ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
「───あ、れ?」
眩い光が落ち着いたのを感じて目を開けると、目の前には綺麗な夕焼け空、そして崩れゆくアインクラッド城が見えた。
横には驚いた表情のキリトとアスナ、それとハヅキがいる。
「ここは、というかお前らもなんで?」
「俺にも何が何だか……」
「ラギ、あそこ」
状況を飲み込めない俺の袖を引き指を指したハヅキの視線の先には、白衣に身をつつみ静かにアインクラッドを見る茅場の姿があった。
「いい景色だな、そう思わないか?」
「そうかもしれないが、なんで俺たちをここに?」
「キリト君とアスナ君はあの場にいて、私の想定を超えるものを見せてくれた。君たちはあの場にいなかったがこの世界では確実に大きな存在だった、それだけのことだ」
茅場は静かにそういうと再び崩れているアインクラッドに目を向けた。
「あの世界にいた人達は、死んだ人たちはどうなるんだ」
「アインクラッドにいたプレイヤー全員は既にログアウトしている、死んだプレイヤーは帰ることはない。それは、どの世界でも同じだろう」
「……そうか」
残ったプレイヤー、6000人が現実世界に帰還していることに対する安堵と、死んだプレイヤー4000人近くが帰ることがない喪失感が同時に襲うが、今それを気負うのは間違いだろう。
それよりも、俺はここに来る直前に聞いたあの声が、一瞬見えた
「教えてくれ、茅場さん」
「時間が許す限りはいいだろう、なんだね?」
「**ってプレイヤーは、生きてるか」
茅場は静かにウィンドウを触るとこちらをチラリと見る。
それが何を意味するのかはわからないが、その顔からは「確かめればいい」と言いたげな雰囲気だけが出ていた。
「……そうか、わかった」
「なら俺からも、ひとついいか」
「いいだろう」
「お前は、なぜこんなことをしたんだ」
キリトの質問に茅場は静かに目を閉じてから言葉を発した。
「……なぜだろうな、私も長い間忘れていたよ。フルダイブ環境システムを知った時、いや、その遥か以前から私はあの城を、現実世界のあらゆる枠や法則を超越した世界を創り出すことだけを欲して生きてきた。そして私は私の世界の法則をも超えるものを見ることが出来た、この地上から飛び立ってあの城に行きたい、長い間それが私の唯一の欲求だった……私はね、まだ信じているのだよ、どこか別の世界には、本当にあの城が存在するのだと」
「そうか、そうだといいな」
茅場は、茅場晶彦という男は自らが抱く夢を語った。
それが叶うものかどうかは関係なく、ただ目の前で崩れていく城を眺める男には確かな自信が見えている。
「そうだ、君たち──ゲームクリアおめでとう」
「俺たちは、どうなるんだ?」
「キリト君とアスナ君は私の予想を遥かに超えた、そんな君達をそのまま死なせることはしない、故にこのままログアウトするだろう」
「待てよ、死ってどういうこと──いや……」
キリトと茅場の会話に疑問を抱いたが、それはすぐにひとつの答えを導き出した。
そもそも75層にいたはずの
「詳しくはそちらで話したまえ」
「……行くのか」
「あぁ、私はもう充分だ」
事の経緯を話すことをせず茅場はそのまま消えていった。
アインクラッドも既に八割が崩壊し、本当にあの世界の終わりが近づいていることを示していた。
「それで、お前らは何があったんだ?」
「俺も正直よくわかってなくて……」
俺の読み通り、キリトはボス戦後に明らかに疲弊の少なかったヒースクリフに対して攻撃をしかけた、そしてその後全てを賭けてデュエルを行い、アスナの犠牲とキリトの
だとしたらここにいる二人は何が起きているのか、と言いたいがそれは今わかる術はない。
二人の無茶のおかげでSAOというデスゲームが終わったということだけは、紛れもない事実だろう。
「……ま、あとの時間はお互いで」
「そうだな」
疑問は残ったが、それに時間を使うよりも今はそばに居る大切な人のために使おうというキリトの案を飲み少し距離を離した。
そして俺はハヅキの横に座る。
「お別れ、なのかな」
「この世界では、な」
「それって……」
ハヅキも腰を下ろすとすぐに心配そうに俺の顔を覗いてきた。
彼女の言う通り、SAOで共に過ごす時間はこれで終わり、お別れになる。
でも、それはSAOでの話。
時間はかかるだろうけど、俺は……
「言っただろ、俺はお前と一緒にいる──いたいって」
「……いいの?」
「何を今更」
約束したんだ、この子と。
ハヅキがどこにいたとしても、彼女の手を取るのは俺だ。
「それとも、俺といるのは嫌になった?」
「そんなわけ、無いでしょ」
「なら、待っててくれ」
今にも泣きそうなハヅキを優しく抱きしめる。
視界の隅ではアインクラッドが既に崩壊しきっていて、もう時間はないことを表していた。
「お前にも、他の奴らも全員、必ずまた会うよ」
「うん、待ってる」
残された時間で、ハヅキに約束を重ねる。
「そうだ、名前」
「俺は、春揮──如月春揮」
「私は葉月、桜花葉月」
"現実世界でも、一緒にいよう。"
その言葉を同時に口にして、俺たちは白い光に包まれた。
意識が覚醒する。
手足は動くのがやっとなほど重く、身体を起こすことだけでも気絶しそうな辛さに襲われる。
ずっと付けていたヘッドセットを外してぼやけた視界が晴れると、そこは病院の一室で、体中には点滴が繋がれていた。
「……は、づき──」
声にならない声で、あの世界で出会った少女の名を口にする。
呼吸を何度も繰り返す。
身体は理解している、
俺は、俺たちは本当に現実世界に帰ってきた、と。
SAO(アインクラッド)編、堂々完結──!
半休止状態になったりして(主に)ギルドイベント前後で4年ほど使いました。
残念ながら次回以降も続きます