ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「大会があります」
部長の発した声に、部員一同が沸いた。
中間テストが終わって一週間ほどが経った頃の事である。
本大会が八月。
その前に行われる地区予選に、我らが桐原中もエントリーする。
「出たい?」
「出たいです!」
みんなの声が唱和。
二年生以上は言うに及ばず、体験入部の際に試合の興奮を植え付けられた一年生にとっても、大会というのは夢の舞台だ。
やっぱりスポーツは本番が一番楽しいし。
すると部長は笑って言う。
「じゃあ、頑張って練習しよう。予選までに練習試合も組むから、まずはそれに向けてね」
「はいっ!」
こうして、俺達は大会に向けて動き出した。
☆ ☆ ☆
「……部長。うちって、弱いんですか?」
「あはは、うん……まあ」
程なくして行われた練習試合。
相手は特別有名ではない普通の学校。大きな選手もいないし、天才的なエースがいたわけでもない。
こっちは三年生、主力を中心とするメンバー。
でも、勝てなかった。
俺や葵、さつきら一年生、それから二年生も必死に応援した。部長達、選手のみんなも精一杯頑張っていた。
単に実力が足りなかったのだ。
翌日、学校て行われた反省会にて、一年生部員の一人からこぼれたのは不安げな問いかけだった。
部長の返答は、肯定。
「うちの学校、公式戦で勝ったことないんだ。……今まで、一度も」
静寂が生まれた。
――どこかで楽観していたのだろう。
今まで楽しかった。頑張ってきた。だから勝てる、と。
だけど現実は甘くなかった。
はしゃいでいたところに水をぶっかけられた形。夢が覚めてしまったとしても、それは仕方のないことだ。
「………」
「………」
一年生を中心として、不安げに顔を見合わせる一同。
反省会は捗らないままに続き、部長をはじめとする三年生は必死に盛り上げようと声を出す。
そして、最後の締めくくりとして。
「予選の出場メンバーを発表するね」
俯いていた何人かが顔を上げる。
「まず4番――」
一人ずつ発表されていくにつれ、戻りかけていた空気は再び重くなっていった。
――出場メンバーは全員が三年生だった。
顧問を中心として作成されたというそれ。
確かに、学年が上である方が上手い人は多い。それでも、二年生の中にだって上手い人はいる。にもかかわらず全員三年で固める采配。
最後の思い出作りに最上級生を出す、という慣例だろう。
つまり。
下級生にチャンスはない、と、宣言されたに等しかった。
その日の練習も散々な結果に終わった。
ただ、決められた時間を過ごしているだけ。そんな感じで活動が終わり、みんなそれぞれ着替えを済ませると部室を出ていく。
そして、気づけばなんとなく、俺と葵、さつき、多恵、鳳の五人――体験入部最初の試合のメンバーは一緒に家路についていた。
「当然でしょ。むしろ知らない人がいたのが不思議なくらい」
微妙に気まずい雰囲気の中、言ったのは鳳。
「鳳は知ってた?」
「入部する前に下調べくらいするでしょ、普通」
耳が痛い。
最初から「バスケ部に入る」と決めていた俺は完全にノータッチだった。葵を見ると知ってはいたようで苦笑された。
鳳はため息をつくと再び口を開く。
「勧誘の仕方がまずかったんじゃない?」
「鳳」
見過ごせずに口を挟む。
部長達、三年生の盛り上げ方は見事だった。それをそんな風に言って欲しくなかった。
けれど、抗議は肩を竦められただけで一蹴されてしまう。
「希望を持たせすぎなのよ。実は私達は上手いのかも、紅白戦で勝てるかも、試合に出られるかも――って、そんなわけないのに。あんたや荻山さんに勝てない腕で試合に出られるわけないし、ましてや勝てるわけない」
シビアな感想は「私も含めてね」という、自嘲気味の言葉で締めくくられた。
「………」
「何、つまんない顔してるわけ?」
黙り込めば、鳳はつんと顎を上げて俺を睨んでくる。
「あんたがダメージ受ける必要ないでしょ。勝てなからってバスケ辞めるの?」
「いや」
「だったら落ち込むの止めて。うざいから」
もしかして、俺は発破をかけられているのか。
物凄く不器用な言葉だ。
――でも、鳳の言う通りかもしれない。
俺は、うちの部が弱かったことを気にしていない。
ただ、部の空気が悪くなってしまったのが嫌だった。楽しくバスケができないから。みんなが暗い顔をしているから。
軽く息を吐いて首を振る。
「確かに。私まで呑まれる必要はない」
言うと、葵が笑顔を浮かべた。
「ん、私も別に気にしてないよ。一年生が試合に出られないなんて、逆にバスケ強い学校なら当たり前だし」
俺以上のバスケ大好き人間がこれしきでどうにかなるはずがない。
男子部も似たような状況らしいが、昴だって同じだろう。
「さつきと多恵は」
「あちし達が勝ちに拘ると思うか?」
「うん、ない」
「そういうことだよお」
さつきが格好つけて言えば、多恵がふわりと笑った。
彼女達はみんなでわいわいやれればいい、というタイプ。むしろ完全ガチの試合とか面倒なので、メンバーには入れなくてもいいらしい。
それはそれでどうかと思うけれど、堪えていないなら良かったと思う。
「……今まで通り、か」
呟くと、鳳がさらりと髪をかき上げて言った。
「当たり前でしょ」
悔しいけど、ちょっと格好いいと思った。
☆ ☆ ☆
翌日からは気を取り直して練習に臨んだ。
他のみんなもそれなりに立ち直ったのか、部の雰囲気は表面上、元に戻った。ところどころにぎこちなさはあったけれど、部長達三年生はいつも以上に練習を頑張っているようだった。
言わずもがな、大会が近いからだ。
――考えてみれば、部長達にとっては最後の大会。
負ければそこでお役御免。高校受験に向けて引退することになる。
いつまで部活をできるかは、イコール、大会でどれだけ勝てるか。公式戦で勝ったことのないうちの部にとって、それはとても残酷なシステムだ。
俺達に何かできるだろうか。
悩んだ末に出た答えは「何もできない」だった。
俺はもちろん、葵ですらただの新人でしかない。他の一年生よりバスケが上手いとはいえ、別に天才的なプレーヤーでもなんでもない。
結局、俺はただ練習を頑張った。
授業を疎かにせず、一番にバスケを楽しむことを考えながら、少しでも上手くなろうと励んだ。
でも、時間は足りなくて。
運命の試合の日はあっという間にやってきた。
会場に集合した俺は、真っ先に部長の様子を窺った。
「おはよう翔子。昨夜はよく眠れた?」
「はい」
彼女はいつも通りだった。
部活紹介で初めて見かけた時、体験入部の時、部活に入ってからの顔と同じ。一年生の俺達のことまで気にかけ、笑顔を向けてくれている。
俺は「部長はどうですか?」と尋ねようとして。
それより前に部長の方が口を開いていた。
「それは良かった。……ぼーっとしないで、ちゃんと試合見てなよ」
「……え」
ぽん、と、頭に手が置かれて。
歩き去っていく部長を、俺は呆然と見送った。
――なんか、意味ありげな。
不真面目な態度を咎められたわけではない、はずだ。
ならば、今のは。
言われた言葉を胸に留めたまま、俺は第一試合を他の部員達と共に見守った。
みんなユニフォームに着替えてはいるが、多分、殆どの者が出られるとは思っていないだろう。
それでも声を張り上げて応援する。
部長達は適度に気を引き締め、適度にリラックスして試合に臨んでいた。ジャンプボールから試合開始。動きは放課後の練習で見た時よりも速い。
絶好調だったと言っていい。
でも。
スコアボードに表示された彼我の点数はだんだん差が開いていく。
単純な戦力差。
応援する部員達の顔に絶望が広がる中、
「ファイトー!」
葵の声がひときわ大きく聞こえた。俺は負けじと叫んだ。
「負けるなー!」
だからどうなったというわけではない。
ただ、少しだけ、みんなの応援の声も大きくなったような気がした。
点差は縮まらないまま第三クォーターまでが終了。
戻ってきた先輩方がタオルやドリンクを受け取り、短い休憩をとる中、部長は真っすぐに顧問の先生の元へと歩いていった。
何を話しているのかは聞こえなかった。
ただ、難色を示す先生に対して何かを訴えていたのはわかった。
――部長の願いが届いたのか。
第四クォーターでは次々と選手交代が行われた。それも、三年生から二年生へと。
先生の顔からは意図は窺えない。
ただ、わかることは、交代が行われても点差が縮まらない、ということだけだった。
そして。
「荻山さん。鶴見さん。ウォームアップしておいて」
顔を見合わせた俺と葵は慌てて同時に「はい!」と答えた。
豆鉄砲を食らったような顔をしていたのは、その場にいた殆ど全員だったと思う。
俺達がコートに出たのは残り三分弱のタイミング。
残っていた三年生、センターとフォワードから入れ替わる形でメンバーに加わる。
広い、と感じた。
既に全面のバスケコートには慣れた。だけど、部活内での練習試合などとはまた、重さと圧力が全然違っている。
地方大会の一回戦だが、お客さんだってゼロではない。
何より背負っているものがある。
「荻山さん!」
再開直後、司令塔――ポイントガードは葵へとボールを渡した。
このタイミングで一年生に託すという強気の選択。
「はいっ!」
葵もまた、先輩の意を汲んで速攻をかける。
速い。己の実力が全くの未知数であるワンチャンスを見事に掴んだ、正攻法による奇襲。
うまくマークをかわした彼女はそのままゴールネットを揺らし、二点をもぎ取った。観戦する部員達から小さな歓声が上がる。
まだまだ。得点差は埋まっていない。
――埋める。一点でも多く。
ディフェンス。各自、別々の選手をマーク。
相手チームはセンターを攻撃に据えてきた。俺より幾らか身長の高い二年生がその場でドリブルを続けながら、左右にフェイントをかけてくる。
油断なく構えて数秒、時間稼ぎだと気づいた俺は敢えて左に隙を作った。
一瞬の動揺。相手は迷ったようだったが、結局、抜くことを選択。
「っ!」
当然、フェイント。
俺はすぐさま左へと踵を返し、ボールをスティール。
「速攻!」
先輩の声が聞こえた時には、既にパスの動作に入っていた。
五人、フォーメーションを作って前進。
警戒されているのは二年生三人。そして、先程、予想以上のポテンシャルを見せた葵。
ノーマークの
「やっちゃえ翔子!」
葵の声。言われるまでもない。
俺だって昴と葵に追いつこうと、少しでも上手くなろうと練習してきた。
おあつらえ向きに身長も伸びてきている。ここで活用しないでどうするというのか。
可能な限りの速さでドライブ。
マークにつこうとしてくる相手選手をフェイントで牽制、僅かな間に身を滑り込ませ、そのままゴール下へ。
「リバウンド!!」
そんな声が聞こえたが、生憎、外すつもりはなかった。
とん、と。
足のばねを使って跳び、シュートを放つ。
ネットが揺れた。
「っし!」
今度の歓声はさっきよりも強かった。
慌てた相手チームの監督が選手交代を申請する。しかし、既にこっちの勢いは強くなっている。流れを止めることは難しいだろう。
――問題は。
俺は自分達のコートへと戻りながら時計を見やる。
残り時間二分弱。
得点差は未だ大きく、一年生故に生まれた油断にも、もう期待できない。
足りない。
それでも。
焦燥感に苛まれながらも、俺と葵は必死に抗う。
そして、無情にも、試合終了のブザーが鳴った。
☆ ☆ ☆
三年生の先輩達は泣いていた。
試合後、顧問の先生からのお話は、三年間頑張ってきた先輩達への「お疲れ様」だった。
終わったのだ。
夏が本格的にやってくる前に、熱い夏が終わってしまった。
「来年は公式戦初勝利を目指します」
次の最初の部活にて。
正式に部長を引き継いだ二年生の先輩は、そう言って強い意気込みを見せた。
「悔しかったよね? だから、来年はみんなで勝とう」
俺は、葵と一緒に強く頷いた。
でも、そうじゃない部員もいて。
三年生の引退と同時に二年生が一人、そして一年生が二人、退部を宣言。勉強に集中したくなったので文化部に行く、というのが理由だった。
大きく人数を減らすことが決まった女バスを、俺は「寂しい」と感じた。
「ほら翔子! 声出てないよ!」
「はい!」
寂しいけど、だからこそ頑張らなければいけない。
部長達がやってきたことを引き継いで、その先に行かないといけない。
楽しく、みんなで。
「翔子。この後、時間ある?」
「……え?」
何故か浮かんできた涙を堪えながら。
練習を終えた俺に、部長――元部長が声をかけてきた。