ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
さすが風雅さん。メイドへの拘りが違う。
奥さんに着せちゃうほどメイド服が好きな一流ファッションデザイナーは、子供用のメイド服を作らせても一流だった。
みんなで会いに行って採寸などをしてもらって。
それから一週間くらい後にはもう、可愛いメイド衣装が全員分、計六着できあがっていた。
基本形は二種類。
ロング丈とミニ丈という分かりやすいわけ方だけど、リボンの色などの細かい部分は全部違っている。
真帆ちゃんがエメラルドグリーン。
紗季が青紫。
智花が赤紫。
愛莉が薄いオレンジ。
ひなたちゃんがピンク。
そして、私が臙脂。
白と黒以外に一色がアクセントであしらわれていて、統一感があると同時に華やかで愛嬌がある。
ちなみにスカートは愛莉とひなたちゃんがミニ、他の四人がロング。
最初は私もミニを提案されたんだけど、個人的なこだわりとしてロングは譲れなかった。
まあ、正直、恥ずかしかったっていうのもある。
「可愛いね」
「うん、可愛い」
智花や愛莉と「可愛い」を連呼する。
小学生はこういうのを無邪気に喜べる時期である。着たまま三十分くらい鏡の前でくるくる回ってられそうなくらいだけど、問題は。
これを着るのが「高校生の男子に見せるため」ということ。
「……うう」
「諦めよう、愛莉」
目的を思い出したのだろう。
一転、ちょっと泣きそうになる愛莉と、遠い目をする智花。
「可愛いからいいと思うけどなあ」
「翔子って時々変だよね……」
「……うん」
解せぬ。
☆ ☆ ☆
相談の結果、最初の一言は定番のアレに決まった。
「お帰りなさいませ! ご主人様!」
体育館の入り口に整列して待つことしばし。
放課後の体育館には、用のない人は近寄らない。美星姐さんから「だいたいこのくらい」と言われた時間に待っていれば、件のコーチが入ってくるだろう。
と、ものすごく大雑把なノリの下、扉が開き――入ってきたのが誰かも確認しないまま、この機を逃すものかと声を揃えた。
結果。
「………」
そっ閉じ。
ちらりと見えた姿は、童顔気味の整った顔立ちをした、細身の男子高校生。記憶にあるよりも若干幼い感じがする幼馴染、長谷川昴だった。
瞬間。
私の胸には複雑な感情が浮かんだ。
他の人じゃなかった安堵。
もう一度会えた喜び。
見知った顔を見たことによる懐かしさ。
そして、こうして彼を迎える側に立っているという違和感。
浮かび上がった感情を一気には処理しきれず苦笑していると、みんなから目配せ。
(どうしよっか)
(とりあえず待ってみよ! もう一回入ってきてくれるかも!)
(そうね。間違えたと思ったのかもしれないし)
そして、私達の期待通り、扉はもう一度開いた。
「お帰りなさいませ! ご主人様!」
「………」
さもありなん。
昴は「見間違えじゃなかった」と理解した後、「なんだこれ」というような表情を浮かべた。
(半ば脅されて)バスケのコーチをしに来たら、女子小学生六人がメイド服でお出迎えをしてきた。
あらためて考えると何言ってるのかわからないし、考えた方も実行前に気づかなかったのかって感じだけど――ともあれ、緊張を解くことだけは成功したようで。
昴は困惑気味ながらも会話ができるモードに入っており、二、三の言葉を交わした。
どうやら彼は、この状況が美星姐さんの差し金だと思ったらしい。
きょとんとした真帆ちゃんたちの表情から「どうやらそうではない」と察した彼に、紗季が自己紹介を提案。
これはすぐに了承されたものの、
「その前に……その、『ご主人様』っていうの、止めてもらえると助かるんだけど……」
なんとも初々しい反応。
いかにも女の子に慣れてないって感じでちょっと可愛い。いや、女子小学生の身で言うことじゃないけど。
っていうか、昴ってそんなに女性経験なかったっけ?
小学生の頃から私と葵が身近にいたんだからもう少し落ち着いてても、って、私と葵じゃ経験の足しにならないか。
と、それはともかく。
事前に立てたプラン(主導は紗季)にない状況が発生したため、私たちは一度円陣を組んで作戦会議をする。
「おかしい。コーチさん、メイドは好みじゃないってこと?」
「おー、別のしゅみ、おもち?」
「おもち食べたい」
「翔子ちゃん、何かいいアイデアないかな?」
「んー、データによると一人っ子のはずだから……下のきょうだいに憧れてたりするかも?」
「なるほど!」
と、適当な妄言を吐いた結果、
「わかりました、お兄ちゃん!」
昴が絶望的な顔になった。
☆ ☆ ☆
自己紹介やら何やらをしているうちに、結構時間を使ってしまった。
私としてもちょっと予想外。
まさか、みんながここまで――男に対して無防備だったとは。
メイド服の下には(ミニ、ロング問わず)スパッツやブルマを穿いて対策はしていたんだけど、真帆ちゃんなんかは「見られてもいい衣装」を「見せてもいい衣装」と解釈していたらしく、自分からスカートをめくって見せに行っていた。
活動的な彼女がロングメイド服なのは風雅さんの親心だろうに、全く通じてないのがちょっと悲しい。
愛莉なんか真帆の悪戯により、スカートの下に穿いたブルマを晒されてしまい、下着ではないとはいえ結構落ち込んでしまった。
――もう。純真無垢なのはいいことだけど、無防備なのは心配になる。
着替えてもいい、と、昴が言ってくれたので、智花と愛莉は更衣室に向かった。
私はちょっと考えた末にこのままを選択。
メイド服でバスケする機会なんてこの先ないだろうし、せっかくだから経験しておきたい。まあ、袴的なものだと思えばそんなに邪魔でも……いや、うん、邪魔だけど。
「すみません、騒がしくしちゃって」
着替え待ちの間に昴へ歩み寄り、そっと話しかける。
「あ、いや。元気がいいのはいいこと……じゃないかな。うん」
「ふふっ」
とってつけたような言い方にくすりとする。
今考えたフォローなのが丸わかりだけど、気にしていないのは確かっぽい。
「ええと、君が部長なんだよね?」
「はい。あ、鶴見でも翔子でも、好きに呼んでくださいね」
「ありがとう。じゃあ――翔子」
「っ」
身体に喜びが走った。
離れて暮らす家族に久しぶりに会った、とかそういう類の感覚ではあるんだけど……なんとなく恥ずかしくなって頬を染めてしまう。
「はいっ。……えっと、長谷川先輩」
「先輩?」
「バスケの先輩なので。変ですか?」
「ん……いや、いいんじゃないかな」
良かった。
さすがに「昴」とは呼べないし、かといって「長谷川さん」とかむず痒くて耐えられない。先輩呼びがギリギリの妥協点だった。
「先輩。今のうちにお伝えしておきたいことがあるんですが……」
「ん? うん、何かな?」
「はい。愛莉なんですけど、できるだけ身長のことに触れないでもらえませんか? 気にしてるので……」
伝え終わると程なく愛莉たちが帰ってきた。
昴は特別悩むこともなく、私たちに紅白戦を指示した。それなら得意分野だ。いつものようにチーム分けをして、スムーズにゲームを開始する。
私、真帆、ひなたちゃんのペアと智花、紗季、愛莉のペア。
バランスの良い組み合わせの結果、なかなかの接戦を演じ、最終的には智花のチームが勝った。
「どうですか、長谷川先輩?」
「あ……うん」
試合終了後、昴に声をかけると、彼は放心から覚めたような顔をする。
「驚いたよ。できたばかりのチームって聞いてたけど、基本はちゃんとできてる」
「みんなで頑張って練習しましたから」
胸を張る。ここは誇ってもいいところだろう。
「あー惜しかった! ……見た見たすばるん、あたしたちのユーシ!」
「え、すばるん?」
「かっこよかったでしょ? どう、あたしたちってミコミありそう? ちくゆうしょうくらいよゆーでできちゃう?」
と、ここで真帆ちゃんが大攻勢。
持ち前の人懐っこさは年上の男にも発揮されるようで、非常に犯罪臭……じゃなかった、危なっかしいけど、短期間で距離を詰めることにかけて右に出る者はいない。
昴にしても、戸惑いつつも邪険にすることはできないらしく、苦笑気味に笑って、
「ち、地区優勝かあ。……そこまでは約束できないけど、ちゃんと練習すればいいチームになると思うよ」
「えー、できないの!? そこをなんとか、こう、すごい作戦とかでお願い、ね?」
「え、ええっと……」
助けを求める視線。
「真帆ちゃん。長谷川先輩が困ってるから」
私は真帆ちゃんを宥め、昴に告げた。
「先輩。篁先生から聞いてませんか? 私たちの事情」
「事情?」
「はい。私たちは勝たないといけないんです。……同じ学校の、男子バスケ部に」
部活終了時間が迫っていたので、私だけが残って説明した。
部を作った経緯。
男バスとのいざこざ。
試合をすることになった成り行きを。
「勝ちたい。……いえ、勝たないといけないんです。私たちの居場所を守るために」
「なるほど、な」
夕暮れの下、昴は最後まで聞いてくれた。
「……我が儘だとは思います。私が、みんなとの時間にしがみついているだけなのかも」
智花のため、というのももちろんあった。
でも、本当のところは私がバスケをしたかっただけ、知っている子たちに知っている道筋を歩いて欲しい、という自分勝手だったのかもしれない。
「いや、そんなことないと思う」
「え?」
見上げると、昴は照れたように笑っていた。
――背、高いなあ。
前は同じくらいの身長か、私の方が高いくらいだったのに。
今は昴が大人っぽく見える。
「今日ちらっと見ただけだけどさ。それでも、あの子たちが楽しんでるのはわかったよ。だから、大丈夫」
格好いい、と。
不覚にも思ってしまった。
「力を貸してもらえますか?」
「ん……正直、喧嘩両成敗って言いたいんだけど……」
「男子部にだけ優秀な指導者が付いているのは不公平じゃないでしょうか」
もっともらしいことを言えば、昴ももっともらしく頷いて、
「よし、それでいこう」
私たちはお代官様と越後谷にでもなった気分で笑い合った。
「……さて。遅くなってきたけど、門限は大丈夫?」
「はい。うちは割と緩いので、連絡を入れておけば大丈夫です」
ちなみに、無断で遅くなった場合、「ご飯をどうするかわからないから困る」という方面でのお説教が始まることが多い。
うるさく言わなくても私なら大丈夫、という信頼の証だから、甘えすぎるのも良くないけど。
「なので、帰りは送って頂けたりすると助かるんですけど」
「……了解。ミホ姉に交渉してみよう。そういうことならまだ時間があるけど、もう少し、詳しい話を聞いてもいいかな?」
「もちろんです」
そうして、その日の帰りは美星姐さんの車で送ってもらった。
☆ ☆ ☆
鶴見翔子は礼儀正しく深いお辞儀をしてから家へと入っていった。
運転席の叔母が車を発進させながら、尋ねてくる。
「で、どうだった?」
「……あの子が言ってた通り、手伝うことになった」
「そ。にゅふふ。翔子め、うまくやったな」
「あのな……」
多少なりとも隠したらどうだ黒幕。
まあ、確かに「上手くしてやられた」のだろう。昴の胸には心地よい敗北感のようなものがある。何しろ嫌々、渋々、ノルマのような気持ちで体育館を訪れた癖に、ほんの数時間後には二週間の指導を約束されていたのだ。
だが、
「……あんなこと言われて放っておけるかよ」
男女グループの対立は昴自身は経験していない。
最も身近なバスケ仲間が異性である荻山葵であったため、チーム戦をするにしても基本、男女混合だった。桐原中のバスケ部は男女ともに和気藹々としており、男女の仲も悪くなかった(友情的な意味で)。
聞いた限り女バスに非はない。
男バスにあるとも言い切れないが。
翔子は事実と私見をほぼ完全に区別して語ってくれたため、ある程度、公平な視点から見ることはできる。
男子の気持ちもわかる。
が、依頼者が女バスであり、ご丁寧に「協力する言い訳」まで用意されたのだ。
手伝わなければ嘘というものである。
何より、昴自身が「もっと見たい」と思ってしまった。
あの少女たちのバスケを。
彼女たちが花開き、孵化し、技術を昇華させたその先にあるものを。
もういいやと思っていたはずのバスケにもう一度、向き合ってみたいと思わされた。
特に――あの、鶴見翔子。
そしてもう一人。湊智花。
彼女たちは格別だ。
ものが違う。
生粋のフォワードである智花と、縁の下の力持ちを得意とする翔子。経験者が二人しかいない故、必然的に敵同士になっていたが、二人が協力した時の絵を想像することはできる。
翔子のアシストを受けた智花はきっと何倍も、何十倍もの力を発揮するだろう。
もし、あの二人が桐原女バスに居たら。
荻山葵と肩を並べていたら、それはきっと物凄いチームになっていただろう。
「ああくそ、ずるいだろ」
翔子と智花。
二人が試合中に放ったジャンプシュートが、目に焼き付いて離れない。