ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
翌日、ギルドイベント開催まであと5日となったこの日。
俺はまた第十層へ足を運んでいた。
というのも今日の目的は星屑の流星と同じこの層に新規のギルドハウスを建てた夕立の霧雨に呼ばれたのだ。
本当は前日に2ギルドの顔合わせをさせてその時に話すことは話そうと思っていたのだが、どうしてもとシズクがメッセージを送ってきたため来ることになった。
「それで何の用だ?」
「第一声がそれ?」
「質問を質問で返すなよ……色々言いたいことはあるが」
第十層の大通りから少し逸れたとこにあるこのギルドハウスは前に使用していた宿屋に比べてかなり広く様々なことができるようになっている。
前述した通り協力の申し出の後に来る予定だったのはイベント前日の作戦会議的なものの時なのだが、ちゃんと内装を見ると色々ツッコミどころがある。
壁にかけられた掲示板……のようなものには『クエスト!これ受けたやつ!』と大きく書かれた紙が貼られ、その下に受注したのであろうお使いクエストなどが並んでいた。
他にも彼女達らしさの溢れる内装になっている。
「他人の家に入ってそれは無いでしょ」
「褒めてんだよ、前の宿屋じゃ考えられない事だからな」
「そうなの!あそこじゃ壁とか装飾出来なかったけど出来るようになったの!」
「まぁ……宿屋だし」
「自由度は少なかったもんね……」
シズクのテンションの高さに反してライムとカエデは苦笑いを浮かべた。
そもそも宿屋を借り続けてただけでちゃんと購入した家じゃないから内装に手を出せないのは分かっていたがここまで充実するとは。
「それで、カエデは何を抱えてるんだ」
「あっ、今聞きます?」
「シズクの要件が気になるがそっちも気になる、ずっと視界にいるし」
丸テーブルを囲むように座っているため三人の様子がちゃんと伺える、そんな中カエデが見慣れない何かを抱えていた。
タオルみたいな布に包まれた何かは微妙に上下に動いているためすごく気になってしまう。
そんな
「猫……?」
「正確には《妖猫》って子ですね」
「どうしたんだこの子」
「それが……」
カエデの抱えていた何かは猫……に近い生き物。
そんなこのモンスターは数週間前、ここ第10層のクエストを受けた時に出てきたモンスターの化け猫──今カエデが抱えてるこいつ──を倒しかけた際、酷く傷ついて暴れていただけという事に気づいたカエデが倒さずに治療したら懐かれてしまったとのこと。
クエストは一応クリアしたらしいが、モンスターが自ら懐いて着いてくるという点はイレギュラーだと本人達も感じていたらしい。
まぁSAOは時々正規のクリア法以外でクエストを終えることが出来るようになってるらしいからこういう事もあるだろう。
ちなみにだがカエデたちの受けたクエストの本来の目的は『村に現れる妖の討伐』で、倒した時点でクリアとなる。
「そのまま連れてきちゃったんだよ、カエデが」
「一応聞いとくけどテイムは」
「テイム……?」
着いてきた事は動物だからで納得しておくがそれより聞き捨てならない反応を彼女が見せた。
「カエデ、ちょっとこっち来て」
「えっ、なんで「いいから」う、うん……」
なんで知らないのか聞こうとしたところでライムが彼女を連れて部屋の隅の方に行って何かを話している。
何かを聞いた彼女は数回俺とライムを交互に見たあと突然しゃがみこんで悶えだした。
「何話したんだお前」
「いや、テイムが何なのか説明したら『忘れてた……』って、赤面してあの通り」
「言わないで!?」
「……まぁテイムはしといた方がいいぞ、野良だと何が起こるかわからないし」
本人が開発時内部に関わりが少なかったから仕方ないとはいえまさかテイムのことを知らないとは……
それはそうと懐いたモンスターとはいえいつ暴走するか分からないため彼女にはこいつをテイムして貰わないといけない。
「はい……やっておきましゅ……」
「……それでシズクは何ソワソワしてんだ」
「はっ、バレてた!?」
「真正面に座ってるんだしそりゃわかるって」
悶えたままのカエデとそれを慰めるライムを眺めてるシズクはなにか言いたそうに俺の方をチラチラと見てくる。
ここまで分かりやすい動きでバレないのは無理がある。
「実は……」
「早く言いなよ、そのために呼んだんだから」
「本来の目的はシズクってことか」
「そ、そのために無理言って来てもらった」
「いざ言うとなると緊張してきた……」
そんなに言うのが躊躇われるのか、と言いたいとこだが言ったら悶えたままのやつが増える気がするため黙っておこう。
「このままじゃ進まないから私が変わりに言うよ、ラギ──
シズクと、本気の勝負をしてくれ」
「理由は」
「私たち、この数ヶ月で出来る限りのことをしてきた、それでどれだけ強くなったのか……ラギのそばに立って戦えるかを確かめたいの」
「なるほど、それでリーダーであるお前が戦うってことか」
「うん、無茶言って来てもらってこんなことだけど……でも、私の実力はラギにも見せてないから、今ここで距離を知りたい」
「わかった、受けて立とう」
ライムが苦笑いを浮かべながらシズクが俺を呼んだ理由を語り、当人が詳細を、彼女なりの覚悟を口にした。
彼女達と別れてから数ヶ月、この期間で彼女達は気持ちの面でも成長したようだ。
それならば、
「場所はどうする」
「それなら既にいい場所を見つけといた」
現状、俺らが外に普通に顔を出せば危害を加えてくるプレイヤーがいるかもしれない。
そんな危険性がある今、何の対策もなしに表に出るのは難しい。
それを考慮したライムは先に場所を用意していたようだ。
「第23層の森、その奥ならほぼプレイヤーは来ないと思うよ」
「確かにそこなら大丈夫そうだな、それじゃ早速──」
ライムに指定された場所へ転移をしようとしたところでシズクが手を挙げた。
彼女の顔はいつもは見せない真剣だった。
「ライムとカエデはここで待ってて」
「別にいいけど……」
「ラギと2人だけで、真剣勝負をしたいから」
「……わかった、カエデもまだ立ち直れなそうだし待ってる」
「ありがと、行ってくる!」
そんな二人の会話を静かに聞き、改めて転移の操作をした。
─────────
第23層
ライムが探してくれた場所のここは第23層。
大きな湖がずっと広がっており、層の大半がこの湖と言っても過言じゃないだろう。
そんなこのエリアはただでさえ攻略に数日しかかからず、さほど経験値が高いとも言えないため低層にいるプレイヤー達も立ち寄らない、それぐらいには人気の少ない場所となっている。
そんなエリアを少し進んだ先にある大きな森、その奥に少し開けた緑地が拡がっている。
ここならば、誰かに見つかったとしてもさほど問題にはならない……はず。
「2人っきりでってのは何か話しがあるのか?」
「その答えは──
シズクは真剣な表情でそう言ったが、声色だけはいつもの無邪気な彼女だった。
剣で語る……誰に似たんだか。
「そうだな、始めるか───」
シズクから送られてきたデュエルの申請を承諾し距離を置く。
スタートの合図と同時に彼女は一気に距離を詰めてきた。
「っ!?」
地面を思いっきり蹴って動き出したこともあるが、彼女は前に見た時以上に動きのスピードが上がっていた。
例えるならば短剣を使ってるプレイヤーに劣らないレベルには速くなっている。
多少なりと動きに変化はあるだろうと考えていたがここまでとは──
「隙あり!」
「くそっ……」
咄嗟のスピードに反応が少し遅れた俺はシズクが振りかざした剣に少し掠ってしまう。
「なるほど……ちゃんと強くなってるな」
「それはそうでしょ、これでもリーダーなんだから強くならなきゃ」
「……お前を甘く見すぎてたな」
別れてから数ヶ月しか経ってないためそこまで強くなってないだろうと油断していたが、その考えを改めないといけないようだ。
そもそも彼女の剣技がどれほどまでに鋭いかをこの身で受けたことが無いから甘く見ること自体が間違いかもしれない。
故に、この戦いに手を抜くことはなしでいこう。
「ラギの戦い方ならわかっ──えっ!?」
「よそ見厳禁、私語厳選だぞ」
彼女が対人戦をどう切り抜けるかはわからないが、彼女は俺の戦い方を何度も見ている。
それをハンデにする必要は無い。むしろチャンスだろう。
こういう戦い方をしてくる、彼女には少なからずそう言う考えが頭にあるはずだ。ならばその上を行く動きをすればいい。
「急に速く……!?」
「隙だらけだぞ、別に
「くっ……でも!」
ソードスキルを一切使わずに的確に彼女が防ぎにくいところを狙った連撃を繰り出す。
右、左、右、また右と不規則かつ彼女の剣が届くにはギリギリな位置を的確に攻撃しようとしたが負けじと彼女は当たるスレスレで避けたり防いだりして極力ダメージを減らしている。
普段、MOBとの戦闘ではソードスキルで一気に削る方法をとっていたため防げないと思ったが、さすがはシズクと言うべきか……
「何事にも臨機応変!……キツイけど!」
「対応出来るとはな……」
第六層のPKプレイヤーとの対峙した時や普段の戦闘時に彼女が見せた行動力、判断力は夕立の霧雨内でもずば抜けて高い。
その能力を無意識のうちにこうやって使えてるとは──
「今度はこっちの番!」
「ターン制じゃねぇぞ」
「え、ちょっ!?」
お返しと言わんばかりに攻撃をしてこようとしたシズクよりも早く再度連撃を繰り出す。
SAOのシステム上、二刀流スキルなどを使わない限りは左手に剣を装備することは不可能。
だが、右手に装備した剣はどう使おうがソードスキルの動き以外はほぼ自由だ。
ならば、どう剣を扱おうがプレイヤーのやり方次第ということ。
「さすが……にっ!?」
連撃の途中で右手の剣を空中に放り投げる。
目の前で突然投げられた剣はシズクの剣を吹き飛ばして大きく宙を舞う。
剣を失った衝撃でバランスを崩した彼女はよろけながらも剣を取りに行こうと後ろを振り向いた。
その一瞬の隙を見逃さずに俺は宙を舞い続けている剣を空中で逆手で掴み彼女めがけて振り下ろした。
勝った、そう思ったが───
「おりゃっ!」
「──!?」
彼女が突然振り向きその直後俺は大きく吹き飛ばされた。
そして、デュエル終了の合図が鳴った。
───────────────
決して痛くないとは言い難い勢いで吹き飛ばされた俺は起き上がりシズクを見た。
当人も予想してなかったような慌て方で謝ってくる。
「ごめん!」
「いや、大丈夫……では無いけど何が起きたんだ」
「えっと……体術スキル?っていうのを取得したから使ってみたんだけど……狙いから思いっきり外しちゃって」
「まさかあの一瞬で剣を飛ばそうとしたのか?」
「う、うん……失敗しちゃったけど」
前述したが彼女はその場で行動を変え判断する能力がある。
だが、今回はその能力でも特に速い──速すぎる。
きっと彼女は剣を弾き飛ばされた瞬間に一点──俺の剣かそこらに狙いを定めて体術スキルの蹴りか何かを放ったんだろうが……
「ラギが剣をはじき飛ばした時点でどう動くかって考えてみたの、その結果いつものラギなら剣を掴んで切ってくるかなーって思ってとりあえずで蹴ってみたんだけど……逆に持ってたから狙ってた剣じゃなくてラギ自体を蹴っちゃった」
「……そこまで読んだのか」
「ううん、ほんっとーに偶然ラギがその動きをしてくれたから出来たことだよ。それに結局負けちゃったから」
シズクはえへへと笑みを浮かべた。
だが、彼女の言うデュエルの勝敗は目の前に出されたウィンドウとは違っていた。
「何言ってんだ、勝ったのはお前だろ」
「デュエルの勝敗はそうかもだけど……ラギとの勝負には完敗したよ」
「どういうことだ?」
「ラギ、本気じゃなかった……それなのに私、一方的な戦いだったし、ラギの動き全部を読めなかった」
シズクは俺の横に座りため息を吐いた。
そして、勝敗が逆であることの理由を静かに、どこか悔しそうに口にした。
「ラギ、いつもの赤と黒の装備じゃなかった。ってことはソードスキル使った時の硬直もちゃんとあるし武器のチェンジも素早く行えた
それだけの戦い方を出来たのに、ラギがそれを使って本気になってくれるように頑張れなかった……
私はまだ──ラギには届かない……」
「……バカか」
「あうっ!?」
弱々しく呟いて今にも泣きそうになっている彼女の頭にチョップを入れた。
シズクの言う装備を使わなかったのは事実だ。
だが、それは手を抜いた訳では無いし、その戦い方を知ってる彼女相手にその手法で戦うのは彼女のために……何より、俺のためにならない。
それ故に彼女には普段とは違う戦い方で戦ったのだが彼女はそれを破って勝利を掴み取った。
それは、紛れもなく彼女が強くなっている証拠だ。
「お前に手を抜いたわけじゃない」
「で、でも……」
「確かに、何一つ持ってるスキルは使わなかった、だからってお前に少しでも油断すれば俺は負けそうだったんだぞ?」
「な、なら使えば……」
「
確かにアレらを使えば勝てたかもしれないが、いつまでもアレに頼りすぎてちゃ俺はいざと言う時に勝てなくなっちまう
それに、アレらを使ってもお前には読まれそうだったからな、思い切って戦い方を変えてみたんだよ
決して、お前が弱いわけじゃない」
目に涙がたまっている彼女の頭を撫でて俺の思いを彼女に伝える。
彼女は俯いてから俺に抱きついてきた。
「……私、ホントに弱くないの?」
「あぁ、それは俺が保証するよ。
お前は──
「……そっか」
彼女は俯いたまましばらく動くことは無かった。
しばらくして落ち着いた彼女から小さく寝息が聞こえてきたため俺は彼女をおぶってギルドハウスへと帰った。
─────────────
第十層:夕立の霧雨ギルドハウス
「……なるほどねぇ」
「まさかシズクが先輩に勝つなんて……ビックリです」
「俺も驚いてるよ、何より……」
彼女が見せた無自覚ながらも鋭い判断力と行動力、それに相手の動きを読めるその力はキリトや俺とは違った強さがある。
戻ってきてと言われてなければ本当に全て任せてもいいぐらいには彼女は強くなった。
「あと数日でギルドイベントだ、前日に詳しい作戦は伝えるが……」
「心配しないでよ、無茶はしない」
「大丈夫ですよ、私たちは」
「……そうだな」
妙な心配ばかりしていたが、今ソファで寝てるシズクも、妖猫を撫でてるカエデも、どこか安心した様子のライムもそれぞれが成長している。
それを今更俺が心配する必要は無い。
「ハヅキをちゃんと取り返しなよ、ラギ」
「あぁ、そのつもりだ」
ライムが拳を突き出して鼓舞を送ってきた。
それに応えて拳をぶつけた俺はギルドハウスを後にした。
きっと、彼女を救う。
それが、今俺がやるべきことだ。
お久しぶりです
1ヶ月半ぶりの投稿になります
同時執筆は良くないですね、身をもって味わいました
妖猫の名前はまだありませんが、ちゃんと活躍する……かも?
次回、準備編終わりです、やっと