ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
今、ふたりの少女に挟まれている。
嫉妬と、興味が左右から俺を揺さぶる。
「気になります、その反応」
「ラギー!なんなのこの子ー!」
「二人とも落ち着けー」
遡ること数十分前。
第一層の路地裏で倒れていた少女、俺が赤銀と呼んだ子を黒鉄宮で起きるまで見守っていて、起きたら直ぐに赤銀は何故か俺にくっついてきた。
ハヅキがそれを見てすぐに反対側にくっついてきて、ずっとこの調子で地味な取り合いが起きている。
どうにかしようにも話を聞いてくれる気配がない。
「お前はあの時のまま、だよな?」
「はい、解除祭りから何も変わらない」
「……ふむ」
性質的にも周りの環境によって色々変化するものだとばかり思っていたため、何も変わってないところかなんかアホっぽくなっている事で尚更どうなっているのかわからなくなってきた。
でも、変に敵対したり害をなしたりしてないから、警戒する必要も無い、のか?
「ラギ、この子名前は?そもそも誰」
「だからそんなに睨むなって」
妙に俺に懐いているのもあるせいか、ハヅキがものすごく複雑そうな顔で俺を見てきた。
誤解される訳にも行かないため全力で否定するが、信じてくれそうにない。
「人たらし、馬鹿」
「そうなんですか」
「違うから」
赤銀も反応したせいでさらに話が拗れそうになる。
変な空気を断ち切るためにも赤銀の出自を話す。
こいつの正体は、この世界に根付いたサポート型AIのひとつ、《メンタルヘルスカウンセリングプログラム》、縮めて《MHCP》。
その中でもNo.1《Yui》とNo.2《strea》の後に作られた数体の最終、10号──を担うはずだった試作用データ、そもそもそんな数必要ではなかったため凍結されたAI、その名も《no name》──そう、名無し。
開発陣は名無しちゃんだとか呼んでいたが、それもテスト用に使用されていただけのデータなため、良くても《ノウム》としか呼ばれていなかった存在だ。
そんな奥底に封印されていたデータだが、一応見た目は作成されていて、それが今目の前にいる銀髪赤目の少女、というとこだ。
それはそうとして、問題はいくつかある。
・まずノウムが何故実態を持って稼働しているのか
・なぜ俺たちに力を貸してくれたのか
・他のMHCPはどこにいったのか
これらは彼女自身が答えてくれることだろう。
「
「なら聞かせてくれ、
「……システムのエラーが原因です」
「それは、
赤銀──ノウムは俺の説明に情報を加えるように喋る。
その口調は安定せず、様々な喋り方を真似ているようだ。
「ボクは──あなたたち、ラギとハヅキに
「それは、どういう……」
「システムのエラー、それが絡んでくるってとこか」
俺の読みにノウムは静かに頷く。
システム、大元となる《カーディナル》が何かしら絡んでいるとなれば手を出すのは不可能に近いが、そこは後で考えるとしよう。
「ボクは、ラギなら知ってると思うけど本来凍結している、つまり《この世にいてはいけない存在》」
「そこだ、お前はなんで実在している」
それも俺が知る限り、夕立の霧雨と行動していた頃──10層よりも前からその姿を見せていた。
あの時、こいつは《助けて》と口にしていた。
「姉──《ユイ》と《ストレア》の役割だった《他プレイヤーと接触しメンタルケアを行う》、それがこの世界が狂ったあの日、システムによってその役割を抹消され、ユイはモニタリングのみ、ストレアは最初のボクと同じように《凍結》された」
「つまり、お前は」
「ボクは凍結を解除されてこの世界で動き回る事ができるようになった、でも──」
──ボク達には、この世界は地獄そのものだ。
ノウムはそう言った。
メンタルケアを行うAIとしての機能を持ったままデスゲーム開始と同時にこの世界に放り出された少女は、
「それでボクは、一時的に壊れかけてた」
きっとそれがあの時、一瞬見たこの子が助けを求めていた理由。
ならあの時助けていれば、そう思ってしまうがそれを読んだのかノウムは首を横に振る。
「でもボクは、あなた達二人だけが輝いて見えた」
「私達が?」
「絶望的でも諦めない、ほんの少しの希望を抱えてがむしゃらに生きるハヅキが、暗い道を照らすように色んな人に手を差し伸べるラギが、怒りや悲しみやそれ以上の絶望しか無かったこの世界で、廃れかけてたボクに光をくれた」
「そんなつもりはなかったんだけどな」
ノウムの言うような強さは俺にはない、ハヅキは持ち得るかもしれないが、少なくとも俺にそんなものは無い。
まぁでも、ノウムがそれをきっかけに今の謎なキャラになったならそれはそれでいい、のか?
「それで定期的に覗いてたのか」
「手伝いもしました」
ギルドイベント開始前と、ある場所にあるコンソールを操作した日、それ以外にも視線を感じることが多かった。
下田の一件だってずっとあとをつけてきたノウムに力を借りて事の解決に至ったわけだし、覗いてたこと自体は咎めるつもりはない。
「ボクは、知ろうと思った、直接見て触れて、プレイヤー……人の在り方を」
「その結果は?」
「ボクは───」
ノウムは俺とハヅキを交互に見てから深呼吸をし、言葉を繋ぐ。
「もっと、たくさん知りたい」
人を、そしてあなた達を。
彼女はそう言った。
「ラギ、私……」
「言わなくても、わかってる」
ノウムはAI、プレイヤーとは違う。
このデスゲームが終われば、そのままお別れしてしまう存在かもしれない。
でも、そんなのは関係ない。
「一緒に行こう、ノウム」
「……え?」
「人と関わって色んなことを知るなら、そばにいた方がいいだろ?」
どうしても放っておけない気持ちが芽生えたというのが本音だけどそれ以上に、目に見えて不安定な彼女をこのままにしておくのは心配だ。
「そうだよ、私たちと一緒に」
「……いい、の?」
「いいから言ってるんだよ」
「……ありがとう」
ノウムは静かにお辞儀をした。
後で聞いた話、彼女は口調や所作をこれまでに見てきたプレイヤーから学んで真似しているらしい。
見た目だけはアーガス社員の癖を詰め込んだ少女の姿だけど。
「呼び方?」
「名無しなんて名前、嫌です」
「そりゃそうだよな」
とりあえず俺たちの新居に連れていくとノウムがそんなことを言ってきた。
たしかに、呼ぶにしても名無しから来ているノウムをそのまま呼ぶのは本人が気に入らない限りはなんというか失礼だ。
とはいえ、いい名前というのは思いつかないわけで。
「早く決めてください、
「おい待て」
「ラギが、お父さん……?」
「そうです、
「……ひぇ?」
突然ノウムがそんなことを口にする。
さすがにビックリしすぎて飲んでいたお茶(仮)が変なところに入って咳き込む。
俺をお父さん、ハヅキをお母さんと呼びまるでそれが普通かのような顔でこちらを見る。
「名付けてくれるんですよね」
「それで親認定かよ」
「保護もしてくれましたし、一緒にいると言ってくれました」
「だからって私たちをその呼び方は……ねぇ、ラギ?」
ものすごく単純な理由でものすごい語弊を生みそうな呼称にされるところだった。
それが通るならどこかのスライムとか大家族になるだろ、というのはさておき、ノウムはまるで変える気配はない。
こうなれば、諦めて受け入れるしかないんだろう。
それに、この手の強硬手段に俺は弱い。
「……名前、か」
本当の父親という訳では無い、それはそれとして今はそういう立場としてノウムのや名前を考える必要がある。
結婚して、子供が出来ると考えたら、どんな名前にするか。
ハヅキは多分、本名から来てる名前だろう、この手のゲームに慣れてなさそうだったからそのまんまで登録してそうだし。
俺たちの子供、そういう体で考えるなら
ハヅキと俺の名前から取る。
「……お前の名前は、《カンナ》、それでどうだ?」
ハヅキ、仮に葉月が漢字だとしたら暦で八月を意味する。
そこに、俺の苗字──如月(暦で二月)を合わせて十月、つまりは神無月。
我ながら安直な名前な気がするけど、気に入ってくれればいいが……
「カンナ……ボクの名前、ですね」
「いい名前、だね?」
「どう……ってのは、その反応を見れば一目瞭然か」
断られる気がしていたがノウム──改めてカンナはとても嬉しそうに自分の新たな名前を復唱している。
「ありがとう、お父さん」
「……出来ればやめて欲しいかな」
受け入れると言ったが、やっぱりお父さん呼びは慣れそうにない。
「ユイのところへ行きましょう」
「No.1、だよな……話だとプレイヤーとの干渉は出来ないんじゃないのか?」
「はい、
カンナとの親子のような繋がりは
このままゲームクリアまで続く関係だと、そう思っていた。
カーディナルシステムが牙を剥く、その瞬間までは。
メンタルヘルスカウンセリングプログラム
通称MHCP
本来プレイヤーのメンタルケアを行うAIだったが、SAOですゲーム開始時にカーディナルシステムにより
No.1はプレイヤーの干渉を禁止され、モニタリングのみに
No.2からNo.9までは凍結状態に
(ゲーム世界だとサービス開始から動いてるらしいけど)
そしてその他多く作られたAIのいちばん最後に作られたテスト用にアバター付きで作られたのがちょくちょく出ていた謎の少女、ノウム(赤銀/カンナ)。