ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「智花!」
「翔子。待たせちゃってごめんね」
「ううん。時間通りだよ」
当日は最寄り駅で智花と待ち合わせた。
住所と簡単な地図をもらっているので、それを頼りに訪ねるつもり。
普通だったら辿り着けるか心配になりそうだけど、今回に限っては大丈夫。私が長谷川家への道を間違えるはずない。
「本当にお願いしちゃって大丈夫?」
「任せて。地図見るのは得意だから」
一応、智花にはそんな風に説明している。
昴を昔から知ってるのはバレてるから誤魔化さなくてもいいんだけど、ストーカーを公言するのもどうかと思うし。いや、ストーカーじゃないんだけど。
演技として地図を見るフリはしつつ、歩く。
「うう、緊張するよう……」
「バスケの話しにいくだけなんだから大丈夫だよ」
「でも、男の人のお家なんて初めてだもん……」
本当に奥ゆかしい。
この大和撫子がコートの中だと勝ち気なじゃじゃ馬になんだから、人ってわからないものだ。
「長谷川先輩のお母さんも一緒らしいし、変なことされたりしないよ」
「そ、そんなこと心配してないよ……!」
あ、顔が真っ赤になってる。
こんな風に話すようになったのって、同い年になってからだけど、智花って本当に可愛い。
純粋すぎて、変な男に引っかからないか心配なくらいだ。
「智花。本当に気をつけなくちゃ駄目だよ」
「だ、だから、そんなことないもん……!」
「あははっ」
そんな話をしているうちに到着。
住所も同じだったから心配してなかったけど、長谷川家は記憶にあるのと変わらない佇まいだった。庭にバスケのゴールのある二階建ての一軒家。
うん、いつ見てもいいお家だ。
「いいなあ……うちのお庭にはゴールなんて置けないもん」
「智花のところは日本家屋だもんね」
この世界でも一度、バスケの話をしにお邪魔させてもらった。
ご両親にも挨拶ができたので、新しいバスケ部は大丈夫だって少しは伝えられたんじゃないかと思う。
「よし。じゃあ、押そっか」
「う、うん。私がやってもいい?」
「もちろん」
智花が前に立ち、深呼吸をしてインターフォンのボタンを押す。
程なくして、スピーカーから声がした。
『はーい』
「っ」
女性――七夕さんの声に智花がびくっとする。
てっきり昴が出ると思ってたんだろう。私もそう思ってた。彼のことだからそわそわ待機してそうなのに。
あれかな、部屋の掃除をやり直しにでも行ったか、たまたまトイレだったか。
待ってる時ほど来なくて、気を抜いた瞬間に来る。あるあるだ。
「え、えっと、あの、私も、湊とも……っ」
噛んじゃった。
落ち着いてれば全然平気なんだろうけど、出だしでつまづいちゃったせいだ。
「お休みのところ申し訳ありません。慧心学園初等部の鶴見翔子と申します。昴さんはご在宅でしょうか?」
『あらあら。ちょっと待ってね』
そこで切れるインターフォン。
ほっと息を吐いた智花が私を振り返る。
「ご、ごめんね翔子。ありがとう」
「ううん。こういうの、緊張しちゃうよね」
「うん……」
頬を染めた智花がぽつりと呟く。
「翔子って、なんだかお姉ちゃんみたい」
「お姉ちゃんって呼んでくれてもいいよ?」
「ふふっ」
二人してくすくす笑っていると、玄関のドアががちゃっと開いて昴が出てくる。
「ごめんごめん。母さんが驚かせただろ。さ、入って」
「お邪魔します」
言って、玄関で靴を脱ぐ。
きちんと揃えて置いて振り返ると、小さな足音と共に七夕さんが出てくるところだった。
「いらっしゃい。まあまあ、可愛い子ね」
「ああもう、母さんは出て来なくていいって」
「そういうわけにはいかないの。お客様なんだから」
なんとも気の抜ける会話。
でも、お陰で智花も落ち着いたのか、今度はしっかりと一礼して凛とした声を出した。
「初めまして。慧心学園初等部六年C組の湊智花と申します」
「同じく、鶴見翔子です」
「ご丁寧にどうもありがとう。いつもすばるくんがお世話になってます」
「い、いえっ。そんな、お世話になってるのは私たちの方で……」
恐縮して手を振る智花。
なんだかこのまま立ち話が始まりそうな流れに昴が息を吐いて言った。
「とりあえず、俺の部屋に行こう。母さんと話してると長くなるからさ」
「お、お邪魔します」
玄関から入る時より緊張した面持ちで、智花が一歩を踏み出す。
「あ……」
思ってたより普通だったのか、彼女は肩から幾分、力を抜いた。
続いて入った私は智花の後ろから室内を見回して、
――おお、思ったより片付いてる。
前世の私が訪問する時はだいたいもっと散らかってる。
ちなみに、葵だけの時はそもそも片付けとかしないのが普通らしい。幼馴染な上に家が近いので、何度も迎えているうちに慣れてしまったのだろう。
「つまんない部屋だろ?」
「そ、そんなことありません……っ」
「えっちな本はどこですか?」
「……翔子は意外に、柿園達と気が合うかもな」
前は親友だったもので。
私は「冗談です」と微笑んで話を流した。
「適当に座って」
「はい」
クッションなんて洒落たものはないので、カーペットの上に腰を下ろす。
「でも良かったよ。親御さんから許可が出て」
「門限を守る約束をしたので。それと、翔子が一緒でしたから」
うちの方は「あ、そう」で終わりだった。
まあ、男の部屋って言っても独り暮らしじゃなくて七夕さんが一緒だしね。
「それじゃあ、作戦会議始めますか?」
「そうだね。やろうか」
美星姐さんが用意した男バスのデータ(練習と試合の様子を隠し撮りしたもの)を、昴は既に何度も見返したらしい。
まず、私たちもその映像を見せてもらう。
同じ学校にいるとはいえ、他の部活の様子なんて見ることはないので、男バスがどんな感じなのかは私たちも初めて知る。
途中、七夕さんがお茶とお菓子を持ってきてくれたので、お礼を言ったりしつつ――。
「どうだった?」
「……強いですね」
「だよね」
うん。男バスは強い。それは間違いない。
私の感覚はちょっともう色々こんがらがってるので、小学生男子の平均がわからないけど、前世の私と比べて上手いのは間違いない。
「勝てると思う?」
「勝ちます」
きっぱりと智花。
うん。勝てるかどうかじゃない。絶対勝つ。
それはそれとして、冷静な戦力比較はしないといけない。
「流れとやり方次第ですけど、勝てない相手じゃないと思います」
「その心は?」
「私たちは相手の強さを知ってますけど、向こうは私たちの強さを知りません」
「いいね。その通りだ」
昴がにやっと笑った。
情報の利。
私たちがただ遊んでいないことは夏陽くんも知ってる。私と智花のおおよその力量も把握されてるだろうけど、真帆ちゃんたちの腕前は誰も知らない。
練習を見たこともない癖に「遊んでるだけ」とか言った馬鹿は、みんながもう素人じゃないってことを思い知ればいい。
三人で、あーでもないこーでもないと話し合う。
バスケ馬鹿の昴に、同じくバスケ中毒者の智花。経験者だけだと余計な前置きがいらないので話しやすい。みんなには抜け駆けしちゃう形だけど、あくまで勝つためだ。
私も昴たちも、話してると性別とか年齢とかついつい忘れて、ただのバスケプレーヤーになっちゃうし。
時間も忘れて話し込んで、だいたいこれでいいだろう、とまとまった頃、
「みんなー。お昼ご飯、食べていくでしょう?」
七夕さんがのほほんと顔を出し、ありがたい申し出をしてくれた。
「そ、そんなっ。悪いですっ」
「いいのいいの。みんなで食べた方が美味しいもの」
料理好きの七夕さんなので、そこはむしろぐいぐい来る。
昴も苦笑しつつも「こうなると母さんは聞かないから」と諦めを促してくる。智花と二人顔を見合わせてから、お言葉に甘えることにする。
……実は割とそのつもりだったなんて言えない。
七夕さんの料理は相変わらず美味しかった。
女子力向上を図ってはや数年、この身体になってからの半年も更に腕を磨いてきたつもりだけど、その倍以上も主婦をやっている人にはやっぱりそうそう敵わない。
この料理の隠し味は、とか考えながら食べていると、
「翔子ちゃんはお料理が好きなの?」
「はい。ご飯を私が作ることも結構あるんですよ」
半分くらいあなたの影響です、とは言えないけど。
「そうなの。きっといいお嫁さんになれるわね」
むしろ、お嫁さんが欲しいんですが……。
「旦那様とは仲良しなんですか?」
「あ、翔子。その話題は……」
「うふふ、そうなの。銀河くん――主人とは学生時代からの知り合いでねっ」
いつもにこにこしている七夕さんが、銀河さんの話題となるとより一層笑顔になる。
上機嫌で二人の出会いから結婚に至った経緯までが語られるのを、私と智花は笑顔で、昴だけはげんなりした顔で聞いた。
ごめん昴、私も前に何度も聞いてるけど、久しぶりに聞きたかったんだよ……。
七夕さんは食後のお茶を淹れてくれ、デザートにホットケーキでもどう? と言ってくれたりもしたけど、そんなにお腹に入らない。メインのベーコンと生野菜のバゲットサンドだけでも結構なボリュームなのに、他に具だくさんのオムレツやら何やらがたっぷりあったのだ。
「さて。……智花、翔子。まだ時間は大丈夫?」
食休みをして落ち着いたところで昴。
「もし良かったら、少しでも技術の底上げをしていかないか? ちょうど庭にゴールがあるしさ」
「それは……」
智花と二人でくすりと笑う。
「是非、お願いします」
「ふふっ。ごめんなさい。実は、私たちからもお願いしようと思って、翔子と準備してきたんです」
シューズとか着替えとか。
「あらあら。二人とも、大好きなのね」
それはもちろん、私も智花もバスケットボールが大好きです。
☆ ☆ ☆
前傾姿勢でドリブルを続けながら、正面にいる昴を睨む。
どう来るかお手並み拝見とばかりに「見」の姿勢だけど、それが隙になっているかというとそうでもない。簡単に突けるような隙は見当たらない。
であれば、視線や動作、幾つものフェイントを重ねた上で――。
「ここっ!」
右に行くと見せかけ左へドライブ。
「ふっ!」
でも、さすがは昴。
瞬時にフェイントを看破して身体を滑り込ませて来る。割と緩急をつけたつもりだったけど、やっぱり本家には及ばないか。
なら。
ドリブルを止めると同時にボールをバウンドさせ、
「――っ!」
私の後方、陰に隠れるように控えていた智花が弾丸の如くそれをキャッチ、勢いを殆ど殺さないままゴールへ。
「くそっ!」
昴も慌てて方向転換するも、一瞬間に合わない。
かこん。
と、小さな音を立てて、ボールがゴールに吸い込まれていった。
「うう、全然勝てません……」
「いや、そんなことないって。翔子と二人なら何回も俺を抜いたじゃないか」
「そうですけど……」
縁側に座って肩を落とす智花。
時刻は午後三時半。日が暮れるにはまだ早いけど、まだ私たちは小学生。心配性の忍さんを安心させるためにも早めに帰った方がいいだろう。
着替えの時間なんかも考えるとちょうどいい区切り。
智花の言う通り、練習の方は二人なら勝てる時もあるけど、一対一だと全然勝てない。
二対一にしても、会心の出来だったのは最初の一回――相談もなしに繰り出したノールックパスだけで、徐々に昴に対応され、最後の方は半々くらいでしか成功しなくなっていた。
「簡単に抜かれちゃうんじゃ、高校生の立場がないって」
「それはそれとして、勝ちたいよね」
「うん」
「はっきり言うなあ……」
そう言いつつ、割と嬉しそうな昴。
彼としても、緊張感のある対戦は嬉しいのだろう。
「長谷川先輩。お願いします。あなたの指導で、私たちを救ってください」
「救う、か」
昴が苦笑する。
「俺はやっぱり、翔子と智花なら、自分たちでなんとかできたんじゃないかと思うよ。……でも、頼ってもらえたからには、全力でやる」
「長谷川さん……」
智花が感極まったように涙ぐむ。
そこに七夕さんの声。
「お風呂沸いたわよー」
ありがたい。
シャワーだけでも、なんなら着替えさせてもらうだけでも十分だけど、さっぱりしてから帰るのと、帰ってからさっぱりするのじゃ気分が全然違う。
「先輩、覗かないでくださいね?」
「の、覗くわけないだろ!?」
若干、声が上ずったのが怪しい。
なんて、さすがに疑いすぎだよね。