ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
二大ギルドとの話し合いの翌日。
第一層:湖畔公園
今そこで、剣のぶつかる音が響いていた。
「……ふっ!」
「くっ……!」
その音を発しているのは俺とキリトの二人。
なぜ俺達が戦っているのかを簡単に説明するならば
「二人とも本気だナー」
「「誰のせいだと思ってるんだ!」」
俺たちの攻撃が──圏内だから安全ではあるのだが──届かない位置から見ているアルゴに剣を交えながらも俺とキリトが同時に同じことをツっこむ。
というのも、俺らがこうして戦っているのは彼女の計らいなのだ。
数分前、ある話がしたいと俺とアルゴはキリトを呼んだ。
合流したキリトと話を始めようとしたところで「2人で実力比べしないカ?」なんて言ってきたのだ。
もちろん否定する方向で決まりつつあったところで「お互いの秘密を喋ってもいいんだゾ」なんて言ってきたせいで仕方なくこうして実力比べという名のデュエルに発展した。
我ながら安い挑発に乗ったと後悔はしている。
「さくっと決めさせてもらう……!」
「来い、キリト──!」
一度距離を取ったキリトは剣を剣道の竹刀のように構える。
そのまま地面を蹴り俺に接近しながら剣を振り下ろす。
ソードスキルではない普通の振り下ろしに当たる訳もなく彼の背後へまわる。
そんな俺の行動が読めていたらしく、振り返る彼の影からソードスキルの光が現れた。
「──ここだっ!」
「くっ……!」
キリトの
「……なんてな」
「なっ!?」
後ろへ倒れそうになりながら俺は彼の追撃を弾き返した。
倒れる寸前で体のバランスを元に戻した俺はそのまま
「そこまでだヨ」
と、アルゴが言うようにデュエルの制限時間が過ぎたアラームが鳴ったことにより俺たちのデュエルは終わった。
「クイックチェンジ……いや、それだけじゃあの速度で動けないよな」
いつの間にか地面に座り込んだキリトは顎を触りながら何かをブツブツと呟いていた。
まぁ、普通そういう反応になるわけだが……
「なぁルー坊、彼なら話してもいいんじゃないのカ?」
「……そう、だな」
キリトの様子を眺めていると自慢の髭ペイントを触りながらアルゴがそう言ってきた。
確かに、彼になら俺の素性を話しても大丈夫だとは思う。
だが、少なからずアーガスという今となれば悪名高い会社の、言ってしまえば
「……キリト、お前に話したいことがある」
「んあ?その様子じゃ別件だよな」
「……俺は、開発者だ」
「──へ?」
突然すぎる俺のカミングアウトにウィンドウを操作していたキリトは変な声を出した。
「俺は、アーガスの人間だ」
「……一から聞いても?」
「あぁ、全部話すよ」
ウィンドウを閉じて立ち上がったキリトの顔は、当たり前ではあるが険しい顔をしている。
打ち明けた以上、全部話す覚悟もしている。
たとえ、彼が敵になろうが、俺は───
「す………」
「す?」
「……凄いな」
「は?」
彼の反応は、どちらかと言えば敵対心の無い、むしろ感心しているような感じだった。
「アーガス社員であることは俺だって全て受け入れるのは時間かけるけど、本当だとしたら今こうやって目の前にいる俺に、お前の仲間達に危害を加えてないってことはさ、それはお前が
「……まぁ、そういうことになる、のか?」
「ならいいよ、俺は信じる」
彼は何故かテンション高めに俺に質問をしてきた。
そして、「信じる」の一言と共に右手を差し出してきた。
「……ありがとう、キリト」
「あぁ、あと、この話はもちろん黙っとくよ」
「助かる」
差し出された右手を左手で掴み、握手を交わして感謝を伝えた。
「んじゃさっきの動きに説明してくれるか?」
「……言わなきゃダメか?」
「そりゃ教えてくれないとなぁ、そうだよな、アルゴ?」
「そうだナ〜、知りたいヨ」
「……ったく、わかったよ」
見せた以上、話さないといけないみたいだ。
何となくこのやり取りにデジャブを感じながらも彼と彼女に説明を始めた。
「今のはこの装備──《紅炎の黒衣》の効果と管理者権限の組み合わせ……ってとこかな」
「詳しく言うと?」
「《スキル等発動時の硬直軽減》とソードスキルの全開放だ」
「事後硬直の軽減とソードスキルの解放……?」
「申し訳ない話だが、デュエル前からどっちの効果も働いてた」
「マジかぁ……」
キリトは悔しそうにしているが、普通こういう時「え、そんなのずるくね!?」とかそういう反応すると思うんだが、もしかしてこいつ……重度のゲームオタクとか何かか?
「その装備も気になってたけど色々強そうだもんなぁ……」
「これに関してはまた後日な」
「ああ、そっちよりも大事な話だろ」
呑み込みが早いのか遅いのかわからないキリトの切り替えの早さに感心しながら言葉を続ける。
「俺と夕立の霧雨はしばらく攻略に参加できない」
「…なんでだ?」
「そこでオレっちの出番だナ」
「ん?アルゴも関係があるのか」
「端的に言えばだナー……」
俺の発言に続くようにアルゴが説明をキリトにしてくれた。
昨日起きたことのほぼすべてを話し終えると……
「わかった、そういうことか」
キリトは納得したように首を縦に振る。
俺らが何を言っているのかを完全に理解したようには見えないのだが…
「つまり、
キリトはワクワクしながらそう言った。
俺とアルゴは顔を見合わせたあと、あきれた声を同時にあげた。
「……はあ、そういう考えになるかよ」
「ハハ、キー坊らしい答えだナ」
「俺らしいってなんだよ」
「言葉通りだろ」
やはりキリトの感覚はなにかズレてる……もっと言えば俺と同じ考えを導き出すタイプだ。
「それで、他になにかあるんじゃないか?」
「ん、それは俺じゃなくアルゴだな」
「アルゴから?なんだ?」
「急かすナ」
何も無かったかのように話題を切りかえたキリトに急かされながらアルゴはウィンドウを開いた。
俺とキリトに見えるように見せてきたそのウィンドウに表示されていたのは……
「【ボスリポップ情報】?」
「ルー坊には話したけど、そこに書いてある通りだヨ」
昨日、キバオウ達と話をつけたあと、アルゴから「ちょっと無視できない話がアル」と呼び出されて聞かされた話、それがボスリポップの情報だ。
「一から説明するヨ。
まず、SAOの階層ボスは一度倒されたら
「あぁ、βテストでも基本的にはリポップしなかった。
試作的にイベントが発生した時は第一層から四層までのボスは登場したけど、それ以外、上層のボスは一切出てこなかった」
「ウム、その認識はあるんダナ
そもそもその認識が間違えじゃないかって思ってルー坊から開発中の話を聞いたんだガ、それらしい事は設定されてないらしいんダ」
アルゴの説明に肯定の意を示すため首を縦に振る。
そもそも、何度も同じボスを倒せるようになればレベリングもLAアイテムもいくらでも手に入ってしまう。
「イベントでも始まったかと思ったんだが、アルゴの集めた情報からしてそれは無いってことになった」
「どういうことだ?」
アルゴの言葉に続けて説明を挟む。
彼女が俺に伝えてくる前に集めた情報から見るに、何かしらのイベントが開催されているという可能性は低い。というか無いに等しい。
「ボスのリポップに規則性が無いんだよ」
「……規則性?」
「イベントなら『各層のここに出る』っていうのが固定化されてるはずなんだ
たとえ、カーディナルシステムであろうが全てランダムにするってことは無いはずだ
それに、何より
「早い?」
「まだ俺たちは第8層までしかクリアしてない
もしボスのリポップなんて大規模なことをするなら半分以上クリアした頃に始めるのが最適なはずなんだ」
「ふむ……」
俺の説明にキリトは座り込んで考え始めた。
無理はないだろう。普通に難しい話をしているのだ。
「まぁ難しいことは分からないけど、ボスリポップがそんなに情報が出回ってるってことは──被害も出てるのか」
「ご名答だヨ、キー坊」
「やっぱりそうか……」
キリトの質問に対してのアルゴの回答を聞いて俺は昨日アルゴから受け取ったとある情報を開いた。
そこには日にち、時間、そして人数が表示されている。
これが何を意味するのか、それは──
「まさかこれ───」
「「ボスリポップの犠牲者と思われるプレイヤー数だ(ヨ)」」
犠牲者の数は集まった情報だけでも10人。
これが『死に戻り』することの出来るゲームなら単なるイベントとして楽しめたのだろうが、犠牲者と呼んでいるようにこの10人はもう二度と戻ってこない。
「……そう、か」
キリトはそう呟くと表示したウィンドウに映っているプレイヤーの一覧を下へとスライドした。
ほんの少し安堵した様子を見せたあと、小さくため息を吐いて考える素振りを見せ……
「これ以上、犠牲者を増やさないためにはどうすればいいんだ」
と、俺に真剣な眼差しを向けながら聞いてきた。
そんなの、答えは決まってるだろう。
「まだ、リポップする条件が判明してないが、今のところリポップしたのは第一層、第二層、第三層のボスたちだ。
そしてこいつらは全て
「外れにあるダンジョン……ってことは、攻略でもほぼ誰も入ってないような場所ってことか」
「あぁ、そして
キリトも「そりゃそうだ」と肯定の意を示す。
もとより、SAOには各層のアンチ何とか圏内……略して圏内と圏外の二種がある。
圏内は町や例外を除いた村など、第二層以降にはほとんど町と呼べるものが本サービス後は消えたのだが、とにかく、圏内は安全なエリアといったところだ。
そして圏外は名前から察せるように町の外、フィールドやダンジョンが当てはまる。
……無駄に説明多めで話がそれたが、圏外にはとある公になっていない
それが『モンスターのポップ数上限』だ。
第一層なんかはいい例だろう。
ここ、はじまりの待から出たすぐのフィールド、あそこはサービス開始から一ヶ月が経ったある日を境にモンスターのポップは初期の二分の一ほどまで減った。
と、いうようにモンスターのポップは限りがある。
そうなった経緯を説明するには回想の一つでも挟まないといけない長さなので割愛しよう。
とにかく、モンスターのポップに限りが設けられたことにより、今も各層のフィールドではモンスターの取り合いなんかも起きている。
そんな殺伐とした状況で未踏の地が発見されれば誰しもが行きたくなるだろう。
何故なら俺が先ほど言ったように、モンスターのポップが減っていないため、レベリングに最適な場所になるからだ。
「それを先読みしたプレイヤー達がダンジョンに行った、そしてその先で
「ご名答だヨ」
「だがなんでボスのリポップがそんな誰も入らないようなダンジョンに?」
「……それがわからないんだ、なんの意図でそんな場所に出現してるのか」
「でも、出るのは決まってそういうダンジョンか……」
「あぁ、だから先手を打てば犠牲を減らせるかもしれない」
アルゴが横から差し出してきたウィンドウを受け取り内容を読む。
そこに書かれていたのは各層のマップの詳細を更に絞った、今回の一件を防ぐための『ダンジョン一覧』の表だ。
既に、第三層までは『出現済』と表記されているが、それ以降、第七層までのダンジョンにはそれらの表記は無い。
「このマップにあるダンジョン、それらがメインでは攻略されなかったダンジョンの一覧だヨ。
二人とも察してると思うけど、第三層までは書いてある通り、既にボスのリポップは終わってル」
「そして、次に出るとしたら───」
「第四層、だな……」
一覧を第四層のマップに切り替える。
ここのボスは俺は戦っていないが確か馬と魚のキメラ的なやつだったはず。
攻略もなかなか大変だったと聞いたが、リポップにあたって余計に強化されたりしなければいいんだが……
「さすがに毎日毎秒監視できる訳じゃないから、攻略に行けるタイミングをみてその時だけでも様子を見よう」
「他のギルドはほぼ下層に降りてこないはずだしな」
「……そういやそうだったな」
他のギルド、リンド組とキバオウ組(ギルド名略)が前線で戦い続けるであろうことを考えれば多少犠牲も減ってくれるとは思う。
というかキリトにはさっき話したはずなんだがな……?
「にゃハハ、それじゃ、明日一度様子見にでも行こうカ?」
「あー、それなんだけど……」
「「ん?」」
いきなりのアルゴの提案に待ったをかける。
「明日、明後日、それ以降の数日は別にやることがあるから俺は参加出来ない」
「なんダ、先客がいるのカ」
「そういうことなら俺たちで探索してみるよ」
「……すまん」
別のやること、といってもとある二人からの頼みごとを消化したり、誘われたイベントに付き添うぐらいなのだが、どう考えても時間かかるしキリト達と一緒に行くだけの時間を割けそうにもない。どちらも俺のわがままから出来た約束事というのもあるのだが。
「そんじゃ、やることは決まったな」
「だナ」
「俺からも伝えたいことはもう無い。
……解散にするか」
時計を確認すると、思ってたよりもいい時間になっていた。
そう思い解散を促したが……
「──まて、ラギ」
「……?」
帰路につこうとして振り向いたその時、キリトに呼び止められた。
何故か彼は真面目な顔で俺を見てくる。
「しばらくしたら俺とデュエルしてくれないか」
「……なんだ、そんなことか」
何か重い話でもされるかと思ったけど、彼から言われたのは戦闘の申請。
思わず笑いそうになったのを堪えながら彼の方に向き直し手を差し出す。
「……受けて立つぜ、キリト」
「あぁ、ありがとな、ラギ」
俺が差し伸べた手をキリトは逆の手で掴む。
いわゆる握手をして約束を交わした。
「……さ、解散にしようぜ」
「あぁ、帰るか」
「そうだナ、解散ダ」
キリトとの約束を交わした俺は二人とは違い宿屋通りの方に一人で帰っていった。
その後ろ姿を見守る視線があることを知らずに───
お久しぶりです
まさか一ヶ月空いてしまうとは思いませんでした
最近ずっと馬育成してたりアイドルとシャンシャンしてたりで忙しかったのです、決して遊んでいただけではありません
……はい、次回は早くします
スキル等発動時の硬直軽減
紅炎の黒衣を装備したことにより付属された効果。
SSはもちろんのこと、クイックチェンジを発動して直ぐ(コンマ秒)に持ち替えた武器でSSがうてるなど様々なメリットがある。
余談だがラギは短剣の使用回数を少し増やしつつある