶望的だ。

そんなこの世界で、本物と呼べる味を再現できるのはアスナの努力が詰まっている、どこぞのラーメン屋やロシアン豚まんにも反映して欲しいくらいの神業といってもいいだろう。

 

「天才か」

「うん、天才」

「やめてよ2人とも……って、ハヅキさん?」

 

シチューを食べ終えて休憩しているとハヅキが立ち上がりアスナの服の裾を掴んだ。

 

「……後で、これ教えて」

「え?いいけど……あっ、そういうこと」

 

何故か二人の視線が俺に向き謎の納得が二人の間に流れている。

かと思えば何かをヒソヒソと話しているかと思えば、頷きあって二人でこっちに来てこういった。

 

 

「「しばらく二人だけにさせて」」

 

「「……え?」」

 


 

突然ハヅキと別行動になった俺は第一層のカフェに来ていた。

 

「何を企んでるんだ、あいつら……」

 

注文したカフェモカ──のような飲み物を飲みながらそう呟く。

 

思えばギルドイベントが終わってから……正確には管理者の事件以降ハヅキとほぼ毎日共に行動していた。

それ故にこうやって一人で、それもフリーな時間というのは尚更久しぶりだ。

 

「あれ、お兄ちゃん?」

「ん、ちあ──アキ?」

 

ついでに注文したパンケーキを食べていると同じくカフェに来たアキと目が合った。

俺に気づいたアキは駆け寄ってくると向かい側の席に躊躇いなく座った。

 

「もう、二人だけなんだし千秋でいいって、それにもう全部言ってるよ」

「それで、千秋はどうしてここに?」

「お兄ちゃんは普段こういうとこ来ないもんね」

「なんで急にそんな話を!?」

「冗談冗談、この辺のカフェはね、階層が進むと定期的に新しいメニューが出るんだよ」

 

なんか酷く罵倒された気がするが、それはさておき。

攻略が進むに合わせてメニューが増える仕組みというのは開発当時は聞かない話だった。

もちろん、そういうのに興味が無かったから聞く耳を持ってなかった、というのが正解かもしれないが。

だとしても、こういう憩いの場にほんの少しでも変化を与えるというのはこの世界ではだいぶありがたいのかもしれない。

 

「お兄ちゃんが頼んでるふたつも、最近追加されたんだよ」

「え、そうなの?」

 

カフェモカなんてこの手の店にはあるものだとばかり思っていた。

パンケーキ含め後半層の追加というのは、運営……もとい開発した人達の何かしらの意図を感じる。

 

「お兄ちゃんハヅキさんがいるんだから、もっとこういう店も行かなきゃだよ?」

「そうは言ってもな……最近は攻略ばっかだったし」

 

ハヅキならコハルとか呼んでお茶会するから気にしなくていいだろ、と言いかけたとこで最近のあいつの動きを思い出して言葉を変える。

なんならあいつ、最近は本当に別行動すらしようとしないくらい俺にくっついてくるから、少しは考えてみないとダメなのかもしれない、色々。

 

「別にそれもいいけどさ、()()()だよ」

「その後?」

「もしこのゲームクリアされたら、その後はお別れしちゃうの?」

「いや、それは……」

 

千秋の言葉が少し強く響く。

この世界ではずっと隣にいたとしても、クリアされれば現実世界に戻って、元の生活……とはいかないとしてもそれぞれの暮らしに戻る。

となれば、ハヅキとは……

 

「現実世界でもあいつといるよ」

「そ、ならいいや」

「お前とも、会わないとだろ」

「……そう、だね」

 

この世界で出会った人達、夕立や星屑、ハヅキとコハル……他にも多くの人と共に過ごしてきた。

そんな人達と、ハヅキとお別れになるなんてことは、さすがの俺も嫌だ。

もちろん、アキとも会って、ちゃんと面と向かって話をする。

そのためにも、今を全力で進まなきゃ行けないんだろう。

 

「……鈴のためにも」

「うん、そうだね……」

 

思わず零れた言葉にアキが反応する。

まだ、あいつの安否は見ていない。

見れば良くも悪くも気持ちを整理出来るというのはわかっているが、その逆もある。

だから俺は、あいつが戻ってくると信じるだけにした。

それは、星屑の流星メンバー全員も同じらしい。

 

「……さ、お兄ちゃん!」

「え、なに?」

「がんばろうね」

「……あぁ、お互いにな」

 

アキ……千秋がここに来た理由が何となくわかった気がする。

が、それを言うのは本人の気遣いを無駄にしてしまう為知らないふりをして彼女と二人きりの時間を過ごした。

 

 

 

それから数時間後。

ハヅキとアスナに呼び出されて俺とハヅキが使っている宿に帰ると、二人ともエプロン姿だった。

 

「え、なにごと?」

「鈍感、バカ」

「酷くない!?」

 

何故か怒られたがテーブルの上に鍋が置かれているのに気づいて全てを察した。

だとしても、何故ハヅキもエプロンをしてるんだろうか。

 

 

「やっぱり気づいてないね、ラギさん」

「鈍感、バカ、あほ」

「増えた!?」

 

罵倒だけが増えていくためとりあえず席に座る。

するとアスナが何も言わずに鍋の蓋を開けるとシチュー……ではなくカレー、に見えるもの。

 

「食べてみて」

「え、うん……」

 

やけに期待の眼差しを向けられている気がするが見ぬふりして食べる。

 

「……ハヅキ」

「ひゃ!?ひゃい!」

「美味いよ、()()()作ったカレー」

「「気づいてたの!?」」

 

エプロン姿ってのもそうだけど、なによりずっと横でソワソワされたらさすがに気づく。

本人は気付かれてないと思ってたみたいだが、それくらいするならエプロンは外すべきだろう。

 

「それで、なんで料理を?」

「だってラギ、どこからともなくよく分からない肉まん出してくるじゃん」

「ロシアンジャナイ肉まんか?もしかして飽きたとか?」

「違うよ……アスナとキリトみたいに、料理スキルを持てれば新鮮な食べ物作れるかな、って……」

 

アスナが横で「ちょっと違うけど」と言ってるがそれはさておき、ハヅキの考えは理解した。

正直なところ、持ち帰り可能で手軽に食べれるという理由だけで溜め込んでいるロシアンジャナイ肉まん(正式名)にも飽きてきたし、かと言って料理スキルを持つのは無駄遣いな気がしてたからどうしようかと悩んでいた。

動機は不純な気はするが、ハヅキがこうやって気を使ってくれたなら、俺の答えは一つ。

 

「じゃあ、これからはハヅキの料理を楽しみにするよ」

「……うん、ありがと」

 

アスナが何やら呆れた顔をしながら帰っていった。

その後、ハヅキがアスナに教わったレシピを披露すると言い出してだいぶ大変なことになったのはここだけの話。

 

 

 

 

 

そんな日常がしばらく続いたあと

再開された攻略で俺は──否、後の英雄は選択を迫られることになった。

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