ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子とプール

「夏だー!」

「プールだー!」

 

 かんかんと照り付ける日差しの中、さつきと多恵が叫んだ。

 薄手のシャツにショートパンツ。下には独特の形が透けて、若くて健康的な魅力が溢れている。エロ? いやいや、言ってもまだ中一だし、下につけてるのはブラじゃなくて水着である。一緒に買いに行ったから色合いでわかる。

 さすがに元気だなあ、と苦笑しつつ、俺は他のメンバーを見やる。

 市営プール前にはいつもの(?)面子が揃っていた。昴に葵、俺、それから諏訪と鳳、おまけで上原。さつきと多恵が最後の到着だった。指定した時間から三分オーバー。文句を言うほどの遅刻ではない。多分、楽しみすぎてどっちかの家に集まった結果、出発タイミングを逃したとかそんなとこだろう。

 

「夏だー!」

「プールだー!」

「わかったわよ! 何で二回言うわけ!?」

 

 あ、鳳がキレた。

 基本的には優等生タイプなので、問題児タイプのさつき達とは相性がよくない。清楚な白ワンピース姿で眉を寄せ、怒声を上げる。

 そしてもちろん、その程度で二人が堪えるはずもなく。

 

「誰も続かないからに決まってんだろ」

「こういうのは三人で完成なんだよぉ」

「いや知らな――」

「というわけで夏だー!」

「プールだー!」

「………」

 

 どうにかしなさい、という視線が俺に向けられた。

 わかった、と視線で答えて右手を天に掲げる。

 

「飛行機だー!」

「何の関係があんのよ!?」

「うるせえぞ馬鹿共!」

 

 ボケを飛ばした俺と、思わず突っ込んだ鳳。

 さつきと多恵は言わずもがな、全員まとめて諏訪に一喝された。この程度でキレるとは、もしかしたらこいつも早く泳ぎたいのかもしれない。

 俺は肩を竦めて謝意を示す。

 さつきと多恵も笑いながらプール用のバッグを持ち上げた。一人、ダメージが大きいのはとばっちりを受けた奴である。

 

「馬鹿って言われた……カズ君に」

「鳳、元気出して」

「うっさいわね馬鹿!」

 

 励ましたら元気になってくれたので幸いである。

 肩をいからせながら歩いていく鳳をゆっくりと追いかける。珍しいことにスニーカーを履いているのが見えた。ユニセックスなデザインで、お洒落好きの彼女とはちょっとイメージが違う。

 もちろん、敢えて指摘したりはしなかった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 暑いせいか、プールはなかなかの盛況だった。

 子供連れや小中学生で賑わう中、空きロッカーが固まっているのを見つけて着替えをする。といっても鳳以外は服の下に着こんでいたので脱ぐだけだ。

 

「……邪道」

「この方が楽」

 

 ジト目の抗議にはそう返しておいた。

 

「むー」

「? 葵、どうかした?」

「や、翔子の水着、やっぱよく似合ってるなあって」

「ん、ありがと」

 

 新しい水着は白の上下にしてみた。

 汚れが目立つのが難点だが、主な活動が水中だから問題ないはず。スポーティーなデザインのお陰で動きやすく、傍目にも悪くないと思われる。

 露出が多いのはまあ、市営プールなら同年代多くて目立たないし。

 

「背が高いから格好いい。羨ましいわ、ほんと」

「葵こそ、新しい水着も可愛い」

「そ、そうかな。えへへ」

 

 ブルー系の大人しい色合いなのは変わらず。

 ただし、丸みの強くなった身体にフィットするサイズや素材になったため、女の子らしさが去年よりぐっと協調されている。

 ちなみにさつきはライトグリーンで動きやすいタイプ、多恵はイエロー系の可愛い水着をチョイス。どちらも当人の雰囲気によく合っている。

 さっさと服を脱いだ俺達をよそに、タオルで隠して着替えた鳳は。

 

「わ……」

「おお」

「ほへぇ」

「む」

「な、何よ」

 

 四人からの感嘆の声を聞いて警戒するように身じろぎをする。

 黒のビキニに同色のパレオ。

 中一で着る水着かと言いたくなるが、スリムな鳳にはそれがよく似合っている。さすがの着こなし。女子力の差というやつをひしひしと感じる。

 しっかり日焼け止めを準備してきており、バッグから取り出しているあたりも抜け目ない。

 

「さっちん、準備まだぁ?」

「……仕方ないでしょ。日焼けは天敵なんだから」

「もーあちし達先行くぜ」

 

 問題は他のメンバーのやることがない、ということか。

 苦笑した俺はさつき達に言った。

 

「私も髪やらないといけないから、先に行ってていい」

「いいの?」

 

 葵の問いには普通に笑って答える。

 

「その代わり、葵はさつき達を抑えて欲しい」

「あはは、了解」

 

 右手を肩の上あたりまで持ち上げ、軽く打ち合わせる。

 迷コンビが葵を引っ張るようにしてプールに向かえば途端に静かになる。いや、周りには騒いでいる子が沢山いるが。

 スイムキャップを取り出して髪を束ねていると、日焼け止めを塗り終えた鳳が「ねえ」と声を出した。

 

「? 帽子忘れたとか?」

「違うわよ。……日焼け止め、あんたも使えば?」

 

 差し出されたのは、まだ内容量の残ったチューブ。

 

「いいの?」

「言ってるでしょ。翔子は無頓着すぎなの。もうちょっと気を遣いなさい」

「難しいことを」

 

 カロリー気にして栄養バランス気にして、肌のケアと長時間の入浴を怠らず、睡眠時間も十分に確保する……なんてやってたら、それだけで一日が終わってしまいそうである。女子か。いや女子なんだけど。

 

「でもまあ、ありがたく」

「ん」

 

 鳳的にはマウントを取っているのかもしれないが、こういうお小言は正直助かる。

 チューブを受け取り、髪を纏め終わった後でぬりぬり。向こうも髪を纏めるので、逆にこっちが遅れたりとかはない。

 しばし無言が続いて。

 

「ねえ」

「ん?」

「プールの後、時間ある? あるでしょ?」

 

 まるで「どうせ暇よね?」とでも言いたげだ。その通りだけど。

 

「あるけど」

「なら、勝負しなさい」

「わかった。2on2?」

「……そうよ」

 

 何でわかるのよこいつ、という顔をされたが、そのくらいわかるだろう。

 勝負というフレーズから俺が思い浮かべるのは、鳳ではなくあいつの方だから。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「お、やっと来た」

「遅いぞお前ら。これだから女子は」

 

 合流するなり諏訪に罵倒された。

 

「カズ君! どう、この水着? カズ君、黒が好きって言ってたからそうしてみたんだ」

「……ふうん。まあ、似合ってるんじゃね?」

「本当! ねえねえ、具体的にどの辺が可愛い?」

 

 先程の罵倒が聞こえていなかったのか、さっそく諏訪に近寄っていく鳳。

 好意のアピールと今後のための研究に余念がない。諏訪の方は相変わらず、クールなのか枯れてるのかわからない反応である。

 いつもの二人は放っておいて昴に手を上げ挨拶した。

 

「お待たせ」

「おー。葵達は先に遊んでるぞ。ほら」

 

 指で示された方向では葵とさつき、多恵がわーきゃーと騒いでいた。

 正確にはさつき達に葵が振り回されている図だが、三人とも楽しそうにしているのは間違いない。

 

 それにしても、結構な人である。

 

 ぐるりと見渡してみても、人が視界に入らない角度が存在しない。

 プールは深さや形状別に幾つか用意されているが。

 

「昴達にリベンジしたかったけど、ここじゃ無理そう」

「だな。残念。もちろん負けるつもりはないけど」

「それはこっちの台詞」

 

 お互い、にやりと笑って顔を見合わせる。

 すると諏訪が溜息をついて声をかけてきた。

 

「……荻山がいないからって内緒話してんじゃねえよ」

「おい待て、なんの話だ」

「は? お前ら付き合い始めたんだろ?」

「……初耳」

 

 マジでどっから出てきたんだそんな話。

 

「え、何それカズ君。私知らないんだけど」

「そりゃ知らねえだろ。こいつらが好きって言い合ったの、どっちも教室だったし」

「は?」

 

 ……言い合った?

 諏訪は当たり前のように言っているが、そんな覚えはまるでない。いや、俺が昴に言った(ことになった)のは覚えてるけど、昴が俺のことを好きって言わない限り「言い合った」ことにはならない。

 となると。

 隣で「あ」とか間抜けな声を出している親友をジト目で睨む。

 

「昴?」

「すまん翔子。俺、諏訪に聞かれてそう答えた」

「……私のこと好きかって聞かれたと?」

「ああ」

 

 そんなことだろうと思ったよ!

 どういう意味での好きなのか指定しないからそういう齟齬が生まれるのである。まだ、相手が諏訪だったからいいようなものの。

 

「諏訪。私だって友達としてなら昴のこと好き」

「お? ……ああ、そういうことかよ。驚かせんな」

「それこそ私の台詞」

「そうだぞカズ。変なこと言うなよ。除け者にしたなんて知れたら葵に殺される」

 

 殺されるだろうけど、葵が気にするポイントはそこじゃないんだよな……。

 幼馴染二人がなかなか結ばれそうにないのは葵が奥手なせいもあるが、昴が鈍感なのも大きいのではないかと思う今日この頃である。

 慌てなくてもそのうちくっつくだろうとも思うが。

 俺としても葵との仲が悪くなるのは困る。せっかく誤解だとわかってもらったのに、また俺関連で悩ませるのはとても心苦しかった。

 

「……なんだ。長谷川君とくっついちゃえばいいのに」

「何て?」

「なんでもないわよ」

 

 ふん、と、顔を背けてプールの方へ歩いていく鳳。

 濡れた床を早足で歩く彼女を昴が心配して追いかけていき、後には俺と諏訪が残された。

 

「鳳からこの後、勝負したいって言われた」

「ああ」

 

 こいつにもきちんと話は通っているらしい。

 諏訪と鳳、か。

 一対一ならともかく、二人一緒ではほぼ確実に俺が負けるだろう。たった一年程度の経験では圧倒的な実力差になるはずもない。

 

「昴、連れてきていい?」

「彼氏とペアか」

 

 違うっつってんだろこの野郎……と、ついイラっとした。

 

「それなら諏訪と鳳も恋人同士?」

「……やめろよ」

 

 やけくそでからかってみれば、諏訪も相当イラっとしたのか俺を睨んできた。

 実際、嫌だったのはお互い様だろうに。

 

 

 

 

 

 

「あれ、俺の出番は?」

 

 ごめん上原、気づいたら蚊帳の外だった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「翔子は、私としたいの?」

 

 綺麗な葵の瞳が真っすぐに俺を見つめる。

 少女の純粋さが俺の胸をざわめかせ、熱く疼かせる。

 

「本当に? 昴じゃなくて私でいいの?」

「もちろん。葵がいい葵じゃないと駄目」

「駄目。もっと具体的に言って欲しい」

「私は葵の相方になりたい。だから、葵の激しいところか弱いところ、もっとちゃんと知りたい。そのためには一緒にプレーするのが一番」

 

 注:バスケの話です。

 

「一緒に戦って欲しい。バスケで」

「……ふふ。そこまで言われたらしょうがないわよね」

 

 葵、仕方ないとか言いながら滅茶苦茶嬉しそうだった。

 男女ペアで考えると昴以外ありえないんだけど(悪いけど、上原だとハンデにしかならない)、途中で「別に男女ペアじゃなくても良くない?」と思い直した。

 身体能力を思うと多少のリスクはあるが、葵とこれからも関係していく以上、彼女と共にする経験は多い方がいい。

 自分だけ出られないと聞いた昴は少し不満そうだったものの、人のプレーを見るのも勉強になるからと納得してくれた。ちなみに上原とさつき、多恵は泳ぎ疲れたということで先に帰っている。マック寄っていこう、と騒いでいたので直帰してなさそうだけど。

 

「鳳さんがスニーカーだったのはそのせいだったのね」

 

 昴達と出会った思い出の公園。

 夏休み直前の夕方という時間、そこには俺達以外に誰もいなかった。

 

「だったら服も気にしろよって話だけど」

「カズ君、こういう服嫌い……?」

 

 かみ合わない会話に諏訪が息を吐き「嫌いじゃない」と折れた。

 歓喜の声を上げる鳳は一見、恋愛脳の残念女子だが、伊達に一学期ずっと女子バスケ部に所属していたわけではない。

 いったん試合となれば真剣に、その才能を発揮してくるはず。

 

 諏訪のポジションはセンター。鳳は――ポイントガード。

 俺は言わずもがなセンター。葵はシューティングガード、あるいはパワーフォワードといったところ。

 俺達が攻守を流動的に使い分けることになるのに対し、相手は鳳がサポートをしつつ、攻撃的なセンターである諏訪が得点源となるスタイルだろう。

 

 どちらがいいかは一長一短。

 2on2のバスケは連携がものをいうため、スタイルに拘らず協力していった方がいい場面もある。

 

「いきなりだけど、あんた達の場合は問題ないでしょ?」

「そうね。翔子も、いいでしょ?」

「もちろん。ここまで来て嫌なんて言わない」

 

 帰りに昴の家に寄るかもしれないと、俺も葵もスニーカーだったし。

 

「じゃあ」

「……やるか」

 

 2on2形式は初めてだけど。

 俺と諏訪にとっては六度目。俺と鳳にとっては初めての勝負が、見届け役となった昴によるジャンプボールから幕を開けた。

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