ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

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36:《夕立の霧雨》と《管理者》

アーガスの社員。

彼はそう言った。

 

SAOをプレイしている人間は誰しもが知っている会社の名前だ。

そして、SAOのプレイヤーが恨みを持っている男がいる会社だ。

 

 

茅場晶彦、天才と呼ばれたその男はSAOを作り、1万もの人々をゲームオーバー=現実での死というデスゲームを始めた。

そんな男がいるその会社の社員、そんなことを聞かされて「はいそうですか」と受け入れる人はいるはずもなく……

 

 

「カエデとラギがアーガス社員……?」

「あぁ、それは紛うことなき事実だ」

 

彼女達の一人が言葉を繰り返すように質問をする。

それに対し彼は短く返答をした。

冗談ではなく、本気でそう言っているのだろうとこの場の全員が雰囲気から感じ取ったのを確認した彼は彼女たちの表情を見たあと、その場を立ち去ろうと扉の方に歩き出した。

 

「ちょっと待って、ラギ」

 

去ろうとした彼の歩みを止めたのはすぐそばにいた彼が共に行動をしていたパートナーとも言える少女──ルナだった。

 

「私はラギの言ってること信じるよ?」

「俺は……ずっとこの事を黙ってたんだが」

「それはラギにも事情があったんでしょ?」

 

彼が去ろうとしたのを止めた少女はそんな会話をしながら彼の方にまるで小動物かの如くつぶらな瞳で彼を見た。

 

「……その表情は卑怯だろ」

 

そう呟きながら再び(半強制的ではあるが)椅子に座った彼は少女達の方を向き詳細を話した。

 

 

「さっきも言った通り俺とカエデはアーガスの社員だ。なんて言っても信じてくれるとは思ってないが……」

表情を伺いながら話を続ける。

 

ラギとカエデの出会いやアーガスで何をしてきたのか、なんて話をしたところで話を聞いてた少女達の一人──シズクが疑問を聞いてきた。

 

アーガスの社員なら階層攻略も簡単になるのでは、ということ。

そして───

 

茅場晶彦の計画を手伝っているのでは、茅場晶彦のグルなのでは。ということ。

 

 

「──もしそうなら俺はここでお前らを殺すことだって可能だろうよ」

ラギはそんな返答をした。

それに直ぐに反応したのはライムだった。そして()()はシズクを庇うようにして立ち上がった。

「先輩──っ!?」

「俺とカエデはその逆だ、あいつ……茅場晶彦とは敵対の関係にある」

 

()()や自分の後輩の反応を確かめながら後者の質問に対して返答をした。

それだけでは信用される訳もなく……

 

「さっきも聞いたけど、なんで階層ボスの情報を……」

「お前ら、βテストは受けてなさそうだもんな──」

 

彼はそう呟きながら管理者という立場を使って階層ボスの情報を出さない理由を述べた。

 

「本来、サービス開始前にやったβテストに出てきたボスモンスターが本サービスの時にボスとして出てくる予定だったんだが……第2層以降はボスどころかフィールド自体が全く違うものに書き換えられてて、それに伴ってなのかボスも俺たちの知る挙動をしないんだよ」

「カエちゃん……ホントなの?」

彼の説明を受け、納得までは行かなかったシズクはSAO開始当初から一緒に行動していた友人に確認をした。

「……黙ってたのは本当にごめん、でも私と先輩のことは本当だし、ボスの情報とかも私の知る範囲は全部違ってる」

 

そっか、と呟いたシズクの横に座っていたもう1人が言葉を出した。

「にわかには信じがたいけど、()は信じるよ、2人を」

 

そんなことを言ったのは先程色々と暴露したライムだ。

彼女はさらに言葉を続けた。

 

「第6層のクエストエリア、そこでラギが使ってたスキル……かはわからないけど。あれとかこの低層で持ってるのはかなり違和感があったし、他にも心当たりとかあるんじゃない?」

「そんなの──あっ」

 

ライムの言葉でなにか気がついたのか、シズクは彼の──ラギの方を見た。

 

「ライムを助けに行く時──飛べないとか言ってたのは……」

「あぁ、俺の持ってる《管理者権限》の1つだ」

「それってカエちゃんも持ってるの?」

「実は……私は持ってないんだ」

 

ラギ達の管理者という立場が本当のことだと少し信じ始めたシズクは友人に同じようなものを持っているのかを尋ねた。

その答えは否定だった。

 

 

「つまり……今この世界で管理者権限持ってるのは(見た限りでは)俺だけってことか──」

「管理者権限持ってるならさ、階層ドーン!と飛ばせないの?」

「生憎、そんな高度な権限じゃないんだよ──できるのは今の所これだけだ」

 

少しづつ全員が信じ始めてきたのを感じ始めたラギはウィンドウを開き、普通のプレイヤーにはない《administrator》という欄を開き、それを見せた。

 

 

「疑っても仕方ないしラギは悪い人じゃないってわかってるから私は信じる!」

「……シズクが言うなら私も」

「私は信じてたよ!」

 

「お前らなぁ……」

 

管理者権限を見せて直ぐに信じると言ってきた夕立の霧雨メンバーに呆れながら彼はウィンドウを閉じた。

そして、彼が管理者という立場を明かしたと同時に、1つの疑問が浮かんできた。

 

 

「そういや、お前らはいつ出会ったんだ?」

「あー……話しても大丈夫なのかな」

「──いや、既に手遅れでしょ」

 

今更ながらSAO内でプライベート……リアルの話を出してはいけないという規則があったことをすっかり忘れて話していたことに気づき、ライムが苦笑いを浮かべた。

 

 

「まぁ、ラギの話を聞いたし、私たちの出会いを話そう」

 

 

そう言って語り出したのはシズク。

少し言葉足りずなところをライムが訂正したり、カエデが加えたりしながら話を進めた。

 

 

彼女達が出会ったのはカエデがとある事故で両親を失い、しばらくの間入っていた施設……いわゆる《孤児院》。

とある中学校にあった《特別学級》の生徒が孤児院に行くという機会があり、そこで施設に行った中学生と孤児達で交流をしようということで、生徒達と孤児達はそれぞれ複数人でグループを作った。

そのグループの1つになったのがシズク、ライム、カエデ、そしてSAOにはいないがもう1人、シズクたちと親しい男子生徒の4人だった。

外部の人には心を閉ざしかけていたカエデは、今まで感じたことの無いほどの幸福感を味わっていた。

そしてグループ毎に名前を付けようという話になり、中学生組の中でリーダーっぽかったシズクが命名したのが──

 

──夕立みたいに突然に、されど霧雨のように繊細なもの。

 

すなわち《夕立の霧雨》。

 

 

 

「──施設で交流したあとも、何度か外出したりして遊んでたんだけど、少し忙しくなっちゃって……」

「連絡も取り合ってなかったから、こうやってSAOで会えたのはある意味奇跡なのかもね」

 

 

連絡取り合ってなかったのか、というツッコミをしようとしたラギだったが、自分と後輩の彼女が置かれていたあの環境を見れば誰しも連絡を取れる状況ではない、という事に気づいた。

 

「でも、カエちゃん……良かったね」

「えっ?」

「カエちゃん、あの施設にいた時や私たちとSAO攻略に参加してた時よりずっと楽しそう」

「そ、そんなこと──っ!?」

 

 

 

「……改めて聞かせてくれ、こんな俺でも──仲間でいいのか?」

 

鈍感なのか気づいているのか読み取れない顔でシズク達の会話を聞いてたラギがそんな質問をルナを含めた全員に投げた。

 

「もちろん!」

「仲間って言ったのはそっちだし……」

「私は先輩に着いていきますよ!」

「私も私も!」

 

シズク、ライム、カエデ、ルナの順に全員が肯定をした。

 

「ありがとな──それじゃあ、これからもよろしく」

 

そういった彼の顔は笑っていた。

その表情は、アーガスにいた当時も彼が見せなかった笑顔だった。

 

 

 

気がつくと、既に時間は遅くまで経っていた。

ラギは自分の部屋に戻り、彼女たちも寝る準備を始めた。

先に倒れるように寝てしまったルナに毛布をかけたカエデにシズクが質問をした。

 

「ねぇ、カエデ?」

「ん。なに?」

「ラギのこと好き?」

「ふぇ?──いや、そういう関係じゃ」

「へぇ……なるほどねぇ」

「ライムまで!?」

 

そんな、他愛もない話の中、冗談だと思ってた2人の横で、少し寂しそうな顔をしているシズクがいた。

 

「もし、私が好きになってもラギは振り向いてくれないよね……」

「シズク……?」

 

「なんてね!さ、寝よ!」

 

独り言のように呟いた言葉を誤魔化してシズクは先に布団に入って眠りについた。

カエデは首を傾げたあとシズクに続いて眠りについた。

 

「……はぁ、何言ってんだか」

 

 

3人を起こさないようにそう呟いた彼女──ライムは音を立てないように部屋の扉を開け、外に出ていった。

 

 

 

 

 

その頃。

眠りにつこうとした彼──ラギの部屋の扉がノックされた。

念の為にと思い常に張っていた《索敵》のスキルを解除してノックした人を部屋に招き入れる。

 

「寝たんじゃないのか」

「ごめん、ちょっと嫌なこと思い出してさ」

「俺でよければ聞くが──」

「私さ、さっき話した通り羞恥的なことをされたり、いじめられたりしてたんだけど……誰も私を助けてはくれなかったんだ」

 

彼女は部屋に入るとすぐにそんなことを話した。

彼も、話を聞いてた時から少し違和感を持っていたが、あえて口にはしていなかったこと──両親が助けてくれていないという事実に口は出さなかった。

 

「何度も訴えた、クラスメイトに虐められてる、そう何度も伝えたのに両親は彼女が亡くなったことで私が本当に学校に行くことを拒否してもなお私のことは助けてくれなかったんだ」

「見て見ぬふり、か……」

「ご名答、まぁ、中学校からは親の仕事で転勤になって別の地区に行くことになったから、私をいじめてた人達も居なくて少しは気が楽になったから今となれば両親のことは──」

 

 

彼女は話の途中で言葉を詰まらせた。

理由は明白、今話してる彼には──

 

「あぁいや、ごめん」

「何が」

「だって……」

「あぁ、いいよ、俺は大丈夫」

 

先程話を聞いたばかりだった。

彼の両親は彼が幼い頃に亡くなっているということを。

 

 

「なぁ、ライム」

「……?」

「自分のことを見向きもしなかった両親に、『自分はここまで成長した』ってことをSAOをクリアしたら伝えたらどうだ?」

「そんなこと……」

「──『ぶつからなきゃ伝わらないことだってある』」

「それは……」

「自分を救わなかったことを見返してやれ、自分がどれだけ本気で過ごしてきたかを伝えてやれ」

 

彼は彼女の前に立ってそう言った。

それはまるで、彼自身が他人事とは思ってないような──

 

「……先に謝っとく」

「は──ひゃうん!?」

 

椅子に座ってた彼女の前に立った彼は突然、彼女の前髪を上げてそのまま彼女の額にキスをした。

いきなりのことすぎて、驚きの声が変になったことさえ気にならないほどに彼女は困惑していた。

 

「俺なりのおまじないだ」

「バカ……もう寝る!」

 

顔を紅潮させながらそう言って部屋から出ていった彼女を見送ったあと、彼は布団に倒れ込んだ。

 

「なんだよあいつ……」

 

そう呟きながら彼は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

彼はとある1件のメッセージが届いた通知によって目覚めた。

その通知の内容は───

 

 

ルー坊、朝早くから申し訳ないんだケド、黒鉄宮に一人で来てくれ。

ルナとお前の入ったギルドに関してはルナに待機するようにメッセ送ったからなる早で頼む!

 

鼠。

 

 

というものだった。

 

 

嫌な予感がした彼は、念の為にカエデにもギルドハウスで待機するようにメッセージを送り黒鉄宮に向かった。

 

 

 

SAO第一層

【はじまりの街:黒鉄宮】

「悪い、待たせた……って、ハヅキとコハルもいるのか?」

「とりあえずその辺も話すヨ、その前に状況を伝える」

 

黒鉄宮に急いで向かった俺を待っていたのは、アルゴだけでなくハヅキとコハルの3人だった。

 

「ルー坊、これを見てくれ」

 

アルゴは俺に1つのウィンドウを見せてきた。

そこにはボスの情報などを含めたいくつもの文面が表示されている。

その中のラスト、1つの文面を俺が見つけたと同時にアルゴが発言をした。

 

「SAO第6層が攻略会議も行われないうちに攻略されたんだヨ」




期間空いちまった。

ということでどうも。
暴露会でした。

次回、嫌な予感……!?
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