ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子部長、決戦に臨む(前編)

「あ、あの……っ。長谷川さん、翔子ちゃん、智花ちゃんっ」

 

 二週目。

 試合まで最後の一週間の、二回目の部活がもう少しで終わる頃。

 昴を、私を、智花を呼び止める声があった。

 

 愛莉。

 

 昴の指示に従って、今日も一生懸命練習をこなしてくれた彼女。

 練習中以上に真剣な表情で私達を見つめている。

 

「どうしたの、愛莉?」

「あ、え、えっと……」

 

 尋ねると、いったん言葉を詰まらせて、それから意を決したように言ってくる。

 

「あのっ、センターのこと、もう一回、教えてくれませんか……っ?」

「え……?」

 

 私は驚きからすぐに反応できなかった。

 智花も同じ。

 だから、答えたのは昴だった。

 

「もちろん。だけど、無理してない?」

「えっ、と」

「愛莉が頑張ってくれてるのはわかってる。怖かったら無理をしなくても大丈夫だ。俺がちゃんと、みんなを勝たせてみせるからさ」

 

 優しい微笑み。

 女の子慣れはしていなくても、やっぱり長谷川昴はいいやつだ。

 それに、勝算もなく言う人間でもない。

 昴がそう言うからにはちゃんと、勝つビジョンがあるはず。

 でも。

 愛莉は首を振って、

 

「私にもできることがあるなら、やってみたいんです。私も、みんなともっと一緒にいたいから……っ」

「……愛莉」

 

 強い。

 敵わないな、って思う。

 身体のことでからかわれるのは辛いに決まってる。二周目の私が「男女」と言われてどれだけ辛かったか、自分のことに照らし合わせれば簡単にわかる。

 彼女は転生者でもなんでもない。

 ただの生身の人間として、自分のトラウマと向き合おうとしている。

 

「愛莉……どうして?」

 

 智花が尋ねる。

 愛莉は微笑んでそれに答えた。

 

「みんなが、頑張ってるから……。真帆ちゃんも、紗季ちゃんも、ひなたちゃんも、智花ちゃんも――翔子ちゃんも」

「私達が……」

 

 それを言うなら愛莉だって頑張ってる。

 そう言いたかったけど、それはきっと、愛莉のせっかくの決意に水を差すことになる。

 

「いーじゃん、あたしたちにもおしえて!」

「ふふ。そうね。後学のためにも聞きたいです」

「おー。ひなも聞きたい」

 

 真帆ちゃんたちが駆け寄ってきて、口々に言う。

 話を聞いていて、加勢が必要だと思ったんだろう。

 昴がふっと笑った。

 

「わかった。じゃあ、みんなに教えるよ。せっかくだから全部のポジションの役割をね」

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 そんなことがあって。

 私達は金曜日、最後の練習を終えて――いよいよ本番へと臨んだ。

 

 部活以外の日も個人練習をしたり、昴の家にお呼ばれして特訓したり、みんなでお風呂に入ったり(六人はさすがに物凄く狭かった)、色々あったんだけど、話してるとキリがなくなるので割愛する。

 愛梨はとても大きかった、とだけ言っておけばいいだろうか。

 ちなみに昴は別だったのであしからず。

 

 決戦前日はみんなとチャットしたりしたのもあって、なかなか眠れなかった。

 お陰でちょっと寝不足である。

 でも、体調は万全。朝に軽くランニングしたお陰で気分もすっきりした。

 

 落ち着かなかったせいか、学園に着いたのはちょっと早めだった。

 

「……あ」

 

 まだ誰も来てないかと思ったら、前方に初等部の男子を発見。

 隠れる?

 いやいや、自信がないとか思われたら癪だ。喧嘩売られたら無視することにして進む。

 

「竹中君」

「鶴見か」

 

 幸いというかなんというか、夏陽くんだった。

 私をライバル視してはいるけど、普段はふつうに喋ってくれる。私にとってはとてもありがたい存在。

 

「早いな」

「竹中君もね」

 

 微笑んで言うと、竹中君もふっと笑って頷く。

 

「待ちきれなかった。お前や、湊とやるのが」

「そうだね。私も楽しみ」

 

 真剣な試合なんて久しぶりだ。

 二年ぶりくらい?

 そう考えると、負けられないっていう以外の気持ちも湧いてくる。

 そうだ。

 慧心のみんなと一緒に試合するのも初めてなんだ。

 部活でいつもミニゲームしてるから忘れてた。

 

 平常心。

 

 力みすぎたら良いプレーができなくなる。

 思い出させてくれてありがとう。

 

「でも、勝つのは私達だよ」

 

 告げると、夏陽くんはバツが悪そうな顔になった。

 

「……悪かったと思ってるよ」

「どうしたの、急に」

「俺くらいは言っとこうと思ったんだよ。こんなあんな理由で試合するなんてさ」

「あはは……そうだね。でも、竹中くんのせいじゃないよ」

「そうだけどさ。気持ち悪いだろ、こういうの」

「あ、それはわかる」

 

 頷いてから、私も謝る。

 

「こっちこそごめんね。喧嘩みたいになっちゃって」

「みたいっつーか、喧嘩だけどさ。あいつらもちょっとはわかるだろ。お前らが弱くないって」

「そうだといいな」

 

 話は終わったということか。

 夏陽くんは自然にその場を離れようとする。

 

「竹中君」

「ん?」

「私と智花だけじゃない。他のみんなだって上手くなってるよ。きっとびっくりする」

「……楽しみにしてるよ」

 

 今度こそ、彼は歩き去っていった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「みんな、体調はどう?」

 

 体育倉庫で最後のミーティング。

 昴の問いに、ばっちりだとみんなで返した。

 

「よし。それだけが心配だったんだ。体調ばかりはどうしようもないからね」

「では、長谷川さん。作戦は」

「ああ。予定通りだ。向こうのメンバーは想像通りだった」

 

 確かに、スタメンはビデオで確認したのと同じだった。

 謎の転校生が控えで参加してる、なんていうマンガの主人公ムーブも無し。

 

「じゃあ、すばるん!」

「ああ。あっち向いてホイ作戦、始動だ!」

 

 こらそこ、ネーミングがダサいとか言わない。

 何を隠そう発案は私だったりする。

 

「愛莉。頑張ろうね」

 

 この試合、一番のキーパーソンになるだろう仲間に声をかける。

 心優しい長身の少女は、真剣な顔で頷いてくれる。

 

「う、うん。……でも、翔子ちゃん。わたし、上手くできなかったら……」

「うん。いつでも交代するから安心して。でも」

 

 愛莉の手をぎゅっと握って微笑む。

 夏陽くんが教えてくれたこと、愛莉にも伝えてあげたい。

 

「大丈夫。せっかくの初試合だもん。楽しんでいこう」

「……うんっ」

 

 答えた愛莉の表情は、少し柔らかくなっていた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 そして。

 男バスは驚異の布陣を目にすることになる。

 

「み……」

「湊が控え!?」

 

 そう。

 こっちのスタメンは私、愛莉、真帆ちゃん、紗季、ひなたちゃんの五人。

 誰もが認めるスーパーエース、湊智花がまさかの控えという、相手の立場から見たら驚くだろう構成だった。

 たぶん、本命予想は私が抜ける形だったと思う。

 鶴見なんて口だけで別に上手くない、って思ってる子が多いだろうし。

 

「な、舐めてんのか!」

「なめてねーし! もっかんがいなくたってよゆーだし!」

「それを舐めてるっていうんだよ!」

 

 男バスからの抗議に真帆ちゃんが威勢よく答える。

 特に深い意図はないだろうけど、うまいこと挑発になってる。

 でも。

 本当に、これはちゃんとした作戦だ。

 

 

 

 一列に並んで礼をして、ジャンプボール。

 その場に立ったのは、

 

「香椎かよ……!」

「でっか……」

 

 男子たちの心無い声。

 せっかく進み出てくれた愛莉がびくっとして小さくなってしまう。

 

「愛莉! モテない男子はほっといていいから!」

「なんだと鶴見!」

「女はすぐレンアイがどうとか言うんだよなー」

「うるさいぞお前ら! 試合に集中しろ!」

 

 と、男バス顧問のカマキリ先生が双方を一喝。

 でも、愛莉は多少、落ち着きを取り戻したようだった。

 

「ジャンプして叩くだけ。ジャンプして叩くだけ……っ!」

「うわ、高ぇ……!」

 

 高身長の子がいない男バスチーム。

 当然、センターの子もそこまで大きくない。一方の愛莉は高校生の昴と大して変わらない身長なんだから、その差は歴然。

 軽くジャンプしてボールにタッチするだけで、あっさりと空中戦を制した。

 

 もちろん、狙ったところに落とすのは無理なんだけど。

 

 飛んだボールはうまいこと真帆ちゃんがキャッチ。

 

「真帆ちゃん、いったんちょうだい!」

「おうよ!」

 

 すぱんっ。

 ストレートに出されたパスが私の手の中に収まる。

 

 さて、それじゃあ、ポイントガードを頑張ってみよう……っ。

 まずは、

 

「ひなたちゃんっ!」

「おー」

「な、なにっ!?」

 

 もう敵陣に突っ込んでいっている子にパスを出す。

 たぶん、敵さんはひなたちゃんを戦力外とみなしていただろう。ジャンプボールの時も、どこにいようと関係ない、と無視していたはず。

 だから、私達は最初から、ひなたちゃんに別のことをお願いしていた。

 とにかく敵陣に突っ込んじゃえ、と。

 

 ひなたちゃんはみんなの中で一番、身体能力が低い。

 足も速くないし、身体も小さい。

 遠くからだとシュートもなかなか入らないけど、部活は休まなかった。一生懸命、何度も何度も練習を繰り返していた。

 だから、ゴールのすぐ近くから落ち着いて投げるなら、それなりに入れられる。

 

「っ、戻れっ!」

「させると思う?」

「なっ」

 

 いち早く我に返り、走り出そうとした夏陽くんを紗季が遮る。

 両手を広げて進路に立つだけ。

 激しい動きに対応しきれるほどの技術はないけど、ただの「通せんぼ」でも十分。一秒か二秒、稼げればそれで十分。

 もちろん、その間に私も走り出している。

 それを見た愛莉ちゃんもワンテンポ遅れて駆け出す。

 

 これ、どうするんだ。

 

 他の男バスメンバーが躊躇するのがわかった。

 彼らは一瞬、その場に留まった後でゴールへと駆けだす。もうひなたちゃんはシュート体勢に入ってるけど、入らないと見たのだろう。

 判断ミスとは言い難い。

 練習して入るようになってきてるとはいえ、本番でいきなりゴールできるかは分の悪い賭け。

 

 そして、シュートは外れた。

 

「リバウンド!」

 

 紗季を突破した夏陽くんの声。

 甘い。

 悪いけどここは、譲れない。

 僅かな遅れのお陰か。私は男バスメンバーより先にゴール下に到達。有利な位置でリバウンドを成功させた。すぐディフェンスが入ったのでそのままシュートとはいかなかったけど、

 

「愛莉!」

 

 高めに放ったボールを、我が部のセンターがしっかりとキャッチ。

 

「え、えいっ!」

 

 おっかなびっくり、けれど、練習の後が見えるフォームで放たれたシュートは一度リングに弾かれ――それから、すとん、とネットを揺らした。

 

「っし!」

 

 コートの外で昴がガッツポーズをする。

 うん、今のはラッキーだった。

 まさか、初手がこんなに上手くいくとは思わなかった。

 

 

  女子2 - 0男子

 

 

『あっちむいてホイ作戦?』

『そう。まあ、口で言うと大した作戦じゃないんだけど……』

 

 金曜日。

 昴はそう言ってみんなに作戦を説明した。

 

『みんなの中でエースを決めるとしたら誰だと思う?』

『それは、もちろんトモですね』

『じゃあ、智花が控えだったら?』

『そんならあたし! ……って言いたいけど、ショーコ!』

『うん。そうだね』

 

 男バスの認識もまあ、そんな感じだろう。

 そこが付け入る隙。

 

『じゃあ、そこでいきなり真帆がシュート決めたら?』

『……あたしをマークする?』

『更にそこで紗季がゴールしたら?』

『私も警戒されますけど……あっ』

『そう。これは、相手チームに誰がエースなのかわからなくさせる作戦なんだ』

 

 智花を不在にした理由の一つがこれ。

 部長である私をポイントガード、司令塔に据え、チャンスがあれば自分で狙ってもいいけど味方にも積極的にパスに出させる。

 できれば早めに全員に見せ場を作りたい。

 こうすることで、誰がゴールしてきてもおかしくない、という雰囲気を作る。

 

 これで男バスは全員を警戒せざるをえなくなる。

 雑魚だと思ってたチームが意外に戦える。

 精神的に揺れずにはいられないだろう。

 

 

 

 

「っ。ゴール見えねえ! でかいんだよ、香椎!」

「っ、そんなこと言われたって……」

 

 向こうのオフェンス。

 男バスはあらためて愛莉の高さを知ることになった。

 ただゴール下に立っているだけで脅威になる。

 自分より背の高い女の子に、この年頃の男子ならプレッシャーを感じずにはいられない。そして、それを気にしないように、と思って放ったシュートは――外れた。

 

 リバウンドを拾ったのは愛莉。

 

「やった。ありがと、愛莉。大好きだよ!」

「っ。翔子ちゃんっ。うんっ」

 

 すかさず夏陽くんが愛莉につこうとするけど、その時には、愛莉はもう私にパスを出していた。

 受け取った私はドリブルを開始。

 ブロックしようと寄って来た男子には目線でフェイントを送り、さっさと突破。

 

 悪いけど、夏陽くん以外が簡単に止められると思わないで欲しい……っ。

 何年もかけて磨いた必殺の、シンプルなジャンプシュートがネットを揺らした。

 

 

  女子4 - 0男子

 

 

 私たちが愛莉に伝えたセンターの役割はシンプルだった。

 

『センターはね、サッカーのゴールキーパーみたいに特別な役割じゃないの』

『うん。できるのはみんなと同じこと。だから、他のポジションもセンターの仕事をすることがあるんだけど……』

『センターの役割は、ゴール下を支配すること。それと』

 

 

「ゴール下を支配することで、みんなを助けること……っ」

 

 それは、優しい愛莉にぴったりの仕事だ。

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