ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
29:多忙な仕事場の少しの休息(幕間)
これは、SAOが始まる前の物語。
βテストにて発生した【狂化】の対策に死力を尽くし、その後に打ち上げに参加したあとの彼らの話である。
βテスト終了後。
その日の翌日。
打ち上げを終えたあと、まるで倒れたかのようにすぐに布団に入って快眠をした彼──如月春揮は寝起き直後に後輩の小嵐楓と一緒にアーガス社内にあるくつろぎの空間……といってもただ机と自販機が置いてあるだけの場所でそこに設置されていたコーヒーメーカーを利用して春揮はコーヒーを、楓はカフェモカを飲んでいた。
「なんか昨日は色々とあったな……」
「はい、最終日なのに問題が沢山見つかりました、それに結ちゃんの事も知れましたし……」
「あぁ、結の事は他の社員には言わないでくれ……なんて楓はわかってるか──それにしても昨日の打ち上げ俺何してたんだっけな……」
「……先輩、それ以上は思い出したらダメです」
「……俺なんかした?」
「先輩と言うよりは木田先輩の方が色々とやらかしたというか……」
「まぁ、何か起きたのは確実だな」
新入社員にのみ許された朝のこの休憩の時間を使い、2人はそんな会話を交わしていた。
傍から見ればそれはもうカップルだ。とてもイチャイチャしている。
そんな2人はその後も他愛もない話をしばらく続けたあと、仕事場に戻り、それぞれの仕事を始めようとした。
「へーい、そこの君……確か小嵐ちゃんだっけ?ちょっとだけ俺とお話しない?」
「私……やる事あるので……」
「いいじゃん、まだ時間はあ「何やってんだ?」あ、センパイ、どうもっす」
仕事に戻った直後、楓の元に上司──といっても中堅以下の──が声をかけてきた。まるでナンパのような声のかけ方で。
それを止めたのはさらに上司の男、名は白澤、現在アーガスで代表と呼ばれている男と同じ出身というなかなか凄いやつだ。
「嫌がってる、それにあんたは別のシステム担当だろ、そっちの仕事の方が忙しいんだからそっちを頼む」
「……へーい、わかりました」
男──下田はさすがに先輩には逆らわず、大人しくその場を去っていった。
「……ったく、大丈夫?後輩ちゃん」
「あ、ありがとうございます……あの人は?」
「あいつは下田、ちょっと性癖が曲がってるやつなんだが……女性社員が極限まで少ないここだから目は光らせてたんだが……まぁ、あんなやつも社員だ」
「そうなんですね……」
分からないことがあったら聞いて、そう伝え去ろうとした白澤は何かを思い出したのか、立ち止まって振り向き、そして──
「あぁ、あいつのせいで忘れかけてたんだけど……今日一日は仕事休んでもらっていいよ」
そんなことを楓に伝えた。
「……え?」
「如月と君はまだ新人だろ?βテスト後だから手伝って欲しい気持ちはあるんだけど、昨日木田さんがやらかしたのも含め休息は与えたいからさ、たまには気晴らしにカフェなんかに行ってきなよ」
「先輩と……ですか?」
「あいつは自分のスペースにいるはずだから誘って行ってきてよ」
「……はい、ありがとうございます!」
突然の一日休息(夜はアーガスに戻ることになる)を伝えられ、困惑しながらも感謝を伝えた楓は軽い足取りで春揮の元へと歩いていった。
「……先輩、失礼します」
「いや、俺個室じゃないから、それでどうしたんだ?」
「白澤先輩から……」
楓は少し楽しそうに白澤から伝えられたことを春揮に話した。
すると、春揮は1度大きく背伸びをした後に少しパソコンを操作し、それから立ち上がった。
「このブラック企業でなぁ……まぁ、このカッコじゃあれだし着替えてから行こうか」
「──はいっ!」
お互い、アーガスに設備されている更衣室で自分たちの服を着替えて数分後。
先に白澤に挨拶を済ませて外に出ていた春揮を追うように楓がアーガスの建物から出てきた。
「先輩、お待たせしました」
「あぁ、いいけど……」
後ろを振り向き、楓の方を向いた春揮の目に映ったのは──
白のワンピースに紅葉の葉をイメージした髪飾りを付けたいつも一緒にいる少女の姿だった。
そう、アーガスという黒会社にいると忘れがちになるが、楓はこういったファッションを学ぶお年頃なのだ。
「どう……ですか?」
「……あぁ、綺麗だよ」
「ありがとうございます!それじゃ、行きましょう!」
こうして2人の休日が始まった。
アーガスを出発した2人はその後、服屋などを巡り、あっという間に時間は過ぎていき、気がついた頃には夕方になっていた。
そして2人は休憩がてらアーガスの近くにあるカフェにいた。
「先輩、ほんとにいいんですか?」
「たまには先輩らしい事しないとな、好きなやつ頼んでいいよ」
「それじゃあお言葉に甘えて……」
2人はそれぞれ好みのケーキとコーヒーを注文した。
そして、とある話を楓が始めた。
「1つ、聞いてもいいですか?」
「ん?なんだ?」
「昨日の今日で申し訳ないんですが……先輩は妹さんと会いたいとは思ってないんですか?」
楓の口から出た言葉は
その質問を受けた春揮本人は少し戸惑いながらも真剣な表情をしてその言葉に対しての返答を行った。
「もちろん会いたいよ、でも……昨日も言ったが俺はあいつを助けることが出来なかった、そんな兄が傷付いた妹に会うなんて無理に決まってるだろ……」
「そんなこと……妹さんは思ってないんじゃないですかね」
「──なら、いいんだけどな……そういう楓は会いたい人とかはいないのか?」
「私は施設にいた頃、仲良くしてくれた子達と会いたいです。まぁ、それは難しいと思いますけど」
「……いつか会えるよ、きっと」
なんて会話をしたあと、しんみりとした空気の中に注文したケーキが運ばれてきた。
それを食べている途中、再び楓が春揮に質問を投げた。
「そういえば先輩、白澤先輩と木田先輩って茅場さんと知り合いかなにかなんですか?」
「俺もあまり詳しくは知らないけど、どこかの教授の元で教わってた同期と後輩の関係って聞いた」
「そんな関係だったんですね……どうりで仲がいいと思いました」
その後も色々と話を続けたあと、外が暗くなってきたところでカフェから出てアーガスに帰ろうとしている途中───
「……先輩」
「楓?どうし──」
先を歩いていた楓はその足を止め、春揮の名を呼んだ。
そのまま振り返り、春揮に抱きついた。
「今日は、すごく楽しかったです。一日中色んなところに行って、ああやってお店に行ったりするのがすごく久しぶりで……本当にありがとうございました」
「……あぁ、俺も楽しかったよ、楓」
「先輩……」
感謝を伝えたあと、楓は少し身長差のある春揮の頬にキスをした。
その好意を照れ隠すように少し早足で春揮の先を歩き始めた。
「……ありがとう、か──」
春揮はそう呟いて彼女の唇が当てられた場所を触れた。
アーガスに戻り、着替えたあとひとり仮眠室に入ってベッドに横になった楓は枕に顔をうずめながら自分の行為に今更ながらとてつもない恥ずかしさを感じていた。
(何やってんの私……あれじゃまるで……)
「先輩の事が……好き……なのかな……」
彼女はそんなことを呟いた後、再び枕に顔をうずめて足をバタバタさせた。
───実ることの無い、伝わらない恋だと彼女は知らない。
そんな出来事から半年と少し。
彼らはSAOというデスゲームに囚われた。
そして、彼らは離れ離れになり続けていた。
そんな彼らが再び会う時、それと同時に何かが動き出す。
半分ぐらい深夜テンションでお送りします。
今回は久しぶりの日常回、なおこういうのは苦手だと理解しているのです。
2人の過去(EXの3話推奨)を知っていると読んだ時の色々も変わってくると思います。
実ることの無い恋、手厳しい世の中ですね。
そんな感じで次回から本編に戻ります!