ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

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112:最悪へのカウントダウン

 

第10層:主街区

 

「……はぁ」

「ため息はやめてくれないか?」

 

俺は主街区内の甘味処《いっつみゃいごん》にいた。

本当は休んでる暇もないんだけど、それはそうと何もすることがないというのもありこうしてつかの間の休息とやらを満喫している。

そして、ウィンドウを操作しながら色々と準備している俺の横で大きくため息をついたのは同行者のユミ。

 

「仕方ないでしょ、()()()()()()()が表示されたんだから」

「気持ちはわかるけど、今はどうしようもないだろ」

 

彼女が言ったのは数時間前、突然プレイヤー達に送信されたメッセージに添付されていた謎の時間。

届いた時点で一時間を切っていて詳細は書かれていなかった。

嫌な予感しかしないためとりあえず夕立の霧雨と星屑の流星を召集して作戦を立てることに。

 

「本当に勘が当たるとはな」

「勘?」

「このメッセージが届く前から嫌な予感はしてたんだよ、だから攻略も参加しなかったんだ」

 

 


 

数時間前。

俺はキリトに呼ばれ、とある誘いを受けていた。

 

「……それは、本当なのか?」

「あぁ、血盟騎士団の団長殿が言うんだ、本当だろうな」

 

クラディールとやらの一件が終わってからしばらくの休暇を貰っていたキリト達の分まで攻略に手をかけていた血盟騎士団と他攻略組が75層のボス部屋へと到達したらしい。

そして、偵察として出向いた数パーティが帰ってこないまま今に至る、と。

それで今動ける攻略組と血盟騎士団の精鋭を集めてボスを攻略しようという話を持ちかけられて俺にも誘いを入れてきたという。

 

「誘いは嬉しいが、俺たちは今回パスするよ」

「人数は多い方がいいんだけど、ラギがそう言うなら仕方ない、か」

「悪いな……それとキリト」

「……ん?」

 

死ぬなよ。

それだけ伝えて俺はキリトを見送り元々予定していたハヅキ達とのお茶会に向かった。

 

 

そして、その道中で件のメッセージが届いた。

 

 


 

「なるほどね、それでこの采配は?」

「それも勘、でしかない」

「まぁこの事態を予感したならそれは信じるわよ」

 

直ぐに夕立のギルドハウスに人数を集めて立てた作戦はこうだ。

下層、一から十の層にかけて俺たち10人を出来る限り負担のないように分けて配置することに。

とはいえ一人ずつ配置というのも何かあった時のためにこうして2人ずつ、そして人手が足りない層にわかれた。

人材を配置できてないところに関してはアルゴに協力してもらい手の空いたプレイヤーを派遣してもらいどうにか対応している。

 

まぁ何も無ければ無駄な労力になるんだけど。

 

 

「残り20分……なんの時間なんだ」

「なんかのサプライズとかならいいんだけどね」

 

特段何も雰囲気の変化はない。

ここは安全圏内だから圏外でなにか発現していれば気づけないが、一応ユミが中心として複数パーティーを立てているため圏外にいるプレイヤーから連絡が来るはずだ。

それもないということは、カウントダウンが終わるまでは何も起きないと見るのがいいんだろう。

 

「あんたと二人ってのもこの先無さそうだから聞きたいんだけど」

「え?」

「あんたにとって、夕立の霧雨はどう?」

「どう、ね……」

 

突然の質問に一瞬困惑したが、ユミの方を見るとやけに真剣な顔をしている。

前にも答えた気がする質問だが、()()答えを聞きたいということだろう。

 

「ギルドイベントを経て、あいつらも個人の実力が上がった、それは間違いない。でも話を聞く限りまだあいつらだけで前線に立たせるのは厳しいだろうな」

「それは私も同感」

「だから、この世界が終わるまでは……いや、この世界が終わったあとも彼女たちは誰かと一緒にいるべきだ」

 

戦えるから前線に立てる、それも間違いではないが正しいとも言えない。

壊滅したとはいえ殺人を当たり前とするプレイヤーがゼロになった訳では無いし、そういう輩を抜きにしてもこの世界には色々と傷つけようとしてくる奴らは残っている。

そして、それは現実も同じだ。

彼女たちは親がいなかったり親が相手してくれないような子達、手を差し伸べる人が必要だろう。

ましてやまだ学生の身、誰かが守ってあげるべき存在だ。

 

「その役割は、お前に任せるよ」

「すっごい丸投げね、まぁ元はと言えばそういう立場は私のもんだから否定はしないけど」

「そうか、頼んだ」

「……ったく」

 

心に傷を負った少女たちにとって、頼りになる大人というのはユミぐらいだろう。

俺も力にはなりたいが経験が多いのは彼女の方だ、ならば基本的には任せるべきだ。

 

「それが聞ければいいわ、それより──」

「……あぁ」

 

カウントダウンが残りわずかになる。

未だ何も変化の無い主街区にも、やけに重い空気が流れ始めた。

 

 

 


 

第5層主街区

 

「この時間、もしかして」

「……ありえない、とは言えないね」

 

第5層にはハヅキとヨシノが待機していた。

残り時間が5分を切ったところで二人はカウントダウンの意味に気づいたが、それに確証は得られていなかった。

 

「せめて現地の人に聞ければ……」

「はる兄は知らないの?」

「行くって聞いただけみたい、というか、はる兄……?」

 

ハヅキはウィンドウを操作しながら連絡のつきそうな相手を探す。

横で出された提案もすでにチーム分けの前に聞いていたため没となり、それと同時に気になる言葉に反応する。

 

「あ、そうか。改めて初めまして、ボクはヨシノ。はる兄……ラギ?さんとはアーガスでの知り合い、って言えばいいかな」

「ならいいけど……」

「なんか勘違いさせちゃった?」

「いやいや、違う違う!……って言ったら嘘になる」

 

星屑の流星にはやけに距離感の近い人が多く少し複雑な気持ちを抱いていたハヅキはラギの気持ちが嘘では無いと理解しつつモヤモヤしていた。

そして、それをヨシノに……正確には会う人全員にバレている。

 

 

「ハヅキさん、だよね?」

「う、うんそうだけど」

「はる兄はほんっとうにハヅキさんのことが大好きで、大切で、だから命懸けで助けたんだよ。はる兄の周りには女の子が多くてヤキモチ妬いちゃうのはボクも同じだけど、はる兄はハヅキさんを選んだ、そこに偽りはないと思うんだ」

「……うん、ごめん気を使わせちゃって」

 

明るく振る舞う何歳も下の少女に励まされたハヅキは自分の気持ちを改めようとと決めた。

そして、そんなハヅキにヨシノは言葉を続ける。

 

「ハヅキさん、はる兄のことちゃんと守ってよ?」

「うん、必ず」

「それじゃ、準備しよう!」

 

現実に戻ったあとも、きっと大丈夫だと、そう言い聞かせた少女達はカウントダウンが終わるのを待つ。

 

その最中、ハヅキはラギにメッセージを送った。

 

 

 

 

 


 

《Side:ラギ》

 

「……やっぱりか」

「え、なにかわかったの?」

「後で話す──準備しろ」

 

双剣を準備しながらハヅキのメッセージをユミに見えるように表示する。

まさか、という声が聞こえるがそれに答えるよりも早く、システムアナウンスが響く。

 

 

 

『各層に用意されている安全圏は全て排除されます。繰り返します──』

 

 

 

 

 

それは、この世界に絶望をもたらすには充分な言葉だった。




ハヅキからのメッセージ

『カウントダウン開始とボス攻略開始の時間が同じかも』
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