ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
71:その日、全てが始まった(幕間)
これは、とある少女の物語。
2022年11月6日
午後一時半
アーガス社内
「聞こえてる?」
『うん、きこえてる!』
SAO開発元、アーガス社の内部設計班用オフィスの端に用意されている仮眠室。
その入口から一番近いベットの上であぐらをかいてノートパソコンを操作している男、木田は今通話をしていた。
通話の相手は現在『ロストソング』へとログインしている訳アリの少女、佐倉結。
本来なら仮想世界と現実世界の間で通話することは不可能だが、この男とただ今不在の春揮が試作したシステムにより結がロストソングにログインしている間だけは通話できるようになっている。
「それなら良かった、今からログイン処理を行うけど、もし何かあったらすぐログアウトしてね」
『はーい』
ノートパソコンでしか通話出来ないかつ、彼女との会話はアーガス社員の中でも6人だけ。
そのためログイン処理は今も尚オフィス内のパソコンとにらめっこしている白澤へと丸投げすることになる。
「てことで白澤君、頼んだわ」
「了解です、とりあえず前もって聞いといたPNと初期武器を設定してあるんで本人が準備万端ならすぐにでもログイン出来ますよ」
『じゅんび出来てます!』
「OKみたいよ、よろしく」
「はい、それじゃ一分ほど待ってください───よし、ログインさせます」
「──それじゃ結ちゃん、行ってらっしゃい」
『うん!行ってきます!』
こうして、2人の管理者に見送られ、少女はSAOへとログインした。
ソードアート・オンライン
第一層はじまりの街
「わぁ……!」
ログインした少女ははじまりの街にある中央広場の転移門前に降り立った。
ロストソングに似て非なる仮想世界の光景に目を輝かせ、辺りを見渡す。
「えっと、名前は……」
視線だけを左上に向けて自分の名前を確認する。
現在不在の春揮から《ユイ》は紛らわしいからと、曖昧な理由で拒否されてしまったため、別の名前を考える必要があった。
そこで彼女が考えたのが……
「《ヨシノ∕yoshino》……かな?」
左上に設定した名前が表示されている。
「えっと……どうすればいいんだろ……」
ログイン前に白澤と木田から「SAO内では本名と個人情報は言わないように」と注意されているため、先にログインしているであろう春揮や楓と会うことは難しく、さらにログインしてからどんなことをすればいいのかを教わってない──チュートリアルNPCがいるからと説明を放棄した──ためどこに行けばいいのかすらわからない。
「とりあえず誰かに聞かなきゃだよね」
「なーにを聞こうとしてる?」
「ひゃい!?」
周りを見渡して話を聞いてくれそうな人がいないか探していると突然後ろから声をかけられる。
思わず変な声が出てしまったが、落ち着いて声の方を見ると春揮と同じか少し高い背の女性が立っていた。
「あー、ごめんごめん、驚かせちゃったかな」
「ビックリした!……お姉さん誰?」
「おおう……その聞き方はSAO初めてだねぇ」
「あっ……」
「ま、いい子だろうし教えよう。私は《サキ∕saki》、お困りの女の子を助けるお姉さんだよ」
なんて言いながらウィンクをする女性に対して警戒が解けない……なんてことは無く、決して疑う様子すら見せないヨシノ。
「それじゃあ……色々教えて!」
「うーん、少しは警戒して欲しいねぇ……ま、良き良き。
とりあえずログインして最初にやることを移動しながら教えよう」
「はーい!……あっ、私はヨシノです!よろしくね、
「サキ姉…悪くない」
そんな会話をしながら彼女たちは商店通りへと向かっていく。
その後ろ姿を、見られているとも知らずに……
─────
はじまりの街:商店通り
あれやこれやと説明を受けてある程度の知識を頭に入れたヨシノは武具店へ寄っていた。
武器は使い勝手をロストソングにて確かめたが、SAOで初見の武器もいくらかあるために初期武器種である片手直剣以外を使おうか悩んでいる。
「悩んじゃうなぁ……」
「悩むよねぇ……」
なんて会話をかれこれ10回ほど繰り返しながら店内に飾られた武器を眺めている。
序盤のため武器のレアリティは全て最低限のものだけで、各武器ごとに2種類ずつと、かなり少ない品揃えだ。
だが、そこを気にする訳ではなく、彼女はあくまで武器種を見ている。
「あの、君達ずっと武器見てるけど、どうしたの?」
「「誰?」」
「こりゃ失敬、私は《ユミ∕yumi》、よろしく」
ふいに後ろから呆れた声をかけられた二人が振り向くと片手直剣を背負った茶髪のプレイヤーが立っていた。
「それで、何してたの」
「この子の武器選びしてたんだけど、中々選べなくてねぇ」
「ふーん……ちなみに君、SAOは初めて?」
「うん、βテストは色々あって参加出来なかったから」
「そうか……なら、武器種を絞る簡単な質問をするよ」
「……?」
茶髪の少女はそういうとおもむろに店頭の武器を1つずつ持ちヨシノに質問を投げかける。
1.武器は軽い方がいいか、重い方がいいか
2.武器は片手で使うか両手で使うか
そんな、簡単でわかりやすい質問。
ヨシノは少し悩みながらも2つの質問の答えを出した。
武器は軽く、両手で使う。
それによりユミは武器を数個に絞り出してヨシノへ手渡した。
「大剣の軽い素材使ったやつ、これは正直元が重めの武器だからおすすめは出来ない。
で、こっちが最適かな」
「これって鎌じゃない?」
「そ、ヨシノちゃんの使いたい武器の条件から絞れて最適はこれかなと、一応再細剣もあるけども……ま、当人次第」
鎌を渡されたヨシノは数回振ってみる。
店内も狭めのため大きな動きは出来ないが色んな動きを試してみたあとに小さく頷いた。
「これにする!」
「で、金は」
「……あ」
この世界におけるお金、コルを一切持ってないヨシノはしょんぼりとしてしまう。
「まぁこれも縁だし私が買ってあげるよ」
「いいの!?」
そんなわかりやすいヨシノに苦笑いを浮かべながら購入の操作を行うユミ。
購入完了したところで武器をヨシノへ手渡した。
その時に所有権云々のウィンドウが出たがすぐに了承して鎌はヨシノのものになった。
「ありがとう!ユミ姉!」
「……その代わりなんだけども、コル集め手伝って」
「あの鎌高いからねえ」
「え、そうなの!?」
「まぁ初心者が楽しんで貰えるようにするのも必要な事だからいいけど。
戦闘慣れのためにもコル集めしよっか」
「はーい!」
新しい武器を手に入れ、共に行動してくれる二人と共にフィールドへ出ていった。
それからしばらくの間フィールドにてモンスターを狩りコルを集めていき、早くも17時になろうとしていた。
はじまりの街に戻ってきてモンスターからのドロップ素材を売却して回復アイテム等を購入し終えた三人は今後どうするかを話し合っていた。
「こんだけ一緒にいたからかコンビネーションも完璧だよね」
「なら、ギルドの一つぐらい作ろうか?」
「ギルド?」
「そ、まぁまだしばらくは正式にギルドを立ち上げることは出来ないけど、将来的にそれもありかな」
「それじゃ、次ログインした時にもまたこの3人で行動しよっか」
そんなことを約束してメニューを操作するサキ。
だが、彼女の手は一番下の項目を触った瞬間に止まった。
「ね、ねぇユミ」
「どうしたの?」
「……ログアウトボタンが、無い」
「……え?」
サキの一言に言葉を失うユミ。
そんな2人の様子が明らかにおかしい事に気づいたヨシノは自分でもメニューを見てみるが、本当にログアウトするためのボタンはどこにも無かった。
白澤と木田が現実世界に残っているはずのため、この不具合も直ぐに対応されるはず……そう思っていると──
ゴーン、ゴーンと鐘の音が響く。
何事かと周りを見渡そうとしたその時、三人は──周りのプレイヤー達全員が突然光に包まれた。
「……ここ、は」
「最初のところ……ユミ姉?」
「二人とも、上だよ」
ユミの言葉に従い上を見るとそこには──
「何あれ……?」
赤い空に赤いフードの何かが浮いている。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ
私の名前は《茅場晶彦》、今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ。』
「茅場……!?」
「それって確か……アーガスの……」
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思うが、これはゲームの不具合では無い。
繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
茅場を名乗るフードがそういった瞬間に彼女らの周りにいるプレイヤー達は声を荒らげた。
そんな彼らの声など気にすることもせず、茅場は説明を続けていく。
『外部の手によるログアウトやナーヴギアの停止などは有り得ない、もし試みられた場合、諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される。』
「……え?」
「……どういうこと?」
『君たちは「どうやって」、そう思っただろう。
簡単な話だ。ナーヴギアから発せられるマイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』
「有り得ない……訳じゃないんだろうね」
「そんな……」
落胆するプレイヤー達へさらに追い打ちをかけるように茅場は詳細を説明した。
ナーヴギアを接続している外部電源の10分間の停止、ネットワークの二時間を超える停止、ナーヴギアの破壊や分解など。
それらを行えば脳を破壊するシステムが実行される。
そして、それを試みた人が既にいると。
『だがこれ以上同様の被害は起きないだろう、故に諸君らは現実に置いてきた身体を心配する必要は無い。
あらゆるメディアがこの件を報道している。よってナーヴギアが破壊される心配はないだろう。
さらに今後、ネットワーク切断猶予の二時間以内にナーヴギアを装着したまま厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して......ゲーム攻略に励んでほしい』
「…ふざけてる」
「サキ姉……」
「安全なとこに搬送されても私達の命が助かるわけじゃないって事でしょ」
「……その通りだろうね」
黙って話を聞いていたサキが静かに怒りをあらわにした。
それに答えるかのように茅場はさらに事だを続けていく。
『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。......今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に──
諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
「……は?」
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が完全にログアウトされることを保証しよう』
茅場はそう言った。それを聞いたプレイヤー達は怒りの声を上げる。
そして、サキとユミも同様に声を上げていた。
「そんなの無理に決まってる……!」
「どうして?」
「βテストでも、進めたのは少し先の層まで。
第百層なんて不可能に近い──というより無理なの」
「そんな……」
ショックにより崩れ落ちたヨシノは膝をつきながらも茅場の声に耳を傾ける。
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』
プレイヤー達は一切の疑問を持たず──プレゼントという言葉に多少の希望を見いだしてストレージを開く。
そこに入っていたアイテム──手鏡を取りだした瞬間に、広場全体が光に包まれた。
「一体何が……って、ユミ?」
「そういう君はサキ……なの?」
「二人とも見た目が……!」
「「ヨシノ(ちゃん)?」」
広場にいるプレイヤー全員が、もちろんここにいる三人も例外は無く、見た目が現実のものになっていた。
サキは茶髪ロングが黒髪ショートに変わり、身長はほとんど変化無し。
ユミは茶髪ショートから銀髪ショートへと変わり、身長が少し低くなった。
そして、ヨシノは───
「……ぁ」
今の彼女は、自分の身体を見ることは出来ない。
それ故に現実の姿がどうなっているかなどわかることは無かった。
そして、そんな彼女の容姿は──
「「可愛い…!?」」
「そ、そんなことよりなんで私達……」
ヨシノ、もとい結は火傷の影響なのか、髪の毛は黒色がほとんどだが、左端が赤くなり、寝たきりのため少し長めになっている。
彼女が危惧していた火傷の痕だけはほとんど肌にはなかった。
「──そうか、脳を焼切るレベルの電磁波を発するんだから、私たちの輪郭を読み取ることも不可能じゃない……のかな」
銀髪になり雰囲気がかなり変わったユミが憶測を口にする。
彼女らの中にナーヴギアの機能を全て理解してるものがいないため、憶測で終わってしまう。
だが、それ以上の疑問がある。
「……なんで、現実の姿にしたんだろ」
「そりゃ、さっき話してた『もうひとつのリアル』ってやつをいやでも認識させるためでしょ」
ユミはそう言うと宙に浮き続ける茅場に指を指した。
『──諸君らは今、「何故」と思っているだろう。
何故、茅場晶彦がこのようなことをしたのか』
「──聞く必要無い、行くよサキ、ヨシノ」
「あ、ちょっ……」
「ユミ!待っ──」
茅場晶彦の発言を全て聞く前にユミは二人を連れて広場から外れた場所へ向かっていく。
そんな彼女の表情は何かを決めたような顔だった。
第一層:商店通り∕路地裏
ユミ目線
「……二人とも」
「な、何?」
「ユミ姉……?」
茅場晶彦の戯言に耳を傾けたくなくて、私は二人を連れて無我夢中に歩いて路地裏へと入っていた。
二人は当たり前ではあるけど困惑している。
「死にたくないよね」
何も考えずにそんなことを二人に聞いた。
サキもヨシノも何も聞かずに頷いた。
それはそうだ、誰も死にたいわけない。
それなのに、あいつは……茅場晶彦は一万人も巻き込んだ。
自分の満足のために、多くを犠牲にしようとしている。
「……早く強くなって、この世界をクリアしよう」
「だね、ずっと篭ってるわけに行かないだろうし、そんなの御免だ」
「私も頑張る!」
二人と別行動をして、あわよくば二人はフィールドに出ないで欲しいなんて思っていたけど、その心配はないみたいだ。
「……行こう、3人で」
「「おー!!」」
私が手を出すと2人がそれを掴んで空へと上げた。
サキは決意とやる気に満ち溢れてる、けど──
ヨシノはどこか心配そうにしている。
といっても、私だって決して不安が無いわけじゃないし、これが普通だ。
「ヨシノ、何か悩んでたらいつでも言ってよ」
「ユミ姉……うん、いつか話す、かも」
「さ、サキが先行しちゃったしそろそろ騒がしくなってきたから行こっか」
「うん!」
いつの間にかサキが通りの出口でキョロキョロしているし、喜怒哀楽様々な様子のプレイヤー達の姿も見える。
話しているうちに茅場の話が終わったみたいだ。
そんなプレイヤーたちの中に、私には見覚えのある姿もあった。
「サキ、早く行こう」
「ん、行きますかね」
私の言葉に振り向いたサキは何を見たのか、やる気の満ちた顔をしていた。
────
数ヶ月後
ヨシノ目線
茅場晶彦によってデスゲームと化したあの日、私の、私たちの物語が始まった。
それが、どんな結末へ向かうのかはまだわからないけど、きっと生きて戻れる。確証はないけど、そう思える。
「そうだよね、はる兄──」
空を見上げると綺麗な星空が広がっている。
それは、あの日以降パーティに入ってくれた人達のような、光り輝くものだった。
新章……の前に幕間を
今回は今作の序盤から出ていた少女、佐倉結の物語、その序章です
ヨシノ、と聞いて勘のいい人は分かるかもしれないし、サキと聞いて勘のいいやつは気づくかもしれない。
次回、本編に戻り新章開幕──!
キャラ紹介
佐倉結∕ヨシノ
武器:片手直剣→鎌
詳しい過去は【EX:失われし歌、失われし愛】参照
訳あってアーガスにいる彼女な白澤や木田の助力でSAOへとログイン。
元アバターは黒髪ショートの少し背の高い大人びた女性、といった見た目だった。
デスゲーム後は黒髪ロングで左端の一部分が赤く染まっている。
???∕サキ
武器:片手直剣
容姿:茶髪ロング→黒髪ショート
ヨシノに声をかけた元気すぎる女性プレイヤー
面倒見がよく困ってそうな人を見るとすぐさま声をかける癖がある。
そんな彼女はいったい……?
???∕ユミ
武器:片手直剣
容姿:茶髪ショート→銀髪ショート
二人に声をかけた少しクールなプレイヤー
本当は人探しをしていたところで困り果てた二人を見てしまい無視するつもりだったが声をかけて力になった。
リーダー気質のある彼女が基本的に指示を行うようになっている。