ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
ホイッスルが鳴り響く。
「試合終了!」
……勝った。
「30-26で、この試合は女子の勝ち!」
勝った。
勝った!
「やった、勝ったよ昴! ありがとう!」
先に弁解させてもらうと、この時の私は我を忘れていた。
試合の興奮、勝利の喜び、色んなものが混ぜこぜになってテンションが上がりきっていた。
なので、不可抗力だったと主張したいんだけど、
――私は歓声を上げ、隣にいた昴に抱きついた。
意外としっかりした腕にしがみつき、身体を押し付け、ついつい前世の呼び方で彼に呼びかけた。
しまった、と気づいたのは、昴が驚いた顔でこっちを見てきてから。
「……あ」
やっちゃった。
恥ずかしくて顔が赤くなる。まずい、昴の顔がまともに見られない。どうしよう。どんな風に謝ろう。真面目に? それとも、笑って誤魔化す感じで?
うう、頭がうまく回らない。
と、不意に頭に手が乗せられた。
「ああ。俺も嬉しいよ」
「っ」
至近距離からの微笑み。
気にしてないよ、とでもいうような仕草に、プレッシャーがすっと薄れる。
ああもう昴、反則だよ、それ。
もろくなった涙腺からみるみるうちに水分が溢れ、
「翔子っ!」
試合後の礼を終えたみんなが一目散に駆けてきた。
先頭にいた智花は私の手を引くと立たせ、さっき私がしたみたいに抱きついてくる。
「勝ったよ……! 私、守れたよ……!」
ああ。
高鳴る鼓動が伝わってきて、いったん落ち着きかけた気持ちがまた、抑えきれなくなる。
「うんっ、見てたよ。みんな、凄かった!」
「もっかん!」
「翔子!」
「ともかー」
「翔子ちゃん!」
真帆ちゃん。紗季。ひなたちゃん。愛莉。
みんなが次々追いついてきて、私と智花はあっという間にもみくちゃにされた。みんな涙ぐんでるので、もう何がなにやら。
わいわいきゃあきゃあ。
みんなが何を言ってるのか、私が何を言っているのかよくわからなくなって、でも止められなくて。
「すばるーん!」
私たちの様子を微笑ましそうに見て、邪魔しないように
感激しきりの彼女に決して変な意図はなかったはずだけど、昴は「なんでバレたんだ」みたいな顔で硬直する。
「おにーちゃんっ」
続いたのはひなたちゃん。
両側から抱きつかれた昴はいよいよどうしようもなくなってその場に立ちつくす。
こうなったら私たちのやることは決まっている。
紗季が涙目のままくすりと笑い、「行きましょうか」とばかりに視線を送ってくる。私、智花、愛莉はそれに頷き、せーので、
「長谷川先輩っ」
「「「長谷川さんっ」」」
一斉に抱きつき、昴をその場に押し倒した。
小学生サンドイッチ、どころか海苔巻きみたいになった昴はバランスを崩し、その場に尻もちをつく。
それでも、彼は笑っていた。
「ははは……っ。苦しいからやめてくれよ、みんな」
緩みきったその表情を、後に美星姐さんはこう語っていた。
あの表情を録画しておけば向こう何年か脅しに使えたのに、と。
☆ ☆ ☆
結構な時間をかけてようやく私たちが泣き止むと、男バスはなんとも言えない表情で立ち尽くしていた。
「篁先生」
「ああ、小笠原先生。ほんとすいません。うちの子達、感極まっちゃったみたいで。……なにせ、真剣勝負で男子に勝ったんですから」
「………」
さすが美星姐さん、煽る煽る。
悔しいのを押し殺して声をかけてくれたであろうカマキリ先生は、一見冷静に見える顔のまま、頬をひくっと動かした。
言い返したいのはやまやまだろう。
でも、なんとかこらえて淡々と答える。
「……ええ、こちらの負けです。お約束通り、練習場所はこれまで通りということで」
そこで言葉を切る彼。
美星姐さんはわざとらしく「ん?」と首を傾げる。
姐さん、顔が完全に笑っちゃってますから。
「ありがとうございます。……でも、約束はもう一つありませんでしたか?」
「……くっ」
さすがのカマキリ先生も悔しそうな顔になる。
約束は約束。
踏み倒すことは考えてなかったにせよ、あわよくば後日に、くらいは狙っていたかもしれない。そうすれば多少は部員を落ち着かせられただろうし。
肝心の男バス部員たちは、
「……女ってほんとうるせーよな」
「とっとと着替えて帰ろうぜ」
言いながらも、どこか帰りづらそうに私たちを睨んでくる。
素直なのか、そうじゃないのか。
真帆ちゃんが赤い目をしたまま「べー」と舌を出し、紗季も「ふん」と顔を逸らす。ひなたちゃんですら握り拳を作って突き出している(かわいい)。
「な、なんだよ」
「もう試合終わったんだから用はないだろ」
「ですよね先生」
「……お前達」
教え子の縋るような視線に、カマキリ先生は諦めたように首を振り、
「約束は覚えているな」
男バスが勝ったら女バスは廃部。
女バスが勝ったら男バスは土下座。
「……練習場所の話はもういいっすよ」
「違う。もう一つの件だ」
「………」
「竹中」
「わかってます」
夏陽くんが息を吐いて仲間達に向き直る。
「なあ、お前ら。これ以上格好悪いところ見せるつもりかよ?」
「な、なんだよタケ」
「裏切るのかよ」
「裏切らねえよ。でも、俺達、このままじゃ卑怯者だ。お前ら、もし負けてもすっとぼけりゃいいと思って『土下座する』なんて約束したのか?」
「………」
「俺はするぞ、一人でも。じゃねーと、これから楽しくバスケできねー」
「竹中……」
「さあ、どーする?」
男子たちは長い長い沈黙の後、一人、また一人と前に進み出た。
「遊んでるだけって馬鹿にしてごめんなさい」
「練習の邪魔をしてごめんなさい」
「ひどいこと言ってごめんなさい」
試合に参加したメンバーだけじゃない。
見学に来ていた他の部員も含め、全員が揃って私たちに頭を下げた。
謝罪の内容は、部を馬鹿にされたことや邪魔をされたことの他、愛莉の身長をはじめとする数々の暴言も含まれた。
――正直、胸がすっとした。
私たちの頑張りが無駄じゃなかったって認められた。
とにかく、それが何よりも嬉しかった。
「へへーん。そーそー、あたしたちのこと馬鹿にするからそうなるんだってば!」
「真帆、言いすぎ」
「そーゆー紗季だって顔にやけてるじゃん」
「なっ。し、仕方ないじゃない。……嬉しいんだから」
胸をはって勝ち誇った真帆ちゃん。
窘める紗季をニヤニヤしながら弄ったものの、その後すぐ、
「しょーがないなー。これで許してやるよ!」
と、にかっと笑った。
「な、お前、あんまり調子に……」
「やめとけ」
うん、そうだね。
今の言い方で男子が納得してくれるかはともかく――これ以上、追い打ちをかけても仕方ない。ここぞとばかりに詰ってやりたい気持ちもあるけど、無駄に禍根を残しても仕方ない。
やりすぎたって反省したばかりだし。
「謝ってくれてありがとう」
「えへへ……うんっ。これからは、仲良くできると嬉しいな」
「みんな、手強かった。また、やりたいな」
愛莉や智花と一緒にそう言って流すことにした。
「う、うるせー!」
「ええー……」
男の子のプライドが許さなかったのか、何故か滅茶苦茶反発喰らったけど。
まあ、喧嘩売るよりは良かったんじゃないかと思う。
☆ ☆ ☆
「みんなお疲れ様。ささやかだけどお祝いよ。いっぱい食べてね」
「やったあ!」
その日、長谷川家で祝勝会が開かれた。
参加者は女バスメンバーと昴、七夕さんに美星姐さん。ささやかなんて言いながら、七夕さんが用意してくれた食事は十品に届かんという御馳走で、私たちは揃って歓声を上げた。
実際、七夕さんの手料理以上の御馳走なんてそうそうない。
運動してお腹ぺこぺこということもあって、みんなでわいわいと盛り上がった。
「部活、続けられることになって本当に良かった」
「うん。これからもよろしくね、みんな」
「もっちろん! 大会とかも出てみたいし!」
「あはは。大会に出るには十人必要だから、後四人集めないとだけどね」
「そうなのね。じゃあ、本当に部員集めをしないと……」
まだまだ問題も、やりたいことも山積みだ。
「ねーねーすばるん! あたしたち強いよね? 大会でても勝てる?」
「んー、どうかな。これからもちゃんと練習すれば、かな。そのためにはコーチも見つけないとね」
美星姐さんじゃ駄目ですか。
……うん。駄目か。
「長谷川さんは、もうコーチしてくださらないんですか?」
愛莉、ナイスアシスト。
私たちからしたら、昴がこのままコーチしてくれるのが一番いい。
「やってあげたら、すばるくん? それならバスケットボール、これからも――」
「いや。それはお断りさせて欲しい」
「おー。おにーちゃん、おいそがしい?」
「うん。俺もちょっとやりたいことがあるんだ。俺はまだ高校生で、コーチじゃなくてバスケ選手だからさ」
「すばるくん……」
そう言われちゃうと無理には誘えない。
誘えないんだけど、
「そこをなんとか! 選手しながらでいいから! ね、すばるん?」
さすが真帆ちゃん、私たちにできないことを。
これにはみんな「その手があったか」みたいな顔。真面目な紗季でさえ「無茶言わないの」とか言いながら、その実、昴に期待してた。
とはいえ、昴もこれを簡単には呑めない。
「あはは。いや、ちょっとそれは……」
笑顔と共に曖昧に濁され、逃げ切られてしまった。ここだけだと悪徳政治家みたいである。
そうされればみんなも「あ、これ無理だ」とさすがにわかる。この話題は地雷だと避け、今日の試合のことなど楽しい話題へとシフトした。
昴も、みんなのことが嫌いなわけではない、と見てればわかる。
「長谷川先輩」
「ん? なんだい、翔子」
「もし、試合とかあったら呼んでくださいね。応援に行きます」
そう言うと、昴は嬉しそうに頷いてくれた。
「ああ。わかった。必ず連絡する」
「約束ですよ?」
☆ ☆ ☆
祝勝パーティが終わって家に帰ってから、私はSNSに書き込んだ。
『ね、みんな。私、長谷川先輩にアタックしてみようと思うんだけど……。
『おー。しょうこ、だいたん。
『おっしゃー、よくいった!
『ええ。長谷川さんに抱きついてた時はまさかと思ったけど……告白する気になったのね。
『きゃあ。翔子ちゃんっ。結果、あとで教えてねっ。
『えっと、あの、コーチの件だと思うんだけど……。
『でしょうね。
『しってた。まかせたぞしょーこたいいん。もっかんでもいいけど?
『え、私? む、無理だよう……。
『なんだ、残念。でも、智花ちゃんでも大丈夫だと思うけどなあ。
『えっと、愛莉。それはどっちの話?
『えへへ。ひ、ひみつ。
みんな相変わらず可愛いなあ……。
じゃなくて。みんなからもゴーサインは出た。
となれば、長谷川昴攻略作戦を開始するしかないだろう。
☆ ☆ ☆
「おはようございます、長谷川先輩」
「し、翔子?」
「はい。鶴見翔子です。昨日ぶりです」
翌日。
私は五時に起きて朝ご飯の支度を整えた後、ランニングがてら昴の家に向かった。
着いた時、ちょうど昴は朝のロードワーク中。
七夕さんが出迎えてくれて、事情を話すと快く家に上げてくれた。
帰ってきた昴は、私を見てぽかんとした顔。
「ど、どうしたの、こんな時間に。何か忘れ物? ぱっと見た感じ何も――」
「そうですね、忘れ物です。品物じゃないんですけど」
言って、私は昴を見上げて、
「長谷川先輩。私たちの部のコーチになってください」
「……また、その話か」
昴はちょっとだけ表情を硬くする。
彼としても断るのは心苦しい。だからこそ、何度も話を出されたくない。そんな感じだ。
「言っただろ。みんなには、俺なんかより、ちゃんとした大人のコーチを――」
「長谷川先輩以上のコーチなんていません」
「翔子」
私だけならいいかとばかりにちょっと雑に言ってくる彼に、私はきっぱりと言い切る。
「私たちには、長谷川先輩が一番いいんです」
「……そんなこと、ないだろ」
照れくさいのか顔を赤らめつつ言う昴。
確かに、能力とか実績だけ見たら腐るほど優秀な人がいるだろう。
でも。
私は知っている。
彼が、結成間もない慧心女バスを、全国優勝チームと互角に渡り合うまでに育て上げたことを。
そして、それによって、彼自身も大きな飛躍を遂げることを。
だから。
「長谷川先輩。課題をください。私がそれをクリアできたら、一年間、女バスのコーチをしてください」
「課題、か」
昴は呟き、しばらく黙り込んでから、言った。
「フリースロー五十本。連続で決められたら」
「わかりました。五十本ですね」
それは、前世で智花が課されたのと同じ難題。
たしか、智花は自分で言いだしたって聞いた気がするけど――何の因果か、私にも回ってきたらしい。
「期限はないんですよね? じゃあ、成功するまで毎日来ます」
「え。……あ。ちょっ、待っ」
「待ちません」
私は笑って玄関から走り出し、庭に向かいながら昴を振り返った。
「長谷川先輩。これからも、よろしくお願いしますっ」
勝った、第一部完!
いえ、第三部くらいまでやった気もしますが、キリがいいのでここで本当に終わりとさせてくださいませ。
このまま最終巻までやると、オマケが本編より長くなりますし……(汗
長い間、お読みいただきましてありがとうございました。