ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

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59:新スキル/タワークエスト(4)

一つ言うのであれば、こんな状況は『最悪』だ。

約束したはず、それなのに俺は──

 

 

 

 

 

たった一撃で彼女は吹き飛び、装備していたアーマーは粉々に砕け散った。

 

無駄に広い部屋の中、ぐったりと倒れ込む少女の名を呼ぶ俺と彼女の声だけが響いた。

 

何故、こんなことに──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事は小一時間ほど前に遡る。

 

黒鉄宮にて合流した俺とハヅキとコハルは居合わせたアルゴと別れてすぐにタワークエストの続きを受注した。

 

「えっと、13階……」

「詳細見せてくれ、ウィンドウ運べば俺も見れる」

「ん、これ」

 

クエストの内容全てを口に出そうとする彼女にウィンドウを運ぶように指示する。

ぎこちない動きで運ばれてきたウィンドウに書かれた内容を俺とコハルが確認。

 

────

タワークエスト

13階

 

クリア条件:敵の全滅

報酬:麻痺回復POT、他状態回復POT

 

────

 

今の俺は多分渋い顔をしてるかもしれない。

それぐらいにはやる価値が少ない、状態異常回復POTなんてそんな高価でもないからそこらの商店で買える。

だがタワークエストは報酬は置いておいて経験値はかなり大きい、だからこそ彼女たちは挑戦しているのだろうが。

 

「行きましょう、ハヅキ、ラギさん」

「うん、行こ」

「……行くかぁ」

 

妙に乗り気なコハルに背を押されハヅキはクエストの開始ボタンを押した。

 

 

 

 

 

タワークエスト13階

 

MOB:ジュエリースライム

 

「ハヅキ、スイッチ!」

「うん、任せて」

 

ゼリー状のモンスターに物理が効くのかという心配はあるが、2人は気にしてない様子で見事なコンビネーションを決めている。

ハヅキのソードスキル後の硬直の間にコハルがソードスキルを放ち、コハルが硬直した瞬間に硬直が解けたハヅキがソードスキルを放つという繰り返し。

ずっと共に行動してきたとはいえこの連携を数ヶ月で出来るのは流石と言うべきだろう。

 

 

「「見てないで手伝って(ください)!」」

 

手伝う必要ないだろうと2人を眺めていると、いつの間にか彼女達は大群に囲まれていた。

どこか一点を突破すればいいだけのはずだが、ゼリー状である以上多少の物理耐性があるらしくそう簡単に通れない。

……だが、何かがおかしい。

 

「そこ動くなよ──っ!」

 

違和感を振り払い彼女達を囲むスライムの頭(?)を踏み2人の目の前に着地、と同時に空中で発動させたソードスキルのモーションを開始する。

ソードスキル、ホリゾンタルで前半分のスライムを蹴散らす。

 

「まだ──ここだ!」

 

《紅炎の黒衣》の効果でソードスキル後の硬直が極限まで減っているため続けてソードスキルを放つ。

 

「残りは任せる!」

「「了解(です)!」」

 

3分の2を囲んだところで彼女達に託す。

指示と同時に先程見せたコンビネーションで一気にスライムを倒していく。

 

……だが。

 

ぽちゃん、という音と共に彼女達の後ろからスライムが現れた、いや……()()()()()

前に集中して後ろのスライムに気づいていない2人に攻撃が行かないようにするため剣を構えてモーションをとる。

 

「お前ら、後ろだ!」

 

ヴォーパルストライクで突進し彼女達に知らせる。

そして、一匹倒したと思えばまた()()()スライムが降って───

 

「──まさか」

 

倒しても増えていくことに嫌な予感がして天井を見る、するとそこには倒してきたスライムの何倍もあるスライムが天井に張り付いていた。

そして一匹、また一匹とその体から小さい──人間サイズのスライムが産み落とされている。

 

「……お前ら、う──っ!?」

 

2人に注意を送ろうとしたその時、俺の体は動かなくなった。

HPバーが点滅し、バーの上には黄色背景に黒い雷のマーク──麻痺状態を意味するものが出ていた。

 

「ラギ……!?」

「大丈夫ですか!?」

 

2人はスライムを抑えながらも俺を心配してくる。

 

「……俺はいい、それよりお前ら──」

 

最後まで言おうとしたところで更に麻痺が付与されて口が動かなくなった。

せめてと思い()()に視線を送り、続けて天井をみる。

そして、スライムが接近してくることを感じながら俺は床に伏せてしまう。

 

 

 

 

ハヅキ目線

 

突然麻痺になった彼が更に深く床に膝を着いたと思えば私に視線を送り、その視線を天井に向けてそのまま倒れ込んでしまった。

 

「天井……?」

 

彼の視線の先、天井を見るとそこには周りにいるスライムよりも大きいスライムが天井に張り付いている。

 

「コハル、上っ!」

「え、上っ……て、えぇ!?」

「あれがこのスライムを落としてるんだよ、だから──」

 

天井のスライムの存在を教えてくれた彼を見てから一瞬だけ思考を回してコハルに指示を出す。

 

「私が引き付けるからコハルはラギの回復をお願い」

「うん、任せて」

 

少し心配させるんじゃないかと不安になったけどコハルは即答してラギの方へ走っていった。

 

「……ありがと、コハル」

 

ラギの周りには数体のスライムがいるけど、()()()()()彼女なら大丈夫だろう。

 

「……まだやった事ない、けど」

 

周りを囲むスライムを軽く避けて数の少ない場所に移動したところで天井に向き直して剣を構える。

《ホリゾンタル》を放つ時と同じように構えてとあるソードスキルを発動させる。

 

「……ふっ!」

 

周囲にはモンスターはいない、それでも剣は光を纏う。

それを確認して少し笑を零した私は天井に向けて半円を描くように剣を振る。

振った剣から白い光で半円状の光が発動し、天井のスライム向けて飛んで行った。

 

「《飛ぶ斬撃》って感じかな」

 

放たれた光がスライムに命中し、天井からスライムが剥がれ落ちて地面に落下した。

祇園にしても気持ち悪い音で落ちてきたスライムは形をすぐに元に戻してこちらに近づいてくる。

 

「飛ぶ斬撃なんてSAOに存在しねぇだろ普通」

「さっきの凄かったね、ハヅキ!」

 

麻痺を回復したラギとコハルが私の方へ歩いてくる。

ラギは呆れながら、コハルはどこか楽しそうにさっきのソードスキルのことを言ってくる。

 

「詳細は後で、今は」

「あぁ、こいつを倒そう──あまり活躍できなかった分やらせてもらう」

「うん、やろう!」

 

3人同時に剣を構え、ボススライムに向かって駆け出した。

 

 

 

 

ラギ目線

 

「……ハヅキ、追撃頼む!」

「そりゃあ!」

 

ハヅキが落としてくれたボススライム──ブルージャイアントスライムとやらに一斉攻撃を始め、コハル、俺の順でソードスキルを当ててハヅキに託す。

気の抜ける声で放たれた《飛ぶ斬撃》はボスのHPを2割ほど削った。

 

「なんで!?」

「ハヅキ、奴の頭のテッペンだ」

 

物理攻撃が効いていないのが見てわかっていたため飛ぶ斬撃でもダメージは与えられないと思っていたハヅキの叫びを聞きながら原因を見つけた。

よく見るとボスの頭に青い球体のようなものがある。

ハヅキの放った斬撃がそれに当たった時に大ダメージが入ったのが見えたから確実にあれが弱点だろう。

 

「俺とコハルが攻撃を防ぐ!その隙にお前はテッペンを狙え!」

「わ、わかった……!」

 

なんて言ったものの、本当に『防ぐ』しかないってのは辛い話だ。

本来、SAOの仕様上ダメージを多く与えたプレイヤーに対してタゲが向く、今回の場合はハヅキがダメージを多く稼いでるだけでなくここから俺らが追加のダメージを与えるのは厳しい。

故に彼女に永久的にタゲが向いているわけで、防ぐ以外に攻撃を逸らす方法は無い。

 

()()()()()()打てないからお願い!」

「「了解!」」

 

ハヅキの支持に従い俺とコハルでボスの攻撃を一つずつ防いでいく。

偶に取り巻きを生み出してくるがそれら全てをコハルが片っ端から片付けていき、ハヅキが一撃を放つ前に役割が固定化されつつあった。

 

「──今っ!」

 

ハヅキに攻撃が一度も行かずに彼女の斬撃が放たれ、狙いを定めた一撃は再びボスの弱点に命中した。

先程と同様に一気にダメージが入り、ボスが怯む。

再び行動を再開したと思えばボスは突然爆発四散した。

 

「──させるかっ!」

 

巨大なスライムボディが爆発して飛び散った破片が降り注いできた。

嫌な予感がして《スピニングシールド》を使い被弾を防いだ。

 

「ラギ、あれ見て」

「防いでる途中に無茶言う──なるほど」

 

スピニングシールドの回転が止まらないように意識しているとハヅキから声をかけられ、彼女が指を指した先を横目で見る。

するとそこには先程までテッペンにあったスライムの弱点──コアが部屋の中心に浮いていたのだ。

 

「最後のあがきってやつか……ハヅキ、斬撃飛ばせないのか?」

「この音の中じゃ集中出来ない」

「気持ちはわかるが……」

 

先程から降り続いているスライムが壁や床に落ちる度に表したくないレベルの音が聞こえてくる。

確かにこの音を聴きながら集中は俺もしたくない。

 

「なら、お前ら一瞬だけ自分の身を自分で守れ」

「どうする気ですか?」

「こうするんだよ」

 

ハヅキが遠距離武器を使えないのなら、次に遠距離手段のある俺がやるだけのこと。

スピニングシールドから手を離してクイックチェンジで裏に装備しておいた短剣を取り出してコアめがけて投げる。

 

狙いを定める暇もなかったがなんとか命中し、コアはその場に崩れ落ち……

そして、【Congratulation!】の文字が表示され、俺たちは黒鉄宮に転送された。

 

 

 

 

 

 

黒鉄宮

 

「……なんとか勝てたな」

「どうなるかと思った……」

「ですね……」

 

タワークエストを終えた俺3人はクエストNPCの近くの壁に背中をつけるようにして座っていた。

 

「それでハヅキ、あの斬撃は」

「ラギは察してるでしょ、《スキルレコード》の一つ」

 

何となく察してはいたが、彼女が使った飛ぶ斬撃はやはりスキルレコードの一つだったらしい。

 

「新しいのが使えるようになったの!?なんで教えてくれなかったのさ」

「ごめん、使えるようになったのつい今朝だから……」

 

ハヅキの横に座ったコハルが驚いた様子を見せて初耳と反応した。

それに対してハヅキは申し訳なさそうに誤っている。

相変わらず仲のいい2人だ。

 

「スキルレコードの増加基準わからねぇんだよなぁ……」

「え?」

「悪い、口に出てたか?」

 

ふと思い出した事柄を心の中で留めておこうと思ったらハヅキがなんで?と言いたげな顔で俺の方を見てきた。

思ってたことが口に出てたらしい、とはいえいつか伝える気ではいたのだが。

 

「一応熟練度とかほかの2個を付けることで獲得できるものはあるんだけど、飛ぶ斬撃はスキルレコードを作った時には設定してなかったんだよ」

「……?」

 

俺の説明にハヅキは頭をかしげてクエスチョンマークを浮かべた。

これは話しても無駄そうだな、と思っているとコハルが急に立ち上がった。

 

「スキルレコードが増えたことはいい事じゃないですか!それよりほら、次、行きましょう!」

「あ、待ってよコハル……」

「……ま、難しい話は後でするか」

 

先にクエストNPCの方へ走っていく彼女を追うため立ち上がる。

先を走る彼女の後ろ姿に嫌な予感を覚えながらも俺とハヅキは彼女を追った。

 

 

 

 

 

そしてこの後、危惧していた事が起きてしまうのだった────。




お久しぶりです
暇が出来たから投稿頻度あげるとか言ったやつ出てこい
俺でした。


という冗談はさておき、久しぶりのタワークエスト攻略。
前はハヅキとコハルの2人だけでしたが、手に負えなくなりつつあるということでラギを助っ人に。
それでも苦戦、そこで発動飛ぶ斬撃。
なんとスキルレコードの一つ。



次回、不穏な空気が漂っていますがタワークエストの続きです。
何も無ければいいけどなぁ




補足
スキルレコードの増える条件
・レベルと武器熟練度の増加(飛ぶ斬撃は別)
・???
作中でも語られているとおり、条件は不明です。
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