ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
進学
「翔子が……!」
「スカート履いてる!?」
顔を合わせた途端、昴と葵が声を揃えた。
「同感だけど失礼」
俺はそう言って膨れっ面を作った。
成長を見越して大きめサイズの真新しい制服はセーラー服にスカート、赤いリボンという構成。
――まさか、こんな格好をすることになるとは。
試着時にも感じたことだが、スカートはやたら翻って頼りない。
これじゃ、ちょっと道を走るのにも気を遣わないといけないし、どこかに引っかけたら一発で裂けてしまいそうだ。
今まで避けてきたのが正解に思える。
制服では仕方ないので、慣れるまでは騙し騙しやるしかないだろう。
ちなみに、葵も同じ制服を着ている。
隣にいる昴は学ランだけど、飾られた校章は同じ。嬉しいことに俺達の進学先は一緒だった。市立桐原中学校。主に俺の小学校と昴達の小学校から生徒を受け入れている中学だ。
校門付近には他にも見知った顔がいくつも見える。
家の住所によって別の公立に行った生徒もいるし、私立に進学した者もいるので全員が全員ではないのだが。
「お、いたいた」
「つるみん、制服姿を拝みに来たよぉ」
縁、というやつだろうか。
駆け寄ってきた二人――さつきと多恵も同じ学校である。二人とはあれからも付き合いを続けており、だいたい週に一度は一緒に遊んでいた。
今となっては昴達と同じく『親友』といっていい。
歓声を上げる二人を昴と葵が振り返って、
「翔子の友達か」
「前に言ってたバスケ勝負の子?」
「うん。こちら、柿園さつきと御庄寺多恵」
俺はそれぞれをそれぞれに紹介する。
昴達とさつき達はこれが初対面。もっと早く引き合わせても良かったのだが、なんとなくタイミングを逃がしてしまっていた。
長谷川家の庭に五人は窮屈だとか、この面子だとバスケばっかりになるというのも理由だ。
ともあれ。
みんな新しい出会いを歓迎したようで、笑顔で挨拶を交わしてくれた。
「つるみん、制服似合ってるよぉ。私服でもスカート履けばいいのに」
「……ん、まあ、そのうち」
「またそれかぁ。前からこんな感じなのよね。可愛いんだからお洒落すればいいのに」
「大丈夫。前より気を使ってる」
ポニーテールを揺らして答えた。
夏休みから伸ばし始めた髪は、以来、一定の長さを維持している。縛っていればそう邪魔にならないが、風呂で手入れする時は結構大変だ。
ずっと縛っていると痛むし蒸れるし、しっかり洗わないと痒くなる。
そんな俺にさつきが笑って、
「しかし、翔子の変な口調にも大分慣れてきたな」
「変って。これでも精一杯」
「弊社はいいと思うよぉ。組織のエージェントって感じで」
どこの組織だ。私が死んでも云々とでも言えばいいのか。
イメチェンの一環である口調矯正はまだまだ途上。それにしても、多恵は相変わらず変なことを言う。苦笑していると、昴と葵が「弊社?」と首を傾げる。
懐かしい反応だと頷くうちに二人は意味に気付いたらしく、昴が勢い込んで口を開いた。
「なあ。翔子とチーム組んでたってことは、お前らもバスケやるのか!?」
やっぱり気になるのはそこか。
問われたさつき達は対照的に微妙な感じで顔を見合わせる。
「んー、いや。あの時は結局試合しなかったしなあ」
「やるってほどやってないよねぇ」
「……む、そうか。残念」
やるなら誘おうと思ったのに、と肩を落とす昴。
うん。実際、さつき達とは別の遊びをすることが殆どだった。普段からバスケしていたならもっと前に紹介している。
とはいえ、今のは若干意地悪なような。
さつきと多恵を見れば、二人はくすりと意味ありげに笑った。
――そう、今まではやってなかったよな。
と。
「ここにいたのか、三馬鹿」
話を続けようとしたところで、横手からの声がそれを遮った。
今度は誰か。
俺達を『三馬鹿』と呼ぶ相手は限られている。振り返れば案の定、男女ペアの新入生がこちらに歩いてきていた。
良く言えばワイルド系、俺の主観では悪ガキ系の雰囲気を纏った顔立ちのいい男子。
早くも制服を着こなした、長い髪の清楚系女子。
男子が前、女子がその後ろという陣形で立ち止まると、二人はふんと鼻を鳴らした。
俺は目を細めて彼らに尋ねる。
「三馬鹿って誰のことだか」
「お前ら以外にいないだろうが」
なかなか言ってくれる。
「……テストの点で勝ってから言って欲しい」
「勉強できる馬鹿っているんだぜ。鶴見には難しいかもしれないけどな」
「さすがカズくん。格好いい!」
きゃあ、と、女子の方が声を上げて男子の腕に抱きつく。
それを適当にあしらって肩を竦める男子。
「
「
相変わらず、この二人の距離感はよくわからない。
――諏訪一宏と鳳祥。
彼らとも腐れ縁というかなんというか、なんだかんだで付き合いが続いている。クラスが同じなので切りようがなかっただけかもしれないけど。
友達、と言っていいのかはよくわからない。
校外で遊ぶことはない。昼休みなどに大勢で遊ぶことになった際、たまたま一緒になることがある程度。結局、諏訪はあれから俺のことを名前で呼んでくれていない。
当然だが、二学期からの半年も色々なことがあった。
俺にとっての大きな変化はイメチェンを始めたこと。
休み明け。髪をポニーテールにし、堂々と下着をつけ、ユニセックスながら女子の服で登校した俺にクラス中、いや、下手したら学校全体が驚いた。
どうしたのかと聞いてくる生徒もたくさんいたが、それには簡単に答えた。
『別に。ただ、いつまでも意地張ってても仕方ないなって』
男子、特に俺をショーゴと呼んでいた奴らは盛大にからかってきたが、スルーするか適当にあしらった。すると次第に声は収まり、女子からの歓迎の声にかき消されていった。
俺が疎まれていたのは「変だったから」というのが大きい。
彼女達の基準で変じゃなくなれば仲間として認めてもらえるわけで、俺はだんだんとクラスの輪の中に入っていくことができた。
例のスニーカーの一件の悪影響もなし。
というか、何故か同情的な声をかけられたくらいだ。どうやら夏休み中に噂が広がっていたらしい。
原因は、諏訪のチームメイトだった二人の男子。
夏休み中に仲間と会って遊ぶ際、それとなく話した内容が他の男子に伝わったようだ。
『鳳のやつスゲーびびってた』
『あれ、絶対鳳がやったんだぜ』
鳳は女子に根回しをしていなかった。
携帯が普及しきっていないのも要因の一つ。メールがあれば女子のネットワークが勝っていただろうが、結果的に鳳は不利な噂を打ち消せなかった。
すると何が起こったか。
――逆転。
俺はここぞとばかりに本気を出した。
バスケのおかげで体育の成績は上がったし、座学はぶっちゃけ余裕である。文武両面から鳳を上回った結果、俺がいじめられることはなくなり、証拠はないが汚点を抱えた鳳は逆に転落していった。
スクールカーストにおける下剋上である。
俺はもう一人のトップ層であるさつきとも仲が良い。風見鶏のごとく情勢を読む女子達はさっさと俺についた。そうでない女子にしても、ぐっと話しやすくなった俺を無理に排する理由がない。
『翔子ちゃん。祥、全然反省してなくない?』
『鳳がやったって決まったわけじゃないし、気にしてないよ』
『やだ、鶴見さん格好いい』
俺は、鳳を潰せとか除け者にしろとか命じたりはしなかった。
むしろ何もしなくていい、普段通りでいいと言ったのだが、気づけば鳳は孤立していた。こういう時、本当に女子は怖い。
お洒落をしても大した称賛を受けられなくなった鳳は一時期、沈んでいた。
そんな彼女に声をかけたのが諏訪だ。
『おい。最近元気ねーな。大丈夫か?』
何気ない一言。
諏訪からすれば、男女関係ないただの心配だったのだろうが――意中の相手からの優しい言葉に、鳳はどうやらころっといってしまったらしい。
『カズくん!』
『……は?』
当の諏訪がドン引きするレベルのアタックが始まった。
半ばステータスとして「恋する乙女」をやっていたのが、ガチの恋する乙女にランクアップしたのである。
鳳は得意のお洒落を「みんなに自慢するため」ではなく「諏訪に見せるため」にするようになり、見た目的には大分落ち着いた。諏訪が「派手なのは好きじゃない」と言ったからだ。
堂々としたカズくん呼び、他の男子が目に入らない一途ぶり、若干アホの子と化した彼女に対し、クラスの雰囲気もだんだんと軟化、トップカーストではないが底辺でもない位置に落ち着いた。
諏訪と一緒になって俺に難癖つけてくるのがちょっと不満だが。
何気に翔子呼びしてきているあたり、仲良くなったと言ってもいいような、でもやっぱり違うような――微妙なところである。
そんなわけで。
俺はため息をついて言った。
「
と。
「翔子が――」
「鶴見が――」
「つるみんが私って言ってる!?」
だから、そこは今どうでもいいんだって。
☆ ☆ ☆
一人称を変えるのは中学からと決めていた。
新顔も増えるので目立ちにくいし、中学デビューと言ってしまえばある意味珍しいことでもない。
友達の前ではさっきのが初めてだが、家族には既に解禁している。
「……まあ、母さんに思いっきり泣かれたけど」
「そりゃそうだろ」
さつきが呆れ顔で言い切った。
ちなみに母さんのは嬉し泣きである。それでも申し訳なくて仕方ないが。
「あはは、びっくりしたけど……確かに今までが変だったのよね。むしろ」
「不本意だけど葵の言う通り」
まあ、別に内面まで変わったわけじゃない。
外面を取り繕っただけなので大したことないといえば大したことはない。就活の時はよくやっていた。
この話は終わり、と暗に意思表示をすれば、昴が。
「別に翔子は翔子だろ。それよりバスケの話って?」
諏訪が半眼になった。
「お前、バスケしか興味ないのかよ」
「んなわけないだろ。単にバスケが一番好きなだけだ」
え、本当に……?
ちらっと見れば、葵も似たような顔をしていたので俺の認識は間違っていない。
初対面のさつき達や鳳は呆れこそないものの、ああ、そういう子なんだ――という顔をしていた。当人達も大概濃いキャラだが。
俺は苦笑して昴の問いに答えた。
「さつきと多恵もバスケ部に入る予定なんだよ」
「え、本当!?」
ぱっと表情が明るくなったのは葵だ。
「本当本当。どうせなら翔子と一緒がいいしな」
「帰宅部禁止らしいから仕方ないよねぇ」
頭の後ろで腕を組んださつきと、ほんわか笑った多恵が頷く。
桐原中では原則、生徒はどこかの部に所属しなければならない。所属していれば幽霊部員でもいいため形だけのものだが。
二人は俺と一緒に女子バスケ部に入ることを選んでくれた。
これがさっき言いかけていたこと。
今まではあまりバスケに触れる機会がなかったが、これからは機会を作ってくれるということ。
女子バスケ部に入るとなれば、直接恩恵を受けるのは葵である。
「当然、私も入る」
「へえ……! やった、楽しくなりそう」
小さく呟きつつ、少女は口元を綻ばせた。
一方の昴は面白くなさそうだが、
「ちぇ。翔子だけでも男バス来ればいいのに」
「昴。私、女子」
「知ってるけどさ。俺だけ寂しいだろ」
言っている俺達の横で、諏訪と鳳が微妙な顔をしていた。
視線を向けると嫌そうに目を背ける。
これは、ひょっとするとひょっとするだろうか……?
ふむ、と俺は首を傾げて昴に言う。
「昴。男子ならそこに一人いる」
「そうか! なあお前、バスケしないか?」
「……ああもう! するよ! お前に言われなくてもそのつもりだっての!!」
何故か自棄になったように諏訪が叫んだ。
ぎゃーぎゃーやり始めた二人についていけず、鳳がぽつんと立ち尽くしていたが――声をかけると藪蛇になりそうなのでそっとしておいた。
俺の勘が正しければ体験入部で会えそうだし。
「はーい、みんな。並んで並んで。記念写真撮ってあげる」
「げ、母さん」
「あ、七夕さん! ありがとうございます」
カメラを手にした七夕さん、更にその後ろからは俺や葵のお母さんまでやってきて、纏めて写真に収め始めたため、結局、鳳も孤立してはいられなかったし。
早くも大騒ぎになった中学生活だけど、一体どうなることやら。
心配な反面、わくわくしている自分がいた。