前書きの中身が思い浮かばないので本編。
☆
「そこまで。勝者、緑葉風華!」
「…ありがとうございました」
「ありがとうございました」
ジャッジ役の先生がそう宣言して僕達が互いに礼をした時、見ていた生徒達が一斉に沸き立った。耳が痛いくらいの歓声だけど、悪い気はしないかな。
それに、また負けちゃったけど、楽しかったし
「凄かったよ濡羽っち、風華さん!」
「あぁ、見てて熱くなるデュエルだったぜ!」
「最後のあれは、どうかと思いましたけどね」
「…引いちゃったし、何より優姫が入れたカード。使わないわけない」
いや、神名さんが入れたのに苦言を呈してるんですか!?!?
「それはそれで嬉しいのですが…星風さんも乗らなければまだ勝負は分かりませんでしたよ?」
「なんと言いますか…乗りたかったんです」
こればっかりは僕の気分。それに、最後の手札は《テラ・フォーミング》。僕のデッキに入ってるフィールド魔法は竜の渓谷1枚だけ。次のドローにかけたとしても、ライフを削り切れはしなかった。返しのターンでシンクロされたら、それこそ手のつけようがなくなる。どのみち、乗っていようがいまいが、あれを発動された時点で負けていたんだ。だったら乗るでしょ?
(『言い訳だな』)
(るさい)
「それより濡羽、なんだよあのドラゴン!2体とも見たことねぇぞ!」
「そ…それは…」
言えないよね…片方は精霊、もう片方は精霊から貰った力だ、なんて。
「本日の授業はこれにて終了とします。各自、寮に戻るか帰宅をしてください」
説明しようか悩んでいた時、タイミング良く先生が帰宅を促してくれた。
「だってさ。帰ろうよ」
「色々気になるが、まぁ帰るか」
「…そうね。余り長居しても意味無いから」
さて…帰るまでにどうはぐらかすか考えなきゃね…
2時間後、晩御飯のあとで…
「では、教えてもらいましょうか」
「さぁて、根掘り葉掘り聞かせてもらおうかぁ?」
「どこの悪人なのさ…」
結局何も思いつかないまま、神名さんと湊月君に吊し上げを食らってます。小春は少し離れて笑顔で観戦。緑葉さんは少し困り顔で見てる。柊真さんは、キッチンで晩御飯の後片付け。スープパスタ美味しかったです(現実逃避)。
「私も、あの2体の竜に関しては興味がありますね」
「答えてもらうぜ。あれは、どこで手に入れたんだ?」
「うぅ…黙秘権は…」
「ねぇよ」
「ですよねぇ…」
どう答えれば良いのかな…
『ヌレハ、彼らにも明かしてしまいましょうよ』
「えっ…でも…」
『しょうがないさ。そうでもしないと、延々と続くぜるそれに、この2人は友達なんだろ?』
「…そう…だね」
「どうした、濡羽?1人でブツブツと…あ、やり過ぎたか?」
自分でもそう思ってたならやらないで欲しかったかな。
「ううん、そうじゃないよ。ちょっと、常識の範囲外だけど…誰にも言わないって約束できる?」
「なんか怖ぇな…でもまぁ、濡羽が言うなってんなら言わねぇさ」
「私も、星風さんがそう言うのであれば」
「ありがとうございます。じゃあ…出ていいよ」
『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!』
『スターダストさん、いきなりそれはインパクトが!』
『なんということでしょう。3体ものカードの精霊が現れたではありませんか』
『ファストさんはナレーションしないで!』
「「…………」」
お2人、沈黙。というか唖然。
「……セイヴァー・スターはスターダスト・ドラゴンから貰ったカードで、クリアウィング・ファスト・ドラゴンはそのまま精霊なんだ。召喚師ライズベルトも精霊だよ」
「…ぬーれーはー」
「ハイ、ナンデショウカ」
なんだか、湊月君が、怖くて、カタコトに、なりました。
「そーゆー面白そうなのは早く言えーっ!!!」
「言えるわけないでしょぉ!!」
「あ…あの…風華…」
「…優姫、どうしたの?」
「もしかしてですが…風華も精霊を?」
「…えぇ」
『いるよー!』
『つーわけだ』
『何卒よしなに』
神名さんはさらにショックを受けてますね。そりゃそうか、幼馴染が精霊のカードを所有してるなんて知ったら驚くよね。
「うわ、なんか知らない内に精霊増えてる?」
「柊真さん。僕のはスターダスト・ドラゴンの、緑葉さんのは閃珖竜 スターダストの精霊ですよ」
「へぇ。僕は龍凪柊真って言うんだ、よろしくね」
『よろしく、トウマ!』
『よろしく頼む』
柊真さんは精霊を見慣れてるから、あんまり動じてないね。
「…とりあえず私は、優姫を部屋に連れて行ってくる」
「あ、いってらっしゃい」
緑葉さんは、神名さんを少し重そうにしながら引きずっていった。僕も、湊月くんをどうにかしなきゃなぁ…
❀
「…ふぅ…」
なんとか、優姫を部屋に運べたわ。
『なぁ、フウカ』
閃珖竜が急に話しかけてきた。なんの用かしらね。
「…どうしたの」
『他の精霊から聞いた。かの少年はサヴァン症候群なのか?』
「…彼は、そうだよ」
『そうか…大変なのだな』
大変…?
『その表情…何も考えておらんかったのか…』
そう言われてみれば…少なくとも私は、サヴァン症候群だということを聞いただけで、あとは深く考えてなかったかもしれない。
『少し考えれば分かることだろう。サヴァン症候群で最も有名と言えるのが、完全記憶能力。それはつまり、全てを記憶する…逆に言えば、
「…それは、ダメな事なの?」
『あぁ。人間に限らず、生きとし生けるもの全ては『忘却』を最善の自己防衛機能としている。だが、かの少年はその『忘却』が出来ないのだ』
忘却が出来ない…忘れられない…それは、ダメなことなのかな。
『フウカ、やはりお主の表情は他の者より読み取りやすいな。忘却出来ないことが、一概に駄目だという訳では無い。ただ、人間としては辛いというだけだ』
「…表情で心情を読まないで」
『特技なのでな』
そんな特技の精霊がいるんだ…
『それより、何故辛いか分かるか?』
「…いいえ、分からないわ」
『ならば、本人に聞くといい。そこにいる』
「…えっ…?」
閃珖竜が示した先にあるのは、私の部屋の扉。ということは…
「…いるの?」
『いるぜ。閃珖竜に呼ばれたんでな』
「精霊って…なんかずるいですよね」
やっぱり、彼がいた。
「それで、話せばいいんですか?」
『あぁ。本人の口から聞く方が良いと思ってな』
「…確かに、なにも忘れられないことは辛いですよ。そりゃ、覚えてたいこともあります。例えば、今日初めて緑葉さんにちゃんと名前を呼んでもらえたこととか」
…そう言われてみれば、今まで(今も)『彼』や『きみ』としか呼んでないわね。
「けれどそれと同じくらい、忘れたいこともあるんです。辛かった記憶、嫌な記憶、悲しい記憶…本来なら忘れることで自分を守るはずなのに、僕はその全てを覚えている。常に脳裏にあるんです。夢に見るのではなく、気を抜けば視界を覆うような、そんな感じなんです」
「…………」
なにも、言えなかった。私だって、忘れたいと思うことはいくらでもある。優姫や小春、龍凪さんや西条君にもあるだろう。それはいずれ忘れられる。けれど彼は…
「…だから、僕は記憶を取り戻すことが、少し怖いんです。その中に、知りたくない、覚えたくない記憶があることが…怖いんです」
彼の…星風君の気持ちは、よく分からない。私はそんなことを思ったことがないから。けれど、これだけは言える。言わなきゃならない。
「…力になれるようなら言って。私も、みんなも、力になるから」
「……ありがとうございます、緑葉さん」
けれど数日後、別の意味で彼から助けを求められることになった。
結局、精霊の存在が全員の知るところとなりました。除け者は可哀想でしたので…(け○フレかな?)
次回は学生らしい辛さがあります。
ではでは。