ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
(夕立の霧雨編最終話)
カエデ目線
負けた。
何一つ手を出せずにあっという間に私は倒れた。
それだけ、先輩とは力の差があった、ということだろう。
「……俺の勝ちだな」
仰向けに倒れた私を覗き込みながら隣に先輩が座った。
勝ち誇るようなことはせず、むしろ吹き飛ばしたことに対することに心配してる。
そっか、これが私の先輩──如月春揮なんだ。
「……はい」
先輩の一言に対してそれしか答えられない。
それ以上の事は、何も言えない。
ギルドを抜けると言われたことに対しての怒りはもう既に無くなってる。
あれだけ見事に負けちゃったら引き止める気も起きないよ。
でも……これでお別れなら、この気持ちだけは───
「先輩、失礼します」
私は起き上がって先輩を引き寄せた。
「ん。何を───」
そして、先輩を優しく抱きしめた。
どう思われてるかはわからない、それでも私の気持ちだけは伝えたい。
「……先輩」
「何だ?」
「私、先輩の事が好きです。
あの日、会った時からずっと、先輩が好きです」
「……そうか」
先輩は私の告白に対しての答えとして私の頭を撫でてきた。
さらに言葉を続けた。
「俺も、お前が好きだったのかもな
俺を、手の穢れたこんな俺を先輩として頼ってくれて、
「せん……ぱい……」
「だからこそ、お前がこの世界にログインしてたことを知った時、失う可能性を考えてしまったんだ。
俺がそばにいればお前ら3人を守ることは出来るが同時にお前らを危険な目に遭わせるかもしれない、実際に危険な目に遭わせたこともあった。
だから、お前らをそんな目に遭わせたくないから、このギルドを抜けようと考えてたんだ」
「……そう、だったんですね」
先輩が静かにこのギルドを抜ける理由を話してくれた。
どれだけの思いを抱えていたのか、それを知らずに私は勝手なことを言ってたんだ……。
「お、おい泣くなよ……」
「まぁ、そんな理由話されたら泣くでしょ」
いつの間にか私の頬には涙が流れていた。
そんな私を見て先輩は困惑しながらも慰めるように頭を撫で続けてくれている。
後ろでライムが呆れてシズクは私と同じように泣いてるみたいだ。
「……黙ってて悪かった」
「私たちのことを思って……なら仕方…ぐすっ」
「シズク、ライム、こっち来いよ」
「ん、ほらシズク」
「……うん」
シズクとライムが私の横に座ると先輩が私たち全員を抱きしめてきた。
決して力は入れてなくて、すごく優しかった。
「俺の身勝手で抜けることを、許してくれるか?」
「……嫌だよ」
「そりゃそうだ、許されるわけはない」
「……だから、一つだけ約束して」
「ん、何だ?」
シズクが立ち上がり先輩に手を伸ばした。
伸ばされた手を掴んだ先輩を邪魔しないように私は抱きつくのをやめて2人を見上げた。
「このギルド、夕立の霧雨から抜けるのはいいけど──
ラギは、このギルドのメンバーだから。
これは、リーダーとしての命令っ!」
シズクは泣きながら、先輩をちゃんと見て言葉を続けた。
「いつか、また戻ってきて」
シズクは、笑顔でそう言った。
──────
ラギ目線
「……なんだ、そういう事か」
「む……納得いってなさそう」
「そりゃ、もう聞いた願いだからな」
「……ふぇ?」
シズクが口にした
それに似たことを少し前にある奴からも言われていた。
「な、ライム」
「……黙っとくって言ったじゃん」
「えっと、どういうこと……?」
「実は、ギルドから抜けるって話、ライムには先にしてたんだよ」
「「えっ」」
衝撃の事実にシズクとカエデが同時にライムを見る。
当人は呆れながらも俺を睨んでいる。
許せ、彼女たちが後で知るよりマシだ。と目線で言葉を送る。
「前に、ちょっとね……抜けることへの拒否をしない代わりに条件を設けたんだ」
「それが、シズクと同じだったんだよ」
「それじゃあ私がギルドリーダーとして命令したのって……」
「……ギルドリーダーには逆らえないな」
「えっ、それじゃあ……?」
シズクが未だに泣きそうな目をしながらも俺の言葉に反応を示した。
分かりやすく表情が明るくなったが、そもそも俺だって完全にギルドから抜けるつまりは無い。
「俺だってこれで永遠のお別れ、なんてのは望んでないよ」
「それで、どうする気なのさ」
「まぁそう急かすなって」
少し拗ねてる様子のライムに答えを催促されるが何とか抑える。
そして、シズク、カエデ、ライムの順に顔を見てから口を開く。
「シズクとライムの二人と交わした約束、いつかこのギルドに戻ってくる。
それは必ず守る、だが……戻ったとしてもずっと一緒にいるってことは保証できない、それでもいいか?」
「最近のラギと同じってことでしょ?」
「まぁ、そんなところかな。
それと、もう一つ、お前らの元に戻ってくるまでに本当に助けが必要だと思った時、どんなとこにいても助けに行くと約束するよ」
これまた矛盾しているってことは理解してるが、ギルドへと再加入するまでの間に彼女たちが本当に危険になった時、助けに駆けつける。
そんな出来るかも分からない事を約束するなんて許されるわけ無いんだが。
「……その時が来ないように私達、強くなる!」
「あぁ、逆にラギの力になれるようにね」
「うん!」
「……ありがとな、お前ら」
「ラギこそ、ありがとう」
3人が決意を固めたところでシズクが感謝とともに手を差し出してきた。
「私達、頑張るから、ラギが戻ってくる日まで
だから……ラギも、頑張ってね」
「あぁ、頑張るよ」
差し出された手を握り、握手と約束を交わす。
シズクも泣きやみ、笑顔だ。
「……さて、これ以上長くいる訳にも行かないな」
「しばらくは、お別れなんだね」
「ん、レベリングとかで会うかもな」
「有り得るよ、私達も前線に上がるだろうし」
「ま、その時はその時だ」
「……うん」
ライムが珍しく寂しそうに話しかけてきた。
いつもツンツンしてるがやっぱり思うところはあったみたいだ。
「シズク」
「なに?」
「ギルドリーダーとして、頑張れよ」
「うん!渡された
シズクを応援し。
「カエデ」
「…はい」
「こんな先輩を、必要としてくれて、ありがとう」
「それなら私だって……私のわがままを聞いてくれてありがとうございました、先輩」
カエデに感謝を伝え、感謝を貰い。
「で、ライム」
「おまけみたいな言い方だけど、何」
「あの日の答えを聞いてない。
俺は──お前を救えたか?」
「……あぁ、
「……そうか」
ライムへ確認を行い。
「改めて、俺の矛盾に巻き込んですまない
そして、ありがとう」
3人の顔をしっかりとみてから謝罪と感謝を伝える。
「……またな、お前ら」
「うん!」
「はい!」
「うん」
3人に別れを告げて取り出した転移結晶を使い第一層へと転移の操作を行う。
場所を指定したことで転移が始まる。
「ラギ──っ!」
転移する寸前に、シズクが呼びかけてきた。
「私は!ラギの事が───」
彼女が最後まで言う前に転移の光に包まれて声が聞こえなくなってしまう。
だが、彼女が何を伝えようとしたのかは口の動きを見ればわかった。
第一層:湖畔公園
こんな俺の、わがままで矛盾した馬鹿げたことに巻き込んだってのに。
彼女は、彼女達はあんなことを思ってくれるんだな。
──ラギの事が、好きだよ
シズクが、俺の転移する寸前に言っていただろう言葉だ。
「……俺は、お前らを選べない」
初めて会った日から、手を差し伸べてやらないといけない、そう思ったやつを救いたい。
どうしようもなく自分に似た少女を導きたい。
そう、一度あったあの瞬間に感じていた。
だから、彼女達を選べない。
「……とんだ屑野郎だよ、お前は」
一を選ぶために、複数の恋愛感情を切り捨てた、そんなとんでもなく救えない馬鹿に対してそう呟く。
今すぐにでも殴ってやりたいが、遅い時間で少し人がいる中でやる訳には行かないため暴言だけで済ませる。
「……ラギ?」
ふと、後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。
振り向くとそこには久しぶりにあった気がする少女が立っていた。
「久しぶりだな、ルナ」
「うん、久しぶりだね」
「……どうしたんだ、最近帰ってこなかったけど」
彼女はここ一週間程ギルドハウスにすら帰ってきていなかった。
連絡は何度かしていたが、返信は短く何をしているのかはわからなかった。
「ごめん、
で、でも、危険なことはしてないから……心配してくれてた?」
「そりゃ、お前のパートナーだからな」
「む、そういう時だけパートナー発言しますか」
久しぶりに会った彼女は初めて会った時から少し変わったが拗ねた表情や無邪気な喋り方はあまり変わっていない。
そんな彼女へと自分の思いを打ち明けることに。
「……俺、夕立の霧雨を抜けた」
「ラギ
「……も?」
「私もさっき、シズクちゃん達に話してきたの」
「理由は……聞くのは野暮か」
俺と別れたあとにギルドハウスへ戻ったシズク達にルナも脱退の件を伝えたようだ。
理由を聞きたいところではあるがしばらくいなかった時にやっていたことに関係してるのだろう。それを聞き出す必要も無い。
「シズク達、悲しんでただろ」
「うん、特にライムちゃんは凄く泣いてたよ」
「二人も抜ければそりゃ悲しいか……」
「それもだけど、ライムちゃんは
「思い?」
「うん、それがね……」
──────
少し前
「……私、まだ、ラギに……」
「ライム……」
「また……何も言えないままじゃんか……っ!」
3人の少女は彼と別れたという事実を改めて突きつけられたことによりそれぞれが涙を流していた。
そこにルナが現れて同じく抜けるということを伝えると、ライムがひとつの伝言を伝えてきた。
──────
「助けてくれてありがとう、そう言ってたよ」
「……俺は、本当に救えたんだな」
「うーん……よくわからないけど、ラギはいつも誰かを助けてるよ」
ルナは首を傾げながらそう言った。
「そう、だったらいいな」
「私だって、ラギと会わなかったらきっと……」
何かを言おうとした彼女に優しい風があたり髪が揺れる。
彼女が何を言おうとしたのかは理解したが、口に出すことはしない、いや──出来ない。
「──さ、私はそろそろ帰らなきゃ」
「……気をつけろよ」
「何かあったらちゃんと連絡するよ、それじゃ……またね、ラギ」
「あぁ、またな、ルナ」
ルナはどこか寂しそうにしながらも笑顔を見せた。
今の彼女なら、きっと大丈夫、なんて確証はないがそんなことを思う。
数分後──
「……さ、俺も……どうすっかな」
夜になり人気もほぼ無くなった湖畔公園に響く波の音を聞きながらそんなことを呟く。
夕立の霧雨を抜けた理由である
もし、彼女が、間違った選択をした時にパートナーですら手が付けられなくなったり、助けを求められたら俺は動くべきだろう。
それまでは、傍観者として見ているしかない。
「……傍観者。普段なら俺もそっち側なんだよなぁ」
管理者、というかアーガスの社員として内部設計に携わってる以上、バグやエラーを見たら直すけど、プレイヤーとして本格的に参加するということはあまりオススメはされないだろう。
それ故にこんなデスゲームになっても傍観者になり下がろうとした社員が2人ほどいたのだが。
「どうした、後輩君」
「ボイスチェンジと仮面のダブルコンボは通報モノですよ」
「やっぱり君って意地悪だね」
「何の事ですかね」
思考を巡らせていると後ろから肩を叩かれる。
振り向けば知らない仮面のプレイヤーがそこに立ってた。
「それはそうと君、ギルド抜けたんでしょ?なら私の手伝いしてくれる?」
「手伝いですか、いいですけど……どうしてそれを知ってるかは聞きませんよ」
「うむよろしい。
それじゃしばらくは私のタッグね」
「……はい?」
仮面を被った知り合いは有無を言わさずに俺へパーティ申請を送ってきた。
「ところでそっちもギルドあるじゃないですか」
「私は今ちょっと個人で動いてるんだよね、ギルドには入ってるけど」
「そうですか、それで手伝いってなんです」
「それはね───」
本来の目的とは少しズレたが、結局今は傍観するしか無かったため、多少はいいか、なんて自分に言い聞かせてしばらくはこの人と行動することになった。
これをあいつらに見られたら怒られるだろうなぁ……
───────
それから数ヶ月後。
「ラギさん……!」
「コハル?どうしたんだ?」
手伝いとやらも一段落してソロプレイヤーになった俺の元にコハルが訪ねてきた。
「ハヅキが………」
やけに焦った様子の彼女が口にしたのは───
「ハヅキがどこかに行っちゃったんです……!」
俺が危惧していた事が起きてしまったのだった。
矛盾を抱えて生きてく
それが、どれだけ自分を苦しめるのか
夕立の霧雨最終回でした
完全にギルドを抜けようとしていた彼に向けられた命令、『必ず戻ってくる』
彼が果たそうとしている目的が一体何なのか
ルナも抜け、3人に戻った夕立の霧雨。
彼女達はこれから成長を重ねていく。
仮面のプレイヤーさんが言っていた手伝いは次回以降で判明します。
ちなみにボイスチェンジはデスゲーム化したSAOだとごく一部しか使えないようになってます
次回、新章開幕──