ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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この話で百話目です。
意図したわけではありませんが、原作一巻の前フリにキリよく? 到達できた感じです。


翔子部長、やりすぎる

「どうして私達が我慢しなくちゃいけないか、ちゃんと説明してもらえない?」

 

 私は苛立っていた。

 夏陽くんとの交渉(?)が決裂した翌日の放課後、私達の部活動中、男バスの部員数名が意気揚々と乗り込んできたからだ。

 向こうの主張は「いいから場所を寄越せ」。

 新部長の夏陽くんは「だから言ったんだ」という顔をして頭を抱えていた。彼にも止めようがないのが一目瞭然。

 

 当然、私は抗議した。

 

 その話は断ったはず。

 第一、顧問からは話し合えって指示されてる。こうやって活動中に乗り込んでくるのは妨害、実力行使でありルール違反だ。

 ということをかみ砕いて伝え、冒頭の主張をしたところ、彼はぐっと言葉を詰まらせて顔を見合わせる。

 

(な、何言ってんのかわかるか?)

(さ、さあ?)

 

 とか思っているのがなんとなくわかる。

 感情論で押したところに理屈で返されると戸惑うよね、わかる。普通立場逆だけど。

 これで黙ってくれれば、

 

「う、うるせえな!」

 

 駄目だった。

 戸惑うとかより先にプライドを刺激された子がいたようで、大きな声を出して睨んでくる。

 

「お前ら遊んでるだけだろ? なんで譲ってくれないんだよ!?」

「……竹中君から聞かなかった?」

 

 ため息をつく。

 そうやって高圧的にならないで欲しい。愛莉ちゃんやひなたちゃんが怯えてる。そのせいで夏陽くんまで怖い顔になりかけてる。

 紗季と真帆ちゃんはむっとした顔。

 バスケしていた最中のせいで、智花まで言い返しそうな表情だ。

 

「私達はちゃんと練習してる。六年生になったら新入部員も募集する。みんな初心者なんだから、大会とかは進級してから考えるつもり。遊んでなんかいない。言いたいことがそれだけだったら――」

「だ、だからうるせえんだよっ!」

 

 再びの大声。

 

「女の癖にバスケなんかやりやがって!」

「―――」

 

 思考が冷えていくのがわかった。

 ああそう、そういうこと言うんだ。ふーん。

 できる限り論理的に説得してるつもりだったんだけど、そっちがその気ならもういいかな。

 

「そ、そうだ! 俺達は真剣にやってるんだ!」

「女は裁縫でもやってろよ!」

「お前のお母さん将棋やってるんだろ? だっせえことやってるから――」

「今、なんて言った?」

「っ!?」

 

 全員が黙った。

 

「ねえ、今なんて言ったの?」

「………」

「言えないんだ。男の癖に? ふーん、男らしくないね。困ったら大声出して無理矢理言うこと聞かせることしかできないのに、そんな風に威張ってるんだ。うっわ、だっさ」

「な、何言ってるのかわかんねえよ……」

 

 わざと「聞こえなーい」とか言ってやりたいくらいの小声。

 

「バスケばっかりやってるから頭悪いんじゃないの? ねえ? 言っていいことと悪いことの区別くらい付けられない? 私のことは何言ってもいいけど、お母さんの悪口言うのは違うよね? ねえ? ごめんなさいは? 悪いことしたのに謝ることもできないの?」

「……ひっ」

 

 思いつくまま言葉のナイフを突きつけてやると、次々に涙ぐみはじめる。

 

「うわ、泣いちゃった。男の癖に女の子に泣かされて恥ずかしくないの? 悔しかったら何かしてみたら?」

 

 こんなのは話し合いでも議論でもない。

 相手を煽って苛立たせて黙らせるだけでいいなら、男子が女子に勝てるわけないのに。

 無駄なこと。

 でも、始めたからには痛い目を見てもらわないと気が済まない。

 

「てめぇ……!」

 

 一人が拳を握った。

 私はもう何も言わず、冷ややかにその子を見つめる。

 殴ればいい。

 先に手を出したのは男子の方。男が女を殴ることの意味、思い知ればいい。大好きなバスケがしばらくできなくなるんじゃないかな。

 と。

 

「いい加減にしろ!」

「………」

 

 夏陽くんの一喝が場を叩いた。

 空気が変わる。

 暴力沙汰を起こしかけていた部員達を、部長はたった一言で掌握した。ついでに、血が上っていた私の頭も急速に冷えていく。

 

 ――何やってるんだ、私。

 

 大人気ない。

 笑顔でいなして、柔らかな言葉で丸め込んで、妥協点を探せばいいのに。

 一時的な悦びのために相手を攻撃して、泣かせて。

 

 良くわかった。

 私はやっぱり『部長』には向いてない。

 

「行くぞ」

「で、でも、竹中」

「でもじゃねえよ。……鶴見、悪かった」

「……うん」

 

 私もごめんなさい、とは言う気になれなかった。

 夏陽くんに連れられて男子たちが出ていく。

 

「……ショーコ」

「翔子……」

「ごめんね、みんな。本当にごめんなさい」

 

 その日はもう、練習にならなかった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「翔子、やりすぎ」

「……はい。本当にすみませんでした」

 

 男バスが顧問に報告したのだろう。

 次の日には、私は美星姐さんに呼び出されて叱られた。

 

「ちゃんと男子に謝れる?」

「……きつい言い方をしちゃったことは」

「ま、そうだよね」

 

 姐さんは苦笑して私の頭をぽんと叩いた。

 

「あんたは謝れる子だよ。……でも、本当に譲れないことにだけは頑固」

「……はい」

「それでいいと思うよ。……でもね」

 

 世の中、理屈だけじゃ回らない。

 自分では悪くないと思っていて、実際に非がなかったとしても、それで権利を勝ち取れるかといえばそうでもない。

 

「この際、勝負して決めよう」

 

 美星姐さんが告げたのは予想していた解決方法。

 

「男バスと女バス。試合して、勝った方がコートを使う。それなら文句ないでしょ?」

 

 

 

 

 

「この前はごめんなさい。私、みんなに言いすぎた」

「……ふん」

 

 あらためて設けられた話し合いの場。

 全員揃ったところで、私がまず、体育館の一件について謝ると――あの男子たちは「知らない」あるいは「当然だ」とばかりにそっぽを向いた。

 ほら見ろ、とか男女、ブス、なんて呟きがかすかに耳に届く。

 

「むっかー! なにそれ、ショーコがあやまってるのにそのタイドっておかし――」

「落ち着け真帆。ここは我慢しなさい」

 

 声を上げかけた真帆ちゃんを紗季ちゃんが抑える。

 本当なら真っ先にヒートアップしていたであろう真帆ちゃん、私が先にぷっつんしたことで未然に防げたけど、良かったのか悪かったのか。

 

「菊池。戸嶋。深田」

「……っ。悪ぃ」

 

 男バス顧問の小笠原先生が促すと、男子たちも形ばかり謝ってくれる。

 お互い、根本から悪いと思っていないのは一緒みたいだ。

 

 とはいえ、これで体育館の件は手打ち。

 話は根本的な問題をどうするかに移る。

 

「女子部顧問の篁先生と協議の結果、コートの使用権は男子対女子の特別試合で決めることになった」

 

 これについては両顧問経由で各部長に、各部長から部員に通達済み。

 異議なしという返答は既に出しているので、基本的には公の場を設けた、という以上の意味はない。

 

「準備期間も必要と考え、試合は約一か月後とする」

 

 条件は昴から聞いたあの一件とほぼ同じ。

 

 ◆試合時間は前半後半六分ずつの計十二分。

 ◆両チームとも、メンバーの途中交代は一回まで。控えは一人とする。

 ◆一人の選手が累計五回以上ファウルした場合、退場ではなく相手に二本のフリースローが与えられ、ボール権も移譲される。

 ◆その他は全て公式ルールに準じる。

 

 六人が参加できるようになったこと、それによって選手交代が一回だけ可能になっただけ。

 基本的にルールは私達に有利だ。

 その代わり、

 

「男子が勝った場合、女子は廃部」

 

 勝敗による利益は男子に分がある。

 今から勝ちを確信しているような小笠原先生――通称カマキリを睨んだ美星姐さんがふんと鼻を鳴らして、

 

「女子が勝った場合、男子は全員謝罪文の提出と土下座」

 

 不公平ではあるけど、絶対嫌な結末なのは変わらない。

 お互いに思っているだろう。

 勝てばいい。負けなければいい、って。

 

「全員。文句はないな?」

「はい」

「はい」

 

 両顧問の立ち合いの下、全部員が条件を了承した。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「……本当にごめんなさい。私のせいでこんなことになって」

「いいって言ってるでしょ。というか、翔子のせいじゃないし」

 

 深く頭を下げた私を、みんなは許してくれた。

 

「そーそー。ショーコはほんとのこといっただけじゃん。あたしたちわるくないし!」

「うんっ。あの時の翔子ちゃん、格好良かった。……ちょっとだけ怖かったけど」

「おー。しょうこ、がんばった」

 

 にかっと笑う真帆ちゃん。

 微笑んで言う愛莉。

 にこにこして腕を上げるひなたちゃん。

 

「翔子と篁先生が頑張ってくれたから、チャンスができたんだと思う」

 

 意を決した表情で両手を抱きしめる智花。

 

「私、頑張る。みんなとの大切な部活、無くさないで済むように」

「……ありがとう、みんな」

 

 涙がこぼれる。

 でも、感情を抑えようとすることは敢えてせず、私は笑顔を浮かべた。

 

「うん。もうあんなことしない。でも、後悔もしない。みんなで頑張って、男子に勝とう」

「おー!」

 

 その日からより一層気合いを入れて、私達、慧心女バスは動きだした。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 決戦は一か月後。

 時間は長いようで短く、できることは多いようで少ない。

 

 まずはみんなと相談。

 新入部員の募集は男バスとの試合後に決めた。部がなくなるかもしれないのに募集できないというのが表向きの理由。

 裏の理由は、男バスが新体制の確立と新入部員の指導で追われる分、こちらにアドバンテージを作るためだ。身も蓋もないことを言うと、部員を増やしても試合で使えないなら意味ないしね。

 

 更に美星姐さんに相談。

 

「男バスの練習風景と試合風景、撮影できないでしょうか?」

「んーと、それが何に必要なの?」

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」

「よしきた。そっちは私がなんとかしてあげる」

「ありがとうございます!」

 

 ついでにもう一つ相談。

 自分達でできるだけやってみるつもりだが、やっぱり指導者がいるといないじゃ効率が違う。誰か良さそうな人に心当たりはないか、と。

 暗に「長谷川昴を出せ」と言ってみると、姐さんは難しい顔をした。

 

「いないわけじゃないんだけどね」

「来てくれそうにないですか?」

「あいつ、今度高一だからさ。新しい学校のバスケ部に入るんだって楽しみにしてるから、水を差したくないんだ」

 

 そっか、それはそうだ。

 ここではまだ「部長ロリコン事件」が起こっていない。

 暇な昴を引っ張ってくることはできても、予定びっしりの昴にコーチなんか頼めない。

 

「一応、策は練ってみるけど、期待はしないで」

「わかりました。……私たちの問題です。できるだけ、私たちで頑張ってみます」

 

 私だって、ここまで無策で来たわけじゃない。

 男バスと女バスの試合が発生してしまってもいいように、勝てる可能性を上げるために、できるだけのことはしてきたつもりだ。

 みんなのやる気を保ちつつ、基礎練に慣れてもらった。みんなの技術と基礎体力は確実に上がってるし、ミニゲームだって「遊ぶ」のと「勝つ気でやる」のじゃ経験値には差が出る。部の存続をかけた試合ということでみんなの気合いも入っているから、ここからは更に身が入るはず。

 

 週三日の練習を頑張って。

 家でできるトレーニングを乞われて教えたり、休みの日も集まれれば集まって身体を動かしたりして、とにかく、できることを一つずつやっていった。

 そして、進級。

 始業式から約一週間が過ぎ、七芝高校の体験入部期間が終わりを迎えた頃――美星姐さんから一つの連絡が入った。

 

『凄いコーチを確保した。次の練習から来てもらうよん』

 

 どうやら歴史は繰り返すらしい。

 部長ロリコン事件に見舞われてしまった昴はとても気の毒だけど、私たちにとっては天の助け。

 

 ちゃんとバスケを教えられる人が来る、ということで、真帆ちゃんをはじめとしたみんなも大喜び。

 

「おっしゃー! これで勝ったもどーぜん! ま、もともとあたしたちが勝つつもりだったけど。くしし」

「どこから来るのよその自信……。でも良かったわ。コーチの方が来てくださればトモや翔子が練習に集中できるもの」

「わ、私は別に教えるの嫌じゃないけど……」

「うんっ、私も楽しみ。どんな人なのかなあ……」

「おー。すーぱーこーち?」

「美星先生の甥っ子さんなんだって。高校一年生の男の人らしいよ」

 

 男、と聞いたみんなは一瞬ざわっとする。

 新鮮な反応だ。

 これが一年もしないうちに「すばるんすばるん!」になるんだから、昴の天然人たらしぶりときたら恐ろしいものがある。

 

「オトコかー! じゃーやっぱり可愛くお迎えした方がいいよね!?」

「おー。おもてなし?」

「え、えっと……じゃあ、着物とか着た方がいいのかな……?」

「と、智花ちゃんっ。それはちょっと違うと思うけど……」

「いえ、トモ。いい考えだわ。や、さすがに着物はどうかと思うけど、男性が好む衣装でお出迎えするのはアリかもしれない」

 

 しかも珍しく紗季が頭おかしい。

 

「ほえ? オトコが好きなイショーって?」

「ふふ、決まってるじゃない。真帆のお父さんが大好きな服よ」

「ああ、メイド!」

 

 駄目だ、これ止まらないやつだ。

 

「あの、真帆ちゃん、紗季。メイド服でバスケはちょっと」

「えー、ショーコは着てみたくないの?」

「う、いや、ちょっと着てみたいけど……」

 

 学園祭で結局着られなかったし。

 と、思わず口ごもった結果、押し切られてしまい、

 

「翔子の裏切りもの……」

 

 智花と愛莉から恨みがましい目で見られてしまった。


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