ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
システムアナウンスと同時刻
第75層ボス部屋
「既に始まったようだな」
「何をした──
目の前でウィンドウを操作し終えたヒースクリフ──否、茅場晶彦にキリトは問う。
数分前、ボス戦を終え満身創痍のプレイヤーたちの中、平然と立つヒースクリフに疑念を抱き攻撃をしかけると《破壊不能オブジェクト》、少し前にユイに付与されているのを見たシステムの名前が表示された。
そしてキリトは看破した理由等を述べてさらに考察も付け加える。
『これだけの世界を作るやつが見てるだけ、なんてことするわけない』と。
それにより自ら正体を明かしたヒースクリフは一騎打ちを持ちかけ、キリト以外のプレイヤーにまひ毒を付与した。
そしてそこにさらなる
《side:ラギ》
カウントダウンが終わると同時に流れたシステムアナウンスは最悪の事態を告げた。
ハヅキの読み通りなら第75層のボス攻略を開始したと同時にカウントダウンが始まり、終わる頃にはこの地獄を作り出す、そういう設定になっていたんだろう。
「安全圏の排除……」
「読みが当たった、か……ユミ、動けるか」
「動けるも何も無いわよ、どういうこと!?」
ユミは、というよりこの階層にいたプレイヤー全員が混乱している。
無理もない、というかここまで冷静でいる方がおかしいと言われても仕方ないだろう。
だが、今出来るのは現状を切り抜けるだけ、それ以外は何も出来ない。
「とりあえず非戦闘員を逃がすぞ」
「……わかった」
今動けるプレイヤーは少ない。
いつまで続くか分からないこの惨状を、今は切り抜けるしか方法はないだろう。
「街中にポップし始めてるみたい、手分けして──」
「いや、複数で動く、そうしないと万が一を避けれない」
「わかった、一緒に行きましょ」
安全圏が無くなった以上、どこにも逃げ場がない。
そんな状況で孤立する訳にはいかないため、ユミと無理にでもチームとして動く必要がある。
渋々といった感じだが、了承してくれたため二人で街の入口の方へと向かう。
第10層に来たプレイヤーたちが既に陣形を作り体制を立てているが、それでも実力が万全とは言えず押され気味の様子。
最前線に立ってるようなプレイヤーは上層にて同じく安全圏排除の対応をしているか、ボス戦に参加しているため、この下層に関しては軍の協力的なプレイヤーや野良だけになっているため心もとない。
にしてもやけに押されてる気がする、そう言おうとしたその時。
「ラギ、アイツらただのモブじゃないわ」
「俺も今見た……ここまで手の込んだことするかよ」
プレイヤーたちがタゲを取っているモブはこの層のモブではないうえにレベルが推奨レベルより10は高く設定されている。
安全圏排除と同時にモブのポップ条件が変更されたと見るべきだろうが、厄介すぎる設定にしたことには流石に愚痴が零れてしまう。
「そのままタゲ取り頼む、俺達が横から攻撃する!」
「わ、わかりました!」
下層プレイヤーに負担がデカイのは仕方ないことだが、守りながら戦うよりは楽だから仕方ないとユミにも伝えて戦闘を開始する。
第三層
ヤヨイ/ミコトチーム
───否。
「無理しないで」
「……わたしは、もう負けない」
「その意気だけはよし」
ヤヨイとミコト、そして……
ギルドイベントで悪意によりモンスターへと変化させられ、生き残り寝たきりだった少女はつい数日前に目を覚ました。
事の経緯を全て聞いて一度は絶望したが「託されたもの」を受け取った少女は前を向き剣を取った。
そしてそれからすぐ、この惨状になったが、今の少女には、少女
「さて、どれだけ続くかわからんけどやりますかね」
「ん、やる」
「全力で蹴散らすよ、みんな!」
三人は目の前の障害を排除するために駆け出した。
第一層:はじまりの街
「プレイヤー避難完了」
「こっちも誘導終わり!」
ここではライムとコハル、そして教会に来ていたシンカーとウリエールと共にルナがプレイヤーたちの安息の地として黒鉄宮にプレイヤーを集めていた。
とはいえ安全圏はどこにも無いためあくまで避難場所にしかならないが、それでも非戦闘プレイヤー達にとっては安心できる場所だろうというライムの提案でここに決めていた。
「私は近寄ってこないようにしてくる、コハルはここでルナと他の人たちを」
「わかった、けど……」
「もちろん、無茶はしない」
コハルと共に行くという選択も考えたがそうなるとルナだけに任せることになるため自分一人で集る敵を減らそうと剣を持つ。
安心して、と笑って見せた少女はどこか覚悟を決めたような顔をしてそのまま飛び出して行った。
《side:???》
想定外で予定が狂った。
もっと悪役らしい感じで、英雄の前に立ちはだかるキャラで行こうとしてたのに、そんな暇なくなっちゃったじゃん。
何が起きたのかはわからないけど、仕方ない。
カッコつけますかね。
拾われた命、ちゃんと使わせてもらいますよっと。
そう私はいじらしく笑う。
大好きな人にサプライズするために。
《side:ラギ》
安全圏が消えてから既に30分が経とうとしていた。
「これ以上はさすがに無理よ……!」
「くそ……何か手は……」
ボス戦が開始してから考えればかなりの時間が経っていて何かしらの進展がある、そのはずだが、何の連絡もないどころか、攻略組の誰も帰ってきたような気配は無い。
つまりは、何かが起きたということだろうが……
「ユミ、下がれ!」
「ボスクラスが来るなんて聞いてないわよ!」
そんなことを考えているうちにユミの目の前には《カガチ・ザ・サムライロード》に似たモンスターが出現した。
間一髪で攻撃を防いだユミはそのまま弾き飛ばして俺にスイッチする。
体制を崩したサムライロードの懐に入り双剣による連続攻撃を与える。
当時の推奨レベルから上がっているとはいえボスという特殊なステータスがあるためかさすがに一撃では倒すことはできなかった。
それどころか、妙な違和感に襲われ、そしてその違和感に気づく前にボスが俺を吹き飛ばした。
「……っ!?」
建物に衝突する前に地面を蹴り体制を立て直すと目の前には白蛇を複数体体から伸ばすボスの姿があった。
本来のボスやシズクたちが遭遇したという亜種とも違う能力を持っているということ。
そして、その白蛇たちは俺たちより後ろにいた野良プレイヤーたちに襲いかかる。
「させるか……はや…っ!?」
ユミが対応しようとしたが、白蛇は目に追えないスピードでプレイヤーたちの周りを動きまわり、そしてそのまま手足に噛み付く。
剥がそうとするがプレイヤーにびっちり張り付いた蛇だけを攻撃することはできず、何も出来ずにボスのHPが回復してしまう。
野良プレイヤーも抵抗するが白蛇には麻痺毒か何かの効果があるらしく、次第に動きが減っていきそのまま膝をつきその場に倒れる。
「ユミはボスを、俺はプレイヤーから蛇を剥がす」
「わかった、けど……」
ユミは言葉を詰まらせる。
白蛇1匹を駆除する間にボスのHPは全快し白蛇も数を増していてどうしようもない状況。
もちろんボスをオーバーダメージで倒せば解決だが、それを許してくれるほど甘くは無い。
「悪いが無理してくれ、対処が終われば俺も加勢する」
「酷なこと言うわね!?」
悪い、と思ってもない謝罪をして野良プレイヤー達を襲う白蛇を片っ端から片付けていく。
が、倒せば倒すほど数が増していき、キリがない。
倒している間もユミが攻防をしてくれているが、やはりそれよりも遥かに回復量の方が多くどうにもならない。
なんの罪もないプレイヤーを消し飛ばすわけにも行かないため、打つ手がなくなってしまった。
そう、諦めかけたその時。
「お二人さん、しゃがんで!」
その声とともに、白蛇たちはもちろん、サムライロード亜種も跡形もなく消えていた。
そして、声の主を見る暇もなく、さらなるシステムアナウンスが鳴り響く。
『──ただいま、このゲームはクリアされました。繰り返します、このゲームはクリアされました』
「待て───お前───
俺のその声は、目の前に降りてきた少女に届く前に光に包まれて消えていった。