ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子部長、勝負をする

 個人的に、夏陽くんは真帆ちゃんと付き合うのがいいと思う。

 たぶん、ひなたちゃんが相手だと、相当努力しないと恋人同士になれない。恋人になっても努力し続けないと長くは続かない。

 真帆ちゃんとなら相性はばっちり。

 気兼ねなく言い合いできる関係が長く続いているっていうのは、そういうことだ。

 

 だから、彼には真帆ちゃんをライバル視していて欲しいんだけど。

 

「どうして私と?」

「わかんねえからだよ」

 

 夏陽くんとは平日の朝に体育館で対峙することになった。

 ひんやりした広い空間に私達二人だけ。みんなは勝負のことを知らないからだ。勝負を申し込まれたのは廊下でふと二人だけになった時。

 応援とかで人が増えるのを嫌ったからだろう。

 

「わかんないって、どういうこと?」

「………」

 

 夏陽くんは答えずにバスケットボールを持ち上げた。

 

「今更、やらないとか言わないだろ」

 

 それはまあ、その通りだ。

 早起きしてここまで来て体操着にも着替えた。付き合う気がなかったらそこまでしない。

 勝たないといけない、っていうほどのやる気もないけど。

 

 ハーフコートで五本先取。

 

 簡単にルールを決めると、私の先攻でゲームを開始した。

 

「っ」

「っ!」

 

 最初のドライブでわかったのは、夏陽くんが本気だってこと。

 全力で止めに来てる。

 彼の気迫に驚いた私はあっさりとボールを奪われてしまう。攻守が入れ替わり、夏陽くんがジャブステップからの突破で先制点。

 てん、と。

 床を跳ねるボールに歩み寄りながら、夏陽くんが言う。

 

「本気出せよ、鶴見」

「………」

「適当にやられても意味ないんだよ。それとも逃げるのか」

 

 あからさまな挑発。

 そんなこと言われても……って思ってしまうあたり、男の子的なノリが随分と遠くなってる。

 同い年の男子に負けてきた経験のせいかもしれない。そんなに熱くならなくても、あと二年もすれば私達には勝てるよ、って。

 でも。

 スポーツをやっている以上、競い合う楽しさはわかる。

 

「……ごめんね」

 

 気合を入れ直そう。

 深呼吸をして、余計な考えを頭から追い出す。

 

「勝ちに行くよ」

「ああ、それでいい」

 

 夏陽くんは少しだけ嬉しそうに笑うと、ぐっと表情を引き締めた。

 私達は幾度も身体を重ね合わせて、最終的に私が主導権を取った。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「わかんねえ」

 

 勝負が終わった後。

 心底不可解だというような呟きが私の耳に届いた。

 

「わからないって、なにが?」

「お前、ちょっと前までバスケ興味なかっただろ。なのに、なんで俺に勝てるんだよ」

 

 夏陽くんの視線は意外なほど鋭い。

 真帆ちゃんといがみ合ってる時よりも、今の方が凶暴に見えるくらいだ。

 彼の言いたいことはわかる。

 急に新しいことを始めたと思ったら、昔からの経験者を超えてしまう。そんなのは不可解に決まっている。智花が感じたのと同じ疑問を彼も抱いたのだ。

 

 でも、もう一度「前世の記憶」について触れる気はない。

 私は苦笑して話をはぐらかす。

 

「私は天才でもなんでもないよ」

「知ってる」

 

 当たり前のように頷かれた。

 いや、あの、言ったの私だけど、その扱いもひどくないでしょうか。

 

「お前は違う。本当の天才を知ってるから、わかる」

 

 真帆ちゃんのことだ。

 何でも柔軟に吸収し、人並み以上に上達してしまう彼女に、夏陽くんは何度も追い抜かされてきたらしい。唯一のバスケでマウントを取られた一件――球技大会の時や、その後、彼本人と仲良くなった後にある程度のことは聞いている。

 智花ちゃんも天才だけど、彼女は違う。

 持ち前の負けん気や集中力、以前からバスケに向き合ってきた経験値が天性のセンスと結びついて生まれたバスケの申し子。対抗意識を燃やすことはあっても、一点特化の才能に文句はつけられない。

 

「お前のは努力した奴のプレーだ」

「……うん」

「ずるいだろ。俺の知らないところでどんな特訓したんだよ。いつからだ。何をどうやったらそんなに上手くなれるんだ」

 

 私の実力はズルによるものだ。

 蓄積された経験値量が違う。さっきの勝負でも好き放題、夏陽くんの隙を突かせてもらったけど、それは前世の経験があってこそ。

 ざっと五年近く。

 中学高校で揉まれてきた経験だから、小一から始めていてもこうはならない。

 

「……独学だよ」

「どく……自分で練習したってことか? んなわけないだろ」

「信じられないよね。でも、本当なんだよ。先生はいない。いたとしたら――夢の中、かな」

「は?」

 

 私は微笑んで説明する。

 

「偶然ね、公園で見たんだよ。男の人と女の人、一人ずつ。負けるかってバスケしてるところ。何度も何度も。それがずっと頭に焼き付いてて、夢で繰り返し見るの。それで、真似してるうちに覚えちゃったの」

 

 真実と嘘を混ぜ込んだギリギリの回答。

 私の原点が昴と葵にあるのは本当だし、前世の記憶が夢みたいなものだというのも間違いじゃない。

 唯一、明確な嘘は、真似しだしたのがつい最近ってことだけど。

 

「……名前は?」

「え?」

「そいつらの名前だよ。知らないのか?」

 

 嘘をつこうか一瞬考えて、まあいいか、と素直に答える。

 

「長谷川昴さんと、荻山葵さん。今は中学生か高校生じゃないかな」

「プロじゃないのかよ。……でも、年上か」

 

 そうか、と、息を吐く夏陽くん。

 

「わかってくれた……?」

「わかるかばーか」

「ええ……?」

 

 これ以上それっぽい話は私にはできないんだけど。

 困った顔をしていると、何やら呆れ顔で首を振られる。

 

「……変な奴だよな、お前」

「そうかな?」

「そうだよ。なんか話してると調子狂う」

「私は竹中くん、優しいから話しやすいんだけどな」

 

 昴と似てるところがあるというか。

 男女の違いは理解してるけど、それを性格や嗜好の違いと認識してて、身体のことでからかってきたり、女だからっていじめてきたりはしない。

 真帆ちゃんと喧嘩してるのだって同じ目線に立っているからこそのこと。

 

 他の男子には話しかけただけで「うるせーブス!」とか「女子が寄ってくんな!」とか言う子がいるから、なんていうか安心する。

 

「……っ」

「どうしたの、竹中くん?」

 

 夏陽くんが真っ赤になってしまった。

 年上のお姉さんならともかく、同い歳になった私相手に照れるとかなさそうな気がするんだけど。

 

「竹中くん?」

「な、なんでもねえよ! ……くそ、なんか真帆とか紗季のお母さん思い出すんだよな……!」

 

 萌衣さんに亜季さん?

 光栄だけど、

 

「私、あんなに大人っぽくて綺麗じゃないよ?」

「わかってるよ馬鹿!」

「馬鹿……!? もう、気安く馬鹿とかいけないんだよ?」

「っ、ああもう、いいんだよそういう話は! とにかく! もっと練習してお前にもそのうち勝つからな!」

 

 びしっ! と私に指を突き付けると、夏陽くんは逃げるように更衣室へ走っていった。

 仕方ないので私も着替えをして、一人で教室に戻った。

 

 なんか、昔の諏訪を思い出してしまった。

 そういえば微妙に意気投合してたし、二人って性格が似てるんだろうか。止めてほしい。夏陽くんがあんなに可愛げのない性格になった上、年下とラブラブのロリコンになるなんて。

 

 ……まさか、昴をロリコンって目の敵にしていたのは、自分に素質があるのを認めたくないから?

 

 そんなわけないない、と思いつつも、物凄く怖くなった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「こういうのはどう?」

「あ、楽しそう。じゃあ、これと内容が被り気味だから別のにしよっか。何がいいかな」

「ええと、あれとか?」

「なるほど。……あ、それだったらあっちはどう?」

 

 放課後。

 中庭のベンチに智花と二人で座って、今後の練習メニューを相談しあう。

 手には今までの練習メモ。

 今回で何度目の相談だろう。一週間か二週間か、メンバーに上達や飽きの気配が出始めるたびにこうして集まって話をしている。もちろん、他のみんなの希望も聞くけど、知識量の多い智花と私がメニューを決定するのが通例になっていた。

 手のひらサイズのメモを二人で覗き込んでいると、自然に肩を寄せ合う感じになる。

 部活動に学校行事。

 クリスマスや初詣、節分とイベント目白押しの日々を過ごしているうちに二学期が終わって三学期に入り、季節は冬から春に近づこうとしている。

 肌寒さも和らいできたけど、まだまだくっつくと暑いというほどではなくて。

 

 ――そういえば。

 

 ふと、私は智花の顔をじっと見つめる。

 不思議に思ったのか、智花は首を傾げて私の顔を見返してきた。澄んだ瞳が間近にある。小さくて柔らかそうな唇も、また。

 

「翔子。どうしたの?」

「ううん」

 

 微笑んで首を振る。

 何かあったわけじゃない。むしろ何もないことに違和感を覚えた。

 

 私、すごく自然体だ。

 

 最初の頃はみんなにドキドキしてたけど、最近はそういう機会が減ってる。もちろん、みんなが可愛くなくなったとか、魅力に飽きてしまったとかじゃない。

 たぶん、私自身の感じ方の問題。

 女子高生だった頃の感覚が薄れているというか、小学生の身体に慣れてきたというか。愛莉と着替えてても不用意にドキッとしなくなった。性的な意味じゃなくドキッとすることはあるんだけど。いや、それだと昔はちょくちょく興奮してたみたいに聞こえるけど。

 

 思えば、小学生くらいの時って、あんまりそういうの考えなかった。

 女の子なら恋愛とかデートとかには興味津々だけど、その先については曖昧で不確かで、そのことが特に気にならないのが普通だと思う。

 もう一回、その辺の情緒の成長をやり直すことになるのだろうか。

 

 小学生に戻ってから多い「まあ、なるようにしかならないよね」という結論を頭の中で描いて、私は智花との相談に集中した。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「絶対やだ!」

「私も反対」

「……えっと、その、恥ずかしいから、できれば……」

「そっかあ」

 

 困ったなあ、と、私は内心でため息をついた。

 

 三月。

 五年生の三学期がもう少しで終わろうというそんな時期。

 私たち慧心初等部女子ミニバスケットボール部は一つの岐路に立たされていた。

 

 引くか引かぬか。

 媚びるか媚びぬか。

 のっぴきならない状況が目の前に広がっている。

 

 ――きっかけは些細なことだった。

 

 慧心初等部(うち)()()バスケ部が今年度最後の大会でそこそこ良い成績を収めた。

 喜びと悲しみの入り混じった六年生の姿に、五年生以下の部員たちは思った。もっと上に。もっと練習して、来年はもっといい成績を残したい。

 子供たちの素直な向上心はいいことだ。

 男子バスケ部も週三の練習だったので、スケジュール上は伸ばすことができる。なんなら倍の週六日だって、部員が望むなら可能だ。

 

 問題は場所がないこと。

 

 慧心初等部に屋外のバスケコートはないので、練習場所は体育館しかない。

 そして、その体育館は残りの三日、女バスが使っている。

 女バス。

 つまりは私たち六人である。

 

 作って半年程度の新しい部。

 実績なんてあるはずない。男バス部員たちからは「譲れ」という声が上がったものの、私たちだって「はいそうですか」と言えるわけがない。

 確かに実績はない。

 十人いないから部内での紅白戦もできないけど、真面目に練習しているのだ。ミニゲームと基礎練の比率は半々にまで到達しているし、ミニゲームに特殊ルールを組み込んで実質的な基礎練代わりにしたり、といった奇策もたまに用いている。

 少なくとも、未経験者相手に無双できるくらいには上手くなってる。

 

 男バス顧問としても強くは言えず。

 代表者同士で話し合いをしろ、という事実上の丸投げを表明し――男バスの新しいキャプテンである夏陽くんが、私たち女バスに話をもってきた。

 彼の主張は場所を明け渡せ、ではなく「一緒に練習しよう」だった。

 私たちが私たちなりに頑張ってることは(夏陽くん個人としては)理解できる。ただ、六人しかいないんだからコート余るだろうという主張だ。

 

 私としては異存はない。

 智花も競争相手が増えるなら別に構わない、ひなたちゃんも「べつにいいよ?」くらいのノリだったんだけど……残りの三人の反応はさっきの通りである。

 控えめな愛莉まで「やだ」と言っている以上、これは断固拒否に等しい。

 

「なんでだよ。仲良く使えばいいじゃねえか」

「ぜんぜん仲良くない! あたしたちは他の日に体育館使っちゃ駄目なんでしょ!?」

「夏陽だけ参加するくらいなら構わないけど、全員来られるのはちょっとね。……あ、いや、ごめん。あんたたち絶対喧嘩するからやっぱり無理」

「……男の子のバスケ部の子って、ちょっと怖い」

 

 夏陽くんが深いため息をついて私を見る。

 

「なあ、鶴見。なんとかしてくれよ」

 

 向こうが最大限の譲歩をしているのもわかる。

 女子に譲るなんて死んでも嫌な年頃の小学生男子をギリギリのラインまで抑えてくれてるんだから、夏陽くんには感謝したいけど、

 

「ごめん無理」

 

 にっこり笑ってきっぱり断る。

 

「嫌な子がいるなら無理だよ。諦めて」

「それじゃ他の奴は納得しないぞ、絶対」

「そう言われても。バスケしたいのは一緒なのに一方的に取り上げられるのは嫌だよ。部員が足りないなら署名活動でもして集めるけど?」

「……後悔するなよ」

 

 笑顔のまま「そっちこそ」って言ったら、鬼でも見たような顔をして去っていった。解せぬ。

 ううん、それにしても。

 できる限り活動内容を是正してきたつもりなんだけど……男バスとの勝負、回避できそうにないなあ。

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