ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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【閑話】翔子と後輩

「……じゃ、今度は本当にお別れ」

 

 あっさりと。

 元部長を含む三年生は桐原中を卒業していった。

 

 進学先はバラバラ。

 高校でもバスケをやるのかと尋ねると、返ってきた答えは「遊びでなら」というものだった。

 下手だから、と。

 元部長は歯に衣着せずに言っていた。よりきつくなる高校バスケの練習についていくより、他の夢を目指す方が現実的だと。

 他のみんなも似たような意見。

 

 間違ってはいない。

 何も、バスケの楽しみ方は部活でやるだけじゃない。週一や月一、季節に一回集まって遊ぶだけだって、立派な、何一つ劣ることのない楽しみ方の一つだ。

 だから、先輩達は笑っていた。

 

 俺達がわんわん泣いたせいで次々にもらい泣きしていたけど。

 

 俺も、自分があんなに泣けるのだと初めて知った。

 前々から感情の紐が緩くなっているとは思っていたのが、まさかあれほどとは。将来、先輩方と再会することがあれば徹底的にからかわれるとみていい。

 

「翔子、頼んだからね」

「はい」

 

 涙を必死に拭いながら、俺は鼻声で答えた。

 そして。

 

 去る者がいれば新たにやってくる者もいる。

 三年生が卒業を迎えたということは、在校生は進級し、新入生が入ってくる。

 来る、のだけれど。

 

「……実感湧かない」

 

 相変わらず節操なく本の置かれた多恵の部屋で、俺は愚痴をこぼした。

 さつきと多恵、それに俺というよくある面子。

 いつものグループ内での漫画好き度は「多恵>俺>さつき>葵>祥」といった具合なので、残りの二人はあまりここへ寄り付かない。

 なお、昴と諏訪は誘っても「身の危険を感じる」と言って断ってくる。

 良くも悪くも何をするかわからない二人が揃っているので、正直、正解だろう。

 

「珍しいな、翔子がそんなに弱気とか」

「そうかな?」

 

 首を傾げると、多恵も薄い本から顔を上げて笑う。

 

「こういう時は大抵、つるみんの蘊蓄が炸裂するからねぇ」

「蘊蓄……」

 

 確かに身に覚えはある。

 何気なく経験則を語っただけのつもりだったが、いつのまにか恒例みたいに扱われていたらしい。まずい。周囲から「激寒蘊蓄ガール」みたいな扱いにされたら死ぬしかない。

 今後は気をつけようと思いつつ、多恵に反論する。

 

「私だって苦手なことはある」

「別に大したことじゃないだろ。新しい部員が入ってくるってだけで。なあショージ」

「そうだよねぇゾノ」

「二人とはコミュ力が違うから」

 

 練習試合とか地区予選で知り合った他校の友達が何人もいるんだぞ、信じられるか?

 新しく友達を作るのが苦手な俺としては信じられない。

 と、さつきと多恵は顔を見合わせる。

 

「葵ちんはむしろ、どんな子がくるのかわくわくしてたけどねぇ」

「私だって楽しみだけど、それ以上に不安なわけで」

 

 どういうわけか、この不安をわかってくれる人が少ない。

 祥は祥で「そんなの、なるようにしかならないでしょ」と一刀両断してくるし。あいつ絶対、心の中では不安がってると思うのだが。

 

 ――新入生。つまり後輩。

 

 祥の言う通り、どんな子が来るかは蓋を開けてみなければわからない。

 だからこそ期待と不安が入り混じる。

 

「たくさん入ってくれるといいなとか、一人も来なかったらどうしようとか。ない?」

「ないとは言わねーけどな」

 

 さつきが肩を竦めて言った。

 

「一人も来ないとかはねーだろ。去年より二、三人少ないくらいじゃねーの」

「つるみんは考えすぎだよお。リラックスしてこ」

「……ん」

 

 俺は曖昧に返事をしつつ笑みを浮かべる。

 そんなこんなで、あっという間に数日が過ぎ、俺達は入学式の日を迎えていた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 在校生は先に体育館へ入場し、新入生を拍手で迎える。

 先輩達がいた位置にいると思うと妙な気分になる。去年、入場した俺は一年の差を非常に大きく感じたが、果たして自分はそこまで成長できているのか。

 せめて姿勢を正し、表情を整えて待つ。

 

 ――やがて、新入生が入場してきた。

 

 整列し、一定の歩調で歩く彼や彼女達。

 真新しい制服に身を包み、どこか緊張した面持ちで肩肘を張っている。

 

「可愛い」

 

 誰かが小さく呟くのが聞こえた。

 ついつい「なるほど確かに」などと思ってしまった。自分では大して変わった気がしないが、この一年で中学校生活に慣れたことだけは間違いない。

 大人の余裕というのは案外そういうものなのかもしれない。

 

 向こうが緊張してるのを見ると落ち着いてくるから不思議だ。

 気づけば口元には笑みが浮かんでおり、俺は自然と歓迎の拍手を送ることができた。

 

「あー、緊張した」

「葵がそんなに緊張してたなんて、意外」

「翔子こそ、何で落ち着いてるの」

 

 式が終わったら態度が入れ替わってしまった。

 葵と頬の引っ張り合いなどをしつつ、自分達が上級生になったことを噛みしめる。

 

「とりあえず入学式は終わったね」

「部活紹介は先輩達がやってくれるから、次は体験入部か」

 

 幕は上がった。

 部員募集のポスターはみんなで手分けして作り、校内のめぼしいところに貼ってある。後は時が来るのを待つしかない。

 

 

 

 

 

 帰りのホームルームが終わると、俺は急いで体育館へ向かった。

 速攻で来たせいか、先に来て待っている一年生とは出会わなかった。更衣室で着替えをしていると他の部員達も集まってくる。

 やや遅めに到着した祥に「来てる?」と尋ねると彼女は頷いた。

 

「三人」

「……そっか」

 

 ちょっと少ないかな、と感じた。

 すると、着替えを終えた葵に肩を叩かれる。

 

「そんな顔しないの。まずは来てくれた子達に『楽しかった』って思ってもらわないと」

「ん、了解」

 

 葵の言う通りだ。

 宣伝のために口コミを狙うのも必要なこと、と思考を切り替え笑顔を作る。上級生が浮かない表情では下級生が楽しめない。

 

「よし、行こう!」

「はいっ!」

 

 部長の号令にみんなで返事をし、更衣室を出た。

 プレッシャーを与えないようにそっと盗み見ると、祥の言った通り三人、女の子が体育館の隅に固まっていた。体操着用のバッグを持っているので体験希望で間違いない。

 身長は、あまり大きくない。

 でも、数ある部活の中からバスケ部を一番に選んでくれた子達。期待を裏切るわけにはいかない、とより強く気合いを入れた。

 

「来てくれてありがとう。ここは女子バスケ部だけど、間違いない?」

「はいっ」

「良かった。それじゃあ、まず簡単にどんな部活か説明するね」

 

 基本的な流れに沿って部活説明が行われる。

 俺達にとっては慣れ親しんだ内容。しかし、新入生にとっては全てが新しい。彼女達は神妙な顔つきで、時折、頷いたりしながら聞いていた。

 ちょっと緊張しすぎな気もするけど……。

 目が合った子ににっこり微笑んでみる。すると、ぷいっと目を逸らされてしまった。緊張を解そうとしたんだけど失敗したかもしれない。

 

 説明の後は更衣室で着替えてもらい、体験を開始。

 

 三人はほぼバスケ未経験。授業で少しやった程度で部活にも所属していなかったらしい。

 小学校で女子のバスケ部があるところは多くない。興味はあったものの、バスケゴールや仲間を探すのが大変で今まであまりできなかったという。

 バスケのゴールは「高さ」が重要なのでエアバスケもなかなか難しい。一人がゴール役になるポートボールなんて球技もあるけど。

 

「とりあえず、ボール触ってみよっか」

 

 体験会でできることはそう多くない。

 未経験者に高度なことを教えてもついていけないし、単調な練習をしても飽きてしまう。ドリブル、緩いパス、近い位置からのシュートなどを短いサイクルで行っていき、その複合へと移行していくような形を取った。

 当然、サポートには俺達上級生がつく。

 大人数で群がっても怖がられるので新入生一人に対して上級生一人ずつ。サポートに入るメンバーはローテーションになった。なので、新入生の子と言葉を交わす機会は少ない。

 それでも、向こうからすれば数倍の会話量なわけで、結構目まぐるしいだろう。

 

 ドリブルからのシュートや、パスを受けてからのシュートを見守りつつ思う。

 あらためて考えると、元部長達のやり方はかなりちゃんとしたものだった。もちろん、去年のやり方を踏襲している今年もそうだ。

 最初は緊張していた新入生達もみんなから声をかけられながらシュートやパスを成功させていると次第に笑顔になってくる。

 

 ふと気づくと葵がこっちを見ていた。

 なんだかニヤニヤしている。

 

「どうしたの?」

「ううん。ただ……バスケって楽しいなあ、って」

「そうだね」

 

 多分、俺も似たような顔をしていたと思う。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 体験の終わりには試合が組まれていた。

 

「どうする、やってみたい?」

「はいっ」

 

 ここまでで緊張を解してきたお陰か、新入生の三人は元気よく答えてくれる。

 いい子達だと素直に思う。

 経験の有無より一生懸命かどうかが大事だ。悪い意味で適当な子が入ると、それだけで部の雰囲気が悪くなってしまう。

 さつきと多恵も大の練習嫌いだけど、あれはまあ、うん、良い意味で適当だから大丈夫。

 

 ――ともあれ、ここは去年と少し違う。

 

 俺達は事前に、部長から「去年とはやり方を変える」と言われていた。

 元部長達のやり方は凄いと思うけど、全面的に賛成はできないとのこと。代わりとして定められた試合の方法は八百長を省いたもの。

 試合は十分間の五対五。

 選手交代はなしで、新入生チームには部長と副部長の二人が助っ人として組み込まれる。そして、対するは二年生から選抜された五人。

 

「どっちも頑張るんだよぉー」

「一年生は二年生チームを遠慮なく倒していいぞー」

「みんな、部長達は上手いから安心していいわよ」

 

 ……選抜?

 

「さつきと多恵はともかく祥まで入らないとか」

「鶴見さん、私達じゃ不満?」

「そうじゃないけど裏切られた気分?」

 

 答えると、一緒に頑張ってきた部活仲間三人が笑った。

 二年生組では主力とされている五人、去年の体験で試合をしたメンバーのうち、さつきと多恵、祥がまさかの不参加である。

 面倒くさいし応援の方が楽しい、と言われただけで説得力があるから困る。

 さつき達の無軌道ムーブは相手を選ぶため一概には言えないものの、総合ポテンシャルとしては落ちているこの人選が仕掛けの一つ。

 

「さ、二年生。本気で来なさい」

「先輩。それは私達を舐めすぎです」

 

 嫌な言い方だが、新入生に俺達の細かい腕はわからない。

 上手い順ならさつき達は外されないとはバレないので、編成の時点で手加減ができるのである。

 その上で、俺と葵は「派手にやれ」と命令されている。

 

「それじゃあひとつ」

「やりますか」

 

 すくすく大きくなっている俺がジャンプボールを取り、チームメイトの一人へボールが渡る。

 部長の指示で一年生の一人がマークしに向かったところで葵にパスが渡る。

 

 ――刹那、一迅の風がコートを駆け抜けた。

 

 奇をてらうことのない速攻。

 ふわりと舞い上がったレイアップシュートがゴールネットに吸い込まれると、一年生から歓声が上がった。葵も心得たもので、にっこりとお礼を返すのを忘れない。

 

「じゃ、こっちの番ね」

 

 ボールを得た部長は副部長へパス。

 その際、ちらりと俺の方を見てくる。今度はこっちの活躍をご所望らしい。

 とはいえ副部長は三年生。積み重ねてきた経験値は俺達を上回っており、一筋縄でいく相手ではない。俺達はアイコンタクトと短い声かけからのダブルチームを敢行。

 紅白戦のメインチームに入れずとも腐らず、練習に励んできたチームメイト達がボール権を奪う。

 

「葵!」

 

 攻撃のチャンスが来れば、当然、頼るべきは主砲。

 

「させないっ!」

 

 と、思うのは当然。

 ダブルチーム、二人以上でのマークが有効と認識した一年生達が()()()葵へのパスコースを阻みにかかる。

 悪い判断ではない。

 見えている情報では葵が圧倒的エースなのだから、それを塞ぐと自分達で判断したのはむしろ凄い。

 

 しかし。

 

「……と、見せかけて翔子!」

「えっ」

 

 バスケはエース一人でやるものではない。

 三人もの選手を葵に割いた結果、マークががら空きになった俺は、とっくの昔にスリーポイントラインで待機している。

 パスも余裕を持って通り、すぐさまシュート体勢に入る俺。

 慌てて駆け寄ってきても遅い。

 

 これで外したら格好悪いことこの上ないけど。

 

「ん……よし」

 

 見栄え重視でジャンプを加えたスリーポイントはうまいことゴールに入ってくれた。

 

「先輩。五点先取しちゃいましたけど」

「あはは、まずいな。これは本気出さないと」

「今まで本気じゃなかったみたいですね」

 

 嬉しそうな顔をしてくれて……。

 宣言通り本気を出した部長、副部長が俺と葵をマークにかかる。今までだって手を抜いていたわけではない。ただ、前情報による対策を行わず、一年生に経験させることを優先していただけだったのだが。

 エースにはエースをぶつけるセオリーを身体で示しにきた。

 

「……く」

 

 こうなると俺達もすんなり優勢とはいかない。

 部長達の攻撃を全部止められるわけではないし、そうなると一年生達も「どこにボールを集めるか」肌で理解してしまう。

 五人でパスを回しつつ、最終的に三年生のどちらかへ回す。

 このやり方が徐々に浸透し、点が向こうに入り始める。

 

 結果は十点差で俺達の勝ち。

 けれど、新入生達は試合の後、笑顔で「楽しかった」と言ってくれた。

 

 しかも、悔しいからリベンジしたいと言った彼女達が友達を連れてきてくれたのだから、部長達の手腕に俺達は舌を巻くことになるのだった。

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