ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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※今更ですが、バスケ描写に関しては暖かい目で見ていただけると幸いです。


翔子と六度目の勝負

「……葵!」

「ありがと、翔子!」

 

 ジャンプボールは俺が勝った。

 弾かれたボールを受け取った葵は即座にドライブ、速攻をかける。鳳がブロックに入るも、葵はスピードで抜き去ってそのままゴール。

 二点先取。

 

「ごめんなさい、カズ君」

「気にすんな。荻山は絶対決めてくると思ってた」

「あはは。うん、そのつもりだったよ」

 

 ボールを諏訪に渡しながら葵が笑う。

 勝負事には「流れ」が存在する。これはオカルトじゃない。今で言えば先制点を決めた側は勢いに乗る、入れられた側は焦ってミスをしやすくなる、といった心理的作用の話。

 点を取って悪いことなどないのだから、ここぞとばかりにそれを狙った。

 

 これで諏訪達にはプレッシャーがかかるわけだが。

 ボールを受け取った諏訪は軽く腰を落とし、ドリブルを始めながらコート内を見据えていた。

 彼の顔に動揺は、ない。

 

「祥!」

「うん、カズ君!」

 

 諏訪が選んだのはパス。

 割と早い球だったが、鳳はしっかりと受け取ってドリブルを開始。葵が阻もうとする、鳳は自分のプレーに固執せずパスを戻した。

 ぱしん、と、軽い音を立てて諏訪の手にボールが渡る。

 こっちのリズムを崩し、自分達のリズムを作ってきた。

 

 なら、センターはセンター同士、俺がしっかりと抑え込む。

 

 両手を広げ、腰を落として妨害の構え。

 バスケットボールは点を取りあうゲーム。よほどの力量差がない限り、ブロックの成功率は高くない。だからこそ一回の成功が大きな意味を生む。

 バスケなら俺が先輩。諏訪に引けを取っているつもりは全くない。

 

 だけど。

 

「……行くぜ!」

 

 諏訪は俺の予測の上を行った。

 二、三度のフェイントからいきなりの高速ドリブル。

 見事な切り返しに慌てて反応するも、俺は背筋に寒気を感じて一瞬動きを止めてしまう。直後、最速でブロックしていれば俺がいたであろう位置を諏訪が駆け抜けていく。

 

「……く」

 

 一応後を追いかけはしたが、シュートが入ることを俺は疑わなかった。それくらい鬼気迫るドリブルだったからだ。

 実際、諏訪の放ったボールはあっさりとネットを揺らした。

 

「ドンマイ翔子。取られた分は取り返していきましょ」

「……ん」

 

 ぽん、と軽く肩を叩いてくれる葵に俺は微笑みを返した。

 

 

 

 

 

 反撃は葵のボールからスタート。

 鳳がしっかりとした構えで抑えにかかる。こいつは防御の方が上手い珍しいタイプだ。持ち前の観察眼のお陰かもしれない。現に今も葵の進行ルートを阻みつつ、じっと出方を窺っている。

 がっちりマークにつかれてからでは、さっきのようなスピード勝負も難しい。

 

 でも、一人で決める必要はない。

 

 俺は自分のマークについた諏訪を見据える。

 身長はこっちが少し上。そのうち抜かれるだろうが、まだまだこいつは成長途上。

 将来はわからないとして、今ならまだ抜ける。

 

「……っ、葵!」

「任せた、翔子!」

「っ、てめっ……!」

 

 視線と動作によるフェイントの後、横跳びに近いステップで諏訪を突破。

 葵からの鋭いパスを受け取った俺は背に威圧感を覚えながらもゴール下へと到達。すぐさま跳ぶことを選択した。

 何の変哲もないジャンプシュート。

 だけど、ブロックは間に合わなかった。決まったのを確認し、俺は小さく「よし」と呟く。

 

 これで心理的にはイーブン。さて相手は。

 

 諏訪を窺う。

 彼は無言で、落ちたボールへと足を向けていた。ワイルド系に属する目つきは今、何を考えているのかがわかりづらい。

 無駄に熱くなってくれればやりやすいんだけど。

 残念ながらそうはならなかった。諏訪はまたしても鳳とのパス回しからのかき回しを狙ってくる。させるかと、パスを出した直後の少年をマークにかかれば。

 

 とん、と。

 

 一歩踏み出した諏訪が、キスでもできそうな距離から俺を見つめた。

 感じたのは寒気。

 貞操がどうの、とかそういうのじゃない。単純な「負ける」という予感。

 駄目だ。

 簡単には負けられない。硬直した隙をついて俺を抜き去ろうとしている諏訪へ必死に追いすがる。ギリギリで間に合って半身を入れることに成功したが、

 

「祥、ボール!」

「うん、カズ君!」

 

 諏訪はあっさりと俺に背を向け、鳳からのパスを受け取った。

 もちろんドリブルをするにはワンテンポ必要だが。

 

「このまま入っちまえ!」

「なっ……!?」

 

 そんな馬鹿な。

 一か八かにも程がある。スリーポイントラインからのロングシュート。そんなのそうそう入るわけがない。ないというのに。

 放物線を描いたボールは見事、ネットを揺らしたのだった。

 4-5。

 俺も葵も、審判をしていた昴でさえ「マジかよ」という顔をしていた。点数的に負けている状況で、成功率の高くないスリーポイントを打つ勇気。それを決めてくる勝負強さ。諏訪が決して弱い選手でないことを嫌というほどわからせてくれた。

 

 それでも、取られた分は取り返す。

 

 俺と葵は負けじと攻めのバスケを展開。

 主に葵をアタッカーとし、鳳を翻弄する形で得点を重ねた。現状ではまだまだ、葵と鳳の間に力量差がありミスマッチなのだ。必死に食らいつこうとしてはいるものの、葵の攻撃バリエーションと鍛え続けたフィジカルが追随を許さない。

 もちろんシュートが外れることもあったが、そういう時は俺がリバウンド。

 ジャンプを含めた高さにだけは自信がある。何度か諏訪に競り勝ち、点をもぎ取ることに成功した。

 

 戦えている。

 

 小六の頃から一緒にプレーし、部でも切磋琢磨している葵との連携。

 もっと磨いていけばきっと力強い武器となってくれる。

 

 

 

 

 

 だけど。

 残り時間が半分を切った時点で、点差はむしろ開いていた。

 五点差。

 俺も葵も調子に乗れている。むしろ鳳の方が不本意そうな顔をしているが、事実として負けているのは俺達の方だった。

 原因は、諏訪。

 

「……お前達のボールだ」

「……ん」

 

 彼は今日、ずっと静かだった。

 プールでは普通だったはずだが、ゲームが始まってからはおちゃらけた雰囲気を封印、恐ろしいまでの気迫をもって臨んでいる。

 俺とて遊んでいるつもりはないが、諏訪の冴えは異常だった。

 圧力をもって突破してくるドリブル。俺達の習性を読んでいるかのようなブロックはだんだんと成功率を増し、制空力で俺に分があると見るやジャンプ前の位置取り等で「飛ばせない」態勢を敷いてくる。

 

 強い。

 いや、俺が弱いのか。

 

 わかっていた。予感してもいた。いささか予想より早かったが。

 急に諏訪が上手くなったわけじゃない。覚醒したとかそういう話でもない。単に、ガチで潰しに来ている男子はそれくらい怖いというだけの話。

 センターは体格に優れ、力による競り合いに強い者が務めるのがセオリー。

 成長するにつれ、女子が男子にフィジカルで勝てなくなるのは当然の話。多分、諏訪は中学でバスケ部に入ったことにより、年上の男子とするバスケを知った。

 その結果、力の使い方というやつを学習したのだ。

 

 試合に、勝負に対する意識が変わった。

 単なる「勝ち負けを決めるもの」ではなく「戦い」になった。

 敵を全力で打倒するのは当たり前のこと。

 

「葵」

 

 俺は葵を手招きし、作戦変更を伝える。

 

「マークする相手を変えて欲しい」

「……いいの?」

 

 作戦を聞いて葵が言ったのは一言の確認、それだけだった。

 

「うん、いい。勝ちに行く。……チームで」

「そっか。よし、じゃあ、やっちゃおうか」

 

 反撃が始まった。

 

 

 

 

 

 俺達がやったことは単純だった。

 攻撃においてはより積極的に弱きを潰し、防御においては弱点をならした。

 すなわち、

 

「翔子!」

「やらせるか……っ!」

「だよね、だから今のはフェイク!」

 

 鳳にマークされた葵が()()()()()()()()()スピンムーブで強行突破したり。

 

「……荻山か」

「簡単に抜けると思わないでね。こう見えても私、大きい人慣れてるから」

 

 俺よりも「対男子」に慣れ、技術でも優れる葵が諏訪を抑え込んで。

 俺がリーチの長さを活かし、鳳の進路を阻んだ挙句、焦れた彼女の手からボールを叩き落したり。

 馬鹿正直にポジションを合わせる必要などなかったのだ。適材適所。戦いやすい相手と戦うことこそ真に必要なことだった。

 結果。

 支出が減り、収入が増えた。

 ジリジリと追いついていくスコア。このポジショニングに対処する方法はいくつかあるが、これからそれを行うのは現実的ではなかった。

 

「やっちゃえ翔子!」

「……くそっ!!」

 

 そして。

 葵のパスによって放った俺のシュートにより、勝負は四点差で俺達の勝利となった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「ありがとう、葵。大感謝」

「ううん、私こそ。楽しかった」

 

 手のひらを打ち合わせようと腕を持ち上げたら、葵は握手をしようとしていたらしい。互いの手が空を切ったので、誤魔化すように肩を組んだ。

 しばし肌を重ねたままじゃれ合っていると、鳳を連れた諏訪が「おい」と寄ってくる。

 

「あ、ごめん。先に挨拶」

「……ん」

 

 仏頂面の諏訪、涙ぐんでいる鳳と握手を交わし「ありがとうございました」と頭を下げる。

 挨拶は基本。

 だけど、決まりだからやりました、っていうレベルでお通夜モードになられるとさすがに気になる。

 ごめん、と。

 全時間通して鳳を狙ってしまったことを謝罪したいところだが、ファウルなし、悪意をもって臨んでもいないのだからマナー違反ですらない。謝れば逆に侮辱になれかねないため、俺は代わりに諏訪へと視線を送った。

 

「私はもっと、強くなる」

「ああ」

 

 勝者の宣言を、彼は短い言葉で受け入れた。

 

「次はお前、一対一じゃ俺に勝てないだろうからな」

「……知ってる」

 

 何様だ、って言いたくなるようなセリフだけど事実だ。

 だから俺は怒らない。昴が何か言おうとしてたけど、葵が手で制してくれた。ありがたい。諏訪との勝ち負けを尊重してミスマッチを許してくれていたことも含めて。

 半ば睨むような諏訪に対し、俺は微笑みを浮かべた。

 

「私は私の勝ち方を探す。諏訪と同じやり方には拘らない」

 

 元部長から言われたこともここに繋がるかもしれない。

 落ち着きを持て、と。

 血気盛んなままでいるのではなく、柔軟性を手に入れろと。

 

 ――男の土俵で戦ったら、女は男に勝てない。

 

 未だに自分が男だと思いたい気持ちは抜けきっていないけど、俺にはやはり女としての自覚、振る舞いが必要なのだ。

 積み重ねてきたバスケの成果が「そう」なのだから、単に理屈で言われるよりは納得できる。

 

「そうか」

 

 諏訪は頷いて、

 

「じゃ、お前との勝負はこれで最後でいいや」

「……勝ち逃げ?」

「勝手にそう思ってろよ」

 

 実質的に自分の勝ちだからもう必要ない、ということか。

 ずるいが仕方ない。

 どうしても、ちゃんと諏訪に勝ちたいなら、今度は俺の方から挑むしかないだろう。

 

「じゃあな」

 

 言って、諏訪は一歩下がった。

 しゃくり上げる鳳の頭にぽんと手を置いて「行くぞ」と声をかけると、二人してどこかに歩いていった。

 鳳の様子が気になるけど、まあ諏訪なら上手くフォローするだろう。ぶっちゃけ傍にいるだけで物凄い効果ありそうだ。

 俺は、二人の背中が見えなくなるまで見送った。

 

 ようやく諏訪達が視界から消えた後、葵が。

 

「翔子。バスケ、これからもやるよね?」

「……もちろん」

 

 振り返って頷く。

 

「続けるよ。私、バスケが好きだから」

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 後日。

 本人から聞いたところによると、鳳はあの後、諏訪から告白されたらしい。

 告白といっても非常にぶっきらぼうなものだが。

 

『なあ。俺と付き合うか?』

 

 泣いているところにそう言われた鳳は、まさか夢かと思ったらしい。

 目をごしごし擦った後「もう一回言って」とねだり、諏訪を辟易させた挙句に再度、同じ言葉を引き出した。

 

『ごめんねカズ君』

 

 で、振った。

 え、なんで? お前そのためにバスケやってたんだよね? と俺は思った。後で昴や葵に話すと二人も似たような反応をしていた。そりゃそうだ。

 なんで振ったのかといえば。

 

『今の私がカズ君と付き合えるわけないでしょ』

 

 とのこと。よくわからない。

 まさか、バスケに負けたのが悔しいからって痛恨の判断ミスをしたのか。と、実際にはもうちょとオブラートに包んで言ってみたところ、返ってきた答えは「あんたのせい」というものだった。

 なんで俺のせいになるのか。解せぬ。

 まあ、どうやら、葵はともかく俺に勝てないようじゃ諏訪に釣り合わないと思ったらしい。振り向いてもらうためにあらゆる努力をしてきたつもりだが、あの勝負でまだまだ足りないと痛感した、と。やっぱり判断ミスじゃないかと思ったが怖いので言わなかった。

 

 それが鳳の判断なら仕方ない。

 

 俺は何も言わないことにして、彼女に一つのお願いをした。

 

『私と友達になって欲しい』

『馬鹿じゃないの?』

 

 鳳の返事は身も蓋も無かったが、その後にはしっかりと「好きにしなさいよ」という言葉がついてきた。

 祥と呼ぶと恥ずかしそうに目を逸らすあたり、やっぱりこいつにはツンデレの気があると確信する俺だった。




幾つか閑話気味の話を投稿後、時間が大きく吹っ飛ぶ予定です。
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