ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
ライムから話を聞いていた俺は、ある日の出来事を思い出していた。
中学三年生のある日、担任から突然「〇〇中学校に道具を取りに行って欲しい」と言われた天崎が俺を無理やり連れて指示された中学校に赴いた。
「センセーが行けばいいのになんで私たちなんだろね」
「いや、それもそうだけどなんで俺も着いてくる羽目になったんだよ」
「そりゃ、そこにいたから」
「いやいや、俺お前が頼み事受けた時教室にいたからな?」
「まー気にしない気にしない!ほら、行くよ!」
夏休みの後、色々とあった彼女とはことある毎に共に行動しているのだが、まさか授業時間内に別の学校に彼女と行くとは思っていなかった。
そしてもう一つ疑問があった。
「……っていうか向こうも授業中じゃないのか?」
「いや?センセーが言うには今日文化祭らしいから一応他人も出入り可能らしいよ」
「……やっぱり先生が行くべきだよな」
「確かに」
そんな会話を何度か繰り返して頼まれた中学校に到着した。
入口からフェスティバル感が表に出ていたため入るのを躊躇ったが天崎はお構い無しに──少しテンション高めに──作られたアーチをくぐって行った。
が、何も言わず突っ込んで行った彼女は中学校の先生に呼び止められて職員室に連行されそうになっていた。
先生に事情を説明すると、事実確認のため結局職員室に連れて行かれた。
「……はい、確認できました」
「すみません、ああいうやつで」
「いえいえ、大丈夫ですよ。
それで、あなたの担任から一つ伝言があります」
「伝言?」
「『天崎さんが何か起こさないように見張っててください。それと如月君は少しリラックスするためにも文化祭を楽しんでください』と」
「……わかりました、ありがとうございます」
連行から開放された俺は先生に呼び止められて天崎の
先生に感謝を伝え教室を出るが、天崎は既にどこかに行っていた。
「……あまり生徒たちの中には行きたくないんだけどな」
そんなことを呟きながら各展示をしている学年毎の教室へ向かっていった。
片っ端から探すが、彼女は見当たらず、いつの間にか校舎から離れた所まで来ていた。
あるのは学校の裏口と使われているのか分からない倉庫がひとつ。
そしてその倉庫から誰かの話し声が聞こえる。
中にいる誰かに気づかれないように倉庫の扉前に立ち聞き耳を立てると男性二人と女子の声が聞こえた。
その内容からして女子がなにかされている状態だとすぐに気づき一切身を守るような道具を持たずに倉庫の扉を開いた。
「何やってんだお前ら」
扉を開けた先には、柱に縛られた女子とその子から衣服を脱がそうとする男二人の姿。
俺が入ってきたことで動きが止まり女子生徒から手を離した男二人は俺の目の前に立ち塞がった。
「俺たちはただこの子を助けようとしてただけだぜ?」
「お、おうアニキ、その通りだ!」
「──へぇ」
目の前にたった男を見上げると慌てながら言い訳をこぼしてきた。
真偽は明らかだが一応と女子の方を見るが、すぐに目を逸らされてしまう。
「もっとマシな嘘をついた方がいいぞ、お前ら」
「「なん──ぶへぇ!?」」
二人を近くにあった鉄パイプを使い峰打ちを腹に決めて気絶させたところで柱に縛られている女子生徒に声をかける。
「……大丈夫か?」
「──っ」
が、物凄く怯えた様子で震えていて答えられるような状態ではなかった。
「今縄をほ──「触…らないで」……でもお前」
「お前も同じことするんでしょ!?」
「するわけないだろ、おま──」
「やめて……近づかないで……」
扉を開き光が射した時以上に怯えている彼女の縄を解こうと手を伸ばしたが、彼女は声を震わせ、目に涙を浮かばせて俺を拒んできた。
さすがにここに放って行くわけもいかないが、誰かを呼べば足元に伸びてるこいつらと同じようなことをする可能性がある。
そうなれば彼女は今以上に恐怖を覚え、最悪
「おーい、何して……あ、お邪魔しま「待てや」……えぇ?」
どうしたものかと考えていると、聞き馴染みのある声が倉庫の入口から聞こえ、中の様子を覗いたと思えば何かを勘違いして立ち去ろうとした。
「だってこれどう見ても……」
「俺は何もしてないっての、下だよ下、お前が今踏んでるヤツら」
余計なことを口にしようとした
なるほど、と言わんばかりの反応を見せながらも降りる様子を全く出さず柱に縛られたままの彼女に目線を送った。
「なんか倉庫の床の感じしないと思ったらなんか倒れてるじゃん、この人達がその子を?」
「あぁ、そしてお前はいいところに来た」
「ほえ?」
「彼女を校舎まで送ってやってくれ」
「君がやればいいじゃ……あ、そういうこと」
彼女は再びなるほどと頷き状況を理解した。
伸びてる二人を引きずりながら倉庫の外に出て数分後、彼女達が倉庫から出てきた。
「俺は体育館にいるから、その子送ったら来てくれ」
「はーい」
携帯でこの中学の先生を呼び出して男達の処理を頼み、後のことを彼女に任せて本来の目的であった道具を回収するために体育館に行った。
体育館
「……すげぇ」
体育館に入るとそこでは文化祭のステージが披露されていた。
内容は既存の楽曲をカラオケ音源で流してそれを歌うというもの。
中学生と思えないほど綺麗な歌声で観客を魅了しており、俺も目的を忘れかけながらその歌声を聞いていた。
「凄いですよね、彼女。
名前は『如月千秋』さんです」
「……千秋──って、あなたは?」
歌声に聞きほれていると隣に立った男性から声をかけられた。
その言葉の中には俺が知る名前が含まれていた。
「すみません、私はこの学校の教頭です。あなたの学校から機材の貸し出しを頼まれて準備していたのです」
「あ、すみません、俺は──」
「名乗らなくていいですよ、如月君」
本来の目的を改めて思い出したと同時に紹介を返そうとするが止められる。
なぜ名前を知られているのかと質問する前に教頭先生が言葉を続けた。
「詳しいことは知りませんし聞きません、ですが彼女、千秋さんのお兄さんでしょう」
「……えぇ、まあ」
「ここに居続ければ彼女と会うことになります、待ちますか?」
「いえ、目的は受け取りなのでそれを済ませたら帰りますよ」
「……わかりました、こちらへ」
他校の制服を着ている事に一切質問をしてこない、そんな教頭の提案を拒否すると体育館横の用具入れに案内された。
校舎裏にあった倉庫とは違いちゃんと整備された室内には使われていない様子の大きいとは言えないスピーカーが三個置かれている。
「貸し出しはこちらということで手続きなどは済ませているので持ち出しはいつでも大丈夫です」
「ありがとうございます」
教頭に感謝を伝えて別れた後、スピーカーのそばに置かれていた袋に丁寧に詰めて持ち上げる…が、さすがに重くて持ち上げることは出来なかった。
すると遠くから誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「やっと見つけた!」
「それはこっちのセリフだ」
「仕方ないでしょあの子が落ちつくのを待ってたんだから」
走り寄ってきたのはもちろん天崎。
「ここで話すのもあれだし移動するか」
「どこにー?」
「知らん、とりあえず体育館裏とかでいいだろ」
文化祭の最中とはいえ誰かが来るかもしれない倉庫内で話す内容ではないため移動することに。
行く当てなどないため誰も来ないであろう体育館裏に行くことにした。
案の定誰もおらず、少し体育館内のライブの音が聞こえてくる程度の静けさが広がっている。
「それで、あの子は?」
体育館の壁に背を預けて彼女に分かれた後の話を聞く。
あれだけの状態だったんだ、何か彼女に起きているはず。
「結論から言って『最悪』だね
如月君があの子に目線を送るだけでも過剰に反応しちゃうぐらいには異性に……男に対しての恐怖を持っちゃったみたい」
「――そうか」
あれだけのことを体験してしまったんだ、そうなってしまうのはあたりまえだろう。
故に、彼女がああなってしまう結果を防げたんじゃないかと思ってしまう。
「
「……あの子に傷をつけたのは俺じゃない、でも――
彼女の傷を俺が深めてしまったんじゃないかって、そう思ったんだ」
「そんなこと……」
「わかってる、あの子はそんなこと思ってないだろうが……
差し伸べた手をつかまれなかったことが少し心残りなんだ」
思い出すのは縄をほどこうとしたときの彼女のおびえた様子。
あんな顔をされてしまったのはきっと俺が何か道を違えたからだと、そう感じている。
「如月君はほんっとうに自分の責任だとかいうよね」
「そりゃ俺はそういう性格なんだから仕方ないだろ」
「……あの子はね、保健室に送った後、こう言ってきたんだよ
『ありがとう、ごめんなさい』って、君に対して」
男に対して恐怖心を抱いてしまった彼女が俺のことをどう思っているのか全く分からなかったが、天崎からそんな言葉を伝えられた。
「……いつかちゃんとはなしたいな」
「今はダメなの?」
「さすがに、な」
壁から背を離し立ち上がった俺は彼女がいつか傷を癒せるようになったとき、向き合って話をしたいというう旨を口に出していた。
それが叶うかなんてわからないが、それでも思いは持っていたい。
体育館裏から移動しながらこれからどうするかを話す。
「さ、行こうか」
「文化祭巡り再開!」
「いや、借り物持って帰るぞ」
「えー、なんでえ?」
「……もう、十分だから」
倉庫に向かう途中、体育館内からは先ほどのライブが続いている。
彼女――千秋が今歌っている曲は俺も聞いたことがあった。
それは、あの事件が起きる寸前、車の中で聞いていた『思い出の曲』。
そんな歌を歌う彼女の歌声は、どこか静かで、寂しいものだった。
「――それじゃ持つもの持ってかえろっか!」
「あぁ、行くか」
彼女の歌声を聞きながら倉庫内の機材を俺が二個、天崎が一個持って倉庫を出る。
その頃には歌声ではなく歓声が聞こえてきた。
その後、職員室に寄って先生に挨拶をしてから自分達の学校に向かって歩き出した。
これが、彼女――ライムとの現実での出会いであり
ライムが塞ぎ込む原因となった出来事だ。
あれから数年後、まさかこうやって再会するなんて思ってもいなかったが、お互いに認識出来ていなかったのは正解だったのかもしれない。
でも、心のどこかで彼女が心の傷を少しづつ治している姿を見れたことを安心している俺もいる。
「わかんねぇな……世界は狭い」
横で眠っているライムに聞こえないようにそう呟いて目を閉じた。
毎日は無理です(挨拶)
早めの投稿です、どうも、私だ。
今回は前回(57話)の『助けてくれた男子生徒目線』です。
正体明かしてるからあれですけど、春揮(ラギ)と早めのご登場のクラスメイト、天崎の二人です。
時系列的には春揮過去回の数ヶ月後、といったところです。
ちなみに年齢としては今話では
ライムは中一
春揮は中三となっています。
はい、現在から二年前の話です
そして今回はそんなふたりの出会い以外にも、重要なものが。
一方的な認識だけではあるけど顔を合わせた二人、何故彼らは別の学校に通っているのか……
次回はほんの少し遅れる……とか言ったら本当に遅れるからやめとこう