ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子と秀才

「……え?」

 

 瞬きを数回。

 目を擦って再度、まじまじと紙面を見つめる。

 けれど、記載内容が変わることはなかった。

 

『学年順位:2位』

 

 マジか。

 思わず硬直していると、その間に全員分が配り終わったらしい。

 担任に命じられたクラス委員が起立と礼の号令をかける。

 

 途端に騒がしくなる教室。

 

 どこか取り残されたような感覚のまま、俺はすとんと椅子に座った。

 

「どうしたの? ……って、凄いじゃない翔子! 何よこれ!?」

「うわ、本当だ。葵も大概だと思ってたけど、上には上がいたか」

 

 後ろから覗き込んできたのは葵と昴。

 紙面の内容――中間テストの結果を見た二人が驚きの声を上げる。

 

「ん。……自信あったんだけど、上には上がいた」

「え?」

「そっち?」

 

 二人が顔を見合わせて首を傾げた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 六年生の二学期以降、テストで一番以外を取ったことはなかった。

 中学になって他の学校からも生徒が集まるとはいえ、今回の中間では全科目九十点以上を取っている。幾つかの科目に至っては百点だった。

 さすがに勝っただろうと思っていたのだけれど。

 

「不覚。部活の疲れで授業が少し疎かになってた」

「嫌味か!」

 

 二周目の人間として恥ずかしいと内心思っていると、昴が不貞腐れたように唇を突き出す。それを見た葵は笑いをこらえるように身を震わせた。

 

「そうね。バスケばっかりじゃなくて、ちゃんと授業も聞かないと。ねー昴?」

「う、うるせー」

 

 二人の結果も見せて貰えば、昴の成績は中の下といったところ。

 一方の葵は上の下くらいの成績を取っている。バスケしながらでこれなら十分、というか、感心するくらい頑張っていると思う。

 傷心のまま諏訪のところへ向かった昴を見送り、俺は葵に尋ねた。

 

「一位の心当たり、ない?」

「んー、どうだろ。うちの学校から来た子じゃないんじゃないかな」

「そっか」

 

 特にそれっぽい生徒は向こうにもいなかったらしい。

 だとすると、単に中学から猛勉強しだしたタイプかもしれない。私立に行かず、中一の一学期からっていうのも珍しいけど。

 

 ――何か他に理由があったとか?

 

 例えば、対抗意識を燃やさなければならない相手がいるとか。

 脳裏に一人の顔が思い浮かんだ。

 推測を確かめるため、俺は昼休み、一年生の他クラスへと一人で向かった。なんとなく別世界だと感じてしまう教室を覗き込み、目当ての顔を見つける。

 

「鳳」

 

 特に飾り気はないのにお洒落に見える美少女は、クラスメート数人と談笑中だった。

 名前を呼んで手招きすると露骨に嫌そうな顔をしつつ、立ち上がって歩いてくる。

 

「何?」

「テストの結果、どうだった?」

「は? そんなこと聞きに来たの?」

 

 睨まれた。

 溜息をついた鳳は小さな声で「六位」と答えた。

 

「あんたは? 二位なんでしょ?」

「そう。一位が誰か知りたかった」

 

 彼女は敢えて「二位」と断定した。

 俺の学力を知っているだけなら一位と言う方が自然だろう。彼女自身が一位でないのなら、一位の奴を知っていることになる。

 

「うちのクラスよ。今はいないみたいだけど」

 

 教室内をぐるりと見渡して鳳は言った。

 

「名前は?」

「上原」

「下の名前は?」

「……一成」

 

 一瞬、言いよどんだのはどういうわけか。

 訝しんだ俺だが、すぐに理由に思い至った。上原一成。

 カズ、か。

 

「なるほど、カズ君」

「あんなのとカズ君を一緒にしないで!」

 

 ガチギレであった。

 レトリーバーに牙を剥き出しにされた気分で「ごめん」と謝る。

 鳳祥。相変わらず諏訪のこととなると手がつけられない。

 なおも気が昂っている様子で息を吐いていたが、そこに背後から声がかかった。

 

「あんなのとは失礼だな」

「む?」

 

 振り返ると、そこには眼鏡をかけた少年が立っていた。

 顔立ちはそれなりに整っているものの特筆するほどではない。身に纏う飄々とした雰囲気は好みが分かれるところだろうか。

 邪魔だったか、と一歩脇にどいても中に入っていかない様子からして、

 

「上原?」

「おう。お前は?」

 

 やっぱり、彼が上原一成らしい。

 

「鶴見翔子。中間テスト学年二位」

「へー。平均点は?」

「九十六、二」

「うわ。危なかったな。俺、九十七、一」

「……く」

 

 平均で一点近く差があったとは。

 たかが一点、されど一点。九十点台の一点差は大きい。試験範囲を網羅している前提で、引っ掛け問題に引っかからないとかケアレスミスを徹底的になくすとかしないと差は埋まらない。

 認めざるをえない。

 眼鏡をかけているあたりも賢そうだし、今回の結果はまぐれではないだろう。

 

「次は負けない」

「おー。っても、俺、体育は平凡だし。通知表だと負けるだろうけどな」

「? もしかして、私のこと知ってた?」

「まあ。名前は知らんけど、運動神経良いことくらいは」

 

 目ざとい。こっちは全くノーマークだったのに。

 

「一年の可愛い子くらいはチェックしてるって」

 

 え。

 と、びっくりして顔を見れば、何故か上原はドヤ顔だった。決まった、とか思っていそう。

 なるほど。そういう奴だったか。

 俺は、隣で半目になっている鳳をちらりと見て、

 

「カズ君にはこの子がお薦め」

「鳳か。よし、じゃあ俺と付き合って――」

「一万年早い」

 

 ぴしゃりと。

 極低温の声で俺と上原を凍り付かせると、鳳は席へと戻っていく。

 

「あんた、覚えときなさいよ」

 

 離れざまに耳元で囁いてくるのも忘れない。

 駄目だこれ。

 同じことを思ったらしい俺と上原は顔を見合わせ、同時に肩を竦めた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「へー。もう一人のカズか」

「諏訪君とは真逆のタイプみたいね」

 

 今日も今日とて部活終わり。

 男子部も同じくらいに終わったので三人一緒に帰りつつ、昼休みの出来事を葵達に話して聞かせた。

 テストで俺を上回った男子の話に昴は感心した様子。

 

「そういう奴と友達なら俺も成績伸びるかな」

「他力本願……」

「いいだろ、効率重視だ」

 

 ジト目の葵にあっけらかんと答える昴。

 

「あのねえ、努力しないとしっかり身に――」

「友達になりたいなら協力する」

 

 呆れ顔になった葵の声を遮って昴に告げる。

 放っておくと多分、喧嘩になるだろう。

 お陰で昴は一瞬きょとんとし、葵も呆気に取られていたが。

 

「へ? 何か方法があるのか?」

「上原とメアドを交換した」

 

 言って、秘密兵器――メタリックレッドの携帯電話を取り出す。

 残念ながらガラケーで、機能的にも全盛期に届いていないが、紛れもない文明の利器。中学生になったから、ということで母さんから買ってもらったものだ。

 ちなみに、母親達で相談して決定したらしく、昴達も時を同じくして携帯を手に入れている。

 これによって遊びに行く算段をつけやすくなった。

 同じ学校なのでなくてもそこまで不便でないとはいえ、突発的なバスケの誘いに対応できるのは大きい。

 

 まあ、パケ死が怖いので使いすぎには注意が必要。

 あのソシャゲとかこのソシャゲとかをやり直したい気持ちはぐっと堪える。物欲センサーの恐ろしさは前世で嫌というほど味わった。これまでに使った額がまるまる残っていたら……とか考えたことは一度や二度じゃない。それが実現するのだから欲を出しては駄目だ。

 

「男子にメアド聞いたの!?」

「いや、向こうから聞いてきた」

「それ、狙われてるんじゃない……?」

 

 うん、十中八九そうだろう。

 でも、そこは相手が俺である。幾ら口説いても靡きようがないし、そうすれば諦めてくれるはず。話した感じ、どうしても俺を落としたいというより女の子全般が好きな感じだったし。

 

「問題ない。それより、いつでも上原を呼び出せるのが重要」

 

 俺としても勉強の話ができる相手が増えるし。

 

「よっし、じゃあ今度バスケしようって誘ってくれよ」

「あんた、上原君が運動得意じゃないって聞いてた?」

「え、じゃあどうやって仲良くなるんだよ?」

 

 あ、結局言い合いが始まってしまった。

 葵の指摘はもっともだが、昴の言いたいこともわからなくはない。俺達の遊びはもっぱらバスケ。たまに漫画を読んだりすることはあったが、身体を動かしてナンボというところがある。

 さすがに、この面子に交ざってバスケは罰ゲームだけど。

 

 ――バスケ以外のスポーツならまだいいか?

 

 スポーツでも、身体能力がそこまで必要ないものもある。

 卓球とかボウリングとか、ダーツとかビリヤードとか。運動神経、または種目単体のセンスがあればそこそこ、友達同士レベルなら十分に遊べるはずだ。

 屋内型の総合アミューズメント施設に行けばちょうどいい。

 前にさつき達と行ったゲーセンがそれに近かったけど、この近辺に、よりスポーツに特化したところがあったはずだ。

 名前は、えっと、なんていったか。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 というわけで、やってきました『オールグリーン』。

 卓球やボウリングやビリヤードの他、カラオケやゲーセン、更にはちょっとしたフードコートまで併設されている。中高生男子はもちろん、リア充系の大学生でも十分利用できる夢の施設である。

 上階にはバスケコートもあり、ちょっと心惹かれるが、今日のところはパス。

 

「俺、上原一成。よろしくな」

「長谷川昴。こちらこそよろしく」

 

 互いに手を差し出して握手を交わす昴と上原。

 思うところのない相手同士、すんなりとした挨拶だ。続いて葵も笑顔で自己紹介をしている。

 特に心配はしていなかったけど、この分なら大丈夫そうだ。

 

 メールで誘ってみたところ、上原は二つ返事でオーケーしてくれた。

 

 運動は別に得意じゃないが、遊ぶのは好きだとのこと。

 ならばと昴や葵を招集。部活のない日曜日に集合となった。

 誤算があるとすれば。

 

「お前が上原か」

「おう。ってことは、お前が『カズ君』か」

「どう? カズ君は格好いいでしょ?」

 

 誘うだけ誘ってみた二人が何故か律義にやってきたことか。

 諏訪と上原はなんか無駄に睨み合ってるし、鳳は無駄な自慢をしている。ちなみにさつきと多恵は用事があるということで不参加だった。

 

「何しに来た」

「遊びに来たんだよ。長谷川にしつこく誘われて」

「カズ君が行くなら私も行くし」

 

 昴、お前の仕業か。

 別に来ちゃ困るわけじゃないけど。昴としては「大勢の方が楽しい」という感じだろうし。

 

「とにかく、喧嘩はなし。OK?」

「ああ。お前が売ってこなきゃ喧嘩なんかしないって」

「同じく」

 

 ……その喧嘩、買えばいいんだろうか?

 むっとして睨んでやると、葵と昴から「どうどう」と取り押さえられた。

 おかしい。これだと俺の方が問題児みたいである。

 

 

 

 

 

 で。

 一緒に遊んでみたところ、上原は実にノリのいい男だった。

 ぱかーん、と、盛大にピンを倒した彼が隣の席に戻ってくるのを、俺はなんとはなしに見つめた。

 

「いやー、たまにはボウリングもいいよな」

「それは確かに」

 

 俺達の筋力だと重い球は使えないけど、それはそれで楽しい。

 スコアは割と白熱している。

 トップは諏訪。次いで昴、葵で、その次が上原。鳳が下から二番目で、どういうわけか俺が最下位。球の扱いなら日々腕を磨いているはずなのに。

 

「でも、上原がここまで騒がしいとは思わなかった」

「騒がしいとか言うなよ。悲しくなるだろー」

 

 ははは、と笑う彼の表情はとても悲しそうには見えなかった。

 ボールを手にしては前口上で場を盛り上げ、ピンを倒しては大げさに喜んでみせる。

 秀才は宴会ノリにも強いらしい。

 しんみりしたい時には向かなさそうだが、この面子では大騒ぎにしかなりようがないので、あまり気にしなくてもいいだろう。

 俺はホルダーから缶のウーロン茶を持ち上げて一口。

 鳳の投球に「おー」とか言っている上原の横顔を見て、尋ねた。

 

「また、誘ってもいい?」

「お? それは鶴見、俺のことを好きになっちゃった的な?」

「友情的な意味なら間違ってはいない」

 

 にべもなく答えれば、上原は「それは残念」と笑った。

 

「仲良くなってくれるならそれでいいけどな。いつでも誘ってくれ。バスケしろって言われたら最下位になる自信あるけど」

「心配しなくても容赦しない。……バスケも、勉強も」

 

 小さく付け加えた言葉に、上原がにやっと笑う。

 

「それはお互い様だなー。俺、勉強では負ける気ないから」

「生意気」

「好きに言ってくれていいぜー」

 

 俺の番が来たので話はそれで終わりになった。

 その日、俺達は財布と相談しつつ思いっきり遊び、笑い、睨み合った。

 

 以来、休みの日で遊ぶときはたまにこいつが交ざるようになったのである。

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