ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子部長、派閥を形成する?

 不意に視線を感じた。

 部活終わり、女バスのみんなと昇降口に歩いていた時のことだ。

 粘りつくような、絡みつくような感触にびくっとする。

 

「っ」

 

 なにこれ。

 前世(?)では女子の端くれとして、痴漢されたことはあったんだけど――感覚としてはその時に近い。でも、今の私は小学生で、しかも小学校の中なんだけど。

 

「鶴見さん?」

「あ……」

 

 立ち止まった私を愛莉ちゃんが振り返る。

 なんと言ったものか。

 ただでさえ発育が良く、悪意にさらされがちな彼女に変なことは伝えたくない。

 私は困惑顔のまま首を捻って、視線の『元』を辿る。

 気のせいならそれが一番いいと思ったからなんだけど、

 

「あら」

「………」

 

 目が合った。

 白衣を纏い、眼鏡をかけたショートヘアの女性。クールな雰囲気を纏った彼女は「見つかっちゃった」とばかりに微笑むと、物陰から出て私たちの方に歩いてくる。

 すると、私と愛莉ちゃんにつられて立ち止まったみんなが、彼女に気づいて笑顔になった。

 

「こんにちは、羽多野先生」

「こんにちは、みんな。部活動の帰りかしら?」

 

 そう。

 視線の主は慧心初等部の養護教諭である羽多野冬子先生だった。

 そっか。そういえばこの人がいたっけ……。

 羽多野先生は普通にしてれば男性人気も高そうなのに、成人男性への興味はゼロ。興味があるのは小さい男の子と小さい女の子だけ。修学旅行の引率などの大義名分があれば嬉々として少年少女の写真を撮影し、満面の笑みを浮かべるという困った人である。

 必然的にバイセクシャルなので、私とは割と話が合っていたわけだけど。

 

「くすくす。誰が気づいてくれるかわくわくしていたのだけれど。翔子ちゃん、敏感なのね」

「ひっ」

 

 すぐ傍に立たれてびくっとする。

 羽多野先生はロリコンにしてショタコン。

 

 ――つまり、今の私はターゲットになりうるのだ。

 

 幸い、ターゲットにはノータッチを貫く変態淑女さんなので、どうこうされる心配はないけど。

 警戒心が先に立つのはどうしようもなく、私は胸をかばいつつ一歩下がる。

 すると羽多野先生は悲しそうな顔をして呟く。

 

「嫌われちゃったかしら。前はあんなに懐いてくれてたのに。可愛い二つ名だってつけてあげたじゃない」

「二つ名……」

「そうよ、舞姫(エリス)ちゃん」

 

 言われた途端、記憶が浮かび上がってくる。

 五年生の一学期。

 クラス全体で二つ名ブームが起こり、みんなに格好いい(可愛い)二つ名がつけられた。真帆ちゃんの「打ち上げ花火(ファイアーワークス)」とか、紗季の「氷の絶対女王政(アイス・エイジ)」とかだ。

 当然、私にも二つ名がつけられていて。

 かなり初期の命名だったらしく、私のはごくごくシンプル。神話の女神の名前でもあるから洒落てるんだけど……。

 

 ――漢字表記とルビを合わせると悪意がないでしょうか。

 

 外国人留学生に弄ばれた挙句、好きになりすぎて発狂する踊り子しか思い浮かばない。

 

「私、ヤンデレじゃないです」

「あら。森鴎外なんて渋い本を読んだのね」

 

 確信犯(誤用)じゃないですか!

 愕然とする私を見て、紗季がため息をつき、

 

「羽多野先生。うちの部長をあんまりいじめないでください」

「くすくす。ごめんなさいね。ここのところご無沙汰だったから」

 

 そういえば、転生してきてから会っていなかった。

 部活で怪我することもあったけど、絆創膏とか消毒くらいは自分で用意してた。保健室に行くほどの怪我にはならなかったのだ。

 

「すみません、羽多野先生。びっくりしてしまって」

「いいのよ、私こそ驚かせてごめんなさいね」

 

 できるだけこの人には近づかないでおこう。

 羽多野先生と和解した私は、内心思った。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「へえ。バスケットボールにもポジションってあるのね」

「うん。サッカーとか野球ほど厳密じゃないんだけどね」

 

 女バスの活動はちょっとずつ本格的なものに移行しつつある。

 といっても、試合一辺倒だったところから徐々に基礎練の時間を増やしてる段階。基礎練の時間はまだ三十分にも満たない。

 それでも、みんなもだんだんバスケ自体に興味を持ち始めていて。

 小休止の時間に作戦とかポジションの話をちょっとずつ聞いてくれるようになった。

 

「じゃあじゃあ、一番強いのはどれ?」

「んー……一番攻撃重視なのはパワーフォワードかな? でも、どのポジションも大切なんだよ」

 

 バスケは五人しかいない。

 野球みたいに守備位置が決まってるわけじゃないし、サッカーみたいにコートがだだっ広いわけでもない。フォワードだって守備に参加できるし、しないと手が足りない。

 逆にガードが攻撃をしないかと言ったらそんなこともない。

 

「フォワードってつくのが二つと、ガードってつくのが二つと、えっと、後は……」

「センター。私が一番好きなポジションだよ」

「おー。なんかつよそう」

「あはは。ある意味、間違ってはいないかも。チームの中で体格のいい人が担当することが多いから」

 

 だから、今の私にはちょっと不釣り合い。

 前の時に背が伸び始めた時期はまだ先のことで、身長もみんなとそう変わらない。

 チーム内には圧倒的に高い子が他にいる。

 

「タイカク……背がおっきーってこと?」

「あ、馬鹿、真帆」

「うん。ジャンプボールするのもセンターが多いから、身長が高いと有利なんだよ」

「しょ、翔子っ」

 

 紗季と智花が制止しようとしてくれたけど、もう遅かった。

 

「……背」

 

 身長が高いというワードに反応して表情を曇らせた子が一人。

 愛莉ちゃん。

 人一倍――クラスで唯一のバスケ男子である夏陽くんよりずっと背が高い彼女は、それがコンプレックスになっている。身長だけじゃなく、胸とか、発育の話が出るだけで反応し、ひどい時には泣き出してしまう。

 実際、彼女の瞳にはじんわりと涙が浮かんでいた。

 

 私が転生してきてからだけでも、彼女がからかわれて泣くところは何度か見た。

 身長がNGワードなのは当然知ってたけど、申し訳ないことに、さっきの発言はわざとだ。

 

「うん。格好いいんだよ、センターって」

「っ」

「翔子……っ」

 

 紗季が咎めるように囁いてくるけど、私は小さく笑みを浮かべてスルーする。

 傷つけたいわけじゃない。

 でも、バスケの話をするのに身長の件を無視するのは難しい。

 

「私は好きだよ。背の高い人。私はもっと身長が欲しい」

「ふえ……っ」

 

 遂に、愛莉ちゃんが涙を溢れさせる。

 真帆ちゃんが「やばっ」という顔をしたのはこの時。そのタイミングで、紗季とひなたちゃんはもう、愛莉の背を支える体勢に入っていた。

 

「あいり、なかないで」

「大丈夫だから。……もう、わざとそんな話しなくてもいいじゃない」

 

 怒っているというほどではない。

 でも、紗季の表情は険しい。

 私が褒めているのもわかるし、愛莉ちゃんの気持ちもわかるから何も言えないのだろう。

 彼女に頷きを返して、愛莉ちゃんへ頭を下げる。

 

「ごめんなさい、嫌なこと言って」

 

 数秒待ってから顔を上げて、目を見て言う。

 

「でも、知って欲しかったの。私は好きだって。背が高い子も、香椎さんのことも。素敵だって。可愛いって。あんな風になりたいと思ってるって」

「ひっく……、ぇ……っ?」

 

 しゃっくりを上げながら、驚いた顔になる愛莉ちゃん。

 手を伸ばして彼女の手を取る。

 柔らかい。ちょっと震えてるけど、彼女の体温を感じる。

 

「……うん、私も」

「もっかん?」

「バスケやってる子はみんな一度は考えると思う。もっと背があったらって。私は小さいからよく考えるよ。私の背が高かったら――香椎さんみたいだったら、もっと色んなプレーができるんじゃないかって」

「智花……」

「っ、鶴見さん、湊さん」

 

 愛莉ちゃんが泣き止んで落ち着くまでには、それから三十分くらいかかった。

 でも、その時の愛莉ちゃんはわんわん泣く感じじゃなくて――贔屓目かもしれないけど、複雑に入り組んだ気持ちをどう処理していいのかわからないっていう風に見えた。

 落ち着いて、お手洗いで顔を洗って戻ってきた愛莉ちゃんは恥ずかしそうに、どういう顔をしていいのかわからないっていう感じでぽつりと言った。

 

「練習、止めちゃってごめんなさい」

「ううん、私こそごめんなさい」

「私も、ごめんなさい、香椎さん」

 

 智花と二人であらためて謝ると、愛莉ちゃんは数秒置いてから「ううん」と首を振った。

 

「ありがとう。……えへへ、二人が言ってくれたこと、嬉しかったよ」

 

 言われた途端。

 私の中で感情が溢れ、堰を切ったように涙がこみ上げてきた。愛莉ちゃんが泣いているのを見て、私も知らず知らずのうちに色々限界だったらしい。

 

「ショーコ?」

「翔子」

「っ」

 

 私は衝動のままに愛莉ちゃんに抱きつく。

 役得とかそんなこと考えることもなく、顔を押し上げて声を上げる。すると、片腕と背中に新しい、温かいものが押し当てられた。

 くぐもって聞こえる泣き声は、智花のもので。

 彼女の声にあてられるように私の感情も更に溢れ出し――その日は、それ以上何も練習ができずに終わってしまった。

 

 泣き止んだ私と智花に、紗季は「羨ましいわ」と言った。

 

 単なる雑談からのこの有様。

 変なことを言ったつもりはないけど、ちょっと失態である。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 翌日の朝、愛莉ちゃんと挨拶するのが非常に気まずかったり、智花と挨拶するのはそれ以上に気まずかったりするのを乗り越えて。

 次の練習日。

 

「あ、あのっ」

 

 着替えを終え、練習を始めようと思った矢先、私達を愛莉ちゃんが呼び止めた。

 

「一昨日はごめんなさい」

「もー、いいってば、その話は」

「そうよ。いいっこなしってことで」

 

 済んだことだ、と、私達が口々に答えると控え目に微笑む愛莉ちゃん。

 どうやら本題はその先だったようで、「あのね」と、私と智花を見てくる。

 

「鶴見さんと湊さんの言ってくれたこと、本当に嬉しかった」

 

 どきっとする。

 さすがにもう泣きだしたりはしないけど、一時的に愛莉ちゃんしか見えなくなりそうになる。

 

「それでねっ。……わたしたち、もう、お友達だよね?」

「う、うん」

「もちろん」

 

 今更の問いかけにちょっとだけ声が上ずった。

 と。

 

「なら……わたしも、みんなのこと名前で呼んでもいいかなっ?」

 

 一生懸命に勇気を振り絞ったのだろう。

 愛莉ちゃんは真剣な表情で私達を見つめていた。

 だから。

 すぐには返事ができなかった。

 

 一つ、息を吸って。

 笑みを浮かべて答える。

 

「うん。ありがとう――愛莉」

「うんっ。私も、これからは愛莉って呼ぶね」

「っ!」

「ふふ。良かったじゃない。……愛莉」

「あたしなんかとっくにあだ名で呼んでるし! ね、アイリーン!」

「……っ、うんっ」

 

 こうして、私達はまた一つ仲良くなった。

 

 互いの呼び名が変わっただけ。

 愛莉ちゃんが急に背のことで泣かなくなったり、センターを自分から志願したり……なんて、魔法みたいなことが起こったわけじゃない。

 男子が照れ隠しにからかいの言葉を投げれば泣きだしちゃうし、着替えの度に恥ずかしそうにしてるのも変わらない。

 でも、泣かせた男子には真帆や私が言い返すようになった。着替えの時は智花やひなたちゃんがさりげなく話しかけてる。紗季はいつもさりげなく目を光らせて、大ごとになる前に調整役を買って出てくれる。

 

 金曜日の部活の度に「お休みの日はどうしよっか」って話す。

 お稽古がある智花や将棋の修行がある私、お店の手伝いがある紗季はいつも参加できるわけじゃないけど、それでもだいたい、誰かが何かを企画した。

 日曜日に出かけられなければ平日の放課後に何かしたり、真帆ちゃんの誘いでオンラインゲームをすることもあった。

 真帆ちゃんときたら小五でMMOにFPSまでこなす上、将棋のことを話したら「やってみたい!」とか言いだすくらいゲームには積極的で、そりゃ美星姐さんともウマが合うよねって感じ。飽きっぽい性格じゃなかったらプロゲーマーか女流棋士、デュエリストにでもなってたんじゃないだろうか。

 

 クラスでも、私達六人は仲良しグループとして見られだした。

 同じクラスに同じ部活の仲間が六人もいて、しかも部員全員だなんて珍しいから、当然といえば当然だ。

 六人っていうと女子の何割かを占めるわけだけど、派閥争いとかも起きてない。私立小学校だけあってしっかりした子が多いというのもあるけど、トップカーストが女バスグループになっちゃてるせいもある。

 本物のお嬢様にしてカリスマの真帆、委員長の紗季、男子人気を二分する癖に恋愛に興味ない愛莉&ひなたちゃん。そこにタイプの違う美少女お嬢様の智花が加わったのだから、女子としては一目置くしかないというものである。

 私はまあ、ぶっちゃけオマケだけど。

 

 友達がいっぱいいるお陰で、前世みたいないざこざが無くて楽ができて――。

 

「おい鶴見。勝負しろ」

「へ?」

 

 できたんだけど、そのまま無事に過ごさせてくれないでしょうか。

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