ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
ドアノブに手をかけた途端、俺の目の前にはメッセージウィンドウが表示された。
『部屋に入る時はノック!』
という当たり前のような、子供の頃に母親が教えるちょっとしたルールをメモに書いて壁や扉に貼る稀に見るやり方をメッセージにしている。
それにしてもノックなしで扉開けようとしたら出るようになってるってどんなシステムだ……?
「……のー?」
「…ん?」
「早く入らないの〜?」
「……どうしろと」
「書いてあるでしょ」
扉の奥から小さく聞こえたこの部屋の使用人……アキの声に応えるとごもっともなことを言われた。
無駄な抵抗としてノック無しで開けようとするが一切ドアノブが動かない。
仕方なくノックすると「どーぞー」とふわふわした声が返ってきた。
静かにドアを開けるとアキは木製の椅子に座り体を小刻みに揺らしていた。
「やっと来たね」
「悪い、話が長くなってな」
「ううん、積もる話もあるだろうから大丈夫」
アキは落ち着きながら俺を机を挟んだ向かい側へと手招く。
かなり遅くなってしまったことを謝罪しながら座ると彼女に視線を向けてたから気づかなかったが椅子にはクッションが置かれていて木製ゆえの硬さは軽減されていた。
「ほんとはお茶とか出したいんだけどあいにく個室は個人費用で整備しなきゃ行けないからまだ用意できてないんだ」
「別にそこまで気を配らなくていいんだが」
「せっかく2人きりの時間だし少しぐらいもてなさないと」
「なら……ほら」
ギルド内の費用の管理がどうなってるかを明かされた気がするが話半分に聞き流し、何か出せないかと唸るアキにとある瓶を取り出した。
瓶の見た目こそ回復ポーションが入ってるあの瓶と変わらないが中身は全く違うものだ。
「なにこれ……麻痺毒?」
「んなわけないだろ、開けてみろ」
「ん……うん?」
誰が久しぶりに再会するやつに麻痺毒渡すんだよ
と叫びたくなったがそんな気も起きず開けるように促した。
アキは恐る恐る瓶を開けて匂いを嗅ぐがイマイチピンと来ていない。
「嗅いだことあるような……ないような……?」
「知る人ぞ知る飲み物だからな」
「何それ……って、なんか飲み物にしては少しドロドロしてる…?」
瓶から少しだけ出して手に乗せると液体にしてはドロドロとしたものだった。
それが何かと言うと………
「蜂蜜だ」
「もしかしてはち「それ以上はダメだ」えっ」
蜂蜜……正確にははちみつレモンのような飲み物だ。
ある社員が謎の歌とともにこの飲み物を開発していたらしいが、その元となったものは一応俺も知ってはいる。
そしてアキも元ネタが何かを察して口に出そうとしたがギリギリで遮る。
「舐めると足が早くなるやつだよねこれ」
「だから言うなって」
SAOにこんなもの実装してよかったのかと先輩方が頭を抱えていたが、それ以上の問題──誰かが実装した双剣だとか槍だとか──の対応に尽力していたためそれどころじゃ無かったらしい。
「……ほんとに飲んで大丈夫?」
「なんで疑うんだよ」
「ここまで再現されてると不安になるの……まぁお兄ちゃんのだし……あむっ」
妙に疑いがかけられているが何も怪しいことは無い、はず。
あのはちみつレモンもどきがどんな味なのかわからないのが一つ不安なところだが……
「甘っ!?」
手に乗せた分を一気に口に入れてすぐアキはそう叫んだ。
はちみつレモンってそんな甘いものじゃないはず……と思い俺も少し貰い口にしてみる。
「……なんだこれ」
「ホントなにこれ!?」
「第十層の甘味以上に甘いぞ……」
SAO内のNPCが販売する食べ物の大半はアーガス社員が考案したものだ。
もちろんこの飲み物も件の社員が開発したのだが何故こんなに味の設定を間違えられるのだろうか。
甘いってもんじゃない、言うならば砂糖を溶かしまくった水をがぶ飲みしたようなそんな感覚が口に残る。
「お兄ちゃんも初めてだったの!?」
「あぁ、見つけたのがつい最近だからな」
つい昨日買い物してたら見つけてしまい購入だけしてストレージに放置していたのだがこれは食べない方がいいものだ。
何が足が早くなる、だよそれどころかHP全損するぞ……と言いたいところだがよく考えたらポーション系はまともな味がなかった。
そもそもSAOにそこまで味を再現できるようなシステムはない。
料理スキルを極めた人ならもしかしたら醤油とか作るかもしれないがそんな奴はそうそう現れないだろう。
「……悪い、変なの渡して」
「いやいや、これはこれで美味し……くは無いけど」
「だよなぁ……」
そもそもうちのギルド……夕立に試しに飲んでもらうつもりで買ってたものだが、久しぶりに会った妹にこんな渋い反応をさせてしまった。
ものすごく落ち込む訳じゃないが、申し訳ない気持ちがものすごい。
「でも、お兄ちゃんがくれたってことだけでも嬉しいよ」
「ならいいけど……」
そんな気持ちが顔に出てたのか、アキは優しく微笑んだ。
これだけの笑みを見せてくれたのは嬉しいが、それでもやっぱり申し訳なさが勝ってしまう。
「そんなに気にしなくていいよ、その代わり──
この一件が終わったあと、私とデュエルして」
「それぐらいならいいが……あいつらは許してくれるのか?」
「うっ……確かに」
代わりとしてデュエルしようと頼んできたが、今日の一件でかなり勝手な行動は目を光らせてる奴がいるため簡単には出来ないだろう。
久しぶりに会った妹の願いのひとつぐらいは叶えてやるか……
「まぁそっちの件はどうにかするよ」
「ほんと!?」
「どうにかするっていってもあいつらが許してくれる気がしないけどな」
「でもお兄ちゃんならOK出されると思う!」
「ならいいけどな」
今回叱られたのは突然の事だったからだとは思うが、デュエルすることをいいものと思ってないやつも中にはいる。
なんて考えているうちに屋上へ視線が映っていた。
「……あの家みたいだな」
「あっ、気づいた?」
部屋に入った頃は気にしなかったが、この部屋の内装には見覚えがあった。
それが、俺たちが
「あの家で住んでた時の記憶、少しは残ってたから」
「……無理するなよ」
「大丈夫だよ、鮮明に思い出さなきゃ症状は出ないから」
彼女は体を小刻みに揺らしながらそう答える。
だが、彼女の声は明らかに暗くなった。
それも仕方ない。
あの事件から数日後、目を覚ました彼女は一時的とはいえあの事件に関するもの──俺や親、ましてや誰かと会うことに対してすらも──を拒んだ。
それだけじゃなく、俺や祖父母が会いに行っても彼女は俺たちのことを朧気にしか覚えていなかった。
端的に言えば記憶障害、詳しく言えば彼女は自分の目。そして失った両親、その原因を撃ち殺した俺、その全てから目を逸らそうとした結果大きな記憶障害を起こしていた。
一時的なものだと言われていたためしばらく会うことすらしなかったが、その間に彼女のその症状はある程度快復していったらしい。
それでも俺は会うことせずそのまま今に至ったから今がどうかは分からないが……
「まだあの時の景色がたまに浮かぶけど、もう何も忘れないし支障はないよ。
……だからこそ、こうやってこの部屋も作れたから」
「……お前が苦労してたのに俺は」
「大丈夫だって!こう見えて私は中学じゃバンドリーダーだからね!」
「…すごいな、お前は」
話してる途中も声が震えていた彼女は気を紛らわせるためかギターを弾くふりをしながら自慢げに話す。
頑張っているのか無理してるのかわからないが、それでも前に進もうとしている彼女を見ると自分が何も出来てないことが悔しくなる。
「──お兄ちゃん、ちょっとこっち来て」
「……?」
突然千秋がため息を吐いたかともえば机の横へ立つように手招いてきた。
「そこでしゃがんで」
「ん?」
何をしてくるのか何となくわかったが何も言わずに指示に従うと──
「ありがとう、お兄ちゃん」
彼女は俺を抱きしめて頭を優しく撫でてきた。
少し抵抗しようと思ったが彼女の言葉で動きが止まる。
「きっとお兄ちゃんはずっと自分を責めてたんだよね。
でも、それは私だっておなじ。
病院に来たのがお兄ちゃんだってわかってたはずなのに、事実に目を背けて記憶を塞ぎ込んだ、それが本当に悔しくて、でも無理だった。
だからお兄ちゃんはいなくなったんだって、すぐにわかったよ」
「……でも、俺はお前の前どころか」
「おじいちゃん達から話は聞いたし別に悲しくはなかった。
私があんな態度取っちゃったからこその選択だから仕方ないって。
でもいつか会えるかなって思って過ごしてたら退院してからいった中学でお兄ちゃんと目が合って、元気なんだってわかったからよかった」
「逃げたんだぞ?」
「……鈴さんも言ってた、お兄ちゃんがすごく悔やんでるって。
でも、それでもお兄ちゃんはあの事件から目をそらすことなかった」
「それだって、ほんとは──」
「私は、お兄ちゃんがちゃんと生きてたことが嬉しいんだよ」
「……っ!?」
千秋は言い切ったと同時に俺を強く抱き締めた。
胸に当たってるとかそんなことよりも、彼女から出た言葉に俺は何も言えなかった。
「聞いたよ、鈴さんから全部。
私の事を気にかけてくれてたことだけじゃなくて──
お兄ちゃんが中学卒業後に命を絶とうとしたことも」
「……そこまで聞いてたのか」
彼女が言ってることは、サキが言ったことは全て正しい。
中学卒業した翌日、俺は何を血迷ったか通っていたその中学で死のうとした。
それを止めたのは今となっては名前も覚えていない生徒だったが、すぐに天崎へ伝わって酷く怒られた。
祖父母にも連絡がいったが何か言うわけでもなくただ俺に一人暮らしをさせて──実質関係を絶たれた。
この一件は当事者と一部の人間にしか知られてないし再開した時にも一切を話さないと決めたが、サキとしては兄がそんなことをしたという事実は妹へ伝えたかったのだろう。
きっと、無関係では無いから、と。
「理由は聞かないんだな」
「どうせ教えてくれないでしょ……?」
「……まぁな」
全てを聞いてるだろうアキ……千秋はどうして俺がそういう行動に至ったのかまでは知らないだろう。
だが本人に言う気もなければ本人も聞く気はなかったみたいだ。
「……でも、生きててよかったよ」
「怒られると思ったが」
「そりゃ怒りたいよ、でも……
「そう……だな」
千秋と話していると自分が兄として何も出来ないだけじゃなく、こうやって心配させてしまっていることが本当に悔しい。
俺がどれだけ馬鹿な事をやったのかをわかっているはずなのに彼女は俺を優しく抱きしめるだけ。
「……こんなやつが兄でごめんな」
「そんな事言わないでよ。私はお兄ちゃんが私のお兄ちゃんだからこうやって頑張れるんだよ」
「……ありがとう、千秋」
しばらくこの状態が続き数分後。
落ち着いた俺はアキから解放された。
「もっと話したいことはあるけど……そろそろ次行かなきゃ怒られちゃう」
「そうだな、ヨシノ辺りは寝てそうだし」
「確かに」
「……改めて、ありがとな」
「……うん」
アキに感謝を伝えドアノブに手をかけると─
『部屋に入る時はノック!』
と、見覚えのあるメッセージが。
「欠陥じゃねぇか」
「あはは……」
後で聞いたところ、このメッセージが出る方法を使ったはいいものの内外関係なく出るようになってしまい、解決法が見つからなかったため仕方なく内側からもノックしているらしい。
締まらない終わり方だなとため息を吐き仕方なくノックして扉を開けたところでアキが呼び止めてきた。
「お兄ちゃん」
「……?」
「あの子、ハヅキちゃんを絶対に助けてね」
「もちろん」
そんな言葉を交わして俺はアキの部屋をあとにした。
次の部屋。
ノックすると反応がなく、何度か叩いてみたら突然扉が開いた。
「普通ワンノックで扉開けるでしょ」
「いや何かしてたら申し訳ないだろ」
「躊躇いがちな学生じゃないんだからそんなこと気にしなくていいでしょ、ほら早く入って時間ないんだから」
扉から出てきたのはあと少しで寝るところだったであろう寝巻き姿のユミだった。そんな彼女に無理やりに手を引かれ部屋に引き込まれた。
「……それでなんの用?」
「いやお前も賛同してただろ」
「あー、それか……」
大きな欠伸をして目を擦る彼女は忘れてたような反応をする。
さすがに5人目となると時間も遅いためそりゃ眠くなる気持ちはわかるが……
「……なに?」
「せめて服はちゃんと着ろよ」
「……ふぇ?」
寝る寸前とはいえ今の彼女は寝巻きがはだけてあと少しで脱げるような状態になっている。
さすがにこれで黙ってるのも申し訳ないと思い口にしたのだが、それを聞いた彼女は一瞬で目を覚ました。
「……後でパフェね」
「前にも別のやつに言われたなそれ」
「……女たらし」
「またそれかよ」
パフェを奢る約束をかなり前に件の彼女……ハヅキとも交わしていた。
彼女をちゃんと救えないとその約束も果たせない訳だが。
「まぁ冗談はさておき……座って」
「お言葉に甘えるよ」
ユミはベットに腰掛けて座るように手招きをしてきた。
本人がいいって言ってるから躊躇いなく座ると「マジか」と小声で聞こえてきたが無視して彼女の方を向く。
「それで、お前は何を話すんだ?」
「別に今日じゃなくて良かったんだけどタイミングが出来たから今のうちに──あの子達について」
「あいつらとの関係ってやつか」
「そ、それが原因で喧嘩に発展したわけだし」
「ほんと迷惑したんだが」
「いいでしょお互い疑問は解けたんだから」
ユミは髪を弄りながら俺の質問に答える。
あいつら──夕立の霧雨と何かしら関わりがあることは間接的に聞いてはいたが実際どんな関係なのかは一切聞いてなかった。
お互いが彼女達のことのみを知っててなおかつ突然の協力の申し出だったから今日のデュエルになったのだが、その時もユミは彼女達と深い関係だということを言っていた。
「話を戻して……あの子達きっと信用出来そうな人には何もかも話すから聞いてるんじゃない?」
「……それぞれの過去か?」
「その反応は正ってことね」
知ってた、と言いたそうにため息を吐いた彼女は一度天井を見上げた。
「……カエデに関しては私も少ししか会ってないから何があって孤児院にいたのかは分からないけど
しーちゃん……シズクとく──ライムに関しては私もなにがあったか知ってる」
「それだけ
「えぇ、そういうこと。
包み隠しても何も無いから言っちゃうけど私は───
あの子たちの通ってる学校の特別支援学級、そこで先生……とまでは行かないけどカウンセリングみたいな事をやってるの」
「カウンセリング……」
「特別支援学級にいる子って、障害を持った子もいるけど、何かあって精神的に傷ついてる子達も一定数いるの、そういう子のメンタルケアを私はしてたの」
カウンセリングと聞いてパッと浮かんだのがアーガスにたまに来ていた医者……あの人はヨシノの体調を確認すると共に精神面の問題がないかを本人、そして白澤先輩に聞いていた。
βテスト後半からは別件で忙しくなったらしく来る事はなくなってしまったが……
あの医者とは少し違うかもだが、ユミはシズクやライムのカウンセリングを行っていた。なら、ひとつ気になることがある。
「……ライムが襲われたあとお前は何をしてたんだ」
「襲われたって……そこまで知ってるの?」
「本人から聞いた……いや、
「え──?」
俺の言葉に対しユミは驚いた様子でこちらを向いてくる。
そりゃ赤の他人が友人にすら話してないであろう事を知ってるなんて驚くだろう。
「どういうことなの?」
「言葉の通り、俺はあの場にいた」
「……まさかあんたが」
「そっちじゃねぇよ、どちらかと言うと俺も被害者だ」
「……まぁそうじゃなきゃあの子が平気そうにしてるわけないか」
「そういうことだ」
「でも、なんであなたはあの子のそばにいなかったの?サキは一緒にいたけど……」
「それはノーコメントだ、俺から言う訳には行かない」
サキとあの時点で出会ってたことについて聞きたいところだが今はそんな話をする暇はない。
そして何故ライムと一緒にいなかったのかも俺が伝えてどうにかなることでは無いだろう。
「なら聞かないわ、今はね」
「そうしてくれると助かる」
「──それで、あなたの質問だけど」
話を戻して、と小さく呟いてから俺の質問へ答えを出そうとしたであろう彼女は突然頭を下げた。
何してんだと止める前に彼女が口を開く。
「……私は何が起きたのかさえちゃんと理解出来ずにあの子のカウンセリングすらまともに出来なかった。
あの子が一度私を突き放したその時に、私はあのこと距離をとるようにしてしまった。
襲われそうになったところをサキの友人が……つまりはあなたが救ったってこと以外何も聞くこともせず、私はシズクやカエデに黙秘を貫くこと以外何も出来なかった。
だからこそ、助けてくれたあなたにはこうすることしか出来ない。
──ごめんなさい、ラギ」
「謝るなよ、俺だってあの後サキに全部任せて顔合わせることすらしなかったんだ」
「でも、あなたは──この世界でも見放してしまった彼女達を救ってくれた」
「……どういうことだ?」
彼女の言ってることはわかる。
だがそれを俺に謝られても、俺だって何も出来てない。
そんな否定を口にすると彼女は気になることを言った。
「──なんで、彼女達がSAOにいるかわかる?」
「それは、両親に買ってもら──」
ユミの質問に当たり前と思っていた言葉を口にしようとし詰まる。
そんな当たり前が出来る家庭環境なら、特別支援学級でメンタルケアを受けるようなことは無いだろうし、ライムが両親を嫌うこともない。
つまり、夕立の霧雨──正確にはシズクとライムがこの世界にいるのは──
「そう、
「でもそんな容易く用意できるもんじゃないだろ」
「まぁね、だから
「誰……ってまでは聞けないか」
「そうね、
「わかった、そこまでは聞かないが……見放したってのは?」
「長くなるわよ」
ユミはそういうと言葉の理由を語り出した。
遡ることSAOサービス当日。
あとからログインしたユミは2人が来るまで暇だったため少し狩りしたあと商店通りを散策中、武器屋でサキとヨシノと出会った。
その2人としばらく狩りをして戻ってきたところ、デスゲームの開幕が宣言され、街中が混乱状態になってしまった。
そんな中でヨシノ達を置いていく訳には行かないと路地裏へ移動したところで2人にパーティの誘いをし、それからシズクたちを探そうとしたが人だかりの中彼女達を見つけたところ「大丈夫だろう」とどこかで思ってしまいそのままヨシノ達と行動を共にしていた、と。
「……馬鹿よね、死んだらマズイってわかってる世界で、中学生2人に自分たちだけで生きていけるなんて思い込みを持って、少し前に仲間になった子らを優先した」
「シズク達は、そう思ってないだろうよ」
「なぜそう言えるの」
「あいつらは途中でカエデと再会してから俺と会うまでずっと前線で戦ってたんだ。
もちろん、あんたがそばにいたら危険は減ってただろうけど、その代わりに
「サキもヨシノもそんな弱くないでしょ?」
「聞いたところ、ヨシノの見た目をあれこれ言ってくる輩を片っ端から叩いてたのはお前だろ?」
「言い方悪いけど、そうね」
「それが無ければ少なくとも今彼女はちゃんと元気に居られなかった、理由までは言えないけどな」
「弱いだけが死に繋がるわけじゃない、ってこと?」
「あぁ、それにサキは誰かが傷つくことが一番嫌な人間だ。そんな彼女が一緒にいたヨシノが落ち込めば人一倍傷つくだろうから」
ヨシノの弱さも、サキの弱さも、短い期間とはいえそばにいた俺はよく分かる。
だからこそ、そんな2人だけがここまで何も無く生きていけるのはかなり厳しいだろう。
それ故に、ユミの存在はかなり大きい。
「それに、アキやヤヨイやミコトはこのギルドにいなかっただろうしな」
「……そんな可能性の話を聞けと?」
「戯言程度に聞いてくれればいいよ、別に
「ありうべからざる今……ね」
「でも、
「ならいいけど……」
ありもしない、あったかもしれない過去を考えるよりも、これからの未来を見る方がいくらかマシだろう。
ユミの存在が星屑の流星を左右させるなら、それこそ俺の有無が現在の夕立の霧雨を左右させたかもしれない。
「ま、そんなことよりあんた……ほんと女たらしよね」
「ぶっ飛ばすぞ」
せっかくいい話してたのに突然バカにされたことで殴りそうになったが自分を抑える。
「悪かったわよ、でもあれだけの数あんたを信頼してるんだから無理だけはしないでよ」
「なんだよ、それが言いたいだけかよ」
「そうよ、私なりの応援ってやつ」
「急に怖いんだが、何もあげないぞ?」
「媚び売りじゃないわよ、あんたに媚び売っても無になるだけでしょ」
「お前なぁ……」
色々と言いたいことがあるがこのタイミングで言うことでもないと胸の内に秘めるとユミが立ち上がった。
「他にも話したいことはあるけどそれはいつか、しかるべき時ってやつに話そうか」
「……そうだな、そろそろ行かないとヨシノ寝そうだし」
「確かに、あの子年相応よね」
「一応は、な」
「……ま、いいわ。あの子が寝る前に行ってあげなさい」
しんみりした様子を見せたかと思えばいきなり扉の方へ俺を押した。
女性とは思えない怪力に押され扉からはじき出されそうになるとこをギリギリで止める。
「押すなって!」
「もう話すことないって!」
「その前に、言わせろ!」
「……?」
「ありがとな、応援」
「──ぶっ飛ばすわよ?」
感謝を述べたが彼女はキレ気味にそう呟き俺を部屋から出した。
扉がロックされる音が静かに響き俺は廊下の壁に背を預けていた。
「……ったく、なんだアイツ」
思いっきり強打した背中をさすりながら6人目の待つ部屋の扉をノックした。
目の前には、赤黒い炎が高く上がっていた。
それは、ボクの住んでいた家を、家族を全て奪っていく、熱い炎。
それを放ったのはお父さんだけど、なんでそんなことをしたのかなんて、ボクには分からなかった。
半身がやけどしたボクには、声を出すことも、助けに行くことも出来なかった。
どうして、ボクだけ生きてしまったの──?
そう、何度も思った。
でも、考えたって、無駄なんだ。
だから、無理をしてでも生きるって決めた。
そしたら、ハル兄と、楓ちゃんと出会えた。
それで、この世界でサキ姉と出会って、ユミ姉とも出会って、そして──
あの時みたいな、赤色が空に広がった。
でもハル兄はこの世界は『自由』が、こんなボクでも好きなことが出来るって言ってくれた。
だから私はギルドってものを結成した。
最初は3人、途中で1人、2人と増えて今の6人、星屑の流星になった。
名前はユミ姉とミコト姉が考えてくれた。
あんなことがあったけど、今はそれなりに楽しい。
ハル兄の言ってた『自由』はまだわからないけど、頼れる仲間がいるから。
──だからもう、怖くない……そう、思ってた。
・ラギ目線
「……こんな見た目だから」
「人から言われることも多いんだろうな」
「……えっ?」
ノックしても返事がなかったためドアノブに手をかけると鍵をかけてないようで簡単に開いた。
中を覗くと机に突っ伏したヨシノが何かを呟いていた。
その言葉はいつも明るい彼女からは滅多に出ないであろう──出せないだけだろうけど──弱音だった。
「部屋の扉はロックしとかないと、侵入されるぞ」
「いつの間に?」
「5分ぐらい前から」
「……聞いたよね?」
「あぁ、聞いた」
「聞かれないと思ったんだけどな……」
いきなり声掛けたからか勢いよく立ち上がったヨシノは足を思いっきり椅子にぶつけながらも無理に明るく振る舞わず弱音を吐いたそのままの声で接してくる。
これが素、というより一人でいるときの彼女なんだろう。
「自分の弱いとこに気づけないけど他人の困り事には敏感だからな俺は」
「ハル兄もなにか困り事?」
「いくらでもあるよ俺は、それこそこれまでの5人にそれぞれ色々言われるぐらいには」
「そっか、ハル兄も……」
妙に落ち込むヨシノの頭を撫でて彼女の向かい側の椅子に座る。
「ボクさ、こういう見た目だから街で歩いてる時に色々言われるの」
「……だろうな」
「でも、その度にユミ姉やサキ姉が「うちの子に手ぇ出したら殴る」って言ってくれるんだけど
その……毎回ボクがそういうこと言われる度にボクを庇ってくれるのが申し訳なくて」
ユミとサキの言葉をツッコミたいが、それを抑え彼女の悩みを改めて復唱する。
彼女は過去のことがあり自身の見た目にやけどの影響と思われる髪色の変化がある。所謂メッシュがそれだが、SAOのキャラメイク──今はろくに使えないが──にはメッシュは存在しないし、何よりヨシノはカエデ達同級生に比べても身長が低い、それ故にその体格でメッシュが入っているということが周りの人間的には『異端』に見えてしまうのだろう。
だから彼女はそれを庇ってくれる2人に申し訳ない気持ちをもってしまうのだろう。
「深く考えすぎだと思うけどな」
「そうなのかな……」
「実際、本人に言われた訳でもないだろ?」
「そうだけど……」
「なら、そんなに考える必要も無いと思うぞ」
「……そう、かな」
と、本人を励まそうとするが、ヨシノは落ち込んだまま机に突っ伏している。
そこまで重く考える必要は無いと思うが……
「そんな落ち込んでるとユミに気づかれるぞ?」
「えっ、それは……」
「さっき少し話しただけのやつから前からの知り合いもいるけど、あいつらはお前を守ることに嫌とは感じないし、逆に落ち込んでる方が悲しむぞ」
「それはヤダ……」
「なら、落ち込むのはやめだ」
「うん……うん!」
慰めが効いた……のかは分からないがヨシノは顔を上げた。
まだ少し暗い表情をしているが、さっきよりは明るくなったはずだ。
「それで、5人とは話終えたがヨシノはどうする?」
「ボクはね……ハル兄にこれまでを話そうかなって」
「これまで……?」
「うん、リーダーとして、このギルドについてちゃんと説明しないとだから」
「リーダー……」
「そう、リーダーなんだよボク!」
ふふん、と胸を張る彼女は誇らしげな顔をする。
リーダーという肩書きを重く感じていないか心配していたが、この様子はそんな心配する必要は無いみたいだ。
「でもなんでヨシノがリーダーなんだ?」
「んー、なんとなく?」
「それでいいのか……」
「このメンバーが集まったきっかけが私だからリーダーになったんだ」
「きっかけ……?」
「うん、まずはね───」
ヨシノは思い出を一つ一つ語り始めた。
まずログイン後。
行き先が分からず困っていたところでサキが声をかけてきて一切の迷いなく彼女について行って仮想世界での過ごし方をレクチャーしてもらった。
その後、武器を選ぼうと商店通りに行き今の武器である鎌を買おうと迷っていたところで呆れ気味にユミに声をかけられた。
ユミが鎌を代わりに買ったことで金欠になったためしばらくともに行動して狩りを行っているうちに夕方になり問題の時間──茅場晶彦によるデスゲームの宣言がされ3人はそれぞれ現実の姿になってしまう。
その時点でサキとユミはヨシノの見た目に関して「可愛い」と言ったらしいが……
なんやかんやあり3人で行動することにして第一層を進んで行った。
と、『始まりの日』に起きたことを簡単に纏めた。
ユミから聞いた事と重なる点はあるが、所謂きっかけとなった本人から聞くと詳細がわかり彼女がどう進んできたかがわかる。
「それで次は……サキ姉がアキ姉を捕まえてきたんだ」
「……どういう事だ?」
「ボクもわからないけど……「そこにいたからメンバー捕まえてきた」って」
ギルドを結成するためにメンバーを増やそうと募集してる途中、サキが突然アキを文字通り「捕まえてきた」らしい。
復唱しても一切理解できないんだが……
「でも、捕まえた時点で第三層まで進んでたのに、アキ姉は
「しばらく第一層に居たってことか?」
「んー……ボクじゃ理解出来なかったけど、そういう訳じゃないみたい」
「本人は何も言ってなかったけど……」
「でもすぐに装備揃えてすっごい強くなったんだよ!」
「あいつらしいな」
色々と理解に困るところがあるが、それでも彼女らしさが見える説明だ。
初期装備というのが引っかかるが……
「その後すぐにミコト姉とヤヨイ姉もギルドに参加してくれたんだけど……」
「初期装備?」
「ううん、変な噂立ってたの」
「噂……?」
あの二人がギルドに入ったのはかなりあとだとは思っていたが、それに噂が付いてたことは知らなかった。
それに、情報屋の耳にも入らないとなると噂の中でもかなり──
「『剣鬼』と『死神』って……」
「……は?」
奇抜な噂だろうと思っていたが、ヨシノから出た二つの名前は世に広がれば確実に一大ニュースになるレベルだ。
それが一切聞いたこと無かったのは本人たちが何かしらの圧力をかけて情報を広めないようにしていたのかもしれない。
「あの二人そんな強いのか?」
「うーん……一緒にいる時は後衛を担当してるからイマイチわからないんだよね」
「牙隠した狼ってことか……」
「あ、でも前に突然出てきたボス……ミコト姉が言うにはリポップボスってやつと戦った時は凄い強かったよ」
「リポップボス……そうだ、あれお前達なんだよな?」
「うん、といってもほとんどあの人達がやったけど」
しばらく時が経っていたが第8層攻略中の頃、アルゴからリポップボスを倒した6人組の話を聞いていた。
あれから結構経ったが人数といい実力といいボスを倒したのはこのギルドだとは思っていたがまさかあの二人……ミコトとヤヨイがかなり強いというのは驚いた。
あの二人、あまりログインして開発してた訳じゃないはずだからほぼ初心者のはずだけど……
変な噂、というより2つ名みたいなものができるぐらいの実力があるという。
これだけのメンバーが集まったこのギルドは、SAOでも一二を争う実力を持つ、そんな気がする。
「ユミ姉以外はみんな、第10層以降ハル兄のことすっごい話してたんだよ」
「ミコトとヤヨイも?」
「うん、口には出してなかったけど」
第十層、半分ぐらい気を失っていたがその時点で俺がいるということはメンバーに伝わっていたのだろう。
その中でもあの先輩二人も俺のことを話していたのが驚きだ。
それからもしばらくくだらない話から面白い話などを聞き──
「──こんな感じで、ボクたちは進んできたんだ」
「……良かった、楽しんでるんだな」
「ハル兄?なんで頭撫でるの?」
SAOサービス開始から今までの事を楽しそうに、時に寂しそうに話す彼女の姿を見ているうちにいつの間にか彼女の頭を撫でていた。
見た目に関して色々言われることもあるみたいだがそれ以上にこの世界を楽しんでいることに安心したからだろうが、彼女を困惑させてしまった。
「ごめんな、でも少しこうさせてくれ」
「くすぐったいけど……うん、なんかあったかい」
「お前が生きてたのが嬉しかったんだ」
「んー……あっ、
「だってそうだろ?自由に遊べるなんて言ったのに、蓋を開ければデスゲームへの招待状だったんだ」
「そんなことないよ、ハル兄」
ヨシノは急に俺の手を掴み自分の頬に当てる。
いきなりで驚いたが、俺も今さっき急にやったからなすがまま彼女に委ねる。
「もちろん最初はビックリしたよ、それに死にそうになったことも無いわけじゃないけど、それでも──
ボクは、ハル兄と出会って、ハル兄と話して、楓ちゃんと会ってこうやってこの世界に来たことを一切嫌な事だと、最悪だと思ったことは無いよ。
寝たきりの現実で、何も無い、歌うことしか出来ないVRで過ごすよりも、この世界は充分楽しいし、自由だってボクは感じる。
だから───」
ヨシノは手を離し立ち上がる。
ポニーテールに纏められた黒髪を揺らしながら立つ彼女は少し大人びて見える。
「ありがとう、ハル兄。
ボクは今、すっごく楽しいよ!」
「……感謝されることは何も」
「むー……ならこうだっ!」
彼女は急に抱きついてきた。
勢いは弱く、すごく優しく抱きつく彼女は顔を上げた。
「なんか……恥ずかしいね」
「そりゃこの至近距離はな」
「でも、これがボクの気持ちだからちゃんと伝える」
「……あぁ」
俺はしばらく、彼女に抱きつかれていた。
数分後。
「ふぁ……」
離れた彼女は大きな欠伸をした。
時間は既に3時過ぎ、夕方から話し始めて6人、かなりの時間が経っていた。
「さすがにもう帰るか」
「うん……眠い……」
目を擦りながら無意識にベッドに向かう彼女が少し心配になる。
背中をさすりながら彼女をベッドに座らせて帰ろうと扉に向かおうとしたところで彼女に袖を掴まれた。
「……ハル兄、ボク達はみんな、それぞれ隠し──」
なにか言おうとした彼女は眠気に負けてそのまま横になってしまう。
何を言おうとしたのか気にはなるが起こす訳にも行かないため布団をかけて静かに部屋を出ていった。
星屑の流星メンバーとの会話を終えギルドハウスを後にした俺は一人転移門広場にいた。
広場中央にある4つの石柱、そのひとつに背を預け空を見るとそこには綺麗な星空が広がっていた。
「やっと来たと思えばなに黄昏てんの」
「なんでこんなとこで待ってんだ」
時間ということもあり誰一人いないと思っていたら突然足音が近づいてきて真隣に誰か──ライムが立っていた。
「どうせあんたの事だから帰る場所ないとか言うつもりだから言っとくけど──」
ライムは俺の前に立ち嫌味を言う顔をしながら拳を前に突き出してきた。
「あんたはもう、
お久しぶりです。
そして年末ですね
クリスマスも何も書かずこの回の執筆に1ヶ月半かけてました。
今年最後の投稿です。
本来は新章を出して終わりのつもりだったんだけどなぁ
こんなマイペース投稿ですがこれから白熱していく今作を来年もよろしくお願いします。
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サキ
黒髪ショートで赤い目
使用武器:片手直剣&両手槍
ユミ
銀髪ショートで黄緑色の目
使用武器:片手直剣&両手剣
ヨシノ
黒髪ロング(現在ポニーテール)で緑色の目
使用武器:両手(時々片手)鎌
所持スキル:───
そして来年、新章──紅炎の英雄編をお待ちください。