ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~   作:桜花 如月

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72:事件はいつも突然に

俺、ラギが夕立の霧雨から一時脱退してから数ヶ月が経った。

あれ以降、俺はアルゴの協力を主に行い、レベリングを兼ねた情報収集をやっていた。

 

その最中、アルゴからシズク達の状況を定期的に伝えられたが、それぞれが持てる力を成長させているらしい。

 

 

「で、これが《迷いの森》の基本情報カナ」

「あぁ、と言ってもここはマップがランダムに移り変わるから役には立たないだろうな」

「そうなんだよナ、それが攻略の難易度を上げてるわけダ」

 

そして今日もアルゴへ情報を提供している最中だ。

今現在の最高層である第35層、その主街区となる【ミーシェ】のカフェで同層のフィールドである迷いの森について話していた。

 

「にしてもランダムにマップが切り替わるなんて、変な作り込みだよナ」

「ほんと、厄介だよ」

 

迷いの森は他のフィールドとは少し違うシステムになっている。

というのも、森が数百のエリアに別れていて、プレイヤーがその1つのエリアに1分以上いるとランダムで数百のエリアが入れ替わるという、とても面倒な作りをしている。

 

「あれ、ルー坊はここには関わってないのカ?」

「俺は何かと細かいところ弄ったり、スキル面の設定に回されてたからな、各層の設定全部は決めてないし、何よりも開発時代のままの設定が残ってるってのが珍しいよ」

「そういえばそうだったナ」

 

各フィールドに様々な仕様が施されている。

例えば第8層は少しイレギュラーはあったが吹雪が常に起きているため、気にならない程度にHPが減少していくようになってたり。

第6層のフィールドには沼地があり、入れば移動速度低下に防御力の低下などのデバフが付与される。

そういったシステムを実装したのは案出しが新田先輩たち、実装は宮田さん率いる内部設計上司組だった。

あの人たちが実装したものは本サービス開始後のデスゲームで改変がなされた部分が多いが、それでも全てを変えることは不可能だったようで、ここ最近の層は開発時代の設定が残っているところが多い。

そのうちの一つがこの迷いの森だ。

 

「最近はクエストの種類も増えてるし、何かしら起きそうな予感がするよ」

「そういうの口に出すと、本当になるゾ」

「本当になるのだけはやめて欲しいけどな」

 

こうやって話しているが、今も尚何かしらの事件が起きていないとは限らない。

ここ最近、PKギルドも表沙汰になってきてるし、警戒は怠れない。

 

「……それで、盗み聞きしてるお前は何用だ?」

「ム、ルー坊も気づいてたカ」

 

ふと俺は後ろに視線を送る。

俺の目線の先にある木の後ろに隠れた人物──コハルが慌てたように飛び出した。

気づくも何も、隠れきれてなかったぞ、ほぼ見えてた。

 

「す、すみません!盗み聞くつもりは無かったんですけど……ラギさんに話が」

「──優先する、要件を言え」

「……ハヅキが、どこかに行っちゃったんです」

 

コハルから発せられた言葉は、夕立の霧雨脱退前からずっと危惧していたことが起きてしまったことを意味している。

 

 

問題の彼女が行方知らずとなったのはつい数日前、前層攻略後の打ち上げが終わったあとすぐだったらしい。

 

 

「先に帰ったのかなって思って、借りてる宿屋に戻ってもハヅキはいなくて……その代わりに、これが」

「手紙……の代わりの記録結晶か」

「それがアル、ってことはダ……ルー坊」

「結論は聞いてみてからだ」

 

彼女がどこかに行ってしまい、記録結晶──言葉を残せる録音アイテムのようなもの──が宿屋においてあったということは、ある程度は決まってる。

それは──

 

 

『……きっと、コハルは怒ってるよね。

私が、突然何も言わずにいなくなったこと、コハルは心配してくれると思う。

もしかしたら、ラギに私の行方を聞くかもしれない。

でも、ごめんね……

私は、これ以上コハルと一緒にいることは出来ない

理由は……言えない、言ったところで何か変わる訳でもないから。

貴方は、幸せになって欲しい。だから……

──さよなら、コハル。』

 

「……あいつは何を考えてんだ」

「ラギさん……」

「ルー坊、落ち着「落ち着いてるよ、俺は」……そうは見えないケド」

 

アルゴの言う通り、俺は落ち着いてない。

落ち着くわけが無い。

どんな理由が、何があったのか知らないが、馬鹿野郎が好き勝手なこと言って去った。それが許せるわけが無い。

 

「見つけたら一発殴ってやる」

「ほら、落ち着いてナイ」

 

アルゴが呆れた様子で俺の肩を叩く。

これでも今すぐあいつの所へ行くことをしてないだけまだマシだろ、管理者権限でサッと飛んで殴ることも不可能では無いし。

不可能では無いが、彼女が何を考えてこんな行動に出たのか、その真意を聞くのはまだ、もっと時期を空けてからの方がいい。そんな気がする。

 

「とりあえず今は、ハヅキがどこに行ったのか全く情報がないし無理に捜索しても時間の無駄になるかもしれない

だからといって彼女の居場所を一切探さないわけじゃない。その為にも協力者はいくらか確保しないとな」

「協力者……ですか?」

「あぁ、ちょうど情報を裏で拡散出来る優秀な奴もここにはいるしな」

 

そう言いながらアルゴへ視線を送る。

ため息が聞こえたような気がするが彼女は小さく頷いてくれた。

 

「オレっちも暇じゃないケド、ルー坊と協力するってのはSAO開始時からの約束だからナ、キー坊やアーちゃん、他にも信用出来るヤツらをあてにしてみる。

っていうルー坊も誰かアテはあるんじゃないのカ?」

「……まぁな」

「……?」

 

アルゴの観察眼は恐ろしい。一切話してもないのに俺の考えを当ててきた。

アテ、と言えるか分からないが少なくとも敵対はしないだろう奴らに力を借りようと思ってるだけだ。

 

「ハヅキの方は一旦情報収集だけで、とりあえずは……コハル」

「は、はい」

「前々からの約束だったお前との特訓、そっちを優先する」

「……優先、ですか?」

「簡単な話だ──もし、ハヅキが()()()()()()時、前でさえ少しの差があったお前があいつと剣を交える……そんなことが起きた時、レベルや実力差がついてたら勝てなくなるかもしれないからな」

 

もちろん、それが起きないことが最高なんだがな。

いつでも、最悪は想定しておかないと、いざと言う時に動けない。

 

「……わかりました。ラギさん、お願いします」

「あぁ、しばらくの間よろしくな」

 

少し不安そうな表情のコハルは右手を差し出してきた。それを同じく右手でつかみ、握手を交わした。

 

「そんじゃ、ルー坊、オレっちはお先失礼するよ」

「ありがとな、無茶聞いてくれて」

「今に始まったことじゃないヨ」

「それもそうか」

 

アルゴと会話を交わし、彼女が先に去った後。

残った俺たちは近くのカフェで休憩していた。

 

 

「それで、ラギさんのアテってもしかして……」

「いや、夕立の霧雨じゃないよ」

 

頼んだ飲み物──コーヒーに似た何か──を飲みながらさっきの内容を質問しようとしたコハルの言葉を遮る。

もちろん彼女らを頼ることも出来る訳だが、()()力を借りる場面じゃない。

 

「俺のアテは……ヒミツだ」

「えっ」

「悪いな、力を貸してくれるかも怪しいし彼女達からあまり表沙汰になりたくないって話されてな」

「……もしかしてリアルからの知り合いですか?」

「ごふっ!?」

 

コハルからいきなりでた質問でコーヒーを吹き出しそうになった。

忘れてたが、彼女は割とこういう質問を躊躇いなくするんだった、後で注意しないとな。

 

「……ノーコメント」

「それ図星ってことじゃ……」

「とにかく、そっちは俺らに任せろ」

「……はい」

 

あいつらが力を貸してくれるかわからない以上は下手に名前を出せない。

だが、少なくとも一人ぐらいは力を貸してくれる……そう信じたい。

 

 

「それで、とりあえずはお前の武器を新調しようか」

「武器って事は……あの人ですか?」

「そうか、知りあいだったのか」

「前に一度、武具の調整して貰ったので」

「なら話は早いな、明日伺ってみよう」

「はい!」

 

そんなこんなで行方知らずとなったハヅキを探しながら俺とコハルはお互いの成長と()()()()()()のために特訓の日々を送る。

その裏で、事態が最悪へ向かっているなど、考えもせずに──。




新章開幕!

夕立の霧雨脱退から早数ヶ月後
情報をやり取りしてるラギとアルゴの元へコハルがやってきた。
『ハヅキが行方知らず』というラギの考えていた最悪へとことは進んでしまった。

果たして、彼女はいったい何処へ──


次回、久しぶりにあのキャラが……?
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