ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
序盤、試合は女バス優勢のまま進行した。
「真帆ちゃん!」
「紗季!」
「ひなたちゃんっ」
「愛莉!」
私は状況を見つつ、時には気分も交えてパスを出した。
シュートが入れば大袈裟なくらいに喜び、外れれば「次は入るよ」と励まし、時には自分自身でチャンスを作りに行った。
「くそっ。なんなんだよ、あいつら!?」
「聞いてねーぞ、あんなに……!」
「楽勝じゃなかったのかよ!?」
混乱する男子達。
「落ち着け! まだ試合始まったばっかりだろ!?」
「だってよ、竹中。あいつら、あんな――」
あんなに『強い』とは言ってくれない。
でも、リーダーである竹中君が一喝してもなお、なかなか彼らの冷静さは取り戻せない。
ちょっと、ううん、かなり気分がいい。
女子8 - 2男子
開いた点差。
これだけシュートが入ったのも、向こうのシュートを止められたのもラッキーな部分が大きいけど、ともあれ。
遂に男バス顧問、カマキリ先生が宣言する。
『タイムアウト!』
タイムアウトの権限は前半後半に一回ずつ。
状況の立て直しで浪費させられるのは大きい。
「みんな、今のうちに少しでも休んでおいてね」
「だいじょーぶ! まだまだよゆーだってば!」
昴の指示に真帆ちゃんが答える。
他のみんなも笑顔で和気藹々としたいいムード。確かにまだまだ大丈夫だと思う。だからこそ、今のうちに休んでおいて欲しいんだけど。
この辺は経験がないとわかりづらいし、あまり言って士気を下げてもいけない。
「翔子。大丈夫か?」
「はい。私が最初にバテるわけにはいきませんから」
微笑んで答え、私は男バスの方を見る。
「落ち着いてますね」
「ああ。取り乱してくれれば良かったんだけど」
カマキリ先生は部員たちへ冷静に指示を出していた。
熱くなっていた男子が急速にクールダウンし、元のペースを取り戻しているのがわかる。
――さすが本職。
教師で、バスケの指導者。こういうところは敵わない。
となると、ここからはさっきまでのようにはいかないか。
そして。
「行くぞ、お前ら!」
「おう!」
夏陽くんの号令の下、男バスが真価を発揮し始める。
彼らがしてきたのは単純なことだ。
「なっ、なんだよー、くっつくなー!」
「ちょっと鬱陶しいわね……!」
「うう……!」
「おー、、おすもうごっこ? ひな、ふとくい」
一人一人がそれぞれ別の相手につく、ごくごく普通のマーク。
動きを制限されたみんなはやりづらそうに顔を歪め、
「で、お前の相手は俺だ」
「……竹中君」
私にはきっちり夏陽くんがつく。
「こうなるときついだろ、お前ら」
「あはは。さあ、どうだろうね」
と、強がってみせたけど、この布陣は正直、きつい。
女子10 - 6男子
点差が、縮まり始めた。
何故か。
簡単だ。あっちむいてホイ作戦――全員にきちんと活躍の場を作るなんて、基本中の基本でしかないからだ。
エース以外は雑魚、という認識がまかり通っていたことの方が異常。
同じ人間、同じ世代である以上、「相手が自分達と同じくらい上手い」なんていうのは当たり前のことでしかない。
そして、同等程度の力量なら、落ち着いて相手にすれば止められる。
何も慌てることなんてない。
「じゃあ、作戦その二に行こうかな……っ!」
「何っ!?」
全力全開。
智花が後に辿り着くはずの凪のドライブで夏陽くんを突破。
エースが驚きの声を上げたことで、他の部員達には迷いが生まれる。私を止めるか、それともそのままマークにつくか。
迷ったら、タイムアウト前の二の舞。
一瞬の躊躇の末に二人が向かってきたけど、その時にはもう遅い。
ふわり、と。
やや遠間から踏み切った私は、後ろに跳びながらシュートした。
入った。
女子12 - 6男子
「よしっ」
「うおおお、かっけー!」
「ち。入ったか」
歓声を上げる真帆ちゃん。
追いかけてきた夏陽くんは小さく舌打ち。
「……マジかよ」
「お前ら、いちいちビビるなって! あんなのまぐれに決まってんだろ!」
「っ。そ、そっか。そうだよな」
「さんきゅー竹中」
うまい。即座に立て直された。
でも、まだ点差はこっちにある。
「向こうは鶴見が無理してるだけだ! どうせそのうちバテる!」
う。それもバレましたか……。
女子14 - 10男子
そこから一気に点差は縮んだ。
こっちのシュートは入る時は入るけど、入らない時は入らない。逆に向こうのシュートは「たまに止まる」程度でしかない。
ディフェンスは技術と経験がモロに出るから、みんなと男バスとの差が顕著に出る。
止まったらラッキー。
基本は私が頑張って止めるというスタンス。愛莉の高さにもそろそろ慣れが出て来てるので、止められなかったらほぼ入ると思っていい。
女子14 - 12男子
ポイントガードとして声を出し、みんなにパスを出し、マークが固ければ強引に突破し、ディフェンスでは疲労無視で縦横無尽に動き回り――。
なんとか点差を守るも、駄目押しでもう一本決められて点差は二点に。
『タイムアウト!』
そこで、使っておかないと損だから、というノリで女子側がタイムアウトを取って――最後の攻防では点は動かず、前半戦は終了となった。
「はぁっ、はぁっ……」
「お疲れ、翔子。みんなもよく頑張った!」
その時には、夏陽くんの指摘通り私はバテバテ。
コートから出た途端、昴に向かって倒れ込んで動けなくなるほどだった。全開で動き回ってたツケだ。この身体でまともな試合するのってこれが初めてだし、私だって、他のみんなと訓練期間は変わらないのだ。
でも。
「ありがとう、翔子。……後は、私がやるから」
五分間。
大好きなバスケを、仲間が戦っている姿を、すぐ近くから見せられて――これ以上ないくらいに熱くなっている真のエースが、残りの時間を引き受けてくれる。
☆ ☆ ☆
『交代するのは翔子と智花にしようと思う』
『はい。私たちもそれでいいと思います』
色々考えてみたけど、最終的に出た結論はそれだった。
経験者の出場時間を分割する。
悪手かもだけど、これには幾つか理由がある。
・私と智花は同じチームになった経験がほぼ無い
部内でミニゲームする時は必ず敵同士だからだ。
『俺とやった時の感じならチームワーク抜群っぽいけど』
『それは……翔子が合わせてくれるから』
『そんなことない、智花も私のこと見てくれてるの、ちゃんとわかってるよ』
ただ、私達が良くても他のみんなの問題がある。
私と智花が両方いるチームを経験していないので、とっさにどっちを頼っていいかわからなくなるかもしれない。
・五分間だけならフルに動ける
出られる時間が短いのを逆に利用するってこと。
最初から最後までリミッターを解除していいなら相手のエース、夏陽くんを上回り続けることも不可能じゃない。これはエースが二人いる女バスだけの利点だ。
向こうは夏陽くんが出ずっぱり続けないといけない。
相手の控えは本当に控え。
戦力で言えば六番目の選手だ。
もちろん、ポジションやチームワークの問題がある以上、個人の実力がそのまま結果になるわけじゃないけど――大きく差が出る結果は出しにくい。
そして、最後の理由。
・相手をひっかきまわすため
これが見事にヒットすることになる。
☆ ☆ ☆
男バス、女バス共にハーフタイムで選手交代をした。
こっちは私と智花が交代。
向こうは部員の一人と控えの子が交代。
ちらりと見れば、カマキリ先生はかすかに難しい顔をしていた。
そうだと思う。
こうやってあらためて確認してしまうと、智花とあの子で一対一の交換ができるか、どうしても考えてしまうだろうから。
もちろん、答えは「できない」だ。
「――っ!」
後半戦開始直後から智花はフルスロットルだった。
夏陽くんも速いけど、それを更に上回るハイスピード。ついでに言うと、智花の場合は緩急のつけ方が上手い上、見た目とのギャップがあるので余計に怖い。
不意をついて正面突破した彼女はそのままゴールまで進行し、綺麗なジャンプシュートを決めた。
「……うんっ」
ゴールがリングをくぐったのを確認したその直後だけ、闘志を帯びた表情に花が咲く。
ぶっちゃけ、男の子なら見惚れて当たり前だと思うけど、
「速え……」
「……っ」
男バスにそんな余裕はなさそうだった。
女子16 - 12男子
再び点差が開く。
残り半分。
前半戦、尻上がりに好調になっていた男バスとしては、この流れは歓迎したくない。なんとかここで止めたい、と誰もが思っただろうけど、それも罠。
躍起になればなるほど、細かい隙が生まれて付け込みやすくなる。
激しいプレーが好きなじゃじゃ馬に見えて、実は物凄いテクニシャンでもあるのが、智花の恐ろしいところの更にもう一つだ。
「くそ……っ!」
「……っ!」
夏陽くんも頑張って対抗するけど、五分間、私に振り回されていた彼も相当消耗してる。
元気な控えの子が頑張ろうとしても、地力の差で引き剥がされる。
攻めでは電光石火かつ正確無比なシュートを決め。
守りでは抜け目ないスティールをばんばん決める。
「うおお、さすがもっかん!」
「駄目ね。負けないように、って言いたいけど、脱帽だわ」
「すごい、智花ちゃん……。わたしたちもっ」
「おー、さいごまでがんばる」
女子20 - 14男子
女バスが再びペースを握った。
男バスが調子を落としたのは、私と智花の動きが全然違うからだ。私はなるべく意識して、今の智花が得意とする「動のプレー」をセーブしていた。どっちかというと技の多彩さは見かけの格好良さを重視して、それを相手に見せていた。
だから、リズムが狂う。
『タイムアウト!』
カマキリ先生がいったんリセットを望むも、今度はそう簡単にいかない。
何故なら、智花という脅威は幻惑ではなく実体だからだ。
そんな中、向こうが取った戦術は、
「ダブルチーム……!」
強敵相手に用いる常套策。
単純に二人分のスペースを埋められたらそれだけ厳しくなるし、注意する相手が二人になるのはそれだけ集中力も割かれる。
ただ、
「ああ。待ってた展開だ」
昴がにやりと笑った通り。
「真帆!」
「っしゃあ!」
智花は迷うことなくパスを出す。
彼女は確かにフルスロットルで動いている。
一人で全部引っ掻き回すくらいの気概で動いてはいるけど――だからといって、自分自身での勝利に拘ってはいない。
チームが勝てるなら迷わずそれを選択するくらいには、柔軟性を持っている。
何度も何度も、数え切れないくらい繰り返したミニゲーム。
三対三に分かれたチームでどうやって勝つか、一生懸命頭を悩ませた、その経験は無駄じゃない。
真帆ちゃんたちにも、こういう展開になったら空いてる子がばんばんシュートするようにお願いしてあった。
「紗季!」
「ええ」
「愛莉!」
「う、うんっ」
「ひなたっ!」
「おー」
紗季が空けば紗季に。
愛莉が空けば愛莉に。
ひなたちゃんが空けばひなたちゃんに。
高速のパスが飛び、だからといってマークを戻せば智花が突破、戻さなくても隙を見せればそのまま突破。
女子24 - 16男子
じりじりと、時間が過ぎて。
「湊にダブルでいい! 近くじゃないと入らないひなたは無視しろ! 入ったら諦める!」
「ああ、正解だ。正解だけど」
「間に合うかなあ」
夏陽くんの回答に、私と昴は笑みをこぼした。
こうなると時計との勝負になる。
負けている男バスは女バスの攻撃を極力早く阻止しないといけない。逆に女バスはじっくり攻撃しても問題ない。ヒートアップしつつも狡猾さを残した智花は突破とパスを上手く使い分けて敵を翻弄する。ボールを奪われたら奪われたで、すぐさま奪い返しに向かう。
女子26 - 20男子
残りタイムが少なくなくなってきた頃、真帆ちゃんたち四人が息を切らせ始めた。
試合開始から参加しているんだから当然だ。たくさん練習してきたけど、まだまだスタミナには不安がある。
それでもみんな、一生懸命に頑張った。
パスをつなぎ、攻めようとする選手に追い縋り、もっといい働きをしようとコートを駆け回る。
見れば、男バスも必死だった。
「後何点だ?」
「このペースじゃ間に合わ――」
「もう一本! シュート決めるぞ!」
弱気を声を出して打ち消し、一本でも多くと攻めてくる。
苛烈な攻め、硬い守りに、智花の息も次第に切れる。
でも。
それでも。
湊智花は最後まで諦めなかった。
最後まで手を抜かず、攻めの姿勢を貫き続けた。
女子28 - 26男子
残り三十秒弱。
最後になるかもしれない攻撃、ボールを持って攻め込んだ智花を阻んだのは、奇しくも夏陽くんだった。
「行かせねえぞ、湊。こっちも意地があるんだ!」
「………」
智花は闘志むきだしの少年を睨むと――ふっと微笑んだ。
「え?」
「借りるね、翔子」
なんて、呟きが聞こえたような気がして。
一瞬にして闘志を消した智花が、するり、と夏陽くんを抜き去り――シュートを決めた。
最後の男バスの攻撃、シュートは入らなかった。
女子30 - 26男子
「……あはは」
ごめん智花。
それを借りたのは私の方なんだ。未来のあなたから。
本当。
私たちのエースは、頼もしすぎるスーパーエースだった。