遊戯王 WIND SEEKER   作:鐡 銀

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今回は基本的に湊月君の独白回です。多くは語りません。そして多分重いです。
それでは本編。


五十一枚目:忘れられない過去

☪︎

 

──少しだけ、過去について語ろう。

俺と結との間で交わされた会話の主軸である彼女の名は碧乃(あおの)玖織(くおり)。俺の元彼女であり…故人だ。

玖織と出会ったのは幼少期の頃…小学1年の頃だ。その頃に俺は別の街からフルーナシティに引っ越してきたばかりで、街の地理も分からず道に迷っていた。どこに行く訳でもないが迷っていた俺を見つけ出し導いてくれたのが、玖織だった。玖織は右も左も分からない俺の手を引いて、プリズムとは別のカードショップまで導いてくれた。その店は今でも贔屓にしている。そしてその店で俺は【E・HERO】とクリボーダー…そして、ダーク・リベリオンと出会った。

それから俺は地域の小学校に転入し、玖織が1学年上のいわゆる先輩であると知った。そして、俺より1つ下の妹…つまり、結がいることも。俺達は自然と3人で遊ぶようになり、長い時を共に過した。その中で俺は自然と、玖織に惹かれていった。

小学3年に上がってから、俺は玖織に告白した。玖織の方も快く承諾してくれて、俺達は付き合うことになった。ただ、付き合う条件として玖織の望むデッキを作ってくれと頼まれた時には悩んでしまった。あいつのやりたいことはめちゃくちゃ過ぎて必死になって組んでいた。そうして組み上げたのが、Bloo-Dが本来組み込まれるべきデッキ、【D-HERO】だった。

玖織本人がカード自体に興味があることもあり、俺達はたまにカードのデザインコンテストに応募することもあった。ただ俺達は応募すること自体を楽しんでいたから、結果は気にしていなかった。とはいっても、当選して実際にカード化された場合はある程度の量が手元に届くから合否はそれで判明するんだがな。

それからさらに時はすぎ、小学5年の時に、全てが変わった。玖織が倒れて入院することになったんだ。その時に玖織の親から聞かされたのは…玖織が、不治の病であるということ…そして、余命は、もってあと2年、ということだった。

それから俺は毎日のように玖織の元に通い、玖織を勇気づけようとした。色んなカードを持ち込んだし、色んな話もした。過去の話も、今の話も…未来の話だってした。玖織にせがまれてカードのイラストを描いたりもしたし、デザインコンテストに応募しては一喜一憂した。そうして何とか玖織を元気にしようと過ごし続けて…2年。俺が中学生になって初めての夏を迎えた時、その日が来てしまった。それ以前からだんだんと玖織は生気が抜けていっており、目も見えなくなっていた。ギリギリ耳が聞こえ、触覚が残っていたことから俺がいる間は玖織の手を握って話しかけ続けていた。その日も、ずっとそうして語りかけていた。不意に玖織が話の合間に割り込んで、こう言った。

 

「今までありがとう。結のこと、みんなのこと、お友達のこと…よろしくね」

 

…そう言って、玖織は見えなくなった目を閉じた。どれだけ語りかけても起きる気配はなく、だんだんと握りしめた手は冷たくなっていった。その部屋も、外も、嫌になるような暑さなのに、玖織の手は酷く冷たくて、俺は、その事実を認めたくなくて、必死に声をかけ続けていた。玖織の家族が来て、結が遅れて来て、主治医の人が来て、俺の親が来てようやく、俺は玖織から離れた。

その日、玖織は14歳の若さで亡くなった。

葬儀の日、玖織のご両親から俺宛ての遺書と共に【D-HERO】のデッキを手渡された。虚ろな目で遺書に目を通した俺は…何度目になるか分からない、涙を流すことになった。

 

『湊月へ

この手紙を読んでるってことは、私は死んじゃったってことだよね。もっと湊月と一緒にいたかったけど、残念だなぁ。でも私の代わりに私のお友達が、D-HERO達がきっとそばにいてくれるよね。それにあの子達もいるから、大丈夫だよね。けど【D-HERO】は湊月が組んだデッキだから、好きなようにしていいよ。湊月が使ってもいいし、ずっと持ってるだけでもいい。手放してもいいけど…その代わり、Bloo-Dだけは持っててほしいかなぁ。その子は私のお気に入りだもん。けど…きっといつか、目も見えなくなって、その子達の事も…湊月の顔も、見れなくなっちゃうんだよね…そう思うと、寂しいかな。ねぇ、湊月。私はもう君と未来へは行けないけど、君はちゃんと未来に向かって歩んでいってね。ずっとずっと、大好きだよ、湊月。

追記 結のこと、ちゃんと守ってあげてね。約束だよ』

 

この遺書に遺された玖織との約束が、結とのデュエルで手を抜く要因になっている。俺にとって結は、守るべき相手だから、本気を出せない。本気を出して勝って、傷つける訳にはいかなかったから。けど結局…手を抜いたせいで俺は、結を傷つけてしまっていた。

 

葬儀の帰り、何気なく通った道で俺は1枚のカードを拾った。拾った時点では白紙だったのだが、急に光輝いたと思ったら、『No.39』…そして、『希望皇』の名だけが読み取れるエクシーズモンスターとなった。玖織を喪い『絶望』している俺に、『希望』を見せつけるソイツを、俺は好きにはなれなかった。そして同時に、「玖織にこのカードを渡せていたら、少しは結末が変わったのだろうか」と、考えてしまった。そう思うと、そのカードを手放すことが出来なくなった。

結局、『No.39』と【D-HERO】は今もなお俺の手元に遺されている。そして俺は、未来へは歩めていない。俺の心は、あの日から、ずっと、止まったままなのだから──

 

 

 

「あれ、湊月君。どうしたの、こんなところで?大会はまだ続くよね?」

 

あの頃を思い返していた時に、会場の外にいた柊真さんと出会った。

 

「…柊真さんこそ、外で何してんすか?」

「僕?僕はちょっと外の空気を吸いたくてね。それで…その手に持ってるカー…ド…」

 

俺の持つ『No.』を見たであろう柊真さんは、何故か言葉に詰まっていた。

 

「…? いや、これは…」

「………湊月君、デュエルしよっか。そのカードを使って」

「……は?」

 

柊真さんは、No.を見たと思ったら急にデュエルを挑んできた。それも、殺気立った感じで。

 

 

 

 

 

 

西条君が不安だからと迎えに行った優姫は、1枚のカードを手に持ったまま1人で帰ってきた。優姫曰く、『1人になりたいからと、ダーク・リベリオンを託してどこかへ行ってしまった』らしい。無理も、ないわね。

 

「…さて、しんみりした空気をとり払おう!これで一回戦目は全て終了!続くのは二回戦!まずは第一試合、【海晶乙女】vs【霊神】!マリー・リュクス・ミネルヴァ選手と天魅(あまみ) 睦也(むつや)選手はスタジアムへ!第二回戦は【彼岸】vs【ライトロード】!赤花(あかばな) (めぐる)選手と輝琉 ライン選手は準備しておいてね!」

 

次のマリーさんの相手は天魅 睦也君。彼の姓は聞いたことがあるのだけれど…まさか、ね。

 

「…で、では、行ってきます!」

「はぁ…あの空気の後にデュエルするのキツイんだけど…ま、行ってくるわ」

「い、行ってらっしゃ〜い…」

「…優姫、本当に彼は大丈夫なの?」

「分かりません…ですが、預かったカードは大切に使わせていただく所存です」

「…そう」

 

…彼は、立ち直れるのかしら。こんな時、星風くんならどうするのかしらね。

 

(…どうしていつも、困ったことがあると星風くんの事ばかり考えてしまうのかしらね…?)

 

その理由を、この問に対する答えを、私は知らない。

 

「さあ、それじゃあ第二回戦の開幕だよ!第一試合はマリー選手vs睦也選手!2人とも準備はいい?」

「はい、大丈夫です!」

「こちらも万全だ」

「OK!2人の確認もとったし始めるよ!デュエル開始!」

「「決闘(デュエル)!」」




次回は海晶乙女vs霊神。今回もマリーさんは勝てるのでしょうか。
今回明かされた湊月君の過去、そして切り札や相棒、『No.』との出会い。書いてて若干心苦しかったです。
最後に現れた柊真さんの発する不穏な空気。彼も何かを秘めているようですね。
それではカード紹介へ。

「さてさて、カード紹介のお時間だよ。今回は私、松瀬 永遠と──」
「俺、ヤクモで行う。まさかお前と組むとはな」
「それ、こっちのセリフー。それで、今回はどれを?」
「個人的に興味のある1枚だ。今回は《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》だ」

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
レベル4モンスター×2
(1):このカードのX素材を2つ取り除き、
相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力を半分にし、
その数値分このカードの攻撃力をアップする。
※テキストは遊戯王wikiより引用

「うっわぁ、汎用的な効果だね。一度に素材を2つ使うってのはちょっと重いけど、永続的なフォースは強いよ」
「効果を使わずともそこそこある攻撃力は魅力的だな。また、この効果はターンに一度の制限がない。素材を補充出来れば連続で使えそうだな」
「ロマンの域を出ないけどねー。さて、次回は私の友達になったマリーちゃんのデュエル。対戦相手は霊神使いの子なんだってね」
「霊神か。どこまで扱いこなせているのか見物だな。次回が楽しみだ」
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