ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

76 / 131
61:互いのため

ラギ目線

 

「……ん」

 

意識が戻り目を開けると、目の前には双丘があった。

 

「何故膝枕を」

 

この距離といい頭にある感覚といい、完全にどちらかの膝の上で寝ている。

いや、装備と双丘がある時点で片方なのだが。

 

「何か失礼なこと思ってるでしょ」

「んな事ねぇよ、ハヅキ」

 

膝枕をしている当人ではないハヅキの視線が横から感じる。

別に2人の差とか何も考えて無い。

 

「……それで、何故膝枕なんだ」

「コハル、ラギが胸ばっか見てるから早く答えて」

「ふぇ!?」

 

俺の質問に何故か答えようとしないコハルにハヅキがありもしない事を言う。

すると彼女は膝枕のままびっくりした声を上げる。

 

「誤解だ、ってか動けないからどうしても目の前に来るんだよ」

「……動けない?」

「とりあえず膝枕解いてくれないか」

 

俺の言葉に対し何か誤解をしてる2人に説明をするためにコハルに頼み込む。

難なく了承した彼女により地面に横たわった俺は未だ力の入らない右手で体を起こして壁に背をつけるようにして座る。

そんな俺の様子を2人は不思議そうに見てくる。

 

「俺の説明の前に質問に答えてくれ」

「……あ、はい」

 

明らかに質問を飛ばしてこようとしている2人が口を開くより先にコハルに発言を促した。

少し困惑しながらも口を開いた彼女は事の経緯を話し始めた。

 

 

 

数分後

 

「……なるほど、な」

 

彼女の説明──何故膝枕なのかを聞き終えた俺は少しは動かせるようになった右手で自分の頭をかく。

 

「俺に対する謝罪の意を込めての膝枕ねぇ……」

「……はい」

 

彼女から受けた説明を端的に言うと「迷惑をかけたからその謝罪として膝枕をした」とのこと。

迷惑や心配は俺よりも──

 

「心配してたのは俺だけじゃないぞ」

「そう、ですよね……

それに関してはハヅキに物凄く叱られました」

「だろうな」

 

彼女とずっと行動を共にしていたハヅキの方が心配はしただろう。

それこそ、見てわかるほどに自分を傷つけていたのだから。

 

「でもまぁ、その様子じゃ一応は大丈夫そうだな」

「はい、一応ですけど」

「うん」

 

目を覚ましたあとの二人のやり取りから仲に亀裂は入って無いようで安心はした。

 

「ところでなんでそんなに俺の事見てくるんだお前ら」

「それは……」

「だってラギ、さっき動けないって……」

 

先程から2人が妙に心配そうな顔で俺の事を見てくる。

それに対して質問するとコハルは躊躇い、ハヅキは全く躊躇いなく見てくる理由を口にした。

 

「簡単に言えばスキルの反動だ」

「反動?」

「あぁ、それも普通のソードスキル発動後の事後硬直なんて比じゃないレベルのな」

 

説明の補足として未だ重い右腕を上げる。

反動って言ってるがほぼ麻痺に近い気がする。

 

「でも、あんなソードスキル見たことないよ?」

「私も見たことないです」

「そりゃそうだろうな、あのスキルは……()()()だ」

「「奥義技?」」

 

2人が同時に首を傾げるのを見て本当に知らないものだとわかった俺は説明を続ける。

 

 

 

奥義技、アーガスのとある歴史オタクが「過去の有名人の使った技を使いたい」という考えから生まれたもの。

使用可能な武器種は()()()()()()()()()であり、一定の熟練度を超えること、そして公にしない隠し条件の2つを満たした者にのみ使える。

 

強力な一撃を放てる代わりに身体に過度の疲労のようなものが襲うため連続使用は不可能

 

 

「ってとこだ」

「と言われても……」

 

説明を終えて2人を見ると理解していないのか首を傾げていた。

 

「そのスキルっていうのがどんなものか分からなくて……」

「……コハルは仕方ないがハヅキは見ただろ」

 

奥義技の一つはタワークエスト内で発動した。

その時コハルは気絶していたから仕方ないがハヅキは見ていたはず。

だが、彼女は首を横に振った。

 

「見れなかったんだけど……」

「どういうことだ?」

「ラギが構えた瞬間にすごい光で何も見えなくなったの」

「すごい光ってなんだ……」

 

彼女が言うには構えを取ってすぐに槍に光が纏い、その光が部屋全体を包んでいたとのことだが

発動者の俺は構えを取ってから放つまで一切そんな光が発生したことはわからなかった。

 

「まぁとりあえず見れなかったならあの技の説明はするべきだな」

 

ずっと頭にハテナを浮かべてる彼女に呆れつつも俺の発動した奥義について説明を始める。

 

 

「あれは《ロンゴミニアド》、槍に設定された奥義技だ」

「ロンゴ……なに?」

「ロンゴミニアドだよ、ハヅキ」

「それって何なの?」

「アーサー王伝説に出てくるアーサー王最後に使用されたと言われる槍だ。

それをソードスキルに落とし込んだのが【聖槍・ロンゴミニアド】ってわけだ」

 

まぁアーサー王伝説を元にしたある作品を元にしてるのだが、彼女立ちに話すことでもないだろう。

 

「でもラギ、槍でもう一つ奥義技あったよね?」

「《ゲイ・ボルグ》か?あれは奥義技じゃないぞ」

「え、そうなんですか?」

「あぁ、あれは……企業秘密だ」

「「何(ですか)それ」」

 

奥義技に関しては公にすることを前提に作られていたから2人に教えたものの、ゲイ・ボルグの詳細はあまり公に出来ない。

 

「槍以外にも奥義技ってあるんですよね?」

「あぁ、片手直剣や短剣、他武器種にも設定されてる」

「なら、私も……」

 

俺が質問を返すとコハルは何かを考えるようにそう呟いた。

 

「……ハヅキ、ちょっと二人で話したいことあるから外に出てくれないか?」

「ん、わかった、湖畔公園で待ってる」

 

どうするか躊躇っていたが今のうちにやっておかないと取り返しのつかないことになりそうなため、無理を承知でハヅキに外に出るように促した。

すると彼女は詳細も聞くことなく外に向かっていった。

 

 

 

ハヅキが黒鉄宮から出ていったのを確認してコハルの方へ顔を向ける。

 

「ラギさん……?」

「コハル、正直に答えろ」

「は、はい」

 

彼女は先程俺を膝枕していた状態のままで困惑しながら俺を見てくる。

そんな様子を見ながら質問するのは気が引けるが……

 

 

「……なんで俺を庇った」

「それは……体が勝手に」

 

コハルは俺の質問に対し何かを誤魔化すように目を逸らしながら答えた。

 

「本当にそれだけか?」

「どういう──」

「あの場で俺を庇って死ぬ気だったんじゃないのか」

「……っ」

 

彼女はわかりやすい反応を見せる。

俺の言葉に対して動揺した彼女は慌てながら俺を見てくる。

 

「へ、変なこと言わないでくださいよラギさん

そんなこと、証拠も何もないじゃないですか」

「証拠、か──」

「そうですよ、私が死のうとしてたなんて、そんなことあるわけ──」

 

彼女は動揺しながら誤魔化そうとして俺の発言の説明を要求してくる。

お前が一番わかってるだろうに……

 

 

「コハル、お前は俺の装備の耐久値は多少なりと高いってのはわかってるだろ

ならお前はあの場で俺を庇う必要は無いはずだ」

「ラギさんの装備の耐久値でも、HPが全損する危険だってあったじゃないですか」

「あぁ、そうかもしれないが少なくともお前よりはその危険性はなかった。

それにあのミノタウロスは片手直剣で抑えられる程度の力だったから俺の装備なら耐えてただろうな」

「──何がいいたいんですか」

「だからお前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そうだろ」

「……何で私がラギさんの装備の耐久値を知ってると思ったんですか」

「それは、お前が────」

 

俺は彼女が持っているとある力を知っている。

だからこそ根拠の薄い話を彼女にしていた。

それが何なのかを話すのは今じゃないのだが。

 

「……知ってたんですか」

「前にルナに話しただろ、今朝ちょうどその話を今更ながらされたんだ」

「そう、ですか……でも、それを私が知っていたとしてもあの場で庇ったのは──」

「ハヅキを置いて死ぬ為、だろ」

「──っ、違います!」

「いいや、何も違わねぇだろ」

「なんでそんなこと言うんですか……っ!」

 

コハルは座りながらも俺の胸ぐらを掴んでくる。

言いすぎたかもしれないが、()()である以上俺も引下がる気は無い。

 

「アルゴから聞いたんだよ、お前が死のうとしてるってことを」

「なんでアルゴさんが……」

「お前、前にアルゴの傍でそう思わせる発言してないか」

「それは……」

 

俺の言葉に思い当たる節があるようで、胸ぐらを掴んだ手を離して俯いてしまった。

タワークエスト開始前、俺はアルゴから話を聞いていた。

そこでアルゴは俺達が第6層に行って赤服の剣士と戦闘していた時、後ろにいたハヅキが俺を助けるために飛び出した瞬間、コハルも前に出ようとしていたが足が震えて前に出ることが出来なかったとのこと。

そしてそんな彼女から出た言葉が──

 

「『私がハヅキを守らなきゃ』……って」

「……確かにそう言いました」

「もちろん俺もそれだけでお前が庇って死のうとしてるなんてことは思わなかった、だがお前は続けてこう言った」

 

──どうなってもいいから、彼女を救わなきゃ

 

「……」

「アルゴはその言葉を聞き逃さなかった、そしてその言葉がどんな意味なのかを考えた

その結果、お前がどこかのタイミングで誰かを庇って死ぬんじゃないかって考察したわけだ」

「……だって、そうでもしなきゃ私は──」

 

彼女は俯いたまま小さな声で何かを呟いた。

微かながら聞こえた声はコハルの思いを口にしたもの。

 

「私は、みんなの役に立てないんです──」

「役に立つ、ね……」

 

そんな彼女の言葉を復唱しながら俺は彼女の方を見る

彼女も俺の方を向いており、目が合った。

 

「私はやっと、ずっと一緒にいたいと思える人と出会ったんです、でも──

いつも、ハヅキはずっと前を進んで、私はそれに着いていくしか出来ないのが悔しいんです」

 

彼女は内に秘めていた本心を語り出した。

 

 

最初はただショッピングをするためにVRを使っていた彼女が興味本位で遊んでみたSAO、そのベータテストでハヅキと出会った。

その後、本サービス開始後に会おうと約束したものの、デスゲームと化したことで2人は会うことが出来ず1ヶ月が経った。

ある日偶然ハヅキと再会した彼女はタワークエストでの一件を終えたあと攻略に参加し始めたが、スキルレコードやハヅキの単純な強さからコハルが守られることが多くなってしまい、遂には危険なボスへの攻撃なども率先するようになり彼女との差を感じてしまっていた、ということらしい。

 

「……だから、せめて何かで役に立とうと思ってあんな行動に出たのか」

「……はい」

「はぁ……」

 

彼女の発言全てを聞いた俺はため息を吐きながら壁に寄りかかっていた体を上げ、さすがに動かせるようになった右手で彼女のおでこにデコピンを一撃喰らわせる

 

「痛っ……何する「何馬鹿なこと言ってんだか」……?」

「お前はとっくに役に立ててるってことに気づけ」

「……え?」

 

思ったより力がこもっていたらしく、デコピンを受けた彼女は額を抑えながら俺の方を見てくる。

それに対して彼女へ真実を伝える。

 

「その様子じゃ本当に気づいてないみたいだな」

「私は何も……」

「……俺は、ハヅキの()()()()()を一度しか見たことがない」

「それが私となにか関係が?」

「あいつが本当に楽しそうに笑う時は、いつもお前が隣にいる時なんだよ」

 

そう、ハヅキの笑顔に曇りがあることを俺は知っている。

何故そうしているのかは分からないが、そんな彼女が本当の笑顔を見せるのはコハルのそばにいる時だけ。

俺にも一度見せたが、それでも本心を伝えられる相手は今はコハルだけなのだろう。

 

「お前は自分で気づいてないだけで、ハヅキの心の支えになってるんだよ」

「でも……」

「それでもまだ役に立ててないって言うなら、あいつのそばにいるだけでいいんだよ」

「ラギさん……?」

 

俺は無意識のうちに彼女の頭に手を置いて撫でていた。

 

「別に、役に立てなくても、力になれなくてもいいじゃねぇか

一緒にいたいと思える友人、そんな相手と一緒にいるだけでいいと思うよ」

「そんなの、迷惑じゃ……」

「ハヅキに、周りの人間に1度でもそう言われたことあるか?」

「……っ!」

「お互いがお互いを支える、それだけでもお互いのためになる

それに、目の前で心を許せた友人が死ぬのは見たくないだろ」

「そう、ですね……」

「何か困った時は周りを頼ってもいいし、ハヅキだって力を貸してくれるさ

だから、歩幅が会わなくてもお前らはパートナーだ」

「……はい」

 

伝えたいことを伝えて頭から手を離す。

途中から涙を流したコハルが落ち着くまで何故か手を握られたが、振り払う理由もなかったのと落ち着かせるためということで俺からは離さなかった。

 

 

 

「……すみません、落ち着きました」

「そんじゃ、話したいことも終わったし湖畔公園に行くか」

「あ、ちょっと待ってください」

「……?」

 

数分後、コハルが落ち着いたのを確認して完全に治った体を動かして立ち上がると、彼女が俺を呼び止めた。

先程、泣いてる間ずっと俺とハヅキの名前を連呼してたのを忘れて欲しいという要求かと思いきや……

 

「私、少しでも強くなりたいです

だからその……特訓して欲しいです」

「なんだ、そんなことか……」

 

言われるかもと思っていた事を見事に言った彼女に少し苦笑いが出てしまった。

今からの期間中にやりたいところだが、生憎俺にはやらなきゃいけないことがある。

 

「悪いが今は出来ない、それに強くなるならハヅキと一緒でいいんじゃないのか?」

「ハヅキと一緒じゃ、差は開いたままですから」

「なるほどな、それなら……

()()()()()()が片付いたら手伝えることは手伝うよ」

「事情……はい、わかりました」

「深くは聞いてこないんだな」

「ハヅキから大体は聞きましたから」

「……あいつ、後で叱らないとだな」

 

事情、と言えるものかはさておき

俺は夕立の霧雨からの脱退をするまではあまりそういったことに付き合うことは出来ない。

それに、ハヅキ抜きで外出することは慣れてるらしいがその行き先が俺となると色々とあるだろう、嫉妬とか

その辺を踏まえて今はできないということだが、彼女は潔く了承した。

 

「……さて、行くか」

「はい」

 

気を取り直してそんな噂の彼女がいる湖畔公園へとコハルと向かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

ハヅキ目線

 

(何、話してるんだろ)

 

ラギに言われて詳細も聞かずに湖畔公園に来てしまった私は水の音と風の音を聴きながらボーッとしていた。

 

(コハルは……)

 

さっきの一件。

タワークエスト内でコハルはラギを庇ってレッドゲージになり装備を失った。

クエストクリア後、目を覚ました彼女はラギから貰った装備を着て彼を膝枕した。

なんで、コハルはあんな行動に出たんだろ

私は、何も出来なかった。

彼女が吹き飛ばされたあの瞬間も、ラギの言葉があったから我に返ったけど、何も考えられなくなっていた。

 

(私は、コハルと一緒にいちゃダメなのかな……)

 

そうだ、私が一緒にいなければコハルはあんな目に遭うことは無かったはず。

 

 

 

「せっかくの美顔が台無しだぞ」

「……うるさい」

 

嫌な考えは後ろからかけられた声によって掻き消された。

やっと戻ってきた彼と彼女が後ろに立っている。

 

「何なの、美顔って」

「適当に言っただけだ」

「失礼でしょそれ」

「なんの事だか、それよりほら、帰るぞ」

「ん、わかった」

 

ラギにからかわれて少しだけ堕ちかけた心が安らいだ。

彼に言われ帰路に着くため立ち上がり後ろを振り向くと、どこか様子が変わったコハルと何も変わらないラギが私を見ていた。

 

「じゃ、俺は宿屋通りだから」

「いや、私達もそっち」

「そりゃそうだわ」

 

そんな、他愛もない会話をしながら私達はそれぞれの宿へ──ラギは夕立の霧雨の元へ帰った。

 

 

 

「ね、ハヅキ」

「なに?」

「──ありがとう」

「……うん」

 

ラギと別れたあと、コハルにそんなことを言われ、静かに頷いた。

 

 

 

私はいつまで、この関係を続けられるのだろう──

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

ラギ目線

 

ギルドハウスという名の宿屋に帰った俺はシズク達からある一件に巻き込まれたことを伝えられた。

その内容含め、先程湖畔公園で見たハヅキの姿に少し嫌な予感を感じていた。

 

「……まさか、な」

 

そんなマイナスの事が起きるわけないと自分で考えを振り払い、シズク達が巻き込まれた一件をメッセージに簡潔に書いてとあるプレイヤーへと送信した。




お久しぶりです


ついに明らかになったコハルの思い
それに対するラギの答えと解決法


そして、ハヅキの思い
彼女達の思いは交差し、何かを起こすことになる……かも?


そしてシズク達の一件とは?


ちなみにロンゴミニアドの元ネタはFateシリーズ
イメージはアルトリアランサーのロンゴミニアドではなく
グレイのロンゴミニアドの方が近い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。