ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
現在
アインクラッド第一層
はじまりの街:湖畔公園
ハヅキ目線
第八層で彼が倒れてからしばらくして駆けつけてくれたアルゴと協力して湖畔公園まで彼を運んだ私は、アルゴに「ルー坊が起きるまで一緒にいてくれヨ」なんて言われ、いまだ目を覚まさない彼の横に座っていた。
「ギルドハウスに連れて行けばよかった…」
誰にも聞かれていないことを願いながら私はそうつぶやく。
アルゴが来てくれた時点で慌てすぎていた私は咄嗟にこの場へ運ぼうなんて言ってしまった。
湖畔公園ならあったかいだとかそんなことを理由にした気がするんだけど、今の彼はギルドに入っているから確実にあったかい空間はある。
それをあの時点で判断できればこうやって二人きりという変な時間もなかったはずなのに…
「夕立の霧雨、か…」
ふと、彼の入ってるギルド名を呟く。
あのギルドと初めて会ったのは第二層、そこのボス戦の最中のこと。
それより少し前に会ったカエデの入っているギルドで、三人という少数で結成されているみたいで、第二層であったときには私とコハルも誘われたけど、二人で相談した結果、加入しないことになってシズクたちとは別れた。
その後、第六層で彼と彼のパートナーのルナが加入したと聞いたときは正直驚いた。
人のことは全く言えないけどギルドには入らなそうな人だったから。
「…何か、あったのかな」
横で寝ている彼の顔を見ながらそうつぶやく。
第六層以降、主に第六層の迷宮区で【───】と戦っていた時の彼はそれより少し前に会った時より雰囲気が変わっていた。
彼が管理者なのは前に聞いたけど、その辺の関係で何か弱みでも握られたんじゃないか、と少し思ったけど、さすがにそれは無いと思いたい。
本当に、彼の中でなにかが変わったと思う。
「って、何考えてるの私──」
自分で彼のことを考え出したのに途中で恥ずかしくなってしまった。
別に、特別な意識も何も無いのに──
すると突然、彼がうなされているのか、呻き声をあげた。
「すごい苦しそうじゃん……!?──落ち着く方法、は……」
ただうなされているだけならと思ったけど、彼の様子はそんな状態じゃない。
何とかして落ち着かせられる方法が無いかと思ったその時、私の頭にある日の記憶がフラッシュバックした。
「……仕方ない、やるしか──」
ある日、まだ小学生の頃、悪夢を見て眠れなかった私を落ち着かせてくれた姉の
今できることはそれしかない、そう覚悟を決める。
「ちょっとくすぐったい……」
彼が起きないようにゆっくりと彼のそばに行き、正座をして彼の頭を膝の上に乗せる。
いわゆる、膝枕っていうやつを彼にする。
恥ずかしい。
こんなの誰かに見られてたら変な噂とか立てられるだろう。
彼が早く落ち着いてくれるのを待って、落ち着いたら離れれば──
「ラギ、早く起きて……」
恥ずかしさのあまりそう呟いていた。
すると──
「……ハヅキ?」
彼が目を覚ました。
恥ずかしさを捨てて彼の顔を上から覗くと、なにかに気づいたのか声を出した。
「これって………膝枕?」
やられてる当人に言われたせいか、私の顔は一気に熱くなっていった。
そんな堂々と口にしないで欲しいんだけど……!?
数分後──
「……あぅ」
「あー……なんか悪い」
起き上がった彼が私の横に座ったのを確認して正座を解いた私は体育座りをするように膝を抱えて蹲っていた。
まさか直ぐに起きてくるなんて思ってなかったから、心の準備ができてなかった。もっと起きてくるの遅かったらこんな恥ずかしいことは無かった。うん、決してそういうのはない。
「……一層のパンケーキ」
「ん?」
「はじまりの街にあるパンケーキ、奢って」
こんな気持ちになったのは彼のせい、だからこれぐらいはしてくれないと困る。
なんて心の声が届いたのか、彼は少し吹き出して頭を小さく掻きながら答えてくれた。
「はは、そんな事でいいなら奢らせてもらうよ
まぁ、それは後に回させてもらうけどな」
「……うん、そうだね」
彼は小さく微笑んだ。
ただそれだけなのに、その表情に変な気持ちを抱いてしまうのはどうしてだろう……。
「それじゃ、
彼は芝生から立ち上がり、服に着いた草などを落として夕立の霧雨のギルドハウスがある方に顔を向けた。
私も立ち上がり、そして───
「──待って」
咄嗟に、彼の袖を掴んでいた。
「どうしたんだ、ハヅキ……」
彼は驚いたようにこちらを見てくる。
それは当たり前の反応、私から引き止めるなんてこと、
「……もう少し、話したい」
彼にそう言う。
わがままだっていうのはわかってる。拒否されてもいい。
でも──
「その様子じゃ、何かあるんだろ?
俺もまだ風に当たっていたいしいいよ、話そう」
驚きながらも何かを理解したのか直ぐにOKを出した彼は芝生から少し離れた湖畔を一望できる場所にあるベンチに座った。
私もその横に座り、気まづい空気が生まれる前に感謝を伝える。
「……ありがと」
「いいよ、どうってことは無い」
「……うん」
彼は少し景色を眺めたあと、私の方を見て微笑んだ。
そんな彼を見て、聞こうかどうか迷っていたけど、その迷いをはらって質問をする。
「……ラギ」
「ん。何だ?」
「──なんで、夕立の霧雨に入ったの?」
私のその質問に、彼の表情は一気に変化した。
ラギ目線
静まり返る湖畔公園。
湖畔を一望できる場所のベンチに座った俺と彼女──ハヅキの口から聞かれるとは思ってなかったことを質問された。
「聞きたいことはそれ、か……」
「他にもあるけど、一番聞きたいのはこれ」
他にも、というのが何か気になるが、今答えるのは先にされた質問の方。
「……お前は、あいつら三人がどんな関係か知ってるか?」
「聞いたことないけど……」
「あいつら三人は、リアルで知り合った友達なんだよ」
彼女達のリアルの関係を伝えていいものかと少し考えながらもハヅキなら言ってもいいだろうと思い言葉を続ける。
「……もし、仲のいい人、例えばあいつらみたいな友人関係にある人の誰か一人でも欠けたらどう思う」
「それは……」
一度、その経験をした俺はその辛さを知っている。
だが、彼女は知らないだろう。
ずっと一緒にいた人が、突然いなくなった時の思いというものを。
「あいつら、夕立の霧雨は第5層……つまり俺と会う前の状態で最前線に立っていたら今頃──壊滅していた」
「壊滅って……みんなそんなに弱くないでしょ?」
「どのプレイヤーにも言えることだが、あの三人が強くいれたのは
「情報……?」
第五層ではボス部屋の前で情報をまとめているところにいたというのを聞いたし、それ以前のボス戦参加も他プレイヤー達が得た情報を頼りにしていたからこそ彼女たちは前線で戦うことが出来た。
だが、俺が初めてあったあの時──第六層のクエストモンスター出現エリアの森林、あそこで彼女達、主にシズクは前衛を努めていたが、ボスの行動をほとんど見ずに動いているような場面が多かった。
あの時点で俺は確信を得ていた。
もし、彼女達を放っておけば、そのうち誰かしらが危険を伴うか、最悪の場合───死ぬ、と。
「──だから、助ける意味も込めてギルドに入ろうと思った」
「……まだ何かあるよね?」
「お前なぁ……」
何かを見透かした彼女は俺の顔を見ながら言葉を続けるように促してくる。
理由はまだあるが……
「さすがに他人のプライベートを含んで話すのはこれ以上無理だ。」
「……なら、他に聞かせて。
──あのギルドをどうするか、とか」
ハヅキは静かにそんな質問をしてきた。
しばらくその言葉の意味が理解できなかったが、彼女の真意はつまり──
「──俺は、あのギルドから抜ける」
「え……?」
あのギルド、つまり夕立の霧雨でこれから先どうしていくのか、それが彼女の質問だとすれば俺の答えはそれだけだ。
「どうしてって顔だな」
「そりゃそうでしょ、せっかく入ったギルドだし……」
「入ったからこそ、この思いに至ったんだ」
「それって……?」
「夕立の霧雨に入ってから何かと会ってるお前なら俺がどんな行動してるかわかるだろ?」
「えっと……」
彼女は俺の質問に対して答えを導き出そうと色々と考え込む素振りを見せたあと、ハッとなりながら答えを出した。
「問題の……解決?」
「言い方があるが、まぁそんなところだな」
問題……言ってしまえばあの赤服の剣士から始まり、第7層で遭遇したポンチョ男、第8層のボスモンスター。
それらは夕立の霧雨と一緒にいたこともあったが、ほぼ全てにおいて彼女達を戦闘に加担させることは防いできた。
それでも、彼女達に危険が及んだことは間違いない。
そして、その原因は俺にあるのだ。
「……彼女達を守ろうとして入ったあのギルドに入ったあと、俺は結果的に彼女達を危ない目に合わせたんだ」
「そんなこと……」
「あぁ、本人たちは思ってないだろうな。
でも、だからこそ早くあいつらから離れないといけないんだ」
「……なんで?」
彼女は不思議そうに俺の顔を覗いてくる。
そういう顔されると複雑な気持ちになるんだが……
「最初に言ったが、もし……
あいつらの中で、誰かが
「悲しむ……?」
「──それ以上に、あいつらはその辛さに耐えられない」
「それって……」
シズクはどんな思いでこの世界にいるか分からないが、ライムとカエデは大切な人を失った思いを一度経験している。
そんな思いを晴らすためでもある夕立の霧雨で誰か一人が……最悪全員が、なんてことになってしまえば、残された2人はその辛さを受け入れられないだろう。
「俺といれば、最悪の結果になる可能性が高い。
……でも、あいつらを放っておけば全員が死んでしまう」
「ラギ……」
自分でも、身勝手で矛盾したことを言っているのはわかっている。
でも、こんなことを言ってしまうぐらいにあいつらが大切に───
失いたくなんてない。傷付けたくない。
だから、俺は別れを選んだ。
「身勝手だと言ってくれて構わない」
俺は不意に彼女へそんなことを言っていた。
何を求めてそんなことを言ったのかわからないが、彼女はそんな俺の言葉に対しての返答をすぐにした。
「……そんなこと、言わないよ」
否定。そして──
「それは、あなたが決めることだから。
私は、あなたの
俺の顔を覗きながら優しい笑みを浮かべて彼女はそう言った。
「ハヅキ……」
「どんな結果になっても、私はラギの選択は正しいって言うよ
だって───」
彼女は立ち上がり、俺の前に立つ。
短い髪が風に揺られながら、彼女は静かに言葉を続ける。
「──私は、あなたに救われたから」
彼女がそう言った直後、少し強い風が彼女の髪と木々を揺らした。
「私は、ラギが───」
それにより、彼女が続けて言った言葉は風の音にかき消されてしまう。
聞き返そうとするが、彼女は顔を背けて「帰ろう」と促してギルドハウスのある方へ向かって歩いていってしまった。
「選択……か」
俺は立ち上がり、静かに揺れる湖畔をしばらく眺め、小さくそう呟く。
夕立の霧雨と別れる事は決意した事だ。
彼女達が、どんな反応をするのかも大体はわかっている。
「……死ぬよりはマシだろ」
永遠の別れじゃない、俺と一緒に行動して危険な目に遭うよりもマシな結果になるだろう。
そんな覚悟を胸に秘め、先に帰路に着いた彼女の後を追った。
ギルドハウスに着く前に彼女に追いついた俺は、脱退の件を誰にも言わないようにと口止めをし、何故か照れてる彼女と一緒にギルドハウスに戻った。
1ヶ月あいちった
お久しぶりです、残念ながら生きております
今回はラギの夕立の霧雨に対する思いを暴露する回。
そして、ハヅキの思いが変化する話。
彼らの思いは、どうなるのか。
報告遅くなってお相手に申し訳ないですが
下の作品にて我らが春揮がゲストキャラとして登場します(コラボってやつ)
双子烏丸さんの
バディーライズ! ――ガンダムビルドダイバーズ外伝
https://syosetu.org/novel/218284/
さらになんとこちら側で別作者とのコラボが決まりました。