ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

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52.5:懐かしいあの日の約束

これは、夢。

俺がまだ、中学生の時。

さほど時がたっていないのに、なぜか懐かしいと思える、そんな思い出。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「やあやあ、如月君」

 

 

教室の隅の席に座る俺に同じクラスで隣の席の女子が少し高めのテンションで話しかけてくる。

 

 

「毎朝ホントに懲りないよな、俺なんかに話しかけて」

「理由を聞きたいのかな、残念ながら理由はないよ。ただ、隣になったんだから仲良くしないとと思ってね」

「なんだそれ…」

 

夏休みが明けて席替えが行われてはや二週間、毎日毎時飽きることなく声をかけてくる。

そんな彼女は天崎鈴、クラスの中でも運動神経がずば抜けており、彼女の性格も相まって全学年の人気者だと言われている、らしい。

なぜ彼女が俺に話しかけてくるのかを彼女は適当な理由で流すため全く彼女の真意はわからない。

おまけに彼女と多少話すだけでクラス中の男女が恨めしそうに俺を見てくるのだから落ち着いて話せない。

 

「まあまあ、これからもしばらくは隣だし何かと一緒になるかもだからさ。……二週間経っておきながら何様ってのはわかってるけど、これからよろしく。っていう感じで」

「はあ…拒否しても変わらないだろ」

「もちろん、君がどんな態度であっても勝手にかかわり続けるよ」

「だと思ったよ、まったく…わかった、これからよろしく、天崎」

 

 

呆れながらも彼女に挨拶を行った俺は一切の躊躇いも無く彼女に手を差し出していた。

無意識に出した手を彼女がつかむことなどはもちろんだが無く、少し照れた様子で顔を背けてしまった。

 

「不意打ちはずるいって……」

 

「……なんか言ったか?」

 

「な、何も言ってないけど?」

 

「なんだそれ」

 

 

そんな会話が、彼女との初めての絡みだった。

それからというもの、周りの目を気にすることなく彼女は俺に話しかける回数を増やし、ついには体育の時間、男女のペアを組むというタイミングで迷いなく彼女は俺と組もうと言ってくるほどの仲になった。これが仲良いと言えるかは別だが。

自慢ではないが、俺は全力ダッシュした彼女に追いつけない。運動神経は我ながらある方なのだが、彼女は俺以上、なんならクラス一の運動神経だ。

 

 

 

そして、こんな関係を築き始めてから2ヶ月、木々は色付き少し凍える季節になり始めた頃。

放課後、来て欲しいと言われて指示された場所──剣道部の使用している道場に俺と彼女は立っていた。

 

 

「……なんでここに呼んだんだ?」

 

「それはもちろん、()()からに決まってるじゃん?」

 

彼女は竹刀をまるで剣のように地面に突きつけ──貫いてはいない──無邪気な笑顔でそう言った。

それが意味するのはもちろん一つ。

 

「剣道で勝負、と?」

 

「そう、剣道で、いいでしょ?」

 

「別にいいが……流石のお前も剣道なら───

 

突然の剣道での試合を了承し、天崎の運動神経でも勝てないだろうと口にしようとしたが、俺の言葉は詰まってしまう。

というのも、つい数日前、体育の授業で剣道をやった時、彼女と当たった男子は瞬殺されていたのだ。

そんな光景を思い出してしまい、言葉を訂正する。

 

 

「……善戦できるんじゃないか?」

 

「おぉ、強気じゃんラギクン。それじゃ、準備したら言ってね」

 

「その時々変わる呼び方なんなんだ……」

 

如月くんだとかラギクンだとか、彼女が日々変える俺の呼び方を疑問に思いながら道場にある更衣室に入って装備をつける。

数分後、着替え終えた俺は更衣室から出ると、既にスタンバイした天崎の姿があった。

 

「さぁさぁ、始めようか」

 

「あぁ、行くぞ───っ!」

 

 

 

そう意気込んだ直後、静まり返っている道場内に「スパーン」という音が響き、勝負は決した。

 

 

「痛った……お前本気でやっただろ!?」

 

「これでも手加減したんだけどなぁ……」

 

結果は俺の惨敗。開始直後踏み込んできた彼女の素早さに追いつけず簡単に一本取られてしまった。

装備をしていないんじゃないかと思えるほどに勢いのあった一撃は俺の頭に衝撃を走らせ、俺はその場に倒れ込んでしまう。

 

「あれで手加減って……もっと加減を覚えてくれ……」

 

「そんな事言われても竹刀を振り下ろす時はいつも同じ勢いを保つのが私のやり方だから、これ以上の手加減は無理かな」

 

「鬼め……」

 

「ふっふっふ、なんとでも言いたまえ。……それはそうとまだ時間はある?」

 

「ん?頭の痛みさえ収まれば動けるんだが」

 

上体を起こして未だに痛む頭を抑えながら彼女の要求に返答をする。

すると彼女は少し迷った様子を見せたあと、直ぐに判断を変えたのか小さく笑い……

 

「ならもう大丈夫ってことだね、さ、次の場所へ行こう」

 

やっぱり鬼ではないかと思わせる発言をした彼女は入口で「早くしなよ」と急かしてきた。

何をするのか聞かされていないのだが、なんて小声で呟きながら立ち上がり彼女の後をついて行く。

 

 

 

 

次に俺らが向かったのは彼女が入っている部活──弓道部が使用している学校に設置された弓道場。

 

「次は弓道で勝負ってことか?さすがに勝てないんだが」

 

「いや、如月くんはいるだけでいい。そこの縁にでも座って」

 

彼女はそういうと更衣室らしき部屋へ入っていった。

まだここに連れてこられた理由も何も聞いてないんだが、彼女は何を考えているんだろうか。

わざわざ学校の外れにある弓道場に来てまでしないといけないことがあるとも思えない、部活も今日は無い日だと言っていた。

 

 

なんて考えながら弓道場の縁側?に座る。

大きな施設となっているこの弓道場の中でも壁がなく開放的なところ、つまり今俺が座っているこの縁側からかなり離れたところには弓道には必須な的が等間隔で5つほど壁にかかっている。

見た感じ20、いや、30メートル程のこの距離を彼女はほぼ毎日打ち抜いているわけだ。

 

 

 

「よくまぁ、あんな距離を打てる……って感じ?」

 

「人の心を読むなって……それが弓道着ってやつか」

 

1人、弓道着の内装や外の景色を見ているうちに戻ってきた彼女は俺の感越えていたことを口にしながら弓と矢を持ち、弓道のしやすい服装へと着替えていた。

 

 

「どう?似合う?」

 

「似合うも何も前にも見たことあるし何とも言えないんだけど」

 

彼女の弓道をする姿は今回が初ではない。

運動系の部活の大会の時に弓を射る彼女を見たことがあるのだ。

そんな真実を口にすると彼女はつまらなそうな反応を見せた。

 

 

 

「そういう答えは期待してなかったんだけど、……ま、それが如月君なのかな」

 

「どういうことだそれ」

 

「さあ?」

 

俺の反応に何か不満そうにしながら勝手に自己解決をした彼女は手に持った袋から弓と矢を取り出し、一切動きを止めずに遠くにある的に向けて弓矢を構えた。

 

「………そう見られると緊張するんだけど」

 

「いや、呼んだのはお前だろ」

 

「そうだったね、私だった。……なら多少緊張する程度気にしちゃダメだね」

 

天崎は一切こちらを向かずに的を見つめたまま会話を繰り広げる。

一度、短く息を吐いたところで再度弓を構えて矢を引く。

そして………

 

 

 

「あちゃ……ズレちゃった」

 

彼女の射った矢は的の中心から大きく逸れて的の端にぎりぎり命中した。

この結果に納得がいかない様子の彼女は追加で一本の矢を取り出して構えた。

 

 

「…あ、そうだ、如月君」

 

彼女は弓を構えたまま何かを思い出したように俺の名前を呼んだ。

 

「何だ?」

 

「君は()がどんな時に生まれるか知ってる?」

 

「隙?」

 

「うん、隙。」

 

 

一瞬誤解を生みそうになる言葉を突然口にした。

隙、相手が油断した時に見せるもの、そんなところだろう。

そもそも、隙を見せた相手に何かするようなタイミングなど、そう頻繁に起きるものでもないだろう。

 

 

 

……あぁ、()()()はその隙とやらを狙ったっけ。

 

 

 

 

 

「…如月君?」

「ん?」

「大丈夫…?」

 

あまり思い出したくない記憶を呼び起こそうとしたところで天崎が声をかけてくれた。

俺の顔を覗き込んできた彼女の顔はとても悲しそうな表情をしていた。

 

「…大丈夫だよ、それで、隙がなんだって?」

 

「大丈夫ならいいいけど……」

 

心配?をしてくれた彼女は先ほどまでたっていた位置に戻り弓を構えた。

 

 

「いいことを教えてあげる。

……いい、如月君」

 

矢を持ち上げ、その矢を目標に向けた彼女は矢を射る前に言葉を続けた。

 

 

「どれだけ大きな相手も、どれだけ小さい相手も、みんな同じ欠点があるんだ。

一瞬でも気づかれてしまえば相手が有利になってしまう、危険なもの。

それが()だ」

 

「つまり何が言いたいんだ?」

 

「端的に言うとね……相手が一瞬でも油断した時、そこが狙い時ってことだよ」

 

 

 

剣道でも弓道でも同じく、そう加えた彼女は弓を射った。

真っ直ぐ狂いなく標的を狙った矢は的の中心にヒットした。

 

 

彼女の言葉、結論何が言いたいのかは全く伝わらない。

なんて考えていると、俺の目の前に彼女が立った。

そして次の瞬間、俺の体は後ろへ倒れ込んだ、否。()()()()

 

 

 

 

 

 

「…何してんだ?」

 

「言ったでしょ、隙を見せるなって」

 

一瞬、本当にコンマ一秒レベルで意識が飛んだ感覚に襲われ、目を開けた時には俺の上に彼女が馬乗りの状態で座っていた。

 

 

「それとこれとは違うだろ、ってかこんなところ誰かに見られたらどうするんだ」

 

「それなら安心して、《誰も来ない》って確証を持ってるから」

 

 

「……()()()()のために俺を呼んだのか」

 

「私そんな欲求不満にみえる?」

 

「この状況で誰も来ないようなところって、相当だと思うぞ」

 

忘れてもらっては困るが、俺も彼女も年相応の男女なわけで、そんな俺らがこんな格好でいれば勘違いされるだろう。

当の本人は全く自覚がないようだが……

 

 

 

「……なんで、如月君はそんな顔ばっかりするのさ」

「え…?」

 

ふざけてやっているのだと自己暗示をかけようとしたところで彼女はそんなことを口にした。

そんな、とはどういうことだ……?

 

「だって、君…ずっとさみしそうな顔してる」

「さみしそうって…そんなわけないだろ」

「ううん、君はずっと同じ顔をしてる。剣道だって本気じゃなかったし、私が話しかけるようになる前からずっと、暗い顔だった」

「暗い顔なんて…」

「してた、ずうっと、…ほら、今だって」

 

 

彼女はいつもの明るい顔ではなく、泣きそうな顔で俺の顔を見つめてくる。

 

 

 

「……聞いたんじゃないのか、《噂》を」

 

一切馬乗りの状態を解かないつもりの彼女にある質問を投げる。

それは、どれだけ誰かに慰められようが決して消えない《人殺しの烙印》を背負ったある出来事。それに一番かかわっている、その烙印を背負っている人間に向けられた噂。

 

 

如月春揮()が人殺しだってことを」

 

 

あの時、俺は我を忘れて人を撃ち殺した。

俺のこの手は、穢れている。

たとえそれが正しいことだとしても、誰かの命を奪ったことに変わりはない。

 

「……聞いたよ、()()()()()()()()()()()()

「あれは紛うことなき事実だ、それが、どうして広まったのかは知らないけどな」

 

 

数年前、とある郵便局で強盗が起きた。

そこにいたある子供がその犯人を射殺した。

それは、ネットニュース等に取り上げられた記事の一部。

犯人も名前も、犯人を撃ち殺した子供の名前も、一切取り上げられていない。

 

 

「俺は人を殺した。……そんな奴に関わっていいのか」

 

「……なんでそういうこと言うの?」

 

「なんでって……だから、俺は──」

 

言葉を続けようとしたその時、俺の腕を抑える彼女の力が少し強くなった。

 

「誰が君に傷つけられたの、誰が、あなたを苦しめるの」

 

「天崎……?」

 

「教えてよ、如月君、その《事件》で何があったのか」

 

 

 

彼女は悲しそうな顔をしてそう言った。

話せば、俺と関わることも無くなるのだろうか。

 

 

「……あれは、数年前の事だ」

 

 

 

俺の上に乗っていた彼女は俺の横に座り、「話して?」といったような顔で俺の方を見てくる。

俺も起き上がって彼女の方を向き、全てを話し始めた。

 

 

 

 

 

そして、数分後。

 

 

「なんで話してくれないのさァァァ!!!」

「ちょっ、抱きつくな……!」

 

全てを話し終えた直後、彼女は泣きながら俺に抱きついてきた。それも大声を発しながら。

 

「……話せるわけないだろ、こんなこと」

「どうして……って聞くのは野暮だね」

「もし、話したら、お前との関係も終わると思った。それが黙ってた理由の一つだ」

「一つ……ってことは別に理由が?」

 

彼女は冷静さを取り戻しながらも何故か俺に抱きついたまま会話を続けた。

それに答えている中で俺の中にあった《不安》が自然と言葉になる。

 

 

「話したところで、誰も俺の気持ちを晴らさせてくれるわけじゃない」

「そう……かな」

「あぁ、それは間違いないだろ。俺も気持ちを理解してくれるやつはいない」

 

俺のこの言葉で何かを思ったのか、彼女は抱きつくのをやめて俺と向き合う形で前に立った。

そして、そんな彼女の顔はどこか寂しそうで、泣きそうな顔をしている。

 

「……それは、違うよ」

「違うって、何が───」

 

 

「如月君の気持ちを理解してる人は()()()いるよ」

 

 

 

彼女は真剣な顔になり、俺にそう伝えた。

直後、俺の頬に一滴の雫が流れ落ち、それがすぐに涙だと気づいた。

 

 

「あれ…何で……」

 

 

頬を伝う涙を拭っても何故か涙が溢れ出してくる。

ただ、()()()()()()かけられただけのはずなのに、なぜ俺は…

 

 

「泣きたいときは泣いていいんだよ、ずっと我慢するのは、どんなことよりつらいよ」

 

「天崎……」

 

 

彼女は俺の頭を撫でながらそんな言葉を口にした。

この時の彼女の暖かさは、いつの日か妹に同じことをされたときに似ていた。

 

 

 

流れ出した涙が止まったのは、数分後。

日が落ち始めたのか、外が薄暗くなってきた時だった。

 

「……見苦しい姿を見せた」

「私もさっき同じことをしたからこれで平等ね」

 

 

落ち着いたところで彼女に感謝を含んだ謝罪をすると、少し照れたようなそぶりを見せながら俺の横に座った。

外も暗くなりつつあるため、早く出ようと言おうとしたその時。

 

 

「如月君は、自分の行動に後悔してる?」

「…人生を、やり直せたら。そう何度も望んだことがある。

……どうすれば両親が死ななかったか、妹があんな目に合わなかったのか、そんなことばかり考えて、でも、答えは見つからない」

 

 

そうだ、やり直しなんて、いやになるほど望んだ。

それでも、現実は変わらない。

両親がいない日常も、妹と一緒に過ごす空間も、俺にはもうないものだ。

 

 

「妹ちゃんと連絡は?」

「あの事件の後、病室であってからは一度も顔を合わせてないし、電話なんかもかけてない」

「会いたいとか思ったことないの?」

「…今は、お互い心の整理が出来てない。しばらくは会えないよ」

「さみしくないの?妹ちゃんだって…」

 

「あいつがどう思ってるかは俺も分からない、でも……

まだ会うのは早いと思うんだ」

 

 

そうだ。

俺には、まだあいつと会うことは出来ない。

理由なんて無い、それでも、今あってしまえば、俺は………

 

 

「そっか、それが今の答えなんだね」

 

彼女は静かにそう言うと、立ち上がって更衣室に向かった。

着替えを終えて更衣室から出てきた彼女は手に何かを持っている素振りを見せながら俺の前に立った。

 

「……座ったままでいて」

 

立ち上がろうとしたとこで止めらた俺は座ったまま彼女の方へ顔をあげようとしたその時。

 

 

 

彼女の右手が俺の頭に触れる。そして、俺の髪を横へずらした彼女は、そのまま眉間の辺りにキスをしてきた。

 

 

「おま──っ!?」

「……私なりの、勇気が出るおまじない。

こんなことで君の何かを変えられるとは思わないけど、少しでも役に立てたらいいな」

 

頬を赤く染めながら静かに、優しい声でそう伝えてくれた彼女は俺の右手に何かを乗せた。

 

 

「これ、は……」

「見ての通り、お守り。()()()()()()()()()、そんな人に送ろうと思ってたんだ」

 

俺の右手には見るからに手作りであろうお守りが一つ。

きっと、前から気にかけてくれていたのだろう、そんな彼女の思いが伝わってくる。

 

 

「……さ、そろそろ帰ろ、さすがにこれ以上いると怒られちゃうよ」

「あぁ、そうだな」

 

 

時計を見ると、既に6時半を過ぎていた。

よく先生に見つからなかったなと思いながら立ち上がると、帰る準備をしていた彼女が動きを止めた。

 

 

「あ、一つ忘れてた」

「……まだ何かあるのか?」

 

「うん、如月君に《約束》をして欲しくて」

「約束?」

 

 

少しテンションが高くなっていた彼女はまた先程のように静かなトーンになって言葉を続けた。

 

 

 

 

「──人を、好きになって」

 

そんなことを言ったと同時に、夜風が彼女の髪を揺らした。

 

 

人を好きになる、そんなことを約束する必要があるのだろうか。

俺は、あんなことをしておいて、誰かを好きになるなんて、そんなバカげたことを許されるのか?

 

 

「君は、嫌われてなんか居ない。周りの目なんて気にしなければいいんだよ、それに───」

 

彼女──天崎は静かに言葉を続けた。

 

 

 

「──私は、君のことが好き。

どんなに周りが君のことを悪く言っても、()()()()()()()()()()()、ずっと好きでいる、だから……

自分を責めないで、他人を、嫌いにならないで」

 

「……あぁ」

 

彼女の言葉が重く響く。

こんな俺を、好きでいてくれる人がいた事が、こんな思いだと気づかせてくれた。

 

 

──でも。

もし、俺と関わった彼女が、()()()()()傷つくようなことがあったら?

また、同じことを繰り返してしまう。

 

………それぐらいなら、誰とも関わらない方が、いいはずだ。

 

 

「……ありがとな、天崎」

 

 

 

そんなことを口に出来るわけもなく、俺は彼女の前に立ち、少し泣きそうになってる彼女の頭を撫でる。

……彼女の優しさは、俺には──

 

「優しすぎるよ、お前は」

「……そうかも。お節介しちゃったからね」

 

彼女は照れながら小さく笑った。

 

「──早く帰ろう」

「うん、帰ろ」

 

彼女は天使のような明るい笑みを見せてくれた。

……本当に、お人好しだ。

 

 

 

 

結局、先生達に一切見つかることなく学校を出た俺たちは、道中を一緒に帰ることに。

 

 

「言い忘れたことがあった」

 

それぞれの家のある方へ向かう分かれ道に着いたところで俺は彼女を呼び止めた。

 

「……?どうしたの?」

 

彼女は不思議そうな顔でこちらをみてくる。

そんな様子を確かめながら彼女の顔をしっかりと見る、そして──

 

 

「──ありがとう、鈴。

……お前の気持ち、受け取ったよ」

 

出来るだけの笑顔で、彼女に感謝を伝えた。

 

 

「……っ、うん──!

ちゃんと伝わったんだね、よかった」

 

「これから、少しづつ頑張ってみるよ、俺も」

 

「その調子!──明日から、頑張っていこ、()()!」

 

 

彼女も満面の笑みを浮かべ、俺の()()を呼んだ。

 

 

この後、それぞれの家に帰り、この日は終わった。

長い、本当に長い一日を過ごしたのだと、家に帰った俺は思っていた。

……もう1人が布団で悶えているなどと知らずに。

 

この日以降、卒業までほぼ一緒に行動するようになり、その裏で変な噂が増えたとか増えていないとか。

 

 

 

 

 

───約束。

──彼女が、俺の事を好きでいてくれる人と交わした約束。

──俺は、守れているのか?

 

お前の言う、()()()()()事を、俺は出来ているのか?

 

 

 

 

 

そんな自問の答えが出る前に、俺の意識は覚醒した。

誰かの、俺を呼ぶ声で。

 

「……ラギ、起きた?」

 

長いように感じた夢から覚めた俺の目の前には、俺の顔を上から心配そうに覗くハヅキの姿があった。

 

「……これ、って──」

 

それだけでも落ち着かないのだが、俺の頭、後頭部になにか、暖かいものが当たっている。

枕か何かだろうと思ったが、明らかに近い彼女の顔や体の位置を考えるにこれは………

 

 

「膝枕……?」

 

俺がそうつぶやくと、彼女の顔は一気に赤くなった。




構成段階の3倍の長さ

お久しぶりです、また空いた。
今回は過去回想、前回、ラギがボスの突破方法に迷った時に出てきた言葉の発言者との話です。

はたから見たらカップルですよ、あいつら
大雑把なキャラ紹介は下に書いておきます。



──
天崎 鈴 /女子
年齢:中二(今話の回想時点)
身長等は別の機会に

春揮の中学時代の同級生、関わり初めは本編の通り。
春揮のことを「如月君」、「ラギくん」、「如月氏」等、様々な呼び方をしている。本人もどう呼ぶかは定まっていない。
お察しの方がいるかもだが、ラギの由来は彼女が呼んだラギくんから来ている。
さらにいつの日かライムにやったおでこキスもこの子の影響です。
なんとびっくり、この作品のオリキャラの中では特に過去に何かあったとかが無い真面目な子です。恋する乙女n人目。
その他詳細なことは後日、他キャラとまとめて出します。

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