ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
これは、アーガス社員、如月春揮が2週間の軟禁から解放され、自宅に帰ったあと、その翌日の話である。
時は2022年。
アーガス社内は、徹夜で死にかけの人達の救いを求める声……じゃなかった。
ついにこの日が来た、という喜びの声が溢れていた。
それが何故か、皆まで言う必要は無いでしょう。
そう、今日は待ちに待ったあの日なのです。
アーガスが、いいや。全世界が待ち望んだ《VRMMORPG》、その第一作。
その名も《ソードアート・オンライン》。
その仕様の説明は省きますが、アーガス社員の皆さんが日々軟禁……ではなく、働き詰めで制作したこの作品が、ついに今日という日に正式サービスを開始するんです。
「あー……眠」
しばらく徹夜続きで疲労が溜まりに溜まって眠気になりそれが彼を襲い大きな欠伸をしながらそんなことを呟いた。
「何を言ってるの、サービス開始までは気を抜いちゃダメよ」
それを彼女は許さねぇと言う圧を込めたセリフを吐く。
「へいへい……」
「……にしても、
そんな同期の気の抜けたような返答に溜息をつきながらこの空間に姿の見えない男がどこに行ったのかとつぶやく。
「へ?あの人なら出社してません?」
「昨日はいたわよ、でも今日はいないわ」
「またラーメン屋にでも行ってるんじゃないすか?」
「ならいいけど……」
彼女の不安は、この後的中する───
そんな不安を抱えた会話からしばらくが経ち、時刻は11時半をまわっていた。
「そういや、そろそろサービス開始なわけだけど、如月の可愛い後輩ちゃん起こしてきてよ」
「りょーかい。」
如月というのは割かし最近入ってきた
そして彼よりも後に入って来たのがその後輩ちゃんである。
そんな後輩ちゃんは今、何連続かの徹夜に耐えきれず──というか頼れる先輩が帰宅したことで──ついに力尽きてアーガスの一角にある《特殊医療室》……の横にある仮眠室にて睡眠をとっている。
まぁ、睡眠と言うよりは気絶だったけど。
「おーい、小嵐ちゃん起きて」
そう言いながら男性……白澤は仮眠室に入る。
幸い、噂の後輩ちゃん以外は誰も睡眠をとっていない。
「……はぁ」
そんなため息が白澤から吐かれる。
仮眠室の入口から見て一番奥にあるベットに近づくと、案の定というか当たり前というか、自分の後輩の後輩が寝ているのだが。
その姿は一瞬理性を失い──いや、なんでもない。
布団を使っていないから寝てる姿が丸見えなのだが、衣服は少し乱れ、あと少しズレれば男性大歓迎みたいな状態。
女子としてどうなんだ、そう白澤は思ったが、衣服の乱れ以外は「The女子」と言った感じで、寝てる姿はまるで小動物みたいで、寝顔なんかまるで天使のようだ。
「ほら、早く起きて」
「むにゃ………ん、せんぱい……?」
寝言でむにゃって今日日聞かない、なんてツッコミを白澤は抑えながらも後輩ちゃんが起きるのを見守っていた。
寝ぼけながらも体を起こし、目を擦りながら白澤の方を向いて憧れの先輩(白澤では無い)だと思いそう口にした。
「残念ながら如月じゃない、それより、服何とかしようか」
「あ、白澤先輩……って服?」
起きた後輩の言う先輩じゃないことを伝えると、少し残念そうに目の前にいる先輩の名前を口にした。
そして、寝てる時に乱れていた服が起き上がりさらに悪化したことで、彼女は……
「……後で木田先輩に言います。それで何かあったんですか?」
「木田さんに言うのはやめて欲しい。それで何かあったというか、あと少ししたらSAOの正式サービス開始だからさ、丁度にログインさせたくて」
後輩ちゃんはそう言われ、時間を確認する。
時刻は11時45分。
ソードアート・オンラインのサービス開始まであと15分と言ったところだ。
「でも、先輩方より先にやってもいいんですか?」
「本当はサーバーの管理とかそっちして欲しかったけど、如月はソフトとナーヴギア渡して帰らせたし、その後すぐに気絶した後輩ちゃんに任せるのはね。だから休み感覚で先に遊んできてよ」
と、白澤は少し残念そうにそう言った。
後輩ちゃんは躊躇いつつも感謝を伝え、少し前に自身の先輩である、現在不在の如月から渡された
「ありがとうございます、それじゃあお言葉に甘えて……あ、木田先輩、おはようございます?」
そして、それを持って仮眠室の真反対にある部屋に向かおうとしたところで、木田という先輩に遭遇。
「ん、おはよう。白澤くんから変なことされなかった?」
「……見られました」
「ほう……後で詳しく聞こう。まぁ、それはいいとして、後輩ちゃん、多分如月ももうすぐログインするから、どうぞお先に」
「はい、ありがとうございます!」
そんな会話を終え、後輩ちゃんは《フルダイブ室》といった部屋に入っていった。
そして、12時になったところでフルダイブ室の上にある使用中ランプが1つ点灯した。後輩ちゃんがSAOにログインしたことを伝えるランプが光ったのだ。
「いいっすよねぇ……如月はあんな可愛い子に好かれてて」
12時を過ぎ、サーバーへの1万人同時集中アクセスが行われ、アーガスに残されている社員らが慌ただしくなったところで、1人が白澤にそんなことを口にした。
男の名は遠藤、如月と同時期にアーガスに入ったいわゆる新人だ。
「あなたはそういう喋り方だから後輩ちゃんに好かれないのよ」
白澤は話したはずなのに、帰ってきた答えは木田からの辛口のコメント。
「そんなこと言ったらあいつも……あ、普通っすね」
「そんなこといいから、サーバーの管理任せた」
「りょうかいっす。……って、白澤先輩、如月にソフト渡したんすよね?」
遠藤は少しチャラめの返答をしたあと、如月の机の上に置いてあったSAOのソフトを見て白澤に質問を投げる。
「え?渡したけど」
「んじゃこれ、【如月用】って書いてあるっすよ?」
「はぁ?……んじゃあいつは何を持っていったんだ?」
「α用アバターデータの入ったやつとかですかね?」
「……まぁ、後でログアウトしてきたら伝えよう」
この時の白澤のミスが、SAO世界を左右させるなんて誰も思っていなかった。
そして、アーガス側が違和感に気がついたのは、既にデスゲームの宣言が中で行われた頃だった。
「後輩ちゃん、ログアウトしてこないと思ったら……」
「先輩、これっす」
「な───」
険しい表情でパソコンとにらめっこしていた2人の先輩に声をかけ、遠藤は自分のパソコンの画面を見せる。
『SAO、ナーヴギアの──』
その内容はSAOをプレイしているプレイヤーの使用中のナーヴギアの電源を切ると、強力な電磁波を発生させ、脳を焼切るので、外部から無理矢理電源を切るようなことはするな、というもの。
そして、その情報を開示したのは現在行方不明の茅場晶彦。
「……白澤くん、中で何が起きてるのかしらね」
「ログインしてみれば分かりますよ」
そんな会話をしながら白澤はナーヴギアを装着し、ログインを試す。
だが、まるで
「……クソっ!」
「……白澤くん、気持ちはわかるけど、まだ問題があるわよ」
「それは?」
「……あなた、如月くんが慕われてたのは後輩ちゃんだけじゃないわよね、
「……まさか」
その会話は、遠藤には理解できなかった。
誰のことを言っているのか、それはこの場にいる白澤と木田しか理解できないものだった。
「……ログインしてるわ、それに後輩ちゃんもログアウトしてこない。となると考察になるけど……『ログアウト不可能で、向こうで死んだらこっちでも死ぬ』みたいな設定にされてたとしたら、どうかしら?」
そう木田は口にした。
だが、それは不可能と誰もが思った。
それと同時に、
この事件を起こしたのはアーガスの人間、茅場晶彦だということを。
そして、ナーヴギアの機能を1部弄ることができる人間が、天才と呼ばれた男、茅場晶彦なのだ。
「白澤くん、私たちはここでアーガスを守りましょう」
「報道陣や他の人間が来るかもだから、ですね。まぁ、責任持つとすれば解散する羽目にもなりそうですが……今、動けない子がいる以上は我々のやることはそれだけですね」
白澤は《特殊医療室》と《フルダイブ室》の2つを見たあとそう呟く。
「幸か不幸か、如月が管理者権限を持ち得たアバターでログインしてるはずです、それだけじゃない」
今、向こうの世界にいる如月、後輩ちゃん、そして他のプレイヤー達。
彼らが茅場晶彦が設定したシステムを超え、SAOから帰ってくることを願う。
幸い、ユニークスキルや如月がこっそり設定していたものの1部は残してある。
それを
これが嘘だと、何度も思い込んだ。
でも、何度思ってもこれは真実だった。
茅場晶彦という男に、アーガスの社員は、いいや。
SAOプレイヤー達は利用されたのだ。
「そういえば、彼は?」
「あれ、あいつどこに………」
「……私が言えることじゃないけど、異常な性癖持ってたわよね、変なこと起こさなきゃいいけど…」
アーガス内で、如月達以外に、とある人がいなくなっていたことに気がついたのは、SAOが始まってから数ヶ月がたった頃だった。
嘘じゃないんだよ。
この事件は。
誰も想像できなかった出来事なんだ。