ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
ラギがキリト達と話している同時刻
SAO第一層:商店通り
「なんでよォォォ!?」
私とコハルは明日の準備と簡単なショッピングのために商店通りに来ていた。
到着して間もなく、誰かの悲鳴が通りに響き渡った。
声のするほうへ行くと、一人の女性がNPCの肩をつかみ、前後に揺らしていた。
「なんっでそんなに失敗するのよ!」
「残念でした、またのご利用「そんなこと聞いてるわけじゃないのよ!」」
女性はNPCに質問をしたけど、その返答は完全にテンプレのセリフ。
NPCのセリフはほぼ固定化されてると聞いたことがある、つまり今目の前でNPCが言ったのはその固定化されたセリフの一つ。
「あーもう、金も素材も無駄にしたわ……
もうこんな詐欺鍛冶屋なんか利用しない!」
NPCの肩から手を離した女性はすごくキレながら中心街のほうへ行ってしまった。
その様子を見ていた周りのプレイヤーはしばらく動かなかった。
そんなことが起きてから数分後。
私達は物売りのNPCからポーションなどを買い、ついでにさっきの女性が叫んでいた店を覗いてみることにした。
「いらっしゃいませ、鍛冶屋をご利用でしょうか」
と、近づいたらそんなことを言ってきた。
そういえば、女性が鍛冶屋はどうとか言ってたっけ。
「ねえハヅキ、鍛冶屋って何が出来るんだっけ」
「うーん……?」
ふとコハルにそんな事を聞かれて首を傾げてしまう。
SAOが始まってからしばらくの間はクエストで貰える武器を使ってたし、コハルと合流出来たあともタワークエストの報酬とかで何とかしてたからあまり鍛冶屋を利用したことがなかった。
「すみません、鍛冶屋ってどんなことが出来るんですか?」
「はい、こちらでは武器や装備の生成から
「「耐久値……?」」
聞きなれない言葉にコハルと私は一緒に首を傾ける。
「耐久値を知らないってどんなバグよ」
「ふぇ?」
「あの、どなた……ですか?」
NPCが答えるよりも先に私たちの後ろから女性の声が聞こえた。
後ろを振り向くと、茶髪の女性が呆れたような顔で私達を見ていた。
「ここじゃなんだし、場所を変えましょ」
そういうと女性は商店通りの奥にある小さな公園に指をさした。
「さて、改めて、ね。
私は《リズベット》、よろしく」
公園に着くと茶髪の女性──リズベットが自己紹介をした。
「私は──」
「あー、あなた達のことは知ってるわよ」
「「知ってる?」」
自己紹介を返そうとしたところでリズベットから衝撃の発言。
もちろん、彼女とあったことは一度もない。
それなのに何故彼女は私たちのことを知っているのだろう?
「その装備に容姿、あんた達がハヅキとコハルでしょ?」
「そうですけど……」
「もしかして知らない?あなた達、凄い噂になってるのよ」
リズベットはウィンドウを操作してある記事を表示させた。
「噂……?」
横から二人で除くとそこには『第二層から現れた二人のプレイヤー、数多の活躍振り』なんて見出しで私たちのことを書いた記事があった。
そして、『
「もしかして、眼のこと気にしてたりする?」
「あ、いや……」
私の事を書いてる記事の一部に使われていた『蒼眼』の表記。
それをしばらく見ていたらリズベットから心配されてしまった。
リズベットの問に対して俯きながら否定する。
「そ、気にしてないのならいいけど……それより本題よ、本題。」
「本題……って、さっきの耐久値がどうとかって話ですよね?」
「えぇ、これだけ有名になってて、なおかつ前線に出てるプレイヤーで耐久値の事を気にしてないプレイヤーがいるなんてバグか何かでしょ、って思っての発言だったの」
「バグって……」
「もちろんそのままの意味じゃないわよ?」
リズベットは苦笑いを浮かべながらそう言ってくる。
その辺は理解しているけど、それよりも耐久値って言葉が気になる。
「耐久値って、何ですか?」
「まあそこからよね、一から教えるからちゃんと聞いてね」
彼女はそう言うとウィンドウを操作し、武器を取り出した。
そして、武器に触れて別のウィンドウを私たちに見えるように開く。
そこには【Sword:350∕100】という表記がされている。
「ここに書いてあるのが耐久値、これは片手直剣で一番弱いからこれぐらいだけど、ここの数字は武器のレアリティなんかで変わってくるわ」
「この片手直剣の場合は結構使ってて、残りが100って事ですか?」
「えぇ、そういうこと
それで、この減った耐久値を治すのがさっき通りに居た鍛冶師、NPCだけじゃなく最近はプレイヤーの中にも鍛冶スキルを取ってるプレイヤーもいるって話よ」
まるで教師のように事細かに説明するリズベットの鍛冶スキルを取ってるプレイヤーの話を聞き、一つ質問をした。
「……もしかして、リズベットも鍛冶師だったり」
「ご名答よ、ハヅキ。
私もその鍛冶スキルを取得してるプレイヤーの一人、というより鍛冶師として活動することをメインにしてるわ」
「それじゃあ、武器を作ったりもするんですか?」
「さすがに無償じゃないし、それなりの武器を作るってなれば素材も必要になるわよ
例えば、これとか」
彼女がみせてきたウィンドウには『磨かれたスチールソード』の制作素材として『鉄数個、銀鉱石数個』と書かれている。
「もちろん、耐久値の回復もやってるけど、メンテナンスしてみない?」
「でも、高いんですよね?」
「初回サービスとして二人の武器と装備はタダでやってあげるわ」
「え、でも……」
「つべこべ言わずにほら、行くわよ!」
躊躇う私とコハルの腕を引き、そのままリズベットはどこかに向かっていく。
そして着いたのは、いかにもな工房だった。
「ここは……?」
「私が今借りてるホームよ。
見ての通り鍛冶用の道具なんかが置いてあるわ」
リズベットの言うように部屋の中には鍛冶で使うのであろう道具が散乱している。
そして少し部屋の中が暑い。
「……あつい」
「仕方ないでしょ、高熱を扱う以上は温度も高くなっちゃうのよ
それにその厚めの服じゃそりゃ余計に暑く感じるでしょ
先に装備の耐久値から直すからほら、脱ぎなさい」
「「……へ?」」
今、彼女が何を言ったのか理解出来ずコハルと顔を見合わせて変な声を出してしまう。
「だから、脱げって言ってるのよ
別に同性だし、その間別装備でも着てればいいのよ」
「……変なことされるかと思った」
「んなわけないでしょうよ、そんな変態そうそういないわよ
わかったら早く脱いで装備渡しなさい」
「は、はい……」
少し強めの圧を受けながら装備を解除した私とコハルは彼女に装備を渡す。
その後、私は寝巻きに使ってる服を、コハルはつい最近ラギから受けとった装備を着る。
(……ハヅキ、もしかして装備無い?)
(……うん、あの装備しか持ってない)
別装備を持ってるコハルとは違い、私はSAO開始時からあの装備を着続けている。
モンスターからいくらかダメージを受けたりしたからかなり耐久値も減ってるんじゃないかな。
「な、なにこれ」
「リズベットさん……?どうかし───え?」
「二人とも何かあったの?」
「ちょっとハヅキ、あんたの装備……」
私の装備を受け取ったリズベットはウィンドウを開いた。
と思ったら突然驚いた声を出し、それに気づきコハルがウィンドウを覗くと彼女も驚いた様子を見せる。
そんな驚くことなんてあるわけ───
「耐久値が減ってないんだけど」
「───え?」
耐久値が減っていない。
さっきリズベットは使っていれば耐久値が減るものだと言っていた。
その言葉を一瞬で覆すことになる。
「正確には『減った分回復してる』わ」
「えっと……どういう、こと?」
「ダメージを受けて減ってる耐久値が一定の時間で元に戻ってるの」
「つまり……?」
「──あんたの装備は壊れることはほぼないってことよ」
あの装備──深淵の霊衣がそんな効果を持っていたなんて、ラギは教えてくれなかった。
「この装備がどんなものなのか気になるけど、詮索はしないわ。
それよりもコハルの装備をメンテナンスするからその辺に座ってて」
「わかりました、待ってますね」
「うん……」
私は深淵装備を受け取り、近くの椅子に座る。
リズベットが作業を始めたところでコハルから声をかけられた。
「ハヅキ、大丈夫?」
「ん、何が?」
「さっきから何か考えてるみたいだけど……」
「──あの記事、あそこに書いてあった事が気になって」
「眼のこと……?」
「そっちもだけど、それより気になったのが──」
さっきリズベットが見せてきた私たちの記事、その上の方に半分ぐらい見切れてたから全部はわからなかったけど、二つの見出しがあった。
「『行方不明プレイヤー達が増加』と『新生ギルド、特殊なスキルを持ち第五層で暴れる』……?」
「うん、そんな記事があったんだけど……」
「ギルドって、夕立の霧雨じゃないよね」
「そう、そのはず」
「それじゃあ、一体どのギルドのことなんだろ……?」
新生という時点であのトゲトゲや熱血の人がリーダーのギルドじゃない。
特殊なスキルっていうのが何なのかわからないけど、ラギ達は第五層でなにか起こすようなことはしてないはず。
となればどのギルドなんだろう?
「おーい、お二人さん」
「「あ、はい!」」
色々と考えているうちにリズベットが私たちを呼んでいたらしく、何度目かの呼び掛けでやっと反応をした。
「お話は住んだかしら。
……とりあえず、コハルの装備を直したわよ」
「ありがとうございます」
「それじゃ次は二人の武器ね、さ、渡して」
少し呆れた様子の彼女に私とコハルはそれぞれの愛武器を渡して再び椅子に座る。
謎のギルドのことや私の装備のことなんかを考えること数分、リズベットが武器の手入れを終えた。
「さて、終わったわよ」
「ありがとう、リズベット」
「ありがとうございます、リズベットさん」
「……あんた達、ちょっといい?」
武器を受け取ってストレージに戻すして感謝を述べるとリズベットがなにか言いたそうな顔をしていた。
「なんというかリズベットって呼ばれるの恥ずかしいから『リズ』でいいわよ」
「でも……」
「ここまで関わったんだし良いじゃない!ほら、コハルは敬語無し!いいわね!」
「は、はいっ!」
彼女の呼び方をそんな緩くしたくなくて拒もうとするけど、人差し指をビシッと指されて反論できない。
私や夕立の霧雨といった同年代?で仲良くなった人以外には敬語で話すコハルも指摘を受けた。
「あと、ハヅキ」
「なに……?」
「あんたは、もう少し笑いなさいよ」
「笑うって……何で」
彼女の言葉に言葉が詰まる。
笑う。そんなことはいつもやってきた。
それなのにリズはなんでそんなことを言うのか、それがわからない。
「言葉の通りよ、あんたは笑顔が少なすぎるのよ。
だから、『笑え』って言ったの」
「私は……」
リズの言葉に、ある人の姿を重ねてしまう。
全く笑わない私を心配したのか、同じように「笑って」と言ってきたある日の姿。
同じだ、リズも、
「……ま、無理にさせるような酷い性格してないから安心しなさい
でも、いつか───」
嫌なことを思い出し、彼女にありもしない妄想をぶつけようとしたところでリズが私の両肩を掴みまっすぐ目を見てきた。
そして、言葉を続けた。
「──あなたが話したくなったら、抱えてるもの教えて
少なくとも私とコハルはあなたの言葉をしっかりと受け入れるから」
優しい声でそう言ったリズが私の両肩から手を離したと思ったら、次は後ろから抱きつかれた。
「ね、ハヅキ──」
「コハル……」
「私も、
「……うん」
私の体に手を回してきたコハルの手はとても暖かく、今すぐにでも全て話してしまおうかと思ってしまった。
でも、今話して、二人はどう思うのだろう。
そう考えてしまうと話すことが出来ない。
「……さ、武器も治したし話すことは話したわね」
「長居するのも迷惑だろうし行こう、コハル」
「う、うん!そうだね、ハヅキ」
コハルは慌てて手を離して少し照れながら私の言葉に答える。
「ありがとう、リズ。色々と」
「いいわよ、少しお節介しただけよ」
「ふふっ、リズさんには感謝ですね」
「うん、本当にありがとう、リズ」
リズに二人で感謝を伝える。
するとリズは少し照れた様子を見せる。
「そんな感謝を伝えてきても何も出ないわよ」
「また、武器のメンテナンス頼むね」
「えぇ、またのご利用お待ちしてるわ、二人共」
リズと約束を交わして彼女の工房から出た。
しばらく無言で商店通りに向かう道を歩いていると、突然コハルが立ち止まり、私の腕を引っ張った。
「ハヅキ、買い物行こ!」
「ちょっ、引っ張らな───」
彼女は私の腕を引くことを一切やめる様子もない。
でも、私の手を引く彼女はとても楽しそうで、止めようという気も起きなかった。
「──ハヅキは、私が守るよ」
走っている中、彼女が何かを呟いたけど、その内容は全くわからなかった。
ただ、その一瞬だけは、彼女の笑顔が無くなったような、そんな気がした。
そして次の日。
私は─────
今回の話は前回(55話)と同時刻の別の場所でのお話。
予定の斜め上な話になってしまったのは俺もビックリ。
鍛冶師NPCにハメられた?女性プレイヤーの叫びからスタートしました。
彼女はいくらを溶かしたのでしょう
そしてまさかのリズベット登場。
なんというかあの人キャラ掴みにくいところはあるよね
そして、最後のコハルの言葉とは……?
───────
【深淵の霊衣】
スキルレコードを発動できるようになる特殊装備の一つ、胴装備
ハヅキの初期装備として活躍し続けたこの装備はなんと、不壊属性がついた(正確には耐久値が回復し続ける)装備ということが判明。
深淵装備はあと二つ。