ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子と告白

「……にゃはは。初めての告白が女子からとか、さすがだなー翔子」

「笑いごとじゃないですよ、もう」

 

 美星姐さんが一人暮らしをしているアパートの部屋は、なんというかカオスだった。

 脱いだ服や漫画、エアガン等が散乱し、ゴミ箱にはコンビニ弁当やカップ麺の容器。隅に設置されたデスクトップPCはネットゲーム仕様で割とゴツイ。匂いがしないあたり生物は片づけられているものの、これだけだとまるで男子大学生の部屋だ。

 けれど、ラフなジーンズやジャケットに交じる下着や、申し訳程度に置かれた化粧品に女性らしさが多少残っている。

 頻繁に長谷川家に来てはご飯を食べている通り、生活力には難がある模様。

 

 俺は、適当に片したテーブルの上に手製のチャーハンを並べると、烏龍茶の入ったグラスを一緒に置いた。

 ありあわせの具材でもそこそこ美味しく作れるチャーハンは手抜き料理の代表格。

 味見もしたが、まあそこそこの味になったと思う。

 

「お、なかなか美味そうじゃん。いただきます」

「どうぞ。七夕さんとは比べないで欲しいですけど」

 

 早速スプーンを手にする姐さんに釘をさしつつ、自分も席に着く。

 そうして一口、米と具材を味わったところで尋ねられた。

 

「で? 断ったの?」

「……わかりますか?」

「翔子は真面目だからね。そのくらいは想像つくよ」

 

 気づけば、大盛りにしたチャーハンの三分の一くらいが消えている。

 早い。さすがは美星姐さん、食べる量も速度も半端じゃない。

 烏龍茶を飲み、いったん口の中を空にした彼女は、いつものおどけた感じとは違う落ち着いた声を出した。

 

「どうして? その子のこと、嫌いだった?」

「いえ。むしろ、仲のいい子です」

 

 後輩の中で一番、俺に話しかけてくれていた子だ。

 自然と会話が多くなり、雑談をすることも結構あった。小学校がどこだったとか、ざっくりしたプロフィールくらいなら思い出すまでもなく挙げられる。

 嫌いなわけがない。

 

「嬉しかった。そんな風に言ってもらえるなんて思ってなかったから」

「じゃあ、どうして? ……やっぱり、女の子同士は嫌?」

「それも違います。私、男子と付き合う方が無理ですし」

 

 苦笑して答える。美星姐さんも小さく息を吐いて「ま、だろうね」と言った。

 彼女は、俺がまだ「俺」を名乗っていた頃を知っている。

 葵や昴、さつき達は一緒に成長してきた分、変化を自然に受け入れてくれているが、出会った頃から大人だった姐さんは「あの頃の俺」をはっきり記憶しているはず。

 

 外面ほどは内面が変わっていないことも、きっとバレている。

 

 俺は自分の中で言葉を整理する。

 彼女のことが嫌いだったわけじゃない。女同士が嫌だったわけでもない。

 

「覚悟ができなかったから、ですね」

「覚悟?」

「はい。あの子の想いを受け止めてあげる、覚悟」

 

 俺は告白を断った。

 付き合って欲しいと告げた後、あの子が途切れ途切れに口にした真摯な想いを、全て聞いた上で……ごめん、と言った。

 

『私、今はまだ誰とも付き合えない』

 

 告白を軽く見たつもりはない。

 その上で、拒絶した。

 

 美星姐さんは、はあ、とため息をついて表情を崩した。

 

「なんだろ。恋人同士になるのに覚悟とかいるのかね」

「いる、と思ってます。経験ないですけど」

「あたしだってねーよ」

 

 睨まれ、俺は瞬きをした。

 

「……ちょっと意外です」

「……お前、私をなんだと思ってるんだ」

 

 褒めたつもりだったのに胡乱げな目で見られた。解せぬ。

 ともあれ口調が戻ったあたり、美星姐さんとしてもある程度は納得してくれたのだろう。食事を再開した彼女は顔を上げずに言ってくる。

 

「あれだろ。女同士だから、ってことだろ」

「はい。そうです」

 

 頷く。

 

「あの子のことは好きです。告白してくれて嬉しかったし、きっと付き合ったら楽しいと思います。向こうから愛想をつかされるまで、きっと私は離れません」

「でも駄目か。女同士だから」

「はい。……男同士や女同士で付き合うのは、男女で付き合うのと違いますから」

 

 前世含めてもそんな経験はないが。

 想像してみればわかる。同性と付き合った結果――というか、同性と付き合っていることを周囲に知られた場合にどうなるか。

 

 甘く見積もっても良い顔はされない。

 

 何故って、男女でペアになるのが常識だからだ。

 男女でないと子供を作れない以上はそれが自然。だから常識になっている。トイレや更衣室が男女で別れているのは「同性は性愛の対象にならない」という前提に基づくものだ。

 一緒に馬鹿やってた友人からある日突然「俺、ホモなんだ」とカミングアウトされたと考えてみればいい。

 何気なく肩を組んだ時、隣で着替えをしていた時、相手が性的な目で自分を見ていなかったか、気にならない人の方が少数派だろう。

 

 同性愛者だからって同性全てが対象とは限らない、というのも苦しい理屈だと思う。

 異性の恋人同士でも浮気をするのだ。先の理屈は「ブスには欲情しないから」という程度の言い訳にしかならない。

 人は、異質なものを排斥する。

 排斥しなければ自分達に害が及ぶかもしれないのだから当然だ。抗議したところで正統性は薄い。

 

 言い方や言う立場の問題はあるし、言われた側の気持ちを度外視しているという意味で最低ではあるが――同性愛に生産性がない、というのは事実なのだ。

 かつて俺がいじめられたのと同じ、いや、もっと酷いことが起こるだろう。

 

「でもさ、好きなら別によくね? そんなの自由じゃん」

「はい。私もあの子もそう割り切れるならそれでいいと思います。でも、私じゃきっと、あの子を守り切れません」

「……中学生だもんな」

 

 チャーハンを食べ終えた美星姐さんがスプーンを置いた。

 続いて烏龍茶を飲み干し、たん、と音を立ててテーブルに置く。

 

 そう、俺もあの子も中学生だ。

 これが社会人か大学生、せめて高校生ならまだ違うだろう。プライベートな時間以外は友人として過ごすとか、そういう対処が可能だが、現状ではコミュニティの範囲が狭すぎる。外出して知り合いに出会う確率はかなり高い。

 

「その子にもそう言ったわけ?」

「だいたい、そんな感じのことは」

 

 もちろん、もうちょっとオブラートに包みはした。

 周囲からの反応がどうこう、という部分ではなく「この先、男の子を好きになるかもしれない」ということを示し、同性愛に走るのは早計だと暗に諭したのだ。

 

 

 

 

 

『……やっぱり、私じゃ駄目ですか?』

『ううん、そんなことない。女同士だから嫌だなんて思わないし、付き合ったら楽しいと思う。でも、私はきっとやりすぎちゃう』

『やりすぎ……?』

『うん。……キスとか、ハグとか。初めては一回しかないのに私が貰っちゃったら、好きになった男の子にあげられなくなる。それが怖い。勇気が持てない状態で付き合いたくない』

 

 あくまで相手ではなく俺の問題だとも強調しておいた。

 

『だから、ごめん。今まで通り、先輩後輩として仲良くしてくれないかな?』

『……今までみたいにお話してくれるんですか?』

『もちろん。私にとって、部活の楽しみの一つなんだから』

 

 笑いかけると、彼女もにっこりと笑顔になった。

 

『わかりました。私、頑張ります!』

『……ん?』

 

 何を頑張るのか気になったけど、本人は聞けなかった。

 多分、文脈的にバスケだろう。

 

 

 

 

 

 と。

 気づけば美星姐さんがジト目になっていた。

 

「お前それ『私を本気にさせてみろ』って意味になってねーか?」

「へ? ……あ、え、えぇ!?」

 

 いやそんなはずは――ある、のか?

 確かにそれなら「頑張る」の意味は通るし、直後に明るくなった意味もわかる。ついでに言うと今日も凄く懐いてくれてたし。

 あ、うん、なる、ほど。

 えーっと。

 

「……どうしたらいいでしょう?」

「知るかばーか」

 

 ひでぇ。

 

 ……うわぁ。でもそうか、そういうことかぁ。

 まさか自分がラノベ主人公みたいな鈍感ムーブをかましていたとは。事実を受け止めきれず「あー」とか「うー」とか言いながら、俺は空になった皿を持って流しへ向かう。

 と、その背中に声が。

 

「まあ、高校に入れば解決するなら、二年経ってから告白してもらえばいいんじゃね? それかさっさと別の恋人作っちゃえ」

「簡単に言いますね……」

「お前ならなんとかなるだろ。その子が告白してきたのだって、今じゃないと葵に勝てなくなると思ったからだろうし」

 

 バスケの腕の話、なわけがない。

 

「葵とはただの親友ですよ。昴がいますし」

「端からそう見えるかは別問題だろーよ」

 

 まあ、確かに。

 

「っていうか、もしかして女子限定ですか」

「そりゃあね。男子にモテそうには見えないし」

「……辛辣」

 

 文句を言いつつ、さっさと皿を洗ってしまう。

 百六十センチ中盤を超えた身長のお陰で踏み台の類もいらない。というか、いつの間にか美星姐さんよりも大きくなっている。そう思うと感慨深い。

 せっかくだからグラスは洗わず烏龍茶をついで持っていこう。

 

「っていうかさ、翔子。お前はどうなりてーの?」

「……私は」

 

 その何気ない問いに、俺は答えることができなかった。

 バスケ選手としてなら、いくらでも答えようがあったんだけど。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「お? ポニテコンビの片方が髪を下ろしてる……だと?」

「上原」

 

 中学校近くの通学路。

 久しぶりに会った気がする眼鏡男が、俺を見るなり驚愕した。

 彼の視線の先にあるのはストレートロングの髪。

 俺は鏡でも使わないとよく見えないけど。

 

「どーかしたのか? 結んでる時間がなかったとか?」

 

 横に並んだ彼は不思議そうに聞いてくる。

 

「いや。どっちかというと縛る方が楽だよ」

「じゃあ何でだ?」

 

 中学ではずっとポニーテールだったから、上原から見ると相当な変化らしい。

 俺と葵でポニテコンビ、バスケやってるときは祥も加えてトリオなんてあだ名まで使われていたくらいだ。まあ、俺のポニテ自体が葵の真似してるところがあったわけだけど。

 

「ん、気分転換というか、イメチェン?」

 

 似合わないかと尋ねれば、上原は真顔で首を振った。

 

「俺と付き合ってください」

「ごめんなさい。私、眼鏡の人とは付き合うなと言われているんです」

「よし、コンタクト買ってくる」

「コンタクトの人は敵」

「なんでだよ!」

 

 おお、勢いのいいツッコミ。

 漫才のノリをやり終えた俺達はふっと吹き出し、顔を見合わせた。

 上原はことあるごとに交際を迫ってくる変な奴だけど、あまり気を置かずに話せる貴重な男子だ。

 ちなみに彼が「付き合ってくれ」というのは何も俺に限った話ではなく、仲間内だと祥とかも含まれる。要は半ば冗談、オーケーされればラッキーくらいの感覚なのだ。

 葵に迫らないのは昴に気を遣ってか、武力で敵わないからか。

 

「もしかして私、可愛い?」

「おー。ぱっと見だと清楚系美少女にしか見えなかったぞ」

「それはいいことを聞い……『ぱっと見だと』?」

 

 ちらりと目を向ければ、上原は不敵に笑って。

 

「ああ。なんていうか、お前って可愛いけど燃えてこないんだよな。男っ気がなさすぎるというか、あれだ、残念美少女?」

「……ふん」

「っ痛った!?」

 

 微妙に心外だったために脇腹をつねってやると、上原は悲鳴を上げて離れていく。

 他愛もない。葵みたいな武力行使は本領ではないものの、あれくらいの攻撃なら俺だってできる。ちょっと半日くらいは跡が残るかもだけど。

 

「翔子先輩っ」

「ん? ……あ、おはよう」

「おはようございますっ」

 

 上原が見えなくなったあたりで後輩――例のあの子が駆け寄ってきた。

 微笑んで挨拶すると向こうも満面の笑みを浮かべてくれる。

 決して派手ではない、どちらかというと大人しい感じの子だけれど、なんだかそこがほっとするというか、話しているだけで気持ちが温かくなる。

 俺のあの返事を超ポジティブに捉えるあたり天然の気がありそうだが、それもまた彼女の長所だろう。

 

 志望ポジションはセンター。

 俺と同じというのが大きそうだけど、司令塔や主砲となるには優しすぎる性格、そしてそのマイペースさは決して向いていないということもないと思う。

 パワープレイが多くなりがちなせいで我が部では不人気のポジションであり、うちの学年では俺一人しかいないため、次の大会ではサブのセンターとして活躍してもらう可能性が高い。

 

「先輩、髪下ろしたんですか? ……素敵です」

「そう? ありがとう、お世辞でも嬉しい」

「そんな、お世辞なんかじゃ!」

「あはは、ごめんごめん。でもさっき、同じ学年の男子に色気がないってからかわれちゃって――」

 

 一体、この反応の差はなんだというのか。

 他愛のない話を続けながら思った。上原が特殊なのかもしれないけど、でも諏訪あたりも盛大に罵ってきそうである。

 でもまあ、とりあえず成功だろうか。

 バスケと並行して、他の面でも自己改革、始めてみようと思う今日この頃だった。

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