ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「そろそろチョコの季節だなー」
とある昼休み。
さつきと多恵が教室にやってきたかと思ったら、唐突にそんな話題を出された。
カレンダーが一月から二月に切り替わった、そんな頃。
そこにチョコレートとくればその意味は一つしかない。
「なんだよ、くれるのか?」
今日も今日とて、昴とバスケの話に興じていた諏訪がこちらを振り返って尋ねる。
「や、あちしは貰う専門」
「威張るなよ……」
「弊社はクラスと女バス全員にチロルチョコを配る所存であります!」
「おい長谷川、女バスってのはあんなんばっかりなのか」
胸を張ったさつきと、対抗して同じポーズをする多恵。
げんなりした諏訪は昴に話を振る。
バスケ以外に関しては基本温厚な親友は、どこか七夕さんに似た表情でのほほんと答えた。
「そんなことないぞ。翔子はちゃんとしたチョコくれたし」
「ダウト」
ちらりと俺を一瞥しただけで嘘と断定しやがった。
「どういう意味か詳しく聞きたいんだけど」
「去年の話だろ? だったら小六だ。お前にそんな器用なことできるかっての」
「失礼な。私だって料理とかお菓子作りくらいするし」
心外だと睨み返してやる。
隣にいた葵が苦笑しつつもフォローしてくれた。
「諏訪くん、本当だよ。去年もらった翔子のチョコ、美味しかった」
「葵と昴だけだよね、私を褒めてくれるのは」
わざとらしく手を握って見上げると、葵は照れくさそうに目を逸らした。
「ちょっと待て翔子! あちし達もちゃんと褒めるぞ!」
「そうだそうだー!」
「ん、大丈夫。さつき達にもちゃんと作るから」
「……おい、本当に食えるものができるんだろうな」
歓声を上げるさつき達をよそに、なおも不審そうな諏訪。
まあ、そりゃ、去年手作りを渡したのは親しい友人だけ。後は市販のチョコで誤魔化したけど。そのせいで「お菓子も作れない」と思われるのは納得いかない。
かくなる上は仕方ない。
「それなら諏訪にも作ってくるから確かめればいいよ」
「……ん。まあ、くれるんなら食うけど」
眉を顰めた上で小さな返答。
わざわざ作ってくるって言ってるのにひどい態度である。
「あはは、諏訪くん。食べたいなら素直に言えばいいのに」
「おい荻山、言っていいことと悪いことがあるぞ」
「そうだよ葵、こいつは私に喧嘩売りたいだけだってば」
「こういう時は仲良いよな、二人とも」
「「よくない!」」
ハモった。
さつきと多恵がけらけらと笑いだし、葵まで笑いを堪え始める。くそ、昴が変なこと言うからだ。
☆ ☆ ☆
とまあ、そんなことがあってからはや一週間ちょっと。
早くもバレンタイン前日である。
近所のスーパーで材料を買い求めた俺は葵の家へ向かった。チャイムを鳴らし、葵のお母さんに挨拶をしてから家にあがらせてもらう。
葵は台所に調理器具を準備し、汚れてもいいラフな格好で待っていた。
「やっほ、翔子」
「お待たせ、葵」
どうせ作るなら一緒に作ろうという話になったのだ。
その方が材料も有効活用できるし、道具の片付けも分担できるから楽ができる。
あらかじめ用意したエプロンをつけ、きちんと手を洗って準備万端。手伝おうか? と葵のお母さんが申し出てくれたものの、葵が「いいからテレビでも見てて」と追い返した。親の手を借りずに作りたいのだろう。
その方が気持ちが籠もるというのはなんとなくわかる。
「どんなの作るの?」
「普通が一番かなって思ってる」
「というと、チョコを溶かして固めるだけ?」
「うん。後は甘さを調節したり、トッピングするくらい」
そう答えると葵は微妙に浮かない顔。
「不満?」
「や、そうじゃないけど。どうせなら美味しくしたいなって」
「葵。シンプルだから美味しくないっていうのは間違いだよ」
俺は彼女を振り返ると指を立てて言った。
「本格的に作ったチョコはもちろん美味しい。でも、私達にはそこまでの腕はない。その場合、変化をつけようとして余計なことをするのが一番まずい。普通のものを普通に作れば、普通に美味しいものが出来上がるんだから、それで十分。いや、それでも十分難しい……って言った方がいいかな」
一般的な手作りチョコは市販の板チョコを溶かして固める。
一度出来上がったものを溶かした時点で味が落ちるのは確定しているわけだ。もちろんアレンジで補うことはできるけど、それにはある程度の経験がいる。
中一でそこまで行くのは無謀だろう。どうしてもというなら毎年ステップアップしていけばいい。
幸い、俺の説明で葵も納得してくれた。
こくんと頷いた少女は小さく微笑む。
「そっか、バスケと一緒ね。基本が一番難しい」
「そうかも」
ドリブルしながらフェイントかけて突っ込む、という動作一つとっても、プロと学生じゃ天地の差が出るからな……。
昴や葵が集めている動画を見てると「何これ人間?」ってなるし。
「偉そうなこと言ったけど、簡単なアレンジならしてもいいと思う。中に何か入れるとか」
「んー……フルーツとか?」
「うん。生物は日持ちしないから注意だけど」
チョコの熱が伝わらないよう、入れるタイミングにも注意が必要だ。
「翔子、お菓子作り得意よね」
「私的には料理の方が難しい」
よく言われることだけど、お菓子作りは化学だ。
レシピの分量や手順には意味があり、安易にそこから外れると大きな失敗を招く。さすがに爆発したりはしないが、例えばケーキなら膨らまなかったりとかがありえる。目分量に頼らず逐一量ってから使うとか、そういう基本的なことさえ守ればそれなりのものができあがる。
料理の方は、そもそもレシピの時点で「塩少々」とか書いてあるのが厄介だ。ちょっとの差で結構味が変わったりするのでセンスが問われる。
葵は料理の方が得意だ。たまにお母さんの料理を手伝ったりするらしく、調理実習ではちゃんと見栄えのするものを作っていた。
俺も、不規則な仕事をしている両親の代わりに料理をするが、どうも大雑把になりがちだ。
食べられれば問題なかろうという男心理が働くらしい。
お菓子なら作れるのでマインドセットの問題なんだろうけど。
「よし、じゃあリンゴとか入れてみようかな……」
「私は柿ピーに挑戦してみようかと」
「何そ――あ、ううん、そういうのもアリなのか」
コーティングするより中入れた方が楽だからなあ。
などと言いつつ板チョコを溶かし、型に流し込んでいく。
型は幾つか買ってきた中から葵がやや大きめのものを、俺は数を作るために小さめのものをチョイス。全部に柿ピーを入れるとスイーツ感薄くなるのでプレーンのものも用意。プレーンにだけカラフルなふりかけみたいな奴を振っておけばわかりやすいだろう。
型に流し込んで余熱が取れるのを待ち、フルーツや柿ピーを投入。
冷蔵庫に入れて待てば、
「完成!」
待ちきれずに何度か冷蔵庫を開けてしまい、葵のお母さんから注意されたりしつつ。
固まったチョコを見て葵と二人、微笑みあった。
昴に諏訪にさつきに多恵、祥に部活のみんな。渡す人を指折り数えつつ、一つ一つラッピング袋に入れ、可愛いリボンで封をしたりして。
手作業故の不格好は致し方ないとして、なかなか良い感じに仕上がった。
余りが出た分は葵のお母さんも交えて三人で味見。普通にチョコだった。個人的には葵のフルーツ入りが酸味も入って美味しいと思う。
「さすが葵。センスある」
「私は翔子の柿ピーも好きだけどな。幾つでも食べられそう」
「食べ過ぎると太りそうだけどね」
言いつつ、ついつい手が出てしまう。
転生して以来、甘いものへの興味が増した気がする。チョコや果物、ケーキ等々を食べると意識せず顔が綻ぶ。まさかこれも女子の習性なのか。
男に比べ脂肪がつきやすい女子に「甘いもの好き」などという習性を与えるとは、神様もなかなか鬼畜である。
「これで、後は渡すだけかあ」
一仕事終えた気分。
バレンタインは元々、チョコを売るためのお菓子会社の陰謀だと聞く。商売のために人類の半数へ年イチの労働を課すとは許すまじ。
いや、ホワイトデーとかいうのもあるから男女平等にはなってるのか?
お返しもマシュマロやクッキーだったりするから余計に太るという説もあるけど……と。
「葵、どうかした?」
気づくと親友が微妙な顔をして固まっていた。
さっきまではそんなことなかったはずだ。そう、俺が「後は渡すだけ」と言ったあたりまでは。
「あ、あはは。ね、翔子。お願いがあるんだけど」
「……あー」
引きつった笑みを浮かべてこっちを見る葵。
なんとなく見覚えがあるなと記憶を探ると、ちょうど去年の今頃に見た顔だった。
我ながら情けないと自嘲しつつも後には引けない、といった表情。
――やっぱり駄目か。
実は去年、俺は昴に「二種類のチョコ」を渡していたりする。
昴もそこまでは言っていなかったが、彼の感想が好意的だったのはそのせいもあったりするかもしれない。味がちょっと違うから飽きにくかっただろうし。
ちらちらと、俺と自作チョコへ交互に視線を送る葵に、頷いてみせる。
「わかった。葵に手伝って貰ったってことでまとめて渡す」
「っ! ……いいの?」
ぱっと表情を輝かせた後、恐る恐る聞いてくる葵。
その顔、凄くいじらしくて可愛いということを本人は自覚しているのやら。
「別に渡す手間は変わらないし。むしろ、葵の手柄を横取りしちゃうことになるから悪いくらい」
「いいのいいの、それは気にしないで! 私は主に試食と場所の提供をしたって言っておくから!」
などとヘタレた宣言をしつつも、葵は笑顔だった。
無事にチョコが渡るのが嬉しいのだ。
まったくしょうがないなあ、と、葵のお母さんと顔を見合わせて笑い合ってしまった。
☆ ☆ ☆
「昴、諏訪。約束のもの持ってきたから」
翌日、俺は登校するなり昴達へチョコを渡した。
女子のはしくれとしてイベントには参加するが、無駄に勿体ぶる気はない。
チョコは葵の家の冷蔵庫で一晩寝かせてもらい、行きがけに立ち寄って保冷バッグで運んだ。二月だし、フルーツ入りもまだまだ美味しく食べられるはず。
それぞれの前に二つずつ包みを置くと、昴は笑みを浮かべ、諏訪は怪訝そうな顔をする。
「今年も二つあるのか」
「ってことは去年もかよ。……片方は失敗作か?」
「別にそういうわけじゃない。趣向が違うから分けただけ。葵にもちょっと手伝ってもらったから、二人分だと思えばいい」
当の葵はちょっと離れたところからちらちらこっちを見ている。
心配しなくても、昴は素直な感想をくれるだろう。
「お、美味い。このリンゴが入ったのいいな」
案の定、チョコを口に入れるなり笑顔を浮かべた。
直後、葵がぷいっとそっぽを向いたので、どうやらちゃんと聞こえていた模様。今、顔を覗き込めば、ニヤニヤしている姿が拝めることだろう。
と、昴に続いて諏訪もチョコを口に。昴に毒見させやがったなこいつ。
「……へえ」
一言呟いた後、続けて口に放り込んだところを見ると気に入ったらしい。
「参ったか」
「はあ? 別にチョコ作ったくらいで何勝ち誇ってんだよ」
「へえ。なら一か月後にやってみせてくれると」
「馬鹿じゃねえの。男がそんなことするかよ。……ま、この柿ピーが入ったやつはもっと欲しいくらいだけど」
タダで食い物貰っておいてなんだその態度は。
と、前半の言葉に憤っていた俺は、諏訪の言葉の後半を碌に聞いていなかった。
ふん、と顔を背けた俺は葵の机に近寄り、彼女のところにも一つだけ包みを置く。
「はい、葵にも。昨日試食してもらったけど」
「あ……。うん、ありがと」
まだ喜びが収まっていないのか、はにかんだ笑みのまま、葵はチョコの包みを両手で包み込んだ。
☆ ☆ ☆
クラスのみんなには大きな包みを用意し、早い者勝ちで回してもらった。
女バスのみんなにも同じ感じ。さつきと多恵、祥にだけは個別に用意したけど。さつきは包みを差し出すなり高速で(ただし丁寧に)かっさらっていき、多恵は逆に恭しく拝みながら受け取ってくれた。祥は顔を背けながら小さく「……ありがと」とだけ。
多恵のチロルチョコほか、何人かの女子からはお返しというかお裾分けもあった。もちろん義理だと言われたが当然そんなことはわかっている。
意外だったのは祥もチョコを用意していたことだ。市販のちょっと高いやつ(中学生基準)だった。
貰ったチョコは夕食のデザートとして有難くいただいた。
お供のドリンクはホットコーヒーである。舌が幼くなっているため、普段は砂糖を入れて飲んでいるものの、甘いチョコと一緒ならブラックで十分。
食べきった時には満足の吐息と共に「もうしばらく甘いものはいいかも」と思った。
と言いつつ、たぶん一週間もすれば普通に食べるだろうけど。
☆ ☆ ☆
そして、俺はまだ知らない。
来年、再来年は後輩からのチョコが殺到し、食べる量が今年の比ではなくなることに。
また、なんだかんだ言いつつも、自分がそれを完食してしまうということを。
バスケやってなかったらカロリーの消費に困っていたところである。