ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
男バスとの対立以来、私の男子人気は一気に落ちた。
レギュラーの殆どが所属するD組を中心に、あの時にまくし立てた悪口が尾ひれ背びれをつけて広まったせいだ。
まあ、男子のやることなので陰湿さはそんなにない。
どっちかというと恐怖伝説とか、怪獣に近い扱い。
ただ、はっきり『敵』と認定されたのはちょっと困りもの。
例えば、やんちゃっぽい男子二人組と廊下ですれ違えば、
「あ、鶴見だ」
「目合わせるなよ。殴られるぞ」
私は狂犬か。
もちろん、男バスの連中も「絶対俺達が勝つからな」と対抗意識を燃やしてくる。
お陰で、女子からは「頼れる仲間」みたいな扱いになっている。鶴見さんはいざとなったら積極的に味方してくれる、みたいな。
できれば中立に近い立場でいたかったけど、ぶっちゃけ自業自得。
小学生男子と恋愛する気もないし、放っておいている。
――それはともかく。
昴による二度目の指導から、私は新しいバスケシューズをおろすことにした。
服は安くていいのを見繕うとして、他に欲しいものといったらバスケ用品と将棋の本くらいなので、使う時は思いきって使う。
今から履きならしておけば試合の頃にはいい感じになっているだろう。
「あ、翔子ちゃん。その靴可愛いねっ」
放課後。
うきうきしながら靴を履き替えていると、愛莉が目ざとく気づいて褒めてくれる。
そう言って欲しくてうずうずしてたので、ついつい口元を緩めてしまった。
「うん。思い切って買っちゃった」
試合会場が体育館だから、学校指定の体育館履きは決して悪いものじゃない。
でも、やっぱり専用のグッズがあるとテンションが上がるものだ。
女の子用のちょっと可愛いデザインのものなら猶更。
「いいなぁ……わたしも欲しくなっちゃう」
「良いのは結構高かったりするから勇気がいるよね」
愛莉のところならスポーツ用品はほいほい買ってくれそうだけど。
「私も買い替えようかな……」
と、これは智花。
彼女は前から使っていたバスケシューズと慧心の体育館履きを使い分けている。シューズは割とスタイリッシュな格好いいやつで、こちらも部員に好評だった。
特に真帆ちゃんは「かっけー」と大喜びだったっけ。
「ショーコも買ったのかー。これはもう、あたしも買っていいよね?」
「……好きにすればいいじゃない」
これまでは「あんまり履かなかったら勿体ない」と制止していた紗季ちゃんが「もう止めきれない」と嘆息。
彼女は専用のアイガードを撫でて、呟く。
「みんな買うなら私も買おうかしら」
「紗季、いいの?」
私は思わず尋ねてしまった。
このタイミングで買うとそれこそ無駄になるかもしれない。
智花もそれに思い立ったのか「あ……」と表情を硬くする。
でも、紗季は肩を竦めて、
「体育館履きをダメにするなら同じようなものだし。それに――これからもずっと使うもの」
「……あ」
駄目だった時のことは考えてないんだ。
ううん。
上手くいくと信じて――上手くいくように、願掛けの意味も込めて道具を買うんだ。
私は頷き、微笑んで言った。
「そんなに慌てなくてもいいと思うよ」
「そう?」
「うん。ほら、慣れない靴で逆にスランプになっちゃうかもしれないし」
首を傾げる紗季に答えて、
「これからまだまだ使うチャンスはあるんだから」
「……そうね」
紗季も微笑んで頷いてくれた。
「おー。ひなも、ひなもみんなとおくつ、かいにいきたい」
「おー! じゃあ、今度みんなでいこ! ねっ!」
私たちの部活はまだまだ終わらない。
これからも続いていく。
続けていく。きっと。絶対に。
「翔子、靴替えたのか。いいな、それ」
まだまだ緊張した様子でやってきた我らがコーチ、長谷川昴。
挨拶と準備運動の後、私は彼に声をかけられた。
――昴が女の子のお洒落に気づいて、自分から褒めた!?
一瞬愕然としたけど、なんのことはない。
ものがバスケ用品だからだ。
これが葵相手でもちゃんと気づく。ほっとくと全然進展しない二人でもそういう会話はあるのだ。問題は葵が「でしょ? 安いけどモノがいいのよ。ここの部分のデザインが凝ってて動きの邪魔になりにくくて……」と普通に自慢を始めることだ。
昴は鈍感なんだから、そういう時にこそ話をもっていかないと……などと思いつつ、微笑んで答える。
「ありがとうございます。可愛いし、履き心地もいい感じです」
ついでに軽く一回転してみせる。
すると、昴が何やら面食らったような顔になる。
「どうしました?」
「あ、いや。女の子だなあと思って」
「それは、私だって女の子ですよ」
今、男子に転生したら女装始めちゃいそうなくらいには女子に染まってる。
頬を膨らませて抗議すると、昴は「ごめんごめん」と謝ってくれた。
◆ ◆ ◆
今日はぜんぶの時間を基礎練習に使いたい。
昴は最初にそう宣言してみんなの了解を取り、私たちはそれを了承した。
初めての通し練習。
私の主観ではあっという間に終わったその時間の感想は、
「すばるーん、なんかいつもの練習とあんま変わんないよ?」
「真帆、失礼でしょ。……でもまあ、そうかも」
普通。
と、真帆ちゃんや紗季だけでなく、愛莉やひなたちゃんの顔にも書いてある。
練習内容はパスとかドリブルとか基本的なのを一通り。
実際、似たようなことは私や智花もみんなにしてもらっていた。
「うん。普通だね。でも、基礎の動きが一番大事なんだよ」
答える昴に真帆ちゃんが挙手。
「知ってる! 必殺技を使うのに必要なんでしょ?」
「ひ、必殺技?」
面食らった昴がこっちを見る。
なんでわかったのか。はい、犯人は私です。
視線を戻した昴は苦笑を浮かべて、
「うん、そうそう。……俺としては、最強の必殺技は基本技だと思うんだけど」
「えー、そんなの地味じゃん!」
「そ、そうか? 洗練された普通のパンチがどんな技より強いとか、格好良くない?」
わかる。
わかるけど、子供かつ女の子にその発想はわかりづいらいと思う。
こほん。
昴は咳払いを一つして、
「今日、基礎をしてもらったのはそれだけが理由じゃない。みんなの今の能力をあらためて確認したかったからでもあって」
「一昨日の試合だけだと足りませんか?」
「もちろん、ある程度はわかったけど、具体的に何がどれくらいできるか把握しないといけなかった。……勝つためには」
「っ!」
みんなの表情が歓喜に染まる。
乗り気になってくれた、とは伝えてあったけど、やっぱり本人の口から言われると格別らしい。
「じゃ、じゃあ、すばるん」
「うん。……どこまでやれるか、やってみなくちゃわからないけど、俺に手伝わせて欲しい。男バスとの試合、勝てるように」
「やったー! ありがとーすばるん!」
「おー、おにーちゃん、ありがとう」
歓声を上げて昴に駆け寄り、ぎゅっと腕に抱きつく真帆ちゃん、ひなたちゃん。
紗季は「ああもう……」と呆れつつも嬉しそうに唇を歪め、愛莉は「わたしも行った方がいいのかな? でも、恥ずかしいよう……」っていう顔をしてる。
智花は――深い感慨を抱いた表情で、両手を胸の前で重ねている。
私は深く、昴に向かって頭を下げる。
「ありがとうございます、長谷川先輩。……どうか、よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ、どうぞよろしく」
慧心女バス、真の本格始動である。
◆ ◆ ◆
二回目の練習を使い、昴はみんなの基礎スペックを詳しく把握した。
「私たち、もう丸裸にされちゃいましたか」
「弱点まで完全に、とはいかないけどね」
彼は今日、美星姐さんの家に寄って男バスの試合動画を回収。
週末を使って作戦を立てるので、勝つための特訓は来週からの三回になるという。
次回――今週最後の練習は、おおまかなプランを元にした底上げのために使われるそうだ。
部として解散した後、私はまた残って昴と話をする。
せっかくなので今日は智花も誘ってみた。
まだ打ち解けてないせいか、ちょっと恥ずかしそうだったけど、バスケの話だから気になるみたいで一緒に残ってくれた。
智花の家は門限が厳しいので早めに帰らないとだけど。
「ところで、二人に確認したいことがあるんだけど」
「?」
「はい、なんでしょう?」
昴が聞いてきたのは意外なような、当たり前のようなこと。
「その、翔子がセンターを練習してるのは何か理由があるのかな?」
「ああ」
そりゃそうだと私は頷く。
今の私は決して背が高くない。でも、私のスタイルは明らかにセンターだ。
「理由は幾つかあります」
言えるものも、言えないものも。
言えない部分はぼかして、でも、なるべく真実を伝える。
「愛莉が背の高さを気にしてるので、お願いしにくいのが一つ。単純に、性格的に向いてるかなって思うことが一つ。後一つあるんですけど……」
「それは?」
私はにっこり笑って、
「これから伸びるからです!」
「………」
昴はぽかんと口を開けて、それから声を上げて笑った。
「なるほど。それは立派な理由だ」
「でしょう?」
子ども扱いされてる感もあるけど、胸を張って答えておく。
本当に伸びる予定だし。
前回より頑張って牛乳を飲んでるので、同じ時期よりもちょっと伸びてるし。きっと伸びる。
「じゃあ、俺が思ってたのは関係ないのかな」
「?」
「俺の幼馴染なんだけど――荻山葵。知らない?」
「っ」
ここでその名前が出るとは。
「……知ってます。でも、どうして?」
「男子から聞いたんだ。ツンツンした頭の、やんちゃそうなやつ」
「竹中君だ」
「竹中君だね」
一瞬で一致する見解。
そっか、そういえば、夏陽くんに二人の名前を伝えたっけ。それを覚えてれば、昴が名乗るだけで「ん?」ってなるはず。
悪戯がばれたような心境になる私。
昴の方は「より興味がでてきた」という顔で聞いてくる。
「じゃあ、やっぱり? 葵に憧れてるならなのか? えっと、その身長でセンターやってるのって」
「え、あお……荻山先輩ってセンターなんですか?」
「え?」
「え?」
何それこわい。
「知らなかったのか。……葵はさ、中学のバスケ部で部長やってたんだけど、あいつの代だと一番背が高かったんだよ。だから、そんなに大きくないのにセンターやってた。本当はフォワード向きなのにな」
「そうだったんですね……」
そっか、そうなってるんだ。
私の知ってる桐原女バスでも、葵はフェイダウェイシュートを身に着けたり、サブのセンターができるように練習したりしていた。
私がいなくなった影響で正センターがいなくなり、その辺りの事情が加速したんだろう。
――この世界は、やっぱり知ってるようで知らない世界だ。
寂しさを紛らわすように微笑んで、私は言った。
「実は、長谷川先輩と荻山先輩のこと、前から知ってたんです。でも、公園とかでちらっと見かけたくらいで。お話したこともなかったし、大会にも応援に行けなかったので」
「なるほどな。でも、それなら声かけてくれればよかったのに」
「お二人でデートしてるところに邪魔なんてできませんよ」
私がいないということは、二人は出会った頃の関係を続けていたはず。
なら、葵にとっては、
「デート? いや、そういうんじゃないって。葵とは単にライバルってだけ」
むしろ、ファンだって言えば喜ぶんじゃないか、なんて言う昴。
まったくもう、そんな感じだから葵が困るんだよ。
「長谷川先輩って鈍感って言われませんか?」
「う。言われるけど……俺、何かやらかした? 全然身に覚えがないんだけど」
「大した事じゃないので気にしないでください。それより――」
「ああ。じゃあ、翔子はセンターが得意だけど、必要に応じて他のポジションもできるってことでいい? ……ポイントガードとか」
「はい、大丈夫です。責任重大ですけど」
昴みたいなポイントガードができるとは思えない。
ちょっと緊張して頷くと、昴が微笑む。
ポイントガードとして何か思うところがあったのかな。
と。
「あ、あの。私は……」
「っと。ごめんごめん。智花にはフォワードをやってもらうつもり。……でも、場合によっては場のコントロールをお願いすることもあるかも」
「はい。やります」
決然と頷く智花。
「よし。じゃあ、あと確認しておきたいのは――二人が選手交代のルールをどう考えているか、とかかな」
「あ、それは」
「大事ですよね」
そうして私たちはしばらくの間話し合いを続けた。
結果、わかったことは、
「駄目だ。時間が足りない」
「ですね」
二、三十分話した程度じゃ追いつかない。
もっとどこかで腰を据えて話したいところ。といっても、小学生でファミレスに誘うわけにもいかないし。智花の門限だってある。
「そうだ」
昴が何かを思いついたように顔を上げて、
「週末、うちに来ない? 翔子と智花、二人で」
「え」
出会ったばかりの女子小学生を自宅に誘う男子高校生。
昴さん、早くも私たちがただのバスケ仲間になりつつありませんか?