ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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【閑話】翔子と作文

『将来の夢』

 

 そんなお題の作文が宿題として課せられたのは、二学期が始まって一週間が過ぎた頃のことだった。

 どうやら学年共通の課題であるらしく、クラスの違うさつきや多恵、祥に聞いてみたところ「あれ、どうしたもんか」といった反応が返ってくる。

 かくなるうえは。

 学校帰り、手頃な公園に寄り道した俺達はちょっとした作戦会議と洒落混む。

 

「っていうか小学生みたいな宿題だよなー」

「弊社としてはクライアントの要望レベルにがっかりであります」

 

 真っ先に愚痴をこぼしたのは、やはりさつきと多恵。

 達観したところのある祥が即座に駄目だしする。

 

「もっと面倒なお題出されたかったわけ?」

「……っていうか、中学生になったからこそ出されたんじゃないかなあ」

 

 俺は何の気なしに話に加わる。

 そもそも、作文というのは大抵、なにかしら明確な目的があって出されるものだ。今回で言えば、生徒達の意識調査を行いつつ発破をかけることだろうか。

 いつまでも小学生と同じつもりでいるなよ、と。

 なので、書くべきは「なれたらいいな」ではなく「なりたい!」。自分が本当にそうなる、という前提で想像し、なりたいと思ったことを書くべき。

 なりたいと思った動機があればなおよし。

 必要な資格だの進むべき学部だのに関しては中三か高校生あたりになってからていいだろうけど。

 

「……? みんな、どうかした?」

「いや、翔子がそんなこと考えてるとは思わなかったっていうか」

 

 葵の返答に若干へこんだ。

 

「心外」

「あはは、ごめんごめん。……じゃあ、翔子は将来何になりたいの?」

「ラノベ作家」

「………」

「………」

「台無しじゃねーか!」

「冗談」

 

 それはまあ、憧れはするけど、なれるとは思わないし続けられる気もしない。

 話題逸らしとして、今いない人物の名前を出す。

 

「昴はプロなのかな」

「あはは、かもね。……私は、インストラクターとかかなあ」

「専業主婦じゃないんだ」

「な、ななな、何言って……!? それこそ小学生みたいじゃない!」

 

 わかりやすく取り乱す葵。別に誰とくっつくとか言ったわけじゃないんだけど。

 さつきと多恵が不気味な笑みを浮かべ、祥が「はいはい」とばかりに肩を竦める。このままだと葵がからかわれて話がぶっ飛びそうなので誘導する。

 

「さつきと多恵は夢、ない?」

「宝くじで億万長者」

「有明の女王」

 

 ないな。

 自分に水を向けられた途端にこれである。まあ、夢といえば夢ではあるけど。

 

「そんな大層な夢とかねーよ。っていうか翔子だって答えてないし」

「つるみんの回答に興味津々であります!」

「私も大した夢はない」

 

 強いてひねり出すのであれば。

 

「……そう、私は教師になりたい」

「お?」

「ほえ?」

「というのも、小学校の担任の先生には()()()()()()()()()。なので、()()()()()()()生徒を導いていける立派な教師になりたい。友人の従姉妹に教育学部に行っている人がいて、その人からも影響を受けた。私は芸術系の科目が苦手なのと、中学校の部活動に大変感銘を受けたので、できれば中学校の先生になり、バスケットボール部の顧問がしたい」

 

 目を丸くしたさつき達を前にぺらぺらと喋ってみる。

 

「……とか。実体験を交えつつ言っておくと教師受けがいい」

「作り話かよ!」

「感心して聞いたのが馬鹿みたいだよぉ!」

「あはは、私も、あんまり真に迫ってたからびっくりしちゃった。だって、翔子の担任だった先生って……」

「反面教師」

 

 ふっと笑うと、さつきと多恵が揃ってプロレス技をかけにきた。

 ちょっと苦しい。だけど、笑ってじゃれ合える範囲だ。これが葵や美星姐さん相手だったら全力で抵抗しないといけないけど。

 その葵が俺達の格好に笑いながら呟く。

 

「……や、でも参考になったわ。嘘も方便というか」

「嘘にならない範囲で脚色するのがコツ」

「おい翔子。そのテクニックで後二つ文章を考えてくれ」

「さもないとくすぐり地獄の刑だよお」

「駄目。さつき達のは洒落にならない」

 

 格闘技なら怖くないが、逆にそういうのは得意なんだよな……。

 必死に身をよじって逃れた俺がダッシュで逃げ出すと、さつき達は笑いながら追いかけてくる。それを見ていた鳳がジト目で言った。

 

「はしゃぎすぎよ、馬鹿」

「祥、助けて」

「って、こっち来ないでよ馬鹿!」

 

 きゃーきゃー騒いでいる横を道行く人が「なんだ?」といった様子で通り過ぎていく。

 徐々に冷静になった俺達はやりすぎたと反省。

 まあ、喉元過ぎればまた繰り返すんだろうけど。

 

 ――結構、女子中学生できてるかな?

 

 帰り道。

 さつき、多恵、葵と別れた後、祥と二人きりになった。

 このパターンは珍しい。俺の下校ルートはあまり定まっておらず、葵と一緒に昴の家へ寄ることもあれば、さつきか多恵の家で駄弁ることもあるし、自宅へ直帰することもある。その基準は下校時の話の流れだ。

 今日の場合は、祥がなんだか話し足りなさそうだったため。

 その割に口を開いてくれない友人を見て、俺はこちらから尋ねる。

 

「祥は将来の夢、ない?」

「……ないわ」

 

 少女は足を止めぬまま、少し間を置いてから答えた。

 

「小学校の頃はあったけど」

「初耳。何に?」

「アイドルよ。歌って踊ってきらきら輝く、女の子」

「………」

 

 つい言葉を失った俺を祥が横目で見た。

 

「笑っていいわよ」

「別に笑わない。けど、意外だった」

「ま、私じゃ無理よね」

「そうじゃない。私に話してくれたのが、意外」

 

 プライドが高くて負けず嫌いで、そのくせ自分を低く見ている節がある。

 あの場でさつき達に明かさなかったのは恥ずかしいからだろう。

 

「……あんたは、笑っても人に言いふらさないでしょ」

「それは、もちろん」

 

 みんなに知られたくないことなんて誰にでもある。

 俺だって前世で男やってたことは知られたくないわけで、その辺の機微はわかっているつもりだ。

 頷くと、祥は小さく笑みを浮かべた。

 可愛いと率直に思う。祥の長い髪、清楚系に見える外見が俺の好みだというのもあるが、それを差し引いても彼女にはオーラがある。

 

「今からでも遅くないと思うけど」

 

 秋葉原を拠点とするアイドルグループもある。……まあ、あれが大ブレイクすることは俺しか知らないわけだけど。

 ネットアイドル、ユーチューバーの系譜も含めれば「アイドル」の間口は十分に存在している。

 年々低年齢化が進んでいるようではあるものの、一昔前は高校時代にスカウトなんていうのも珍しくなかったらしい。中一で遅いということもあるまい。

 

 けれど、祥は髪をかき上げて答える。

 

「いいの。……他にやりたいこともできたし」

「バスケ?」

 

 まさかとは思ったが。

 

「悪い?」

 

 返ってきた答えは肯定だった。

 悪くはない。けど、それこそ意外だ。彼女がそこまでの熱意をもって部活に臨んでいたとは。運動部なんて肌が荒れるし疲れるし、余計な筋肉がつくしでアイドルからは程遠いはず。

 俺に対抗してとか、諏訪と話を合わせたいから、じゃなかったのか。

 

 と、隣の少女は苦笑。

 

「最初は適当なところで止めるつもりだった。カズ君に見てもらえるし、あんたにもすぐ勝てると思ってた。……でも、先輩達のあんな顔見て、適当になんかできない」

 

 そうか。

 祥も、三年生の無念を感じてくれていたのだ。

 悔しいと。

 自分達がいるうちに負の記録を打開したいと。

 

 考えてみれば、プールの後のあの勝負であんなに悔しそうにしていた祥が、バスケに本気じゃないはずがない。

 昴や葵だけじゃなく、彼女もまた俺の仲間でライバルだ。

 

「そっか」

「そうよ」

 

 短く答えたのが気に食わなかったのか、ジト目でじろりと睨まれた。

 

 ――そういうつもりじゃなかったんだけど。

 

 俺は苦笑し、何かしら弁解しようと頭を巡らせた。

 

「祥は頭がいい」

「? 馬鹿にしてるわけ」

「違う」

 

 成績は俺の方がいいけど、頭の良さとは学力だけを指すわけじゃない。

 

「私は応用が苦手。やったことあることしか上手くできない。……でも、祥は考えたり、情報を集めたりするのが得意。違う?」

「……なんて言えばいいのよ」

 

 仏頂面である。

 確かに、得意ですとか自分から言いづらいか。

 

「昴もそう。あいつは見かけによらずバスケは理論派」

「……滅茶苦茶、感覚で動いてそうなんだけど」

 

 うん、俺もそう思う。

 でも、昴がそう見えるのは多分、バスケのことしか考えていないからだ。下手すると日常生活すら放り投げる奴だから抜けてそうに見える。だけど裏返せば、そうまでして考え続けたことで蓄積したアイデアがある。寝る間を惜しんで本や動画から得た知識がある。

 実戦ではそれをほいほい引き出しから持ってくるから、感覚でやっているように見えるんじゃないか。

 

「あいつもガード向きだから参考になると思う」

「長谷川、ね……」

 

 小さな呟きは気乗りしない風ではあったが、積極的に嫌がっている雰囲気はない。

 

「大丈夫。昴と付き合えとか言ってるわけじゃない」

「当たり前でしょ馬鹿じゃないの!?」

 

 物凄く早口で言われた!

 

「……諏訪のこと、まだ好きなんだ?」

「もちろん」

 

 即座に頷く彼女。

 ただ、表情には僅かな翳りが見られた。

 

「私はカズ君が好き。……あの時のことは、また別。あんたに一対一で勝ってから、もう一回カズ君に告白する」

「祥は不器用」

「知ってるわよ、そんなこと。一年以上前からね」

 

 一年以上か。

 思えば、祥と深く関わるようになってから長い時間が過ぎている。友達になることができたのはほんの一か月半くらい前だけど。

 高校生になる頃には幼馴染と呼べる関係になっていることだろう。

 

 ――遠いようで、あっという間に過ぎてしまう気もする。

 

 一回目の青春もそうだった。

 過ぎてから大切だったと気づいた。きっと今の時間はそういうものだ。

 俺達はまた沈黙を保ったまま歩き、やがて、これ以上進めばどっちにとっても致命的な遠回りという地点に辿りつく。

 

「ねえ」

 

 だから、祥は立ち止まって俺に告げた。

 

「あんたがカズ君と付き合いたいなら好きにしなさいよ」

「……私が?」

 

 俺は笑って首を振った。

 

「冗談。私は諏訪なんか眼中にない」

「うん、わかった。やっぱりあんたは絶対倒す」

 

 恋敵は少ない方がいいだろうに、祥は瞳に怒りを燃やしていた。

 かすかに肩を揺らしながら足早に去っていく少女を見送り、俺も一息ついてから踵を返す。

 

 帰ったら色々やらなくちゃいけない。

 宿題、風呂での肌と髪の手入れ、風呂上がりに牛乳を飲んでから柔軟体操をして、夕飯はカロリーと栄養に気をつけつつお腹いっぱい食べる。

 立っている時も座っている時も、バランスの悪い姿勢はできるだけ控える。

 作文の提出期限はまだ余裕があるものの、早めに終わらせておくに越したことはなく、でも夜は早めに寝ないと身体に悪い。

 

 ――なんか、挙げていくと凄く面倒臭い。

 

 夏休み頃から日々の日課が増えた。

 どこかの誰かを見習ってみた結果だが、お陰でやることが倍増した。これでも彼女がやっているよりは大分マシなのだから、ちょっと尊敬したくなる。

 そう。鳳祥という少女は綺麗で、芯が強く、頭が良い完璧超人だ。

 それが俺みたいなのと張り合っているんだから、世の中分からないものである。

 

 でも、俺だってただで負けるつもりはない。

 

 祥にも昴にも葵にも、もちろん諏訪にだって負けないように。

 大会で勝てるくらい強くなれるように頑張りたい。

 

 気づけば、家を目出す俺の足は少しだけ早くなっていた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 ちなみに。

 小論文やら就職面接のノウハウを逆輸入した俺の作文は先生方から高評価を受けた。ちょっと優等生的な文章になりすぎたせいか、クラスメートからの受けが良かったのはむしろ昴や葵の作文だったけど。

 

 祥は堂々と「専業主婦」と書いた上で、将来子を育て家を守るためのノウハウを十分以上に身に着けるため大学か専門学校に進みたい、と斜め上のパフォーマンスを見せたらしい。

 彼女の想い人は多くの生徒に周知のため、諏訪は四方八方からのからかいに難儀していた。

 

 そして。

 悪い意味で斜め上だったのはさつきと多恵である。

 

「なんでだよ翔子! 言われた通りやったのに!」

「弊社達の評価がストップ安だよぉ!」

 

 作文発表の時間の後、二人に泣きつかれた俺だったが、なんというか。

 

「順当」

 

 公園で俺が言ったことそのまま書いたらそれは、そうなる。

 オリジナルが俺なのは先生方で付き合わせればすぐわかるだろうし、そもそもさつきと多恵は同じクラスなので同じ作文を発表したらバレバレである。

 結果、二人の評価は「もう少し頑張りましょう」。

 

 まあでも、俺が言うのもなんだけど、進路を早め早めに決めさせようとあまり子供を急がせすぎな教育現場にも問題があるんじゃないだろうか。

 さつき達にはああ言ったし、半分くらいは誇張であるものの、残り半分は本気で作文を書いた俺は、ちょっと分不相応な不満を抱いたのだった。

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