ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子とそれぞれの役割

 葵は言った。

 俺が副部長から外されたのは戦力外通告ではないのだと。

 

『部長はね、翔子に「ただの部員」でいて欲しかったんだと思う』

 

 近くの公園に移動して。

 ようやく落ち着いた葵に烏龍茶を手渡すと、彼女はそれを一口飲んでから口を開いた。

 俺の方は、未だ胸がざわめいたまま。

 むしろ、自己嫌悪と葵への申し訳なさで余計にいっぱいいっぱいだったが、言葉の意味を捉えようとする理性は働いた。

 

『部長とか副部長って、どうしても上の立場になっちゃうでしょ?』

『話しにくいと思う子もいるってこと? でも、それならさつきと多恵が』

『ゾノとショージは話しやすいけど、相談はしづらいのよ』

『……あー』

 

 つい、確かに、と呻いてしまった。

 さつき達は部の雰囲気を盛り上げてくれるけど、指導役としては適していない。コツコツとした練習が嫌いな上、なまじセンスがあるせいで論理的なアドバイスが下手なのだ。

 

 そこを俺に埋めて欲しい、と。

 

 わからなくはない話だ。

 というか指導はもちろんする。その上で言わせてもらうなら、そんなの当たり前だ。顧問と部長、副部長が練習方針を決め、それに従って上級生全員が下級生を指導する。

 敢えて俺に任せる話ではない。

 むしろ役職者が率先してやるべきだ。

 

『ううん。……ごめん、上手く言えないけど、ちょっと違う』

 

 葵は言葉を探すように視線を彷徨わせ、やがて言った。

 

『翔子には、みんなに近いところに居て欲しいの』

『……近い?』

 

 感覚的な表現のせいで意味を掴みにくい。

 立ち位置の話なのはわかるのだが、それはそんなに重要なことだろうか。

 

 説明が欲しかったわけじゃない。

 むしろ、俺は自分の力不足が悔しかった。選ばれなかった理由を語られてもモヤモヤを増やすことにしか――。

 

『私も先輩に言われるまで、副部長は翔子だと思ってた』

『っ』

『でも、思ったの! 私はきっと、翔子に頼りすぎちゃうって!!』

『……え?』

 

 思考が止まる。

 

『別に、頼ってくれれば』

 

 それの何がいけないのか。

 副部長は部長をサポートする立場だ。葵ができないこと、する暇のないことをこなすのが仕事である。

 どんどん頼ってくれればいい。

 むしろ、頼られた方が俺は、

 

『駄目。それじゃ、私はみんなのことが見えなくなる』

『……ぁ』

 

 ようやく、葵の言わんとしていることの一端を掴んだ。

 

『翔子がサブなら安心できる。ちょっと悩み事でも相談できるし、相談すると思う。……それで解決するから、後はみんなに指示を出すだけ』

 

 殆どの物事がトップ間で完結するから、他の部員が入る隙がない。

 そもそも葵の有能さなら俺は大して必要ない。雑用をこなしながら、葵が相談という体で行う確認に頷くだけで済む。二人だけで通じ合っている俺達に後輩が話しかけやすいかといえば……答えはノーだ。

 代わりに向かう先は俺達の代のヒラ部員だが。

 

 ――祥は可愛い癖に愛想の悪い面があり、口調がキツイ。

 

 上との乖離が著しくなったみんなの頼りはさつきと多恵になる。二人はお調子者と不真面目のラインギリギリを見極めているが、バランスを欠いた部の状態で端からそう見えるとは限らない。

 責任者に頼れない状態で、親しみやすい先輩が練習に文句を垂れ、そのくせ実技をあっさりこなすのはきっと、良くない影響を生んでしまう。

 

『鳳さんはきっと、私にも遠慮なく色々言うと思う』

『祥は、私達と見てるところが違う』

『うん』

 

 だからこそ、その方がいい。

 

『副部長じゃないと翔子に相談できないわけじゃないでしょ?』

『もちろん。いつでも相談して欲しい。……祥が口出しできる形で』

 

 葵が目を瞬き、頷いた。

 

『鳳さんが副部長なら言い合いがしやすいよね。私、まだそこまで考えてなかったけど』

『葵は言葉にできてないだけだよ。私よりずっと凄い』

『そんなことない。私には翔子が必要なの。だから身軽でいて欲しい。余計な雑用で時間を使ったり、責任を感じて欲しくない。私と、みんなを助けて欲しい』

 

 言葉が胸に染みこんでくる。

 

 ――こういう時、どうしたらいいんだろうか。

 

 すぐには気分が切り替えられない。

 モヤモヤが残ったままの胸が締め付けられ、瞳からは涙が溢れてくる。

 俯いて顔を背けようとしたら葵の腕に止められた。抱き寄せられてホールドされると、止まらなくなった涙のせいで頭がぐちゃぐちゃになる。

 転生してからは泣いてばかりだ。

 

 嗚咽交じりに言葉を漏らす。

 

『葵はずるい。私の欲しいものばっかり持ってる』

『それは……こっちの台詞よ。あんただって私の欲しいものいっぱい持ってるじゃない』

 

 それは初耳だった。

 

『……例えば?』

 

 顔を上げて問う。

 すると葵は何故か目を逸らして答える。

 

『身長とか、お菓子作りの腕とか、成績とか』

『それだけ?』

 

 できるなら、もうちょっと内面的なところを褒めて欲しい。

 努力でなんとかなる部分と体質だけとかちょっと悲しくないか。

 

『………』

『葵』

『だ、だから、どんどん挑戦して女の子らしくなってるとこ……駄目! ごめん、今の無し!』

『えー』

 

 俺は、口元に笑みを浮かべながらジト目を作った。

 なるほど。

 ちゃんと、これまで頑張ってきた意味はあったらしい。

 

 ――なら、それでいい。

 

 もともと器用ではないのだ。

 それなりに努力はしてきたつもりだが、面倒な役職なんてないにこしたことはない。

 この、何に使うつもりで女の子らしさを求めているのか丸わかりな親友だって、この通り完璧ではないのだから。

 

 腐る前にやるべきことをやるべきだ、と、俺は考えを新たにした。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで。

 桐原中女子バスケ部、部員、鶴見翔子はマイペースに活動中である。

 

「ねえねえつるみん。長谷川せんせぇとカズたん一号はどっちが攻めでどっちが受けだと思う? ゾノはよく分からないってノってくれないんだよぉ」

「んー……どっちもあんまり攻めのイメージない。強いて言うなら昴の鈍感さに痺れをきらせた諏訪が勢い任せに攻めるとか」

「なるほどぉ。でも弊社的にはせんせぇの無自覚攻めも捨てがたいと――」

「ショージ、部活中に変な話しない! 翔子も乗らないの!」

 

 さつきや多恵と悪ノリして葵や祥から怒られてみたり。

 

「翔子先輩。シュートフォーム見てもらえませんか?」

「うん。……えっと、そうだね。脇をもうちょっとしめた方がいいかも」

「? えっと……」

「んー。そうだなあ、ちょっとごめんね」

「あっ。んっ……」

 

 後輩のちょっとした相談に乗ってみたり。

 

「翔子。ハンドクリーム持ってない?」

「あるよ、はい」

「ありがと。……また安物使ってる。もうちょっといいの買いなさいよ」

「でもそれ、ネットの口コミで評判いいし」

 

 祥と買い物のポリシーで衝突してみたり。

 

「翔子。あのシュート、また試してみたいんだけど、時間ある?」

「OK。じゃあ残って練習しよう」

 

 葵の必殺技修得に協力してみたり。

 今までと大して変わらないことを精一杯に務め上げる。結局、これが俺にできる最大限なのだ。

 

 ――もちろん、自分自身の強化も忘れない。

 

 日々の自主トレは成長と共に少しずつメニューを増やしているし、葵やみんなとの対戦経験がセンターとしてのレパートリーを増やしてくれる。

 見かけによらず理論派の昴からアドバイスを貰うことも多々あった。

 

 俺は、いつもみんなに助けられている。

 

 一人でできることなんてたかが知れている。

 俺のバスケは昴や葵に教えられたことがベースになっている。人付き合いの仕方はさつきや多恵から教えてもらった。祥は口うるさいが、彼女の振る舞いは女子として生活するにあたり助けになっている。

 後輩のみんなが頼ってくれるたび、先輩としての力が上がっている気もする。

 

 

 

 

 

 役職決定の一件について、当の祥と交わした言葉は少ない。

 

「……悪いけど、私は謝らないわよ」

「うん、わかってる」

 

 不意に二人きりになった時、彼女はそう俺に告げた。

 何のことか前置きすらなかったが、それで十分。

 

「雑用は祥に任せる」

「はいはい。……本当、面倒なこと押し付けてくるんだから」

 

 言いつつ、ちらちら俺を気にしていたので「ん?」と首を傾げて見せると「なんでもないわよ」とそっぽを向いてしまった。

 そこからはいつも通り。

 だけど、休み時間や休日にみんなで集まった際、祥が昴に教えを乞う姿を前より多く見かけるようになった気がする。

 

 しばらく話していると大抵、祥が昴の生活態度に駄目出しする流れになっているのが気になるけど。

 まあ昴のバスケ馬鹿は直らないだろうし、あれが彼のいいところだから、と、俺としては思っていたのだが。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「……ねえ、鳳さんって、昴のこと好きなのかな」

「は?」

「ほぇ?」

 

 なんだか悩んでいる様子だったので、それとなく強引に連れ出してみたところ。

 何故かハンバーガーショップの隣にあるチキンで有名な店のシェイクをストローでぐるぐるかき回しながら、葵はぽつりと俺達に言った。

 

 さつきと多恵が揃って声を上げ、俺はそういうことかと納得する。

 

 スパイスの効いた国内産ハーブ鶏から手を離して顔を上げる。

 と、「こいつ何言ってんだ」という顔をしていたさつきと多恵が表情を笑みに変えるところだった。

 

「ははあ。ブチョー、長谷川センセーが取られる心配してるのか」

「葵ちんは相変わらず一途だよねぇ」

 

 うんうんと頷く二人。

 対する葵は真っ赤になって、俺にとっては割といつもの芸を披露してみせる。

 

「はあ!? べ、べつにそういうんじゃ……ある、けど……っていうかなんであんたたち、いつの間にか私がその、昴のこと好きだって……!」

「「「見ればわかる(よぉ)」」」

 

 期せずして三人の声がハモった。

 部活で男女別に分かれるようになって以来、一緒にいる時間は減ったものの、葵と昴は相変わらずセットとして扱われることが多い。

 二年生に進級しても一緒のクラスだったし、この分だと三年でもそうかもしれない。

 男女の友情が成立するかどうかはともかく、あれだけ一緒にいて親しい雰囲気を出していれば誰だって気づく。多分、部内で知らない者はいないだろう。

 

「……うぅ、恥ずかしすぎるでしょそれ」

 

 葵は真っ赤になって俯いていたが、俺達からしたら「可愛い」という感想しか出てこない。

 

「気になるのは当たり前だから、葵はそれでいいと思う」

「翔子……。ありが」

「祥を昴にけしかけたのは私だけど」

「え。って、あんたねえ……!」

 

 言われた意味を理解した葵の表情が変わる。

 

「そういうことは早く言いなさいよ……!」

「ごめん、知ってると思ってた。でも、タイプが似てるからプレーの参考になるかと思って」

「プレイ……ああ、バスケの話。いや、そりゃそうだろうけど……」

 

 合点がいったと頷く葵だが、納得しきれないのかぶつぶつと呟く。

 とりあえずストローに口をつけて中身を啜り始めたので、俺もチキンの残りに口をつけた。

 

「気になるなら本人に聞けばいい」

「で、できるわけないでしょそんなこと……!」

「それなら私が聞いてくる」

 

 後日、祥へ率直に尋ねたところ「は? そんなわけないでしょ?」との返答があった。

 露骨に嫌そうな顔で即座に言われたので嘘ではないだろう。

 彼女の諏訪への想いは筋金入りだし、他の男にうつつを抜かすというのも考えにくい。

 

 ――未だに恋愛ってよくわからないけど。

 

 女になって十数年。

 二次性徴も始まり、上半身だけでも『女』と一目瞭然になった。スカートにも大分慣れたけど、自分が男と恋愛するところは想像できない。

 キスくらいならまだいい。

 試しに昴とするところを想像してみたら、まあ、そこまで嫌な気はしなかった。先に親しくなってから恋人関係になるのなら他の男でも多分、なんとかなるだろう。

 

 ただ、恋愛の行き着く先はキスではないわけで。

 

 結婚、出産。

 初恋の人と結ばれなくてもいいとはいえ「出産に至るためのプロセス」は恋人同士なら普通にすること。それを俺がする、と考えると途端に嫌気がさしてくる。

 だって、俺が言うのもなんだけど、男なんて無精で鈍感で、下半身優先のどうしようもない生き物だぞ?

 自分が(そっち)側ならともかく、何が悲しくて筋肉質で汗臭くて毛深い野郎と抱き合わなければならないのか。昴みたいに細いのに引き締まったフォルムならともかく。

 

 女の子の方が柔らかいし清潔だしいい匂いがする。

 と、今言ったら百合扱いされる思考が抜けない限り、俺自身が恋愛するのはまだまだ無理そうだ。

 

 ……そう思っていたんだけど。

 

 

 

 

 

 

 ある日の練習終了後。

 後輩の一人から呼び出しを受けた俺は、校庭にある大きな樹の下で、思いもよらない()()を受けることになった。

 

「翔子先輩。好きです。私と、付き合ってくれませんか……?」

 

 潤んだ彼女の瞳は罰ゲームの類で言っているとはとても思えなかった。

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